2015/05/30

遠位ネフロンの遺伝子異常

 昨日の投稿でpseudohypoaldosteronism type 1について触れたが、このへんは混乱しやすい(というか初稿で間違えてGordon症候群とか書いてしまった…Gordonは今はFHHとも言われるけど昔はpseudohypoaldosteronism type 2とmisnomerがついていたので;訂正してお詫びします)ので、この際だから遠位尿細管の遺伝子異常とそれが起こす症候群をまとめた表(米国時代に作って米国腎臓内科フェローたちが学びを共有するウェブサイトに載せたもの;クリックすると拡大します)を貼っておく。日進月歩についていくのも大変だが、学んだ知識をretainするのも大変だ。時々振り返らなければならない。



2015/05/29

すごい時代(aka 持つべきものは優秀なお友達)

 ワクチンは希望を感じさせる。打てば病気に罹らないなんて、そんなによい話はない。Jonas Salk先生がピッツバーグ大学時代(おお…なつかしのピッツバーグ…)にポリオワクチンの開発に成功して、大統領まで罹ったポリオはほぼ撲滅された。そして彼はこのワクチンに特許を取らなかった(特許をなぜ取らないのかと聞かれて"There is no patent. Could you patent the sun?"と答えた)のは余りにも有名だ。そして21世紀には高血圧や高脂血症など感染症以外の疾患に対する疾患のJonas Salkが生まれるかもしれない。まず高血圧の論文にであった(doi: 10.1161/HYPERTENSIONAHA.114.04534)。

 ワクチン技術も現在は進化して、第三世代のDNAワクチンというのがあるそうだ。標的タンパクのDNAをプラスミドに組み込んで細胞にtransfectさせ増殖させ精製したもので、WNVワクチンなどに応用されているそうだが、DNAワクチンを打つとプラスミドが宿主細胞に取り込まれ、細胞内のmachinaryを用いて標的タンパクが転写→翻訳される。タンパクワクチンは分解されるのに対し、DNAワクチンは細胞内に取り込まれるので効果が持続すると考えられている。

 このグループは、高血圧をワクチンで治せれば降圧薬を飲まなくても良くなるし、発展途上国など医療にかけるお金のない国にとっても救いになると考えた。こういう視野で研究する人たちもいるんだなあと、その思いつきに感心する。そして、試行錯誤のバイオエンジニアリングの末にアンジオテンシンII(humanかratかmouseかは分からないが;そもそもこれらの種間でアミノ酸配列は違うのかな)とB型肝炎抗原の融合タンパクをコードするDNAワクチンを精製した。

 B型肝炎抗原が強い免疫反応を惹起するため、このワクチンを打たれた高血圧ラット(しかも注射針を使わないneedless jet injectorという技術でプシュっとするだけなので痛くないそうだ。ワクチン業界では常識なのかもしれないが、こんな些細な技術にもちょっと感心する)のなかではアンジオテンシンIIとB型肝炎抗原の融合タンパクに対する抗体が作られ、その間(6ヶ月;ラットの寿命は2-3年だそうだ)は降圧と血管ダメージの緩和がみられた。

 ただRAA系は神が与えた体液保存の最重要軸なので、それを不可逆的にブロックしてしまうのは心配だ(pseudohypoaldosteronism type 1みたいになってしまうかもしれない)。血圧が下がりすぎたら塩を飲んだり昇圧剤を使ったりするのだろうか…等、よくよく考えると実臨床で高血圧をワクチンで治療するというのは想像ができない。敢えて言うなら利尿剤を含む三種類の降圧剤をmax doseで使ってもコントロールできないような難治高血圧に使えるのだろうか…でもそのなかにRAA系ブロッカーがすでに入っていたらワクチンは追加の効果はないかもしれないし、そういうケースにしか使えないのでは「お金のない人が薬を飲まなくても良くなるかもしれない」という希望から遠ざかってしまう…。でもnever say never、未来は明るく誰にも開かれている。これからの進展を注視したい。

 というのも、高脂血症のほうはすでに実用化に向けた治験ODYSSEY LONG TERM studyが行われているからだ(NEJM 2015 372 1489;筆頭著者はなつかしのアイオワ大学…)←なんて偉そうに書いているが米国のお友達が送ってくれて今日知った;やっぱり研究をされた先生は何でもよく知っていて論文も批判的に読んで凄いなあと感心する、持つべきものは優秀なお友達だ。さて、ここで試されているalirocumabはワクチンではなくproporotein convertase subtilisin-kexin type 9(PCSK9)に対するモノクローナル抗体で、PCSK9をブロックするとLDL受容体の破壊が防がれ細胞表面にLDL受容体が溢れLDLが血中から細胞に入るのでLDL値が下がるらしい。

