2016/05/11

NOAC antidotes

 新規経口抗凝固薬には拮抗薬がないのは、いくら半減期が短いとはいえあんまりじゃないかと思っていた。実際に出血→AKI→薬剤蓄積→出血が何をやってもとまらない(から透析した)という事態を経験したことがある。
 でもArgatrobanの拮抗薬Idarucizumab(Digibind®のようなFab fragmentで、商品名もPraxbind®、Boehringer Ingelheim社)が試験を通って(NEJM 2015 373 511)2015年10月にFDAの承認を得ていた。2.5gram/50mlで2100ドルだが。Humanized murine antibodyなので過敏反応が起こりうるのと、抗凝固薬の拮抗薬なので塞栓リスクがあるのと、どういうわけか低K血症を起こす。また溶剤にsorbitolが入っているのでhereditary fructose intolerance(二糖類のfructose-1-PをglycelaldehydeとDAHPに切るaldolase Bの異常;通常は乳幼児までに発見されfructose、sucrose、sorbitolを含まない食事をすれば予後は良好)の患者には使えない。
 Factor Xa inhibitorsに対してはdecoy receptorのAndexanet Alfaが試験中(NEJM 2015 373 2413)だ。副作用は便秘・味覚異常・ほてりなどという。今年2月に、Portola社がBristol Myer Squibb・Pfizer社に1500万ドル払ってこの二社が日本で治験を行うライセンス契約を結んだ。新規経口抗凝固薬は日本で年間売上が8億ドルを超え、今後も増えていくとおもわれるので備えのためにも拮抗薬の認可が早晩おりるだろう。
 [2016年6月追加]最近は、NOACではなくDOAC(direct oral anticoagulant)という。カルテでNO-anticoagulationと誤解されるのでDO-anticoagulationとなったらしい。
 [2016年7月追加]ApixabanとVKAを比較したARISTOTLEコホートで腎機能の悪化とリスク・ベネフィットの関係を追跡したところ(doi:10.1001/jamacardio.2016.1170)、腎機能が悪化した群で塞栓・出血・死亡リスクは高まる傾向にあり、eGFR 25-50ml/min/1.73m2の群と50-80、または90ml/min/1.73m2の群でApixabanのほうが出血リスクが有意に低かった(CKD-EPI式;CG式のデータも同様の結果)。これらの群で抗塞栓効果は数字上Apixabanのほうがあったけれど有意差はぎりぎり出なかった。またCHESTがシステマティックレビューをしたが(doi: 10.1016/j.chest.2015.12.029)、不均一性が高すぎて微妙なのと、eCrCL 50-80ml/minを腎不全と言って良いのかわからない。