以前に細胞外液中のカリウムは一日摂取量にも満たないと書いたが、細胞外液中のカリウムは身体のカリウムの2%にも満たないということは書かなかった。細胞内には約3300mEqのカリウムがある(JCI 1956 35 596 によれば50mEq/kg;Brenner'sによれば筋に約2500、肝に約250、赤血球に約250、骨に約300mEq)。これが巨大なバッファーになり(下図;Medicine Baltimore 1981 60 339)、血液K濃度が大きく変わらないように調節してくれる。
細胞内の高K濃度はNa-K-ATPaseで維持されている。だが細胞内外のK移動にかかわる輸送体やチャネルはたくさんある(NKCC1、KCC1-4、voltage-sensitive and Ca2+-gated K channels、inwardly rectifying K channelsなど)。それらによって、インスリン・β2アゴニスト・β1/β2アゴニスト・アルカローシス・αブロッカーなどでKが細胞内にシフトしアシドーシス・高血糖・β2ブロッカー・β1/β2ブロッカー・αアゴニスト・高浸透圧・運動などでKが細胞外にシフトする。
さて、慢性の低K血症ではKが下がり過ぎないように細胞内から細胞外にKがシフトし続け、相当なtotal body K deficitがあるとよく言われる。2mEq/lなら数百mEqの喪失があると聞いたことがあるが言い値というか根拠は聞いたことがなかった。Comprehensive Clinical NephrologyにはKが下がるごと指数的に上がるグラフが載っていて3mEq/lで約200mEq、2.5mEq/lで約350mEq/l、2mEq/lで約600mEq、1.5mEq/lで約1200mEq/lとなっているが典拠がない。
で、調べて見つかったのは上図の論文。過去のスタディサンプルを全部プロットしたら100mEqのK喪失でK濃度が0.27mEq/lさがる(r = 0.893)という結果が得られた。細胞間シフトに影響を及ぼす因子はない状態と仮定して。アバウトに言うと、細胞内Kも枯渇している慢性低K血症においてはK濃度を1mEq/l上げるのに300-400mEq補充しなければならないことになる。ただこれは線形相関で上述のような指数相関ではないのと、グラフはK濃度2.0mEq/lまでしか伸びてない。