2016/05/12

Non-EPO ESAs

 血液透析患者さんのHgbターゲットはKDIGOで10−11g/dl、日本透析学会で10−12g/dl(保存期CKDでは11-13g/dl)だが、使える治療が鉄とESAなのは変わらない。ESAはrecombinant human EPO(糖鎖の違いでalpha、beta、delta)、糖鎖をたくさんつけて半減期を伸ばしたdarbepoietin、さらにペグをつけたCERA(cutaneous erythropoietin receptor activator;epoetin beta pegol)。

 Non-EPO ESAとしてはEPOと構造の違うepomimeticペプチドであるpegisenatideがEMERALDスタディで治験された(NEJM 2013 368 307)が販売は中止になったと認識している。他にはHIF stabilizerと抗hepcidin薬などが研究されており、HIF stabilizer(HIF proryl hydroxylaseがHIFを分解するのを阻害するdecoy receptor)については米国でPhase IIまでいっていたはずだが、その結果を最近知った。

 ひとつはもう名前がついていてRoxadustat(JASN 2016 27 1225)。経口で週3回内服し(半減期10−12時間で、間欠的にHIFを増やすようにしているらしい)、投与量は体重による(血液透析患者でHgbを維持するには1.5-2.0mg/kg)。非透析患者、透析導入患者、透析患者でスタディされており、Hgbを2g/dl程度上昇させ、透析患者群では19週の追跡でEPOと差がなかった(AJKD ahead of print、doi: 10.1053/j.ajkd.2015.12.020)。

 もう一つはGSK1278863で(JASN 2016 27 1234)、このスタディは用量決定のための4週間追跡調査だが、経口5mg/dで非透析患者のHgbを1g/dl程度あげ、透析患者でHgbをEPO群と同様に維持した。

 HIF stabilizerはEPO産生を活性化させるだけでなく鉄代謝を正常化する働きがあってhepcidinも減り、炎症反応が高くても低くても同様に効果を示すとされる(EPO抵抗性はHgbの値自体よりも心血管系イベントに相関する言われるので、HIF stabilizerの売りもここにある)。両者でFerritinがさがりトランスフェリチン、TIBCがあがった。Roxadustatでは非透析・透析群ともにhepcidinが下がり、GSK1278863ではHgbが増加した5mg/dの非透析群で下がった。Roxadustat用量はCRPと相関がみられなかった。

 副作用はRoxadustatでは高血圧で、薬剤に関係ないとはされたが心不全によるとみられる入院や死亡もあった。どのスタディも数十人を対象にしてフォローアップも短いのでこれからもっと見つかるかもしれない。

 懸念されるほかの副作用は悪性腫瘍(HIF系は細胞増殖シグナルも活性化する)だが、GSK1278863がVEGF濃度を測るとclear differenceはみられなかった(表の数字では明らかに5mg/d投与群で必要群にくらべて高くなっているが)。同様の懸念はDPP4阻害剤の時もあったが(あれはたしか膵癌)、データの蓄積を待っているところなようだ。

 抗hepcidin薬はESAとはいえないかもしれないが、Lexaptepid pegol(ドイツ製なのでSpiegelmer®)が研究されている。これはpegylated structured l-oligoribonucleotideで、hepcidinに結合して不活性化する(分解するわけではない)。いまのところ健常被験者にLPSを注射した炎症による貧血モデルで鉄利用障害を改善する(が炎症を悪化させることはない)ところまで示されている(Blood 2014 124 2618、Br J Pharmacol 2016 173 1580)。まだ遠い感じがするが著者はpromisingと言っている。

 糖尿病ではインスリン市場に食い込むようにGLP-1やDPP4阻害薬などのsecretogogueが開発され、腎性貧血も似た感じに見える。ただEPO類のESAはたしかに冷蔵保存したり注射だったり面倒だが、血液透析患者は自分で打つわけではないしそんなに不便ではないかもしれない。ただ前述のようにEPO抵抗性の改善や鉄代謝の改善などのメリットがhard endpointで出て安全性が確立すれば一気に促販されるかもしれない。

 [2016年6月追加]GSK1278863のPhase 2Aトライアル結果(AJKD 2016 67 861)がでた。非透析患者群70人で10mg、25mg、50mg、100mg/d、透析患者群37人で10mg、25mg/dとプラセボが比較された。50mg、100mg/dは副作用が多くHgb上昇も急激で離脱率が高かった。