2015/05/12

The cold never bothered me anyway?

 以前、低体温症を透析で復温したことがありそれについて調べて書いたが、逆に透析液の温度を下げて血管を収縮させることで透析中の低血圧に対応することもある。透析中の低血圧は虚血・虚血後再潅流による心筋傷害やstunned myocardiumを起こすので、透析液の温度を下げて血圧を保つことは透析による心筋傷害を抑制するかもしれず、その結果心血管系の死亡を予防するかもしれない。
 しかし実際臨床では、透析患者さんはアナ雪のエルザではないので透析液の温度を余り下げると寒くなり耐えられないことも多い。そこで透析液を患者さんの体温より0.5℃低くしてみてはどうか、と調べたイギリスとカナダ(カナダのオンタリオ州にもLondonという人口35万人の都市があると初めて知った…)のスタディの結果がCJASNに発表された(doi:10.2215/CJN.00200115)。
 54人をrandominzeして12ヶ月間介入をおこない、アウトカムとしてcardiac MRIを行いEF、左室心筋mass、左室のstrain、大動脈の拡張など各種のパラメターを測定したところ、EFには差がなかったが左室心筋massなどには有意差がみられた。LV massは心血管死のsurrogate markerと考えられているので、仮説は検証されたと言ってもいいのかもしれない。ただ被験者数が少ない(除外が多いのでinternal applicabilityは高いがexternal applicabilityは低い)のと、これがこの領域で最初のRCTなので、より大きなスタディでの再検が必要になるだろう。
 

Mgおたく(aka MgSO4 for severe asthma and premature labor)

 私が札幌で働いていたときに出会い、私の渡米を可能にしてくれ、以後も母親のように親身に面倒をみてくれている恩師が、札幌を去る送別会の席でみんなに「最も好きなイオンは何ですか?」と聞かれて答えたのがマグネシウムだった。そもそも私が腎臓内科を目指したのに彼女は影響しているわけだが、それだけでなく師のあとを追うように私もマグネシウムに何となく注目してきた(リンク1、リンク2、リンク3、リンク4、リンク5)。

 しかし、灯台下暗しで「なぜ重症の喘息にMgSO4静注が有効なのか(有効性についてはJAMA 1987 257 1076など)?」という問いに今まで答えようとしてこなかった。調べてみると、Mg2+はCa2+と競合するので、Mg2+を投与するとCa2+による平滑筋の収縮が抑えられ、その結果平滑筋の弛緩が起こると考えられているようだ(Indian J Anaesth 2007 51 225)。そして、premature laborを遅らせるためにMgSO4が投与されるのも同様の理由なようだ(NEJM 1984 310 1221)。

 さらに、Mg2+が肺でどのような機能を果たしているかについてまとめたであろう論文"Magnesium and the lungs"(Magnesium 1988 7 173)によれば、Mg2+は平滑筋収縮だけでなく肺血管収縮、マスト細胞顆粒放出、その他neurohumoral mediator releaseなど多彩に関わっているそうだ。このMagnesiumという雑誌、マニアックで興味深いがどうやら廃刊になったようだ。しかし、international society of the development of reseach on magnesiumが出すMagnesium Researchという雑誌はあり、学会も開かれている。



