透析を受けながら移植のwaiting listにいるのと、移植を受けるのではどちらがsurvival benefitがあるか調べると、米国では移植を受けたほうがよい結果がでる。QOLはなおさらだ。もちろん感染症やがんを起こしたり、術創が治らなかったり、免疫抑制剤をきちんと飲まずに拒絶反応を起こしたり移植にもいろんなリスクがあるわけだが。
それでも「腎代替療法は透析より移植を」というのは「ブラッドアクセスはカテーテルよりシャントを」というくらいnormになっているし、Medicare(CMS)の監査を受ける透析患者のカルテにも「移植について説明を行ったか、移植しないことにした理由は何か」を書く項目がある。
そんなわけでESRD患者が増えてできるだけ移植リストに載るようになったが、じゃあ移植件数は増えているかというとほとんど増えていない。献腎移植が11万件/年程度で頭打ち、生体腎移植は5万件/年程度だが少しずつ減っている。それで待ち時間は長くなっている。OPO(organ procurement organization)が病院に駆けつけてよくやってくれるが、献腎をしてくれるのは1000人の死亡患者のうち数名、つまり1%以下だ(30-40代、男性、白人が多い;USRDSより)。
だから献腎してくれる人を増やす努力が求められる(ひとつのやり方がopt-outで、「臓器提供したくない」と自分から言わないかぎりは全員同意したものとみなす;欧州の一部で採用されている)わけだが、なんと献腎されたグラフトが100%移植されているわけではない。17%が捨てられている(JASN 2016 27 973)。ポイである。
これにはいろんな事情があるのだが、基本的にはできるだけ状態の腎を移植したいということだ。「腎臓があります」とコールを受けた移植外科医がOKかパスか判断する。
即答するにあたっては、その腎がどんな状態かをスコアリングしたKDPIが一つの指標になる。実際、KDPIが高いほど捨てる率が高くなる(85以上で40%以上)。ただしKDPIはgraft failureとの相関が悪いことがわかっている(C-static 0.6)。迷った時には腎生検を依頼することもあるが、これは腎病理医でない病理医がすることも多くHE染色しかできず、時間のプレッシャーのなかで読まなければならない。Maryland Aggregate Pathology Indexが提唱されているが幅広くは使われていないし有用性も確立していない。
移植外科医には、移植成績を守るプレッシャーがある。患者さんに対してもそうだし、なにより移植施設にとってだ。移植成績はcenter report cardに記載してOPTNに提出し、完全に公開されるうえに成績が悪いとペナルティが課される。だから高KDPI、DCD(心停止後の献腎;DGFが高い)、PHS infectious risk(IVドラッグユーザーなど感染リスクが高い疫学群;必ずしも診断されたわけではなく、HCVで32/10000移植腎、HIVはそれ以下)などは避けられる。
避けたくなる理由にはそれぞれうなずける点もあるし、実際移植すべきでない腎もあると思う。ただ移植を待ちながら亡くなる患者さんの数がとても多い(毎年4%、高齢で糖尿病性腎症ならもっと高い)のが問題だ。高KDPIでも、DCDのgraft failure rateが高くても、HPS infectious diseaseのtransmission rateがゼロではなくても、それでも移植したほうがsurvival benefitがあるというスタディもでている。移植成績は移植をすればするほど高リスク患者と高リスク腎を扱うことになるので、成績と施設の質は必ずしも相関しない。この辺を考慮して対策しようと米国ではみんなで考えている。
[参考]日本の腎移植待ち患者数は約12000人で、ここ20年変わっていない。献腎移植件数は約120件/年(生体腎移植は約1500件/年)。脳死腎移植は少しずつ増えているが、不思議なことにちょうどその分だけ心停止腎移植が減っているので献腎移植件数全体としてはほとんど変わっていない。平均待ち時間は13.8年だが、血液透析の長期予後自体がとてもよいので、survival benefitについては一概には言えない。
[2019年8月30日追記]献腎を移植するかどうかのジレンマとして、こんなめずらしいものが昨日付けのニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスンに載った(doi:10.1056/NEJMicm1902894、写真も)。
なんと献腎には、腎動脈が5本あったのだ。マンチェスター大学の論文著者がいうように、腎動脈は胎生期に複数あるものが最終的には1本になる。2本あることは稀ではないが、3本以上となると極めて稀だ。
こうした場合、移植の際には写真のように大動脈ごとレシピエントの大動脈につなぐが、本来この献腎を受け取るはずだった患者は9歳女児。サイズがマッチしない。そこで、この献腎はやむなく別の35歳男性に移植され、Cr 1.0mg/dl程度で機能している。いっぽう、女児は18ヵ月後に生体腎移植をうけ、Cr 0.9mg/dl程度で元気にしている。
難しい判断だが、移植時の血管トラブルは腎臓はおろか命にかかわる。当時リストのトップであったであろう女児に献腎のセカンド・チャンスがこなかった理由は不明だが、生体腎移植もうまくいき、結果的にはこれでよかったのだろう。