2019/10/15

ネフローゼ患者さん診察のとき、あなたは抗凝固どうしますか?

これに関しては、結論がまだ出ていない。

ただ、いつも議論に登り、生命に関わる話である。
ネフローゼで血栓が生じた患者さんを経験した医師は人一倍これに注意を払う。

まず、一般論から話したいと思う。
ネフローゼ症候群の患者では
・静脈血栓症のリスクが高い(深部静脈血栓症、腎静脈血栓症、肺塞栓症、頭部静脈血栓症など)。
 1%/年【通常に比べ8倍多い】

・動脈血栓症も一般に比べ増加する(手足や脳の血栓)
 1.5%/年【通常に比べ8倍多い】

血栓症はネフローゼの診断後、6ヶ月以内が一番多い。

■どんなネフローゼ症候群が起こしやすいのか?
膜性腎症が最も起こしやすい。
 ーKidney Int 2012の研究では1313人の患者でみて、静脈血栓は膜性腎症で7.9%、FSGSで3.0%、IgA腎症で0.4%であった。

また、微小変化群もリスクが高い可能性もある。
 ーAJKD 2017の報告では125人のケースシリーズで9%に血栓症(動脈 or 静脈)が生じている。

■ほかに血栓症を起こしやすいリスクは?
低アルブミン血症の重症度が高ければ起こしやすい(膜性腎症での検討が主)

■なぜ血栓症をネフローゼ症候群で起こすのか?
解明されていない部分が多いが、下図に示すように止血と溶解のバランスで止血の方向に傾くためと考えられている(アンチトロンビンⅢ、プラスミノゲン、プロテインC・Sの低下や血小板凝集能の増加、プラスミノゲン活性の消失など)。

CJASN 2012より引用

■では、血栓症をどう対処すればいいか?
ここで考えなくてはいけないのは、心房細動の血栓症予防と同じように血栓症予防のベネフィットがどれだけあるのか?また、投与することによるリスク(主に出血イベント)がどれだけあるのか?を考える必要がある。

ここで、2つアルゴリズムを示す。

■1つめは、Kidney internal medicineからのものである。これに関しては、まずが出血リスクを判断し、そしてアルブミンの数値をみてリスクとベネフィットで上回るようであれば抗凝固を開始するというものである。


Kidney Int 2013より引用


出血リスク:
・貧血(Hb: 男性<13、女性<12g/dl)   3点
・重度腎機能障害(eGFR<30ml/min)  3点
・年齢>74歳              2点
・何らかの以前の出血の診断        1点
・高血圧の診断              1点

0-3:Low risk、4:intermediate risk、5-10:high risk

アルブミンに関してはアルブミン<2.0g/dlを一つの指標としている。

■もう一つはUp to dateのものである。
これに関してもまずは出血リスクをみて、その後にネフローゼの原因疾患を見ている。
膜性腎症とそれ以外のネフローゼの場合によって分けている。

Up to dateより引用

抗凝固薬は様々な報告があるが、腎生検もする可能性も考えるとヘパリンがいいと考える。
ヘパリンの腎生検での話は次回に回そうと思う。

今回、まだ明確には決まってはいなく、おそらく施設によっても対応は異なると思うが、まずはネフローゼ症候群の患者を見た際に抗凝固の予防は必要なのか?という考えを持つことは重要である。
そして、出血リスクは?アルブミン濃度は?疾患としては何が考えられる?
ということを考え、必要があれば予防を行ってあげることも必要である。