さてMDRDといえばeGFRの式のことがまず出てくるが、じつはオリジナルのスタディはmodification of diet in renal disease、つまりたんぱく制限食がCKD進行に与える影響を調べたものだと教わった。Nitrogen-free ketoanalogueと超低たんぱく食の論文(doi: 10.1681/ASN.2015040369)についてお友達と話していた時のことだ。
これほどインパクトを与えた論文を知らなかったのは奇妙だ、とくに主要著者の一人がフェロー時代の最高齢ボスだったのに(この先生はMinneapolisにあるUNOS officeで主に移植患者の臨床研究をしていると思っていた)。とにかくフェロー時代にタンパク制限のタの字もで聞かなかったのはなぜか。
米国食生活でたんぱく制限することが無謀だからか(米国のたんぱく摂取量は90-100g/dといわれる)。Nurses' Health Studyを解析したスタディでMDRD eGFR 55-80ml/min/1.73m2の群はたんぱく、とくに動物たんぱくの摂取量に相関してeGFRが低下したことがわかっている(Ann Intern Med 2003 138 460)。ちなみに植物たんぱく摂取では有意差はなかったがeGFRが上がった。クレアチニンの原料を摂るか摂らないかの違いなだけな気もするが、KDIGOではこのスタディを高たんぱく摂取はCKD進行に相関という典拠に用いている。
そのKDIGOガイドラインは、糖尿病・非糖尿病CKDでeGFRが30ml/min/1.73m2以下の患者に0.8g/kg/dのタンパク制限を栄養指導とともに行うことを推奨して(2B、2C)、最大のRCTとしてMDRD、それから2009年のCochraneメタアナリシス(DOI: 10.1002/14651858.CD001892.pub3、非糖尿病CKDにおいてたんぱく制限は非制限にくらべて腎死を低下させるが制限の程度は決めかねるという結論)を紹介している。0.8g/kg/dというのは、妊娠も授乳もしていない健康成人のたんぱく需要が0.6g/kg/dとされ、FAO(Food and Agriculture Organization of the United Nations)/WHOが33%の安全マージンをとって0.8としたのに習っているのかもしれない。
MDRDの結果は一般にfailureと捉えられているが、その解釈は正しくないという弁明も出てるくらいだから(JASN 1999 10 2426)、一度は原著に目を通さなければならない。知られているから書くまでもないだろうがMDRDスタディはたんぱく制限と降圧のCKD進行、ESRD、死に及ぼす影響を調べたものだ。インスリン依存糖尿病患者は除外され、インスリン非依存糖尿病患者は全体の3%だった(25%が腎炎、20%がADPKD)。
たんぱく制限はGFRが25〜55ml/min/1.73m2の群は1.3g/kg/dと0.58g/kg/d(MDRD-A;実際は約1.1g/kg/dと0.7g/kg/d)、13〜24ml/min/1.73m2の群は0.58g/kg/dと0.28g/kg/d(MDRD-B;実際は約0.7g/kg/dと0.4g/kg/d)で比較した。Bスタディの超低たんぱく群ではketoacid/amino acid supplementも用いられている(から約0.2g/kg/d分が加わる)。介入前のたんぱく摂取量は尿中窒素から計算してMDRD-Aで約1.1g/kg/d、Bで約0.9g/kg/dだった。
MDRD-Aでは最初の4ヶ月は低たんぱく群のほうがGFRが下がってしまい、最終的に逆転するがいずれも有意差はなかった。ただしたんぱく尿1g/d以上(10g/d以上は除外されているが)群とAfrican AmericanではGFR低下を緩徐にする効果が認められた。また原著には載っていないが、延長フォローアップをすると(JASN 1994 5 336 Abstract)ESRD/deathのcummulative riskは低たんぱく群で低下している(RR 0.63、ただしp=0.056)。
MDRD-Bでは総じて4ml/min/yearのGFR低下がみられ、38%が透析になったが、超低たんぱく群と低たんぱく群でESRD/deathのcumulative riskに有意差はなかった(グラフの見た目には差があるが、p=0.60)。また超低たんぱく群で-0.7ml/min/yearの効果があったが95%CIは+0.1から-1.8、p=0.07で有意差はなかった。ただ、A同様にたんぱく尿1g/d以上の群では有意差があった。
