2016/05/27

ARNI and Ivabradine

 HFrEFの慢性期の治療薬といえばβブロッカー、ACEI/ARB、MRAだったが、2016 ACC/AHA/HFSA Focused Update on New Pharmacological Therapy for Heart FailureにClass of Recommendation I、Level of Evidence 2-R(randomized)でACE/ARBをARNIと代替するとadded benefitがある、またRecommendation IIa、Evidence 2-RでEF 35%以下でNYHA II-IIIで安定した洞調律 70/min以上の患者でguideline-directed evaluation and management(maximal β-blockadeを含む)を受けた患者にIvabradineを追加すると入院を減らすという追加事項が載った(DOI:10.1016/j.jacc.2016.05.011)。
 ARNIはangiotensin receptor-neprilysin inhibitorの略で、昨年PARADIGM-HFスタディがでた(当時は治験薬だったが今はsacbitril/valsartan、Entresto®という名前がある)。Neprilysinはかなり多彩な基質をもつ酵素でたとえばangiotensin IIも分解してしまうので、単独に阻害すると血管収縮など副作用が懸念された。それでまずACE/neprilysin inhibitorが開発されたが(omapatrilat、DOI:10.1002/ejhf.250)、血管浮腫が多くやめになった。
 PARADIGM-HFスタディはARNIとARBのhead-to-head trialではなく対照群のACEIに対しARBの用量が多かったのでneprilysin inhibitorによるadded benefitを証明できるか疑問に思ったが、すでに認可されている。50mg、100mg、200mg錠にsacbitril/valsartanが24/26、49/51、97/103mgの合剤でvalsartanはbioavailabilityがよいのでそれぞれ40、80、160mgに相当する。1日2回内服だ。eGFR 30ml/min/1.73m2以下はカナダはnot recommended、アメリカは50mg錠1日2回。75才以上の高齢者はカナダでは50mg錠から開始とある。
 Ivabradineはノーマークだったがペースメーカー細胞、とくに洞房結節のペーシングに関係のあるfチャネルを阻害する。Fチャネルはfunny channelの略で、膜電位が-50mVになると開いてNa+とK+の混合流入(funny current、If)による拡張期脱分極を起こす。このチャネルはvoltage-gated and cAMP-gatedな特徴があり、Hyperpolarization-activated Cyclic Nucleotide-gated channels family(HCN)に属する。Funny currentに似たIh(hyperpolarization-activated channel)がニューロンにもあり、ivabradine内服で網膜にあるIhチャネルを一部阻害しphosphene(眼閃、目を閉じていても光が見える)が約3%に起こる。
 最初心筋梗塞に対してBEAUTIFULスタディ(Lancet 2008 372 807)がされたがprimary endpointに有意差が出ず(サブ解析では効果も示されたが)、次に心不全に対してSHIFTスタディ(Lancet 2010 376 875)がでて適応が通った。ふたたび心筋梗塞に対してSIGNIFYスタディ(NEJM 2014 371 1091)が出たが有意差はなかった。心拍数にあわせて2.5mg、5mg、7.5mg 1日2回でtitrateするが、βブロッカーが最大はいった患者で洞房結節をいじるので除脈や房室ブロックなどに注意が必要だ。15ml/min/1.73m2以下の群はデータがないので慎重投与になっている。