2012/05/31

SHARP trial

SHARPトライアル、これはこの一年で腎臓内科に関する最大のドラマだ。スタチン(コレステロールを下げる薬)は、血中の脂肪を除くのみならず、抗炎症作用によって動脈硬化の進行を遅らせ心血管系イベントを減らす。しかしその効果は、たび重なる治験にもかかわらず慢性腎不全の患者さんには証明されていなかった。

 その理由ははっきりしていないが、慢性腎不全の患者さんにおいては、心血管系イベントの機序が異なるからかもしれない。FGF23による左室肥大、透析や薬剤による血管の石灰化などは、コレステロールと関係ないのかもしれない。

 さておきSHARPトライアル(Lancet 2011 377 2181)はその文脈で、「スタチン単独でダメなら、ezetimibeと併用したら」という臨床試験だ。約9000人の患者さん(うち約3000人が透析中)を対象に、simvastatin(商品名Zocor) 20mg、ezetimibe(商品名Zetia) 10mgの併用を、プラセボと比較した。冠動脈疾患の既往がある人は除外された。

 五年間の追跡で、major atherosclerotic eventsは治療群で優位に低かった。これを受けて昨年11月、FDAのadvisory boardは全会一致で慢性腎不全患者へのこの薬(商品名Vytorin)の適応を支持し、スタディグループのボスは時の人となった。しかし、今年1月、FDAはadvisory boardの推奨をひっくり返してVytorinに慢性腎不全患者への適応を認めないと発表した。

 FDAの適応拒否の理由は、二剤の併用であるため、Zetia単独で効果があるのかVytorinでなければならないのか分からないというものだった。つまりPlacebo、simvastatin、ezetimibe、combinationという四群に分けて試験をすればよかったという訳だ。結局ZetiaにもVytorinにも添付文書にSHARPスタディの結果が載ることになった(しかしどちらも適応はない)。二兎を追うものは一兎をも得ず、ということなのだろうか。