前回抗凝固薬の基礎的なことについて話した。
今回はARN(anticoagulation related nephropathy)についてである。
ARNに関しては見逃している可能性がある抗凝固薬の合併症として非常に多い。
ワーファリンに関しては60年以上も使用され、最近になって腎機能に対する悪影響が報告されている。つまり、昔は抗凝固薬処方されている人に腎機能障害をみても認知度が低かったため、見逃されていた可能性が高い。
今回、この話題に触れさせて頂いたのは、これを読んでいる読者には少しでも認知をしていただいて、腎機能障害の原因に今飲んでいる抗凝固薬があるなと考えてほしかったからである。
つねに、僕らは患者を治療はしているが、その治療薬が患者に対して害を与えているのではないか?と考えることが重要である。
そもそもARNの定義は何なのか?
・AKIと診断され、他の原因がなくINR>3.0の時を定義としている。
抗凝固薬飲んでいる人全員が腎機能障害になるか?ということだが、やはりすべての人が腎機能障害になるわけではない。なりやすい人としては
・慢性腎機能障害を持っている人←最もリスクが高い!!
・高齢、糖尿病、高血圧もリスクファクター
・INR>4以上は生じやすい
どれくらいの人に起こるのか?
・さまざまな報告があるが、ワーファリン内服患者の20.5%に生じると言われている。
ワーファリン以外のDOACなども同じように生じるか?
・これに関しては報告が少ない。直接トロンビン阻害薬のダビガトランがARNを起こしたという報告は少数の報告や動物実験で認めている。
・Xa阻害薬に関しては報告としてはないが、起こしうると考えられている(ここは今後の報告に期待)
どのような臨床経過で生じるか?
・観察研究でワーファリン開始後8週間以内に生じている(Kidney Int. 2011;80(2):181.)。
まずは、ARNの概念をしっかりとつかんでもらえたらと思う。
この続きはまた次回とする。
クマさんがおしっこしないで冬眠できるのも、じん臓が一日に体液の何十倍もろ過してから不要なものを残して再吸収するのも、じん臓の替わりをしてくれる治療があるのも、すごいことです。でも一番のキセキは、こうして腎臓内科をつうじてみなさまとお会いできたこと。その感謝の気持ちをもって、日々の学びを共有できればと思います。投稿・追記など、Xアカウント(@Kiseki_jinzo)でもアナウンスしています。
2017/06/23
2013/03/07
Insipidus
糖尿病という名前を変えようという話があるそうだ。米国ではdiabetesといいラテン語では「尿がたくさんでる」の意味だが、ラテン語なので一般の人があまり尿を意識することはないと思われる。
Diabetesには、diabetes mellitus(糖尿病、mellitusは蜂蜜のこと)とdiabetes insipidus(尿崩症)がある。米国では前者を単にdiabetes、後者をDIと訳すことが多く、日本のようにDMとは余り言わない。
Diabetes insipidusのinsipidusとは「味がない」と言う意味で、「味のある」を意味するラテン語sapidusに由来する。Baltimore名物のカニ、blue crabの学名でもある(Callinectes sapidus)。直訳すると「美しく、美味しい、泳ぐ者」、calliは「美しい」の意味(calligraphyも同じ)。
Diabetesには、diabetes mellitus(糖尿病、mellitusは蜂蜜のこと)とdiabetes insipidus(尿崩症)がある。米国では前者を単にdiabetes、後者をDIと訳すことが多く、日本のようにDMとは余り言わない。
Diabetes insipidusのinsipidusとは「味がない」と言う意味で、「味のある」を意味するラテン語sapidusに由来する。Baltimore名物のカニ、blue crabの学名でもある(Callinectes sapidus)。直訳すると「美しく、美味しい、泳ぐ者」、calliは「美しい」の意味(calligraphyも同じ)。
2013/03/04
Cervical, jugular and carotid
頚椎、頚動脈、頚静脈、いずれも「頚(くび)」と同じ漢字なのに英語ではcervical、jugular、carotidとどれも異なるのはなぜか?と考えたことがあるだろうか。私は回診中にふと疑問に思って、レジデントに「君のsmart phoneで調べてくれないか」とお願いしたことがある。
Cervicalは「くびすじ、うなじ」を意味するラテン語cervixで、古代印欧語のkerwoに由来する。Kerは角を意味する接頭辞で、triceratops(三つ角の恐竜)、keratin(角質)も近縁語だ。考えてみれば頚は胴体から突き出している。
