じつはKホメオスタシスについての論文は昨年NEJMに出て(2015 373 60)、JASNにもonline firstで出ていた(2016 27 981)。とくにJASNとKI supplementsは、現状ではRAA系阻害薬が高K血症のために十分に使われていないため、新規K吸着剤をつかってその効果を発揮させよう;またKayxalateは有効性と安全性に疑問がある、というキャンペーンになっている。ここまでやれば、renal/medical communityも高K血症の新しい治療薬をよりembraceするかもしれない。
さてキャンペーンはさておき、勉強になる内容としては、従来のRAA系と遠位ネフロンで説明されてきたメカニズム(ROMKチャネルがrenal outer medullary Kの略で、BKチャネルがbig conductanceの略だとはじめて知った)とは別の、最近わかってきたメカニズムのいくつかについて紹介されていた。一番featureされているのは名前がついていて、feed-forwardという。
これは、K-rich dietや経口K loadの数十分後に腎からのK排泄が増加する現象で、これ自体は30年前からいまUC DavisにいるDr. Rabinowitz(NEJMレビューの著者でもある)がヒツジで実験し、それが血液K濃度、aldosterone、流量、尿Na、尿pHなどとは無関係で、「体循環に入る前のどこかでKをセンサーし腎のK排泄を起こす仕組みがあると思われる」と予想されていた(Am J Physiol 1988 254 R357)。
その後この現象はヒトでも確認され、GI-renal kaliuretic signaling axisについてさまざまな研究が行われているが全貌はわかっていない。体循環に入る前ということは消化管か門脈系か肝臓ということで、たとえば門脈にKを注射しても同じことが起こる(岐阜大学のAm J Physiol Regul Integr Comp Physiol 2000 278 R1134、Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol 2004 286 R591)。
で、splanchnicにKを感知してどうやって腎K排泄が起こるのか。そんな消化管ホルモンはいまのところみつかっていない。periarterial hepatic nervous plexusの活動が落ちることがわかっていて、迷走神経によるシグナルが脳に届いて脳から腎に作用が行くのかもしれないと想定されている。腎にシグナルが届いてどうやってK排泄がおこるかについては、kallikrein-kinin系の関与や、NCCの不活性化(脱リン酸化)が知られている。
これは面白い現象だが、「だからK吸着剤を使おう」ということには直接はつながらない気もする。あと気づいたのは、KI supplementsでこの現象を解説した論文(KI suppl 2016 6 7)の図2と図3が、別著者の別論文(Semin Nephrol 2013 33 248)に掲載された図1と図2と酷似していることだ。KI supplementsには「筆頭著者のcourtesyによる」とあるから、筆頭著者の研究論文に初出しているのかもしれない。Semin Nephrolのほうは出典は書いてない。
[2016年6月追記]ZS-9はFDAにリジェクトされ、ZS-9の会社株が下落してPatiromerの会社株が急上昇した。ただしリジェクトの理由は安全性ではないようで、製薬会社は手紙を読んですぐに手を打つとしている。