2011/12/13

膵移植

先週は膵移植のレクチャがあって膵移植は何のためにやるのか学ぶことができた。膵移植は、1型糖尿病患者に、多くの場合はQOL(インスリンを打たなくてもよい)、そしてhypoglycemic unawarenessのために行われる。QOLを向上する以外にいいことはないのか。
 一つには、糖尿病性腎症が予防できる。ミネソタ大学の論文(NEJM 1998, 339, 69)では、膵移植後にアルブミン尿が消え、病理所見が消え、GFRも安定した(overfiltrationがなくなり、それ以後低下もしなかった)。美しい結果だが、現在糖尿病腎症を防ぐために膵移植をすることはあまりない。
 というのも膵単独の移植はgraft survivalが悪いからだ(early rejectionの良いマーカーがない)。現在はSPK(膵腎同時移植)が主流だ。これなら腎臓がrejectionのsentinel organになる(拒絶が始まればScrが上昇する)。別にPAK(腎移植後の膵移植)もあるが、腎・膵が別のドナーからなので抗原性が高くなる。
 では、SPK(膵腎同時移植)で得られるメリットは何か。Northwestern大学のretrospective studyによれば、患者さんが長生きできる(Transplant 2001, 71, 82)。Cadaveric kidney transplant、waiting list群と比べての話で、living-donor kidney transplantとは同じくらいという結果だった。膵腎同時移植のドナーはcadavericだがとても若い(たいてい30歳まで)ことと関係しているかもしれない。
 また、心血管疾患が予防できるかもしれない。これは1型糖尿病で血糖コントロールにより心血管疾患が防げるというDCCTスタディ(NEJM 2005, 353, 2643)から敷衍した希望的な見方で、実際に高血圧がよくなった(Circulation 2001, 104, 563)とか、頸動脈内膜肥厚が改善した(Diabetes 2001, 50, 496)とかの論文はある。
 ほかに、糖尿病性網膜症を良くしたという報告はあるし、実際経験されるらしい。糖尿病性神経症や胃麻痺(gastroparesis)は、神経伝達速度がやや向上したという報告は有るが、経験的には良くならないそうだ。膵腎同時移植はうちのVAがVAのなかでは全米で唯一の移植施設であり、これから触れる機会も多そうだ。