エビデンスと慣習

 総合診療科に在籍していると、非腎臓科医からの視点で質問を受けるので楽しい。先日は「内シャントの成長に手でゴムボールを握る運動は有効だというエビデンスはあるんですか?」と質問された。それは研修医の宿題になっていたのだが、研修医の先生から「先生、探したけど見つかりません」と相談された(これは正しい、わからないときは人に聞くのが一番だと以前に書いた)。
 こういう時が、上級医・専門医の腕の見せ所だ。それでGoogle Scholarに「AV fistula maturation hand exercise evidence」と入力していろいろ調べた。まずKIのレビュー(KI 2002 62 1109)がヒットして、こんな風に書いてある;
Patients are frequently encouraged to perform regular hand exercise to promote maturation of a new fistula. There is no published research confirming the efficacy of this maneuver. The only study addressing this question failed to demonstrate a significant increase in A-V fistula flow during hand exercise in 40 patients with renal failure.
 この参考文献(Angiology 1984 35 641)によれば運動をすると橈骨動脈の流量は上がるがシャントの流量に変化はなかったという。この論文は、患者さんがゴムボールに取り憑かれてしまうからやめたほうがよいと締めくくっている;
Therefore, we conclude that there is no benefit in advising uraemic patients to squeeze a rubber ball which, otherwise, supposes an unnecessary preoccupation for these patients.
 しかしやったほうがよいというスタディもいくつか出てきた。但し、いずれもシャントの流量ではなく静脈径の拡大をアウトカムにしている。一つ目(Am J Med Sci 2003 325 115)は「静脈のサイズが拡大したということは、おそらく血流量も増えており、内シャントの成長を早めるかもしれない」と控えめな結論、二つ目(ASAIO J 2003 49 554)は「運動すると静脈が開くので運動は引き続き推奨されるべきである」と強気の結論だ。
 それを受けてか、JASNのレビュー(JASN 2003 14 1669)は以下のようにやわらかにコメントしている;
Similarly, the widely recommended practice of hand exercises, such as squeezing a rubber ball at frequent intervals, confers no documented benefit. It will increase venous blood flow, however, and thus appears to be at least sound on physiologic grounds.
 運動でシャントの血流量が増えると断言しているが、根拠の参考文献はついていなかった。Google Scholarに「AV fistula blood flow hand exercise」と入れても見つからなかったし、教科書(Comprehensive Clinical Nephrology、Rector)にも載っていなかった。Handbook of dialysisには載ってるかもしれない。私はこの4版を買って失くしてそのままにしていたが、昨年12月に5版がでたので丁度良いから注文した。犬も当たれば棒に当たる。


2015/05/11

珊瑚状結石の悲劇

 珊瑚状結石は放置すると腎臓を破壊し、慢性腎臓病から末期腎不全に至る。尿路結石は、できてしまったものは泌尿器科で砕くか除去するかするにしても、本質的には腎臓内科の疾患で、石ができやすい組成の尿を治療する(水分摂取励行、塩分摂取制限、クエン酸摂取励行、マグネシウム摂取励行など)ストーン・クリニックも米国にはある。しかし珊瑚状結石(Staghorn calculi)については、内科的治療に限界がある。

 珊瑚状結石はその組成がmagnesium ammonium phosphate (struvite) and/or calcium carbonate apatiteだが、ureaseを産生する細菌で石自体が感染しているのと、尿pHがアルカリ性なため(後述するが尿pHを下げる良い薬がない)、一旦できてしまったら石も菌もごっそり完全に外科的に除去するのが治療の根幹だ(それでも再発するくらい厄介だ)。米国泌尿器科学会のガイドラインでは四つの治療法を紹介している。①経皮的切石術(percutaneous nephrolithotomy、PNL)単独、②PNLと超音波砕石術(shock-wave lithotripsy 、SWL)の併用、③SWL単独、④open surgeryだ。これらを試した文献をmeta-analyticalにまとめた成績は下図のようになる。




 以前はopen surgeryが行われていたようだが、侵襲が大きい(死亡率をまとめた良いデータはないが、ガイドラインのパネラー達は約1%と見積もっている)ので最近はほとんど行われないという。PNLが第一選択なようだ。SWLは、手術侵襲のリスクが大きい場合に行われるが、砕いた石が落ちないといけないので砕いたあと経皮的腎臓鏡で石をのぞくか、尿管ステントを留置して下に流すかしないといけない。Open surgeryもPNLも手術なので20%程度の例で輸血を必要とする。

 少なくとも米国泌尿器科学会のガイドラインは珊瑚状結石を放置することに対してこのようにコメントしている;

Nonsurgical treatment, that is, management with antibiotics, urease inhibitors, and other supportive measures only, is not considered a viable alternative except in those patients otherwise too ill to tolerate stone removal. A retrospective analysis of almost 200 patients with staghorn calculi suggested that renal deterioration occurred in 28% of patients with staghorn calculi who were treated "conservatively."

