2016/12/19

バンコマイシンと急性腎機能障害(Acute kidney injury:AKI)を考える。

今回バンコマイシンとAKIの件を書こうと思ったのは、日常でよく遭遇するのと、CJASNの論文で取り上げられていたからである。


そもそもバンコマイシンの歴史は1958年に最初に認可された。
ラットの研究で大量のバンコマイシンを投与した一部が腎機能障害を呈したが、他のは腎機能障害を呈さなかったという報告がある(Antimicrob Agents Chemother 30: 20–24, 1986)。
アミノグリコシドとの併用は腎毒性を惹起したと言われ、これは腎の刷子縁にくっついたことによるものと考えられている。それにエンドトキシンが作用していると。

バンコマイシンによる腎機能障害というと想像されるのは尿細管障害であるが、実際に腎生検をしてみると間質障害の方が多かったという報告が多い。間質障害は基本的には容量依存ではなく、反応によるものである。

また、バンコマイシンの血中濃度はバンコマイシンは未変化体で75-90%腎臓で排泄されるためGFRに依存する。


日常で相談されるのは
A「腎機能が悪くなっているのですが、どうしましょう?今、感染症の治療でバンコマイシンの治療を行なっています。バンコマイシンのトラフ値が25とかなり高くて今は少し中止して、再度採血をする予定です。」

この時にやはり悩むのは腎機能障害の原因である。
もちろん他の腎機能障害の原因の薬物や造影剤の使用の有無や循環の変動がなかったかはまずは除外するべきであるが、それがなかった場合にバンコマイシンは本当に腎毒性になるのか?と常に悩む。

今回のCJASNの論文ではsystematic reviewとmeta analysisでこれを考えている。
ちなみに
システマティックレビュー:特定の疑問に関して数多くの研究を網羅的に再現性のある方法に従って集めて、その時点の結果のまとめを行なったもの
メタアナリシス:集められた複数の研究の結果を統計学的手法を用いて統合したものである。

今回の論文のようにメタアナリシスが行われているシステマティックレビューは個々の研究結果の羅列にとどまらず結論を導き出すことができ結論の信頼度が高くなる。

今回の論文ではRCTやコホート研究を取り出し、1990年から2005年までPubMedやCochrane Libraryで抽出したものである。
Funnel PlotもRCTの部分のみではあるがしっかりばらけている。
この論文では最終的に13の論文を検討している(7個がRCTで6個がコホート研究)。

結果ではバンコマイシンによるAKIリスクは相対危険度で2.45(95%信頼区間:1.69-3.55)と関連性を認めた。
また、感染部位としては皮膚や軟部組織感染で使用する場合と肺炎や多臓器感染で使用する場合のAKIのリスクの違いはなかった。
ただ、様々なバイアスはあるため、この著者たちはエビデンスとしてはとても強いものではないが、関連性があるという形で示されている。

バンコマイシンの腎機能障害には本当かな?と常に思いながら診療してきたが、エビデンスはそこまでにせよ、関連性があるということに納得する論文であった。