Jugularはラテン語のeugulumに由来し、それは連結・結合を意味する古代印欧語の接頭辞yeug(英語のyoke、インドのyogaも同根という)にたどりつく。頚静脈は胴体と頭を連結しているからだろうか。
最後にcarotidだが、これはなんと「眠りに落ちる」を意味するギリシャ語karounに由来する。昔からこの動脈をマッサージすると失神すると信じられていたからという(頚動脈洞の反射)。レジデントも、腎臓内科ローテーションでとんだトリビアに出くわしたものだ。
Cervicalは「くびすじ、うなじ」を意味するラテン語cervixで、古代印欧語のkerwoに由来する。Kerは角を意味する接頭辞で、triceratops(三つ角の恐竜)、keratin(角質)も近縁語だ。考えてみれば頚は胴体から突き出している。
Jugularはラテン語のeugulumに由来し、それは連結・結合を意味する古代印欧語の接頭辞yeug(英語のyoke、インドのyogaも同根という)にたどりつく。頚静脈は胴体と頭を連結しているからだろうか。
最後にcarotidだが、これはなんと「眠りに落ちる」を意味するギリシャ語karounに由来する。昔からこの動脈をマッサージすると失神すると信じられていたからという(頚動脈洞の反射)。レジデントも、腎臓内科ローテーションでとんだトリビアに出くわしたものだ。
2012/05/09
bigger fish to fry
こないだ病院で、"bigger fish to fry"という表現を使った。心不全の患者さんが非虚血性心筋症に思われたのに、循環器科が心臓カテーテル検査をしたい、でも腎機能がよくないので患者さんがカテーテル検査をいやがっているという状況で。
虚血性心筋症は心カテーテル検査でしか究極的には診断できないし、造影剤による腎機能障害のリスク(とコレステロール塞栓症のリスク)は低いと思われたが、we have bigger fish to fry、すなわちwe have other things to do、非虚血性心筋症の検査が先かと思われた。
虚血性心筋症は心カテーテル検査でしか究極的には診断できないし、造影剤による腎機能障害のリスク(とコレステロール塞栓症のリスク)は低いと思われたが、we have bigger fish to fry、すなわちwe have other things to do、非虚血性心筋症の検査が先かと思われた。
にしてもこの表現、大小さまざまな魚を釣って家に帰り、さあ揚げようという状況から生まれた言葉なのだろうか。由来について調べたが不詳らしい。Don Quixote(1712年)、第2部35章にDonが"I have other fish to fry"と言う台詞があるらしい。
2012/04/15
mover and shaker
コンサルトにいると、次から次に降ってくるイベントに臨機応変しなければならない。ICUで透析カテーテルを挿入しているあいだにICUの新患を診にレジデントを差し向け、別のフェローにinpatient dialysis unitで透析中の患者さんを回診してもらい、別のレジデントは別の新患の尿沈渣をチェックしているとか。レジデントAが午前中に自分の外来で居ない場合、レジデントBとCがその患者さんをカバーし、でも午後にはレジデントBが外来に行ってしまうのでBの患者は12時までに回診しなければならない、とか。このように切り盛りして仕事をまわしていく人を、"mover and shaker"という。辞書によれば"the people in an organization who are most responsible for getting things done"。なおこの表現にはもう一つの意味があって、それは"someone who has power and influence in some field or activity"だ。いつかそうなるだろうか。
2011/09/09
crud
腎臓内科外来では、physician assistantが患者さんの尿検体をスピンして鏡検できるように用意してくれている。だから患者さんを診察した後、その一角にいってすぐさま尿沈渣を見ることができる。今日も色んなものが見えたが、良くわからないものが見えることもある。今日はよくわからない塊が見えて、指導医の先生に聞くと"this is a clumped crud"と言っていた。学問的にはdebrisとでも言おうが、要するにカスというかゴミというか、あまり意味はない。辞書を引くと"a deposit or incrustation of filth, grease, or refuse"、"something disgusting"とある。
2011/09/04
recover
