Renal Grand Roundでいつも感心するフェローが、今回も素晴らしい発表をした。まず食道がんの手術、放射線治療、化学療法後に血圧のコントロールがつかなくなった症例をプレゼンする。スタッフがすぐさま「放射線治療は頚部にもなされたの?」と質問する。あとから説明するが、まず最初にこれが聞けないと、腎臓内科医とはいえないのだ。
主な二次性高血圧はあらかた除外され、引き続き降圧剤を七種類くらい飲み続けているが、いっこうに血圧が下がらない。どう思う?と少し議論になった。そのあと二例目は、CEA(carotid endarterectomy、頸動脈狭窄の治療)後に血圧が急に上がり、診察しようにも患者さんが大泣きしていて話にならない、というもの。普段は泣いたりしない普通の人なのに。
二例目のほうが明らかだが、これらはbaroreflex failureが疑われる症例だ。圧受容体が頸動脈球、大動脈弓、その他の胸部の太い血管にあって血圧の変化を感知し、舌咽神経と迷走神経を介して脳幹nucleus tactus solitariiに伝える。その結果、交感神経や副交感神経の調節より血圧の急激な上昇と低下が食い止められる。
この分野の第一人者はVanderbilt大学のDr. Robertsonという神経内科医だ(NEJM 1993 329 1449)。この論文によれば、baroreflex failureはlabile hypertension、emotional lability、flushing、diaphoresisなどを主徴とする。血圧の細かな調節が効かないので、ワッとnorepinephrineが出て、ワッと血圧が上がる。
原因疾患は頚部の外傷、頚部の放射線治療、頸動脈周囲の腫瘍、頸動脈の内膜切除(CEA)、など。baroreflex functionの検査は、昇圧剤(あるいは降圧剤、nitroprussideなど)を持続静注して血圧ガクっと上がる(あるいは下がる)まで増量していくというもの。治療はclonidineで、典型的には著効するそうだ。二例目の症例には著効したらしい。
今度から難治性の血圧で紹介されてくる患者さんをみたら、首のキズと感情の起伏に注目しようと思う。そういう目で思い返してみると、「ひょっとしてあの患者さんの高血圧はこれだったんじゃ…?」と思い当たる節がある。