B群も延長されて(AJKD 1999 27 652)、介入群間のdichotomousな評価ではなく全サンプルをたんぱく摂取量でグラフにするとたんぱく摂取量の減少はESRDに至る時間をのばし死亡を減少させた。ただしketoacid/amino acid supplement摂取群は非摂取群に比してイベントRRが1.86(CI 1.05-3.28)だった。
ここまできて疑問なのは、糖・尿・病・C・K・DすなわちDKDにおけるタンパク制限の役割だ。ADAガイドライン 2016も0.8g/kg/d、それ以下はダメ、1.3g/kg/dではCKDが進行すると言っている(エビデンスレベルA;典拠なし、GFRの記載なし)。インスリン依存糖尿病性腎症を対象にした(〜0.6g/kg/d)小さなスタディでmixed resultsがでている(Lancet 1989 2 1411、NEJM 1991 324 78、J Clin Endocrinol Metab 1992 75 351)。大きな長期間スタディがない訳がないと思うが、意外と少ないらしい(Am J Clin Nutr 2013 98 266)。
デンマークの1型患者を対象にしたスタディ(KI 2002 62 220)では0.6g/kg/dをprescribeされたが実際には0.89g/kg/dの群が、1.02g/kg/dの対照群と比して51Cr-EDTA clearanceの低下に差はなかった(両群とも3.8−9ml/min/yearとスタディ前に比して改善した)が、4年のフォローアップでESRD発症率が27% versus 10%だった(p=0.04)。たんぱく量にはほとんど差がないのにである。
Blindされていない(栄養士さんも診察医師も一人で全員を診る)のも考慮しなければならないか。あと、アルブミン尿が2g/d以上の低たんぱく群患者には同量のたんぱくを補充したとある。現在は推奨されていない、ネフローゼであっても基本は0.8-1g/kg/dだと思うけど、protein energy wasting(PEW)予防のためにはたとえ腎障害が悪化しても補充すべきと言っている栄養界の人もいるみたいだ(Am J Clin Nutr 2013 97 6 1163)。PEWの観点からは、高齢者には1.5g/kg/dで異化を予防しよう(Clin Nutr 2008 27 675)とかいろんな意見があるらしいが検証はされていない。
かと思うと、オーストラリアとNZのスタディ(Am J Clin Nutr 2013 98 494)では、珍しく2型患者(mean eGFR 90ml/min/1.73m2でアルブミン尿ある早期の群)を対象に、たんぱく90−120g/dと55−70g/dの群(実際は1.2g/kg/dと0.9g/kg/d)で比較しても12ヶ月のフォローアップで99mTc-DTPA GFR([125I] iothalamateと相関)、Cistatin C eGFR、MDRD eGFRに差はなく、24時間尿中アルブミンは低たんぱく群のほうが多かった。
このスタディの食事は総カロリー(6000J/d = 約1400kcal、男性は7000J/dまで許容)と脂質の割合を一緒にしてたんぱく質が減った分(30%→20%)炭水化物を増やした(40%→50%)。高たんぱく群は9kg、低たんぱく群は6kg減量し(もとが100kgなためか有意差なし)、血糖コントロールに差はなく、血圧は高たんぱく群で低めだった(拡張期血圧にtime-by-treatment interactionな有意差;ふつうに高たんぱく食を摂ると塩分が多くなるが、減塩もきちんとおこなったのかもしれない)。
古典的な糖尿病性腎症の発症機序として知られる残存糸球体の肥大は高たんぱくで増悪することが動物実験で60年前から知られている(Am J Physiol 1951 165 491)。それでたんぱく制限は自明に行われてきたが、早期糖尿病腎症でたんぱく摂取量と相関しないスタディもある。一方CKDが進行すればたんぱくに含まれる窒素、リン、有機酸、尿酸などが問題になるので制限は賢明と思われる(ただし、PEWや異化亢進には気をつけなければならないから難しいところだ)。結局0.8g/kg/dという世界共通・年齢・性別に関係のない推奨値がわからないまま使われているのか。