2016/12/19

アンジオテンシン阻害薬(ARB/ACE-I)の慢性腎不全(CKD)への使用を考える パート2

前回RAS阻害薬による血圧降下までの話をした。

今回は腎保護について考えてみたい。
・腎保護の観点でACE-IとARBの違いはある。これは"AngⅡ escape"によると考えられている。ACE-Iでブロックしても前述した違う経路でAngⅡは産生される。対して、ARBは直接的にAT1やAngⅡを阻害するのでAngⅡ産生は抑制される。
なら、ARBがいいのかというとそうでもなく、AngⅡの完全ブロックで神経液性因子が働き、他のATレセプター(AT2, AT3, AT4など)にくっついてしまう。これはARBはブロックできない。AT2はAT1と対照的に働きアポトーシスや前炎症状態を起こしたりケモカインさん性などが言われている。ARB阻害はこんな状態を起こしうる危険もある。

ACE-IとARBのdouble blockが両者の悪いところを補填するので理論的に良いとされているのはこのためである(AJKD 2009)。

・タンパク尿産生に関して
ACE-IやARB使用によるタンパク産生抑制は様々な研究で報告されている(Ann inter med 2008)。ACE-I、ARBは比較しても同等であ理、両者の併用療法が効果が高かったと報告されている。
少しstudyを紹介する。
・MARVAL trial:ディオバンがアムロジンよりも尿中タンパク排泄を減らした(インスリン必要としないDM患者) (Circulation 2002)
・LIFE study:ニューロタンがアテノロールと比較してアルブミン尿を減らした(高血圧の患者)(J Hypertention 2004)。
・MICRO-HOPE study:ラミプリル(ACE-I)使用でAlb/Cr比の低下を認め、心血管イベント減少や腎保護作用を認めた(DM患者)(LANCET 2000)
・BENEDIC trial:トランドラプリル微量タンパク尿を減少させた(Cont clin trial 2003)
・IRMA2 study:アバプロがアルブミン尿の進展を抑えた(インスリン必要としないDM患者)(NEJM 2001)

尿蛋白には早期から使用した方がいいことがわかる。

・腎機能保護に関して
腎機能保護に関しても様々な歴史の上に積み重なっている。
・RENAAL study:アルブミン尿の低下が腎保護につながっており、下げれば下げる程腎保護に役立ってた(KI 2004)。
・IDN trial:アバプロ使用でアムロジピン使用に比して腎不全リスクを低下させた(AJKD 2005)。
・AIPRI trial:様々な腎疾患の患者に対してベナゼプリルが腎機能低下を抑えた(J Cardio Pharm 1999)
・REIN trial:ラミプリルが血圧低下と比例して腎保護に働いた(Lancet 1998)
他の研究で血圧と相関なく腎保護があることがわかった(NEJM 2006)。
・AASK trial;高血圧性腎症でラミプリルがGFR低下を緩め、特にアルブミン尿が200mg/day以上で有効だった(JAMA 2002)

糖尿病腎症ではどのタンパク尿のステージでもRAS阻害薬の使用が腎保護という観点で有効なことが示されている。

・Double blockに関しては使用によりAKIの増加や高カリウム血症の出現があり、効果もそこまで強くなく推奨度は低い(NEJM 2013)

そのため、結論としては腎臓の保護に関して血圧のコントロールは重要であり、その際に選択されるのはRAS系阻害薬である。もちろん使用に伴う弊害(Kのことや腎機能の一時的な悪化がないか)などをモニターしながら投与がいいと感じる。
なので、腎機能が悪い=躊躇というのは避けるべきであろう。
RAS系の併用に関しては理論的には有用であるが、現時点での推奨度は低いなと感じた。

とても、奥の深い領域だなと感じた。