 ここにでてくるurease inhibitorsとはacetohydroxamic acidのことだ。この薬は尿pHを下げ(struviteはリン酸塩なので尿pHを下げるほうがいいのだ)尿アンモニア濃度を下げるけれど、静脈炎、深部静脈血栓症、溶血性貧血など副作用が多い薬なうえ、腎機能が悪い例では効果が少なく副作用が強く出てしまう(eMedicine®より)ので、ガイドラインには"may offer to patients with residual or recurrent struvite stones only after surgical options have been exhausted (Option; Evidence Strength Grade B)"と記載されている。

 というわけで、腎臓内科医は珊瑚状結石に対して無力である。泌尿器科の先生方に「このままでは徐々に腎機能が悪化するのは目に見えています、なんとかならないでしょうか」とお願いするしかない。それでも先生方が「外科的除去は技術的にリスク的に無理」とおっしゃったら、それまでだ。徐々に腎機能が悪化するのを指をくわえて見ているしかない。そういう例を見るのが、日本に来てから多い気がする(というか米国の5年間では一例も見なかった)のはなぜだろう。




2015/05/10

RDW

 ソウルの江南近く、地下鉄二号線の서초(瑞草)駅または三・七・九号線の고속버스터미널(高速バスターミナル)駅から歩けるところに가톨릭대학교(カトリック大学校)の성의교정(聖医キャンパス;교정は漢字で教庭?)がある。行ったことはないが、ここの腎臓内科医を筆頭著者とする論文がPLOS Oneにでて、透析患者において赤血球の大小不同の程度を示すRDWの拡大が死亡率と心血管系イベントに相関していると発表した(DOI:10.1371/journal.pone.0126272)。



 RDWといえば血算で必ず測られて、「レベルの高い先生が見ると色々分かるなんか良いらしいもの」というイメージだったが、RDWが高い(すなわち赤血球の大きさがバラバラ)人ほど心筋梗塞、脳梗塞などにかかりやすく死亡率も高いということはすでにスタディで示されており、今回の論文はそれを透析患者さん達(血液・腹膜どちらも)にも当てはまらないかと調べたものだ。ただ研究グループは、透析患者さん達は透析のたび失血したり鉄を静注されたりESAを打たれたりしてRDWがfluctuateするだろうと考えて、一点のデータではなくトレンドで見ることにして工夫した。

 結果、RDWが下がる群(上図破線)とRDWが上がる群(上図実線)では死亡率と心血管系イベントにくっきりした差がみられた。赤血球の大きさが揃ってくる人とバラバラになっていくような人では後者のほうがunhealthyな感じがするから結果には驚かないが、問題はそのメカニズムと臨床的意義だ。この論文の分析ではRDWが高くなるほどCRPが高くなりHgbと鉄が低くなる関係が見られた(フェリチンは変わらなかった)ことから、筆者達は慢性炎症と鉄利用障害の関与を推測している。

 臨床的意義に関しては、RDWのトレンドを追いかけるというのは結構手間なのと、上がり幅・下がり幅のregression coefficientが小さい(大前提に筆者達も透析患者さん達はRDWがfluctuateすると認めている)ので、「この患者さんではRDWが1年の間にアップダウンしながら少しずつ上がっているな」といって心血管系イベントにエクストラに注意するというような診療にはつながりにくいような気がしている。しかしCBCで毎回測っているわけだから、これからはもう少し注目してみようと思った。


[2018年11月追加]あれから、昨年台湾から腹膜透析(Sci Rep 2017 7 45632)、今年に日本の血液透析(やはりPlosOne、doi.org/10.1371/journal.pone.0198825)でRDWのデータが出た。これから日本でも、RDWが流行るかもしれない(下図の『TT』は、韓国・台湾・日本のメンバーからなるTWICEによる2016年リリースの曲名)。



2015/05/08

DECS study(aka cautiously optimistic)

