2012/06/17

Care of the potential organ donor

腎臓内科医の移植における仕事は、レシピエントのケアであり、おどろくほどドナー(とくにdeceased donor)と臓器のprocurement(調達)には関わらない。どこからか誰かがgraftを調達して、移植する。しかし今月は少しドナーについても学ぶことができた。死(脳死であれ心臓死であれ)が迫っている患者さんがいる場合、連邦政府の法律で病院はそれをOPO(organ procurement organization)に報告しなければならない。それから、OPOが本人の意志などを確認し、家族と面談して、さまざまな準備を行う。

 主治医はどんな役割を果たすべきか。私はレジデント時代、多臓器ショックで治療の甲斐なく死が迫っていた患者さんのことでOPOから「患者さんの臓器提供意思表示についてですが」と電話が掛かって来たときに、「何を考えてるんだ、恥を知れ!」と例になく激昂したことがある。結局OPOが独自に患者さんの状態を調べ、臓器提供には不適格と判断されたようだった。主治医に拒否権はないし、今思えば無知で未熟だった。ただ生死の狭間で家族も医師も感情的になりやすいことは確かだと思う。

 脳死と診断されるまでは主治医がドナーのための治療を行い、診断後からはOPOが臓器のための(レシピエントのための)治療を行う。ただOPOは医師ではないので、臓器のための治療はICU医師が代行してオーダーする。脳死診断前に臓器のための(侵襲的な)治療をするのは許されないが、クロスマッチ等のための血液検査は家族の同意があれば診断前にしてもよい。

 臓器のための治療(organ resuscitation)は、どの臓器を提供するかにもよるが、血流と酸素化を保つことがメインだ(NEJM 2004 351 2730)。脳死の場合、心臓は動いているので心エコー、右心カテなどで心機能評価を行ったうえ、昇圧剤、補液・輸血・あるいは利尿剤を用いるほか、人工呼吸器で酸素化を保つ。甲状腺ホルモン、副腎ホルモン、インスリンなどを用いることもある。心臓死の場合、血液凝固が始まるのでヘパリンを流す。これは死亡前に始めなければならない。

 心臓死の場合、死後graftの質をいかに保つかが問題になる。ドナーが死亡してから臓器がとりだされるまでの時間をwarm ischemia timeと言い、臓器の品質や寿命を保つのにはこれが短いほどよい。家族を病室に残し、何十分でも心電図モニターをみながら完全なフラットラインになるまで待ち、そこから病室に入って瞳孔と胸部を診察して死亡診断する、というのでは遅いのである。

 臓器提供が本人の意思である以上、臓器をできるだけ良い状態でprocureすることは本人の意思に沿うことでもある。しかし、Dead Donor Ruleといって何人たりとも死亡と宣言されるまで重要臓器を取りだすことはできない(当たり前だ)。取り出せば、homicide(殺人)として米国法の裁きを受ける。それで、各施設が独自に「ここまでで死亡として患者さんを手術室に運ぶ」という線引きをしている。

 有名なのはピッツバーグ大学のUPMC protocol(J Intensive Care Med 2008 23 303)で、生命維持治療をやめようと家族と診療チームが決断したところでドナーを手術室に運び、生命維持治療を止め、2分間大腿動脈の脈を触れず、無呼吸で意識がなければprocurementを始めるというものだ。しかし、臓器の血流と酸素化を保つためふたたび生命維持装置を再開するので、そこで蘇生しているかもしれないし、脳機能がいくぶん戻っているかもしれない。UPMC protocolは待ち時間を5分に修正したが、グレイな領域であることに変わりはない。