2016/05/18

AKI repair

 傷ついた心は完全に癒されるのだろうか。一生消えないという人もいれば、乗り越えたという人もいれば、乗り越えているつもりで乗り越えられていない人もいるのだろう。人の心はわからないものだが、傷ついた腎臓が完全に癒やされるかも私たちは知らない。Cr濃度がベースラインに戻った腎臓が、機能・構造ともにすっかり受傷前と同じかどうかはわからない。というか、同じではないと考えられている。

 AKIでCrが元に戻った人たちにもCKD発症のリスクがある。これは以前からいくつものスタディで言われていることだが、最近もVA病院の入院患者を対象にした論文(AJKD 2016 67 742)がでて、KDIGO stage 1 AKI(48時間以内のCr 0.3mg/dl上昇ないし7日間以内のCr 50%上昇)で1-2日のうちに回復した群であっても、小さいながらCKD進展のリスクはあった。

 AKI後の患者さんを、どう扱えばCKDへの進展が防げるのか。フェロー時代に、AKI後の患者を全員腎臓内科外来でフォローしていたら外来がパンクする、といわれた。実際USRDSの報告でもAKI後1年以内に腎臓内科医が診ているケースは20%以下だそうだ。ただ、彼らAKIサバイバーがCKDにならないために、腎臓内科医ができる特別な検査や治療が現在あるのだろうか。まだあまりないと思う。だから予防が大事で、個人的には以前に触れた術前のremote ischemic pre-conditioningは非侵襲的で簡便なのでもっと広まっていいと思う。

 というか、AKI後の患者さんは何がどう悪くてCKDになるのか。AKI後の修復が不完全だからCKDになりやすくなるのか。修復の程度を知る方法はあるのか。まだわからないことがたくさんあり、研究段階だ(JASN 2016 27 990、虚血後再灌流がもっともモデルにされている)からいろんなものが出ては消えていくかもしれない。尿バイオマーカーにはTIMPxIGFBP7、NaPiT2a(PTHの支配下にある近位尿細管のNa/Pi共輸送トランスポーター)、炎症の関与にTLR4、IL22、マクロファージM1 phenotype(M2は修復phenotype)、CD4+/CD8+ T cell、細胞サイクルに関する因子(Cdkやチェックポイントp21)、など。

 心が傷ついても愛することをやめないでとか、誰かがそばにいてくれたらそれだけでもちがうとか言われることもある。傷ついた腎臓はそれ自身にかなりの修復・再生能を持っているが、癒やしてくれる存在を導入しようというのがbone marrow-derived mesenchymal stem cells(MSCs)だ。これは幹細胞だがそれ自身が尿細管細胞になるのではなく、いろんな抗炎症・免疫制御・増殖促進のparacrine因子を出して腎臓を助けてくれる効果がすでに臨床ででも試されている(心臓手術前、cisplatin投与前など)。分化異常や発がんなどの安全性(塞栓症のリスクも知られている)や、骨髄由来でなくてもいいのかなど、まだいろいろ調べられている。