 心臓手術とAKIは切っても切れない関係にあって、私も腎臓内科フェローだったころは毎日外科ICUに通って心臓手術後の患者さんを診ていた(し、それについても色々書いてきた;リンクはこちらとこちらとこちら)。そして今日、DECSスタディに出会った(doi:10.1681/ASN.2014080840)。これはCPB(cardiopulmonary bypass;人工心肺)使用の心臓手術例を対象にしているが、心臓手術後のAKIは炎症が機序に関わっているという仮説でdexamethasoneの術中大量療法(1mg/kg)を行ったものだ。いままでも小さなスタディはあり、これらを合わせたメタアナリシス(Artif Organs 2014 38 101)ではステロイドの効果は否定されたが、それでもあきらめずに今回欧米の多施設が大量療法を4465人のCKD患者(eGFRが60ml/min未満)を対象に行った。結果、RRT(renal replacement therapy;透析)を必要とした患者さんと入院中に亡くなった患者さんはステロイド群でプラセボ群に比して有意に低かった。とくに差が出たのはeGFRが15ml/min未満の群であったという。RRTの適応は固まったものがない(ということは各施設の腎臓内科医、心臓外科医、外科ICU医の合議で決まったということ)ので曖昧な点は残るが、心臓手術におけるAKIはすさまじいmortality risk factorなので、それを減らせる介入手段がひとつ増えるかもしれないと思うと楽しみだ。ちなみにこういう態度を英語でcautiously optimisticという。


ドナーの健康

 移植を受けたい人と、臓器をあげたい人と、移植をしたい施設さえあれば理論上は生体臓器移植が成立するわけだが、その移植医療の質を担保し向上させる仕組みは日本にあるのだろうか。米国のUNOS(united network of organ sharing)はSRTR(scientific registry of transplant recipient)などで各施設ごとや地域ごとのパフォーマンスを公表したり、データ解析の研究を行い質の向上を目指している。国がやっているOPTN(organ procurement and transplantation network)のデータも公開・解析されている(尤も、これらのデータは雑多で、randomizationがなく、後向きなものになってしまうのは否めないが)。
 日本でUNOSにあたるのは臓器移植ネットワークにあたるのだろう。臓器移植ネットワークのウェブサイトに行ってみると、公表されているデータは件数や登録者数に留まっている印象だ。それで日本移植学会のウェブサイトに行ってみると、学会がファクトブックを毎年だしてくれており、そこには日本全体での成績が公表されていた。それによれば日本の移植成績は世界一だそうだ。これは素晴らしいことだが、おそらくまだ移植の件数が少ないので、質の高い臓器をリスクの低いレシピエントに丁寧に移植して、極め細やかにフォローできていることが要因として最も考えられる。
 世界に冠たる日本の移植医療だが、そのほとんどが生体臓器移植であるからには、ドナーの成績も世界一であってほしい。米国にいた頃は「ドナーには手術侵襲以外のいかなる健康上の悪影響もあってはならない」というルールがかなり厳しく守られている印象で、健康エリートみたいな人からしか移植ができなかった。それでか、生体腎ドナーはgeneral populationに比して同等あるいはより長生きし、末期腎不全になるリスクも変わらない(eGFRは移植前の70%程度にさがるが)。ただし血圧は少し高くなり(以前に変わらないというデータを紹介したが、メタアナリシスによればやはり上がるらしい;Ann Int Med 2006 145 185)、African AmericanとHispanicではとくにそう(NEJM 2010 363 724)というデータが出ている。日本はどうなのだろう。
 そんなことを、今日の腎臓関連ニュースレターの論文(Am J Nephrol 2015 41 231)に触れて考えた。論文自体は、生体腎移植ドナーは痛風のリスクはmatched control群と変わらなかったが、痛風を起こしたドナーはAKIやCKDを有意に多く発症していたというもの。また、ドナーで痛風を起こしやすいリスク因子はAfrican American、男性、高齢など(これらはgeneral populationのそれと同じだろうが)だった。痛風や無症候性高尿酸血症とCKDの相関はどちらが卵でどちらが鶏か分からない、みたいな話を以前に書いたが、いまは無症候性高尿酸血症も治療する流れだし、痛風は痛いし、痛風発作の高リスク群ドナーではとくに尿酸をコントロールしたほうがよさそうだ。