2016/05/25

SPRINT, HYVET, ACCORD and others

 高齢者の降圧目標はアドヒアランス、副作用やポリファーマシーを考慮して緩和されたが(JNC8は60才以上でnon-diabetic, non-CKDなら150/90mmHg以下とする)、十分な根拠がないという批判も多い。そんななかSPRINTスタディ被験者の約3割を占める75才以上(mean 79.9才)をサブ解析した結果が米国老年医学学会で発表されJAMAに載った(doi:10.1001/jama.2016.7050)。注意すべきは糖尿病、MDRD eGFR 20ml/min/1.73m2以下、たんぱく尿1g/d以上、脳梗塞の既往、認知症、ナーシングホーム入居などが除外基準に含まれていることだ。

 SPRINT(NEJM 2015 373 2103)はSBP目標140mmHgと120mmHgで心血管系イベント+死を比較したところすぐにintensive armに効果がみられて安全モニター委員会から介入を修正するよう指摘されたスタディだ。今回のサブ解析でも同様にprimary outcomeに差が見られた。Frailty(37-item frailty item)、gait disturbance(歩行試験)で層別化しても有意差は見られなかった。Mean SBPは141mmHgで、120mmHg目標群はmeanの降圧薬数が約3、140mmHg目標群は約2だった(ベースの数はSPRINT全体で1.8)。4種類以上内服しているのは120mmHg目標群の23%、140mmHg目標群の7%だった。

 どの降圧薬を使うかは医師に任せられたが、エビデンスを踏まえてキードラッグはthiazide(chlorthalidone)、ACEI、CCB(amlodipine)とされ、薬のtitrationはアルゴリズムに従って行われた。低血圧、ふらつき、AKI、電解質異常などは120mmHg目標群で高かったが有意差はなく、転倒は数字上120mmHg目標群で低かった(有意差なし)。両群でfrailtyが高いほど副作用は多かった。

 この結果はHYVET(NEJM 2008 358 1887)とも符合する。80才以上、SBP 160mmHg以上の患者(中国の被験者が約1000人参加している)にindapamide SR 1.5mg or placebo、それでも150/80mmHgに達しなければperindopril 2/4mg or placeboを投与して脳梗塞をprimary outcomeにした。結果、介入群(SBP 140-150mmHg)では脳梗塞だけでなく心不全など他の心血管系イベントも有意に低下した。除外基準にCr 1.7mg/dl以上、認知症、nursing careが必要などがある。糖尿病患者は6%しかいなかった。このコホートをfrailty indexで再分析したところ(BMC Medicine 2015 13 78)frailでも治療効果がみられたという。

 除外された糖尿病患者だが、降圧目標は別にある(ADA guidelines 2016は140/90mmHg以下、アルブミン尿などあるなどあれば130/80mmHg以下。高齢者は個別に考えるが薬で130/70mmHg以下にするのは有害なので避けるとある;エビデンスレベルC)。ACCORD BP(NEJM 2010 362 17、mean age 62.2、Cr 1.5mg/dl以上とたんぱく尿 1g/d以上、high CV risk患者を除外、SBP140mmHgとSBP120mmHgでunder−powered)、ADVANCE-BP(Lancet 2007 370 829、mean age 66、HYVETと同じ二薬で-5.6/-2.2mmHg降圧しただけで有意差がでた;達成した血圧は136/73mmHg、フォローアップのADVANCE-ON NEJM 2014 371 15 でも有意差は持続した)などがあるが、高齢者を対象にしたスタディもどこかにあるのだろう(認知症やnursing careを要する例は除外されているだろうが)。

 やはり多くが除外されたCKDについては、KDIGO guidelines 2012がnon-diabetic CKDで140/90mmHg以下、diabetic CKDとCKD with proteinuriaで130/80mmHg以下とが言っている。がエビデンスは薄い(AJKD 2016 67 417;21のレコメンデーションのうちエビデンスレベルAのものはない;多くはDないしungraded)。SPRINTはeGFR 20−59ml/min/1.73m2を含んでいる(サブ解析はJASN 2017 28 2812)がCKD群は28%で目標血圧に達せずスタディが早期に終わったので、この群についてあまり多くは言えない。MDRD、REIN-2(Lancet 2005 365 939)、AASK(JAMA 2002 288 2421、NEJM 2010 363 918)などはいずれも心血管系イベントについてunderpowered、ESRD進展にも有意差なし(doi:10.1053/j.ajkd.2016.02.045)。

 そしてもうひとつ除外された認知症、ADL依存の群についてはどうか。認知症といっても幅があるし、血管性痴呆の場合もあるだろうから降圧効果があるpopulationもいると思われるが、最初から除外されているのでなんとも言えない。調べると、nursing home residentsは降圧薬を飲んでも効果が薄く副作用が多いというsystematic review(JAMDA 2014 15 8)や、nursing home residentsで降圧治療を受けているSBP 130/70mmHg以下の群はコントロールに対して心血管系イベントと死亡率が高いという相関がみられた(JAMA Intern Med 2015 175 989)スタディがあった。今のところはこの群には降圧は薦められないのかもしれない。