頻出の英単語で意味を知っていると思っていても、使われる文脈を間違えていることがある。たとえばrecoveryと言う言葉だ。こないだ移植腎の機能が悪くなり透析にもどった患者さんを見た。こういうとき、免疫抑制剤は不要になるので一つ一つ減らしていく。このとき、たいていはTacrolimusを先に減らす。それはTacrolimusがafferent arterioleを収縮させることでGFRを下げるので、これを止めれば患者さんにいくらかのGFRを戻すことができるかもしれないからだ。
さて、それを学んで私はこの患者さんのカルテに「Tacrolimusを止めよう、それは止めることで患者さんの腎機能が回復するかもしれないからだ」と書いた。すると指導医の先生が「TacrolimusによるGFRの低下は病気ではなく、純粋に血行動態の問題なので、薬をやめてGFRが上がるのはrecoverとは言わない」という。またこの話を看護師さんにした時も、「あなたは患者さんの腎機能が戻って来ると思っているの?」といぶかしがられた。
違いがよくわからないので辞書を引いてみると、recoverとは"to bring up to a normal position or condition"とある。看護師さんの発言は、この辞書の定義で説明できそうだ。recoverというと腎機能が元に戻り透析がいらなくなるという風に聞こえるのだろう。指導医の先生が言いたかったのは、recoverというのは何らかのダメージから回復するということで、たとえば薬剤性腎障害が薬剤をやめて良くなるような場合に使うと言いたかったのだろう。
さて、それを学んで私はこの患者さんのカルテに「Tacrolimusを止めよう、それは止めることで患者さんの腎機能が回復するかもしれないからだ」と書いた。すると指導医の先生が「TacrolimusによるGFRの低下は病気ではなく、純粋に血行動態の問題なので、薬をやめてGFRが上がるのはrecoverとは言わない」という。またこの話を看護師さんにした時も、「あなたは患者さんの腎機能が戻って来ると思っているの?」といぶかしがられた。
違いがよくわからないので辞書を引いてみると、recoverとは"to bring up to a normal position or condition"とある。看護師さんの発言は、この辞書の定義で説明できそうだ。recoverというと腎機能が元に戻り透析がいらなくなるという風に聞こえるのだろう。指導医の先生が言いたかったのは、recoverというのは何らかのダメージから回復するということで、たとえば薬剤性腎障害が薬剤をやめて良くなるような場合に使うと言いたかったのだろう。
2011/08/21
jade and dab
最近学んだ英単語は、jadeとdabだ。Jadeとは翡翠(ヒスイ)のことだけど、「へとへとに疲れさせる」という意味があるので、主にjadedという過去分詞形で「疲れ切った」、転じて「飽き飽きした、うんざりした」という風に使われる。Tiredに近い表現だ。移植コーディネータが「私たちはこの仕事が長いから、患者さんのさまざまなトラブルにjadedなこともあるけどねー…でもおおむねこの仕事は楽しくてやりがいがあるわよ☆」と言っていた。
Dabは、to strike or hit lightly、to tap gently; pat、という意味だ。腎生検ではまず小さく十字に切れ目を入れた皮膚に針の先端を少しだけ入れて、そこから超音波ガイド下に針を進める。この最初に針を進める動きをdab the needleと言っていた。なおdabにはto apply with short poking strokes、to cover lightly with or as if with a moist substanceという意味もある。筆で絵具をカンバスに少しつける、お化粧を頬に少しつける、という感じだ。
Dabは、to strike or hit lightly、to tap gently; pat、という意味だ。腎生検ではまず小さく十字に切れ目を入れた皮膚に針の先端を少しだけ入れて、そこから超音波ガイド下に針を進める。この最初に針を進める動きをdab the needleと言っていた。なおdabにはto apply with short poking strokes、to cover lightly with or as if with a moist substanceという意味もある。筆で絵具をカンバスに少しつける、お化粧を頬に少しつける、という感じだ。
2010/10/02
unravel
手技中にunravelという単語を聞いた。ほどく(disentangle)が原義、転じて解明する(resolve)という意味もある。また動脈ラインを挿入後、糸でラインを巻きつけ結紮し固定する。この「巻きつける」という動詞がでてこず、nativeの後輩や看護師にも訊いたが彼らも分からなかった。今調べると、twistが当てはまるようだ。
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