HIFは日本語では低酸素誘導因子と言われる。言葉の通りで、細胞組織に対する酸素供給が不足した際に誘導されるタンパク質である。
まず、HIFの分類について簡単に書く。
HIFは3種類のHIF-αサブユニット(HIF-1α、HIF-2α、HIF-3α)、HIF-1βサブユニットに別れている。そもそも、HIFはDNAとの結合に関わるタンパク質であり転写因子として機能するものである。
発見の歴史として、HIF-1は,肝がん細胞株Hep3Bにおいて「低酸素依存的にエリスロポエチン(EPO)を誘導する因子」として1992年にSemenza らによって発見された。そして1995年にHIF-1がHIF-1α とHIF-1βのヘテロダイマーであることが報告され、同年に各遺伝子がクローニングされた。その後,相次いでHIF-2αやHIF-3αが同定された。
HIFが注目されているのは、一つは腎性貧血の分野である。
HIFは細胞組織に酸素が十分にあるときは分解されるが、低酸素の状態の時には核内に移行して、エリスロポエチンの転写を促進する。
腎性貧血の原因としてエリスロポエチンの産生細胞の機能低下ではなく、HIF活性低下が原因であると言われている。
また、HIFに関してはプロリルヒドロキシゲナーゼによって制御されていると言われている。
なので、最近は腎性貧血の治療にここのHIFをターゲットにした治療が行われている。
例えば、AJKD2016の論文のRoxadustat(FG-4592)はプロリルヒドロキシゲナーゼの阻害薬で、これによりHIFの活性化をはかり腎性貧血を改善するものを見た研究になる。
この研究は第2相試験のものであり、詳細に関しては割愛はするがRoxadustatを使用することで、慢性腎不全や維持血液透析を行なっている人のHbの維持に寄与したと報告している。Limitationとしては人数がpart1で54人、Part2で90人と少なく、期間もPart1で6週間、Part2で19週間と短かった。
しかし、今後腎不全患者の貧血の薬としてEPO製剤、鉄剤に続き出てくるであろう。いろいろな方向で患者さんの治療を行うことは重要であると感じる。
次回は貧血の研究で重要な研究であるCHOIRとCREATEについて触れられたらと思う。
HIF-1αの構造
[2019年10月8日]2019年のノーベル生理医学賞が、上述のSemenza先生(写真左)と、Ratcliffe先生、Kaelin先生に贈られた!
(ノーベル財団ウェブサイトより) |
ノーベル財団ウェブサイトの解説がわかりやすいが、Semenza先生によるHIFとHIF遺伝子の発見後には「酸素があるとどのようにHIFが分解されるのか」が研究対象になった。HIFは酸素があるとユビキチン化されてプロテアソームで分解されるが、その仕組みがわからなかったのだ。
すると同時期、von-Hippel Lindau病を研究していたKaelin先生が、VHL遺伝子変異のある癌細胞では、低酸素で活性化される遺伝子がONになっていることを発見した。VHLタンパクには、分解したいタンパクをユビキチンで標識する働きがある。そしてRatcliff先生が調べてみると、じっさいにVHLはHIF-1αと結合していた。
残りは、「酸素があるとどうしてVHLはHIF-1αに結合するのか?」という問いだ。これをKaelin先生とRatcliff先生が一緒に調べると、酸素があるとHIF-1αタンパクの2ヶ所が水酸化されることがわかり(プロリル水酸化、下図も参照)、さらにRatcliff先生のグループがプロリル水酸化酵素、プロリルヒドロキシゲナーゼを同定した。
(ノーベル財団の解説PDFより) |
こうして見つかった「HIFのプロリルヒドロキシゲナーゼ(HIF-PH)」阻害薬が、上述のRoxadustatをはじめとするHIF-PH阻害薬というわけだ!
(ACKD 2019 26 253より) |
2018年のノーベル賞では、「腎臓内科でもそんなふうに研究成果が身近に感じられるといいな」と、うらやましく思った(こちらも参照)。今年は、身近に感じられて、うれしい。来年も、そうだといいな。