知られているかもしれないが、Cockroft-Gault式のDr. Cockroftは腎臓内科医ではない。喘息を専門にする呼吸器内科医だ。それがなぜ最初のcreatinine clearance式を発見することになった(Nephron 1976 16 31)かというと、1972-73年にモントリオールでレジデントをしていた彼が、二人の同僚とある計画をしたからだ。それは、三人がそれぞれ別々の希望専門科に入り、選択期間に一緒に全員がそれらの科をまわるようにしようというものだ。それで彼は3ヶ月腎臓内科を選択することになり、2つのリサーチプロジェクトにとりかかった。一つ目のケースレポートは頓挫したが、二つ目が前年にDr. Sierback-Nielsenらが発表したクレアチニン・クリアランスノモグラム(Lancet 1971 1 1133)の検証だった。
これは体重の目盛りを振った縦線と年齢の目盛り(性別でちがう)を振った縦線にプロットした二点を定規で結び、その斜線がRという縦線と交わる点とCrの目盛りを振った縦線のプロットを結んだ線を外挿してClearanceの線と交わった値を得るものだ。約500のサンプルを集め、ノモグラムに合わない点をプロットしたグラフを眺め続けていた。
で、1973年2月の寒い土曜日の朝、回診を終えてDr. Gaultと一緒にグラフを見ている時ついに啓示に打たれて(140-年齢)x 体重(kg)/ 72 x Scr(mg/dl)を思いついたそうだ(Current Content 1992 48 8;human side of scienceについて重要論文の著者に1ページのコメントをもらうCitation Classicsに掲載)。ところでこのサンプルはすべて男性(Queen Mary's Veteran's Hospitalのサンプルだったと思われる)で、女性係数は(1976年の原本がないからわからないがおそらく)あとで付けられた。体重を入れているので発表から40年経った薬理学などでいまでも用いられている。
その後CKDの評価にはMDRD(オリジナルスタディはNEJM 1994 330 877でGFRには[125I]iothalamateを用いているが、そのデータを用いてCrからの計算式を作ったのがAnn Int Med 1999 130 461)、これは本来6変数だったが簡便な年齢・性別・人種・Crの4変数の方がよく使われる。そのあとそれを叩き台にCKD-EPI(Cr、C-statin、combined)がでた(NEJM 2012 367 20)。日本は独自の人種係数をつかったMDRDを使っていた時期もあるがいまは独自の式を使っている。194 x Scr^-1.094 x age^-0.287(女性は x 0.739)。
それにしても選択期間中のプロジェクトが歴史に残る結果になることもあるのだから、選択期間は大事だなと思う。まあ選択期間じゃなくても、胸水のLight criteriaも1968-69年にJohns HopkinsでインターンをしていたDr. Lightが延々と胸腔穿刺をしていた時期に「これ意味あんのか?」と疑問を感じ、当時測られ始めたLDHやガス分析などを使って小さなプロジェクトをしようと思いたって、病院から小さなグラントを取って調べたのが始まりなことはあまりにも有名だ。彼らが天才なのか、環境が良いのか、両方なのか、あるいは「ちょっとしたこと」なのか。