まず、病理で大事なことは
MGRSの病理はパラプロテイン関連腎症の病理である
という概念を認識しておく必要がある。つまり、パラプロテイン関連腎症の病理の復習ということになる。これに関しては順次詳細部分は各論をUPしていきたいと思う。
そもそもパラプロテインとはクローン性のB細胞や形質細胞から産生された
- 単クローン性免疫グロブリン
- 不完全な単クローン性免疫グロブリン(軽鎖のみ、重鎖のみ(まれ)、免疫グロブリンの断片など)
である。
MGRSの分類で前述したように
- クローン性免疫グロブリンが沈着をするか否か。
- 沈着する場合にはOrganized(まとまって)かNon-organizedなのか。
を考える。
Organizedに沈着する場合に、細線維状構造に沈着するのをfibrillar deposit、微小管構造で沈着するのをmicrotubular deposit、結晶状に沈着するのをcrystal depositとわけている(下表参照)。
分類 |
最初に、全体像を把握するために全体の病理像をまとめた表を提示する。時間がない方はコレを見てもらうだけでもいいかもしれない。
また、全体像の病理の図も示す。病理の像に関しても時間がなければコレを見ていただくだけでいいかもしれない。
Nature review nephro 2018 |
では、各論にうつろうと思う。まず、Organized depositの疾患から考えてみる。Organized depositの中で、fibrillar deposit、microtubular deposit、crystal depositの電顕所見は下図のようになる。沈着物によって大きさが違うことがわかっていただけると思う。
Up to date 「MGRSの診断と治療」より、Samih H Nasr, MDの提供 A:fibrillar deposit、B:tubular deposit、C:crystal deposit |
そして、その沈着物によって疾患が分類される。
- Fibrillar deposit: Amyloidosis(AL,AH)・fibrillary GN
- Microtubular deposit: Cryoglobulinemia・イムノタクトイド腎症
- Crystal deposit: LCPT・CSH・クリスタログロブリン腎症
ここからは、それぞれの病理像を簡単に解説をしていく。
■Organized depositに関しては
・ALアミロイドーシスはCongo red染色陽性で、
Am J Kidney Dis. 2015;66(6):e43-e45より引用 |
光顕でメサンギウムへの沈着によりメサンギウム肥厚、血管病変を認める。
メサンギウム領域や血管などにアミロイド沈着を認めている。 Am J Kidney Dis. 2015;66(6):e43-e45より引用 |
免疫蛍光染色ではλ>κが優位
免疫蛍光染色でκ陰性、λ陽性 Am J Kidney Dis. 2015;66(6):e43-e45より引用 |
電顕では8-10mmの分岐のない針状細線維の沈着
沈着部位は糸球体、血管、尿細管すべて
メサンギウム領域や血管にアミロイド沈着を認める。直径10-12mm程度 Am J Kidney Dis. 2015;66(6):e43-e45より引用 |
上図沈着の拡大(10-12mm) Am J Kidney Dis. 2015;66(6):e43-e45より引用 |
・Fibrillary GNはCongo red染色陰性で、光顕では様々なパターン(メサンギウム増殖性、膜性増殖性、膜性GN)
細胞性半月体を伴っている。 Am J Kidney Dis. 2015;66(4):e27-e28より引用 |
中等度のメサンギウム領域の拡張、一部基底膜の二重化 Am J Kidney Dis. 2015;66(4):e27-e28より引用 |
免疫蛍光染色ではIgGが優位に沈着(IgG4が多い)、κ>λが優位
IgGが優位に沈着 Am J Kidney Dis. 2015;66(4):e27-e28より引用 |
電顕では12-22mmの分岐のない針状細線維の沈着
メサンギウム領域や基底膜領域に細線維の沈着 Am J Kidney Dis. 2015;66(4):e27-e28より引用 |
12-22nmの細線維の沈着を認める。 Am J Kidney Dis. 2015;66(4):e27-e28より引用 |
・Immunotactoid GNは、Congo red染色陰性で、光顕では様々なパターン(メサンギウム増殖性、膜性増殖性、膜性のGN)
銀染色で、糸球体基底膜の分裂とメサンギウム基質の増加を伴う、膜性増殖性パターン Am J Kidney Dis. 2015;66(4):e29-e30より引用 |
免疫蛍光染色ではIgGかIgM優位に沈着(IgGではIgG1が多い)、κ>λが優位
IgG染色、メサンギウム領域や毛細血管係蹄に陽性 Am J Kidney Dis. 2015;66(4):e29-e30より引用 |
