尿崩症を疑う家族歴のある子供が、毎日5Lの水を飲まなければならず、多尿と夜尿で相談されたとしよう。腎性尿崩症で多い遺伝様式はX-linkedだが、この症例の家族歴はautosomal dominant、しかも他の家族はdesmopressinが効くという(腎性だったら効かないのでは)。
絶水試験で血漿浸透圧が285mOsm/kg、尿浸透圧が477mOsm/kgになった。これが心因性多飲症だったら、血漿浸透圧はもっと高く、尿浸透圧ももっと高くなるはずだ。絶水に反応してADHは出ているから完全な中枢性尿崩症ではない。腎臓は反応しているから、腎性尿崩症でもない。
というわけでこれはpartial central DI、疑うべきはneurophysin IIの異常だ。正確にはADH pre-prohormone geneの異常で、neurophysin IIはこの前駆体がADHになる際に出来る副産物だ。いずれにせよこの遺伝子異常によりmisfolded ADH precursor分子が神経分泌細胞内で詰ってしまう(J Cell Sci 2009 122 3994の図10)。だがdesmopressinを投与すると「(スタッフによれば)詰りが改善する」らしい。