電顕では、30-50mmの数本まとまった微細管状の沈着
直径35nm程度の沈着が認められる。 Am J Kidney Dis. 2015;66(4):e29-e30より引用 |
・CryoglobulonemiaはCongo red染色陰性で、光顕では膜性増殖性GNパターン、巣状硬化病変
PAS染色、膜性増殖性腎炎像、係蹄壁に濃いPAS陽性所見 Am J Kidney Dis. 2016;67(2):e5-e7より引用 |
免疫蛍光染色ではIgM優位に沈着、κ>λが優位
IgM染色、メサンギウム領域や係蹄壁に染色を認める。 Am J Kidney Dis. 2016;67(2):e5-e7より引用 |
電顕では、30-100mmの2本1対の湾曲した微細管状の沈着
虫のような短い沈着物を内皮下に認める。 Am J Kidney Dis. 2016;67(2):e5-e7より引用 |
・LCPTは、光顕では近位尿細管の萎縮、脱分化、細胞質の膨化
細胞質内の結晶沈着物を近位尿細管に認める。 Am J Kidney Dis. 2016;67(2):e9-e10より引用 |
免疫蛍光染色では軽鎖のκかλが陽性
A:κ染色、B:λ染色 近位尿細管にκ陽性所見 Am J Kidney Dis. 2016;67(2):e9-e10より引用 |
電顕では軽鎖のまとまりのない蓄積
近位尿細管上皮の細胞質内の結晶沈着を認める。 Am J Kidney Dis. 2016;67(2):e9-e10より引用 |
・Crystal Storing Histiocytosisは、光顕では係蹄壁に沿って結晶沈着所見
係蹄壁にそって結晶沈着所見を認める。 Ann Diagn Pathol. 2019 Dec;43:151403より引用 |
免疫蛍光染色では軽鎖 κが粒状に係蹄壁に沿って陽性
左がκ、中央がλ κ陽性 Ann Diagn Pathol. 2019 Dec;43:151403より引用 |
電顕では貪食細胞(foam cellやマクロファージ)による細胞液胞を認める
貪食細胞に伴う細胞液胞あり Ann Diagn Pathol. 2019 Dec;43:151403より引用 |
■Non-organized(沈着物が細顆粒状)に関しては
・MIDDは軽鎖沈着症(LCDD)、軽鎖重鎖沈着症(LHCDD)、重鎖沈着症(HCDD)の3病型がある。光顕では糖尿病性腎症に似る結節性糸球体硬化症所見、巣状硬化病変
LCDD:糖尿病性腎症様の結節性病変を認める(マッソン染色) Am J Kidney Dis. 2015;66(6):e47-e48より引用 |
免疫蛍光染色ではLCDDではκ>λが優位に沈着、LHCDDでは軽鎖と重鎖が沈着、HCDDでは重鎖が沈着
LCDD:κ鎖の沈着をメサンギウム、係蹄壁、尿細管基底膜に認める。 Am J Kidney Dis. 2015;66(6):e47-e48より引用 |
電顕では、糸球体基底膜内から内皮下に連続性帯状に分布する微細顆粒状沈着
LCDD:糸球体内皮に粒状のまとまりのない沈着物を認める。 Am J Kidney Dis. 2015;66(6):e47-e48より引用 |
内皮に粒状のまとまりのない沈着物を認める。 Am J Kidney Dis. 2015;66(6):e47-e48より引用 |
・PGNMIDは、光顕では膜性増殖性GNパターン、メサンギウム増殖を伴った糸球体基底膜の二重化所見
免疫蛍光染色ではびまん性の軽鎖沈着、IgG3陽性でκ鎖陽性である場合が多い。
メサンギウム領域や係蹄壁にIgG3に沈着する。 Am J Kidney Dis. 2016;67(3):e13-e15より引用 |
軽鎖ではκ優位に沈着 |
電顕では、主には内皮下沈着、まれだが上皮化沈着(微細顆粒状構造)
メサンギウム領域や内皮下に沈着物所見あり Am J Kidney Dis. 2016;67(3):e13-e15より引用 |
■MIg沈着がないタイプでは
C3腎症+Monoclonal gammopathyがある。病理所見は、光顕ではメサンギウム増殖を認める膜性増殖性GNパターン
膜性増殖性パターンでメサンギウム細胞増加あり Am J Kidney Dis. 2015;66(4):e25-e26より引用 |
免疫蛍光染色では顆粒状のC3似の優位な沈着(糸球体基底膜内、メサンギウム領域)
メサンギウム領域や基底膜でのC3沈着所見あり。 Am J Kidney Dis. 2015;66(4):e25-e26より引用 |
電顕では、糸球体基底膜内に連続性高電子密度病変を認めるが、DDDよりも密度は低い
内皮下への沈着所見を認める Am J Kidney Dis. 2015;66(4):e25-e26より引用 |
詳細な各論に関しては随時更新をしていこうと思う。まずは、簡単に概念を理解して頂ければと思う。
次回はMGRSの診断について記載していく。
今日はクリスマス。僕たちからのプレゼント投稿です! |