 で、その効果をlarge RCTで見たところ、まあNEJMに載るくらいだから結果は明らかでコレステロールが下がり心血管系イベントが減った。なわけだが、モノクローナル抗体なので打ちまくらなければならない(薬屋は大喜びだが)ことと、LDLは「いいのか?」と言うくらい激下がりすることと、神経認知機能障害とか眼障害とか気味の悪い副作用が有意に多いことなど注意も必要だ。ただ家族性高脂血症が被験者の2割程度おり、こういう人たちはしっかり下げてあげないと心血管系イベントは必発だし、スタチンも肝障害とか筋障害とかいろいろ使いにくい薬ではあるので、そういう人たちには適応があるのかもしれない。

 ワクチンだのモノクローナル抗体だの、主にリウマチ内科や感染症科や腫瘍内科領域のお話かと思っていた(もちろんそこと腎臓内科はoverlapしているけど)が、高血圧だの高脂血症だのにまで応用されているなんて、本当にすごい時代が来たなと思う。医学は日進月歩だからそれについていかなければならないが、正直ついていけるか不安になる。まあたぶん独りでは無理で、幅広く仲間を頼っていくことが一層重要になるのだろう。腎臓内科というcerebralな科(手技は余りしない代わりに、膨大な知識と臨床的な慧眼と卓越したデータ解析能力によって問題解決を図る科)を選んだから、この道を自信を持って一歩一歩歩いていこう。



2015/05/27

Citra-K®

 いまの職場はJournal Club(のことをEBMレクチャと命名しているが)があって、論文の批判的吟味が定式化されているので研修医が堂々と発表していて凄いなあと思う。今回はクエン酸カリウムが尿路結石の再発予防に有効化かというトルコのRCTを取り上げていた(J Endourology 2002 16 149;日米ガイドラインどちらもこの論文に依拠しているそうだ)。Randomized open-label prospective studyのper protocol analysisで研究としての質は高くないが、「クエン酸=Ca結石のinhibitor」というのは自明だと思われているから、意外とちゃんとスタディしたものを探そうとするとここまで遡らなければならなかったりする(もう少し最近だとタイのRCTがある;Int Braz J Urol 2011 37 611、メタアナリシスはAnn Intern Med 2013 158 535)。NNTが3-4人だから、結構いい数字だ。
 米国だと低クエン酸尿を確認して処方することもできるが、日本では尿クエン酸濃度を提出するのも一苦労(24時間蓄尿はできなかったような…不確かな記憶だが)だし保険で切られるという話だ。クエン酸カリウム(Citra-K®)の代わりにウラリット®があるが、これは名前の通り(urate + lytics)尿酸結石を主に考えられた薬なので保険適応は①高尿酸血症時の酸性尿と②アシドーシス(アバウトすぎるだろ)だ。ただ「酸性尿」と尿pHに着目している点はお洒落で、尿定性で毎回測られているのに無視されがちな尿pHがこれを機会にうちの職場で日の目を見ればいいとおもう。ただCitra-Kと違い、ウラリットは高K血症を怖がってクエン酸Naとクエン酸Kが混ぜてある(のでNa負荷になり、その面では理論上結石予防にマイナスだ)。味は酸っぱいらしい。


2015/05/25

Fenoldopam for hypertensive crisis?

 悪性高血圧になれば、腎はTMAを起こして壊れるので潜血も蛋白尿も出る。FenoldopamはD1 agonistだが、こういうときに降圧剤として使うと腎保護機能があるとまことしやかに言われている。しかしUpToDateに根拠が載っていないし(こういうの、本当にやめてほしい…)、Google Scholarで調べても悪性高血圧におけるこの薬の有益性をしめす文献が出てこない(心臓手術後のAKI予防を意図してplaceboと比較したRCTでその効果が否定されたのはでてきたが;JAMA 2014 312 2244、あと造影剤腎症予防に効果がなかったというのも)。



Psychonephrology 2

 ESRDと認知機能については以前に講演を聴いてここに書いたが、認知機能の障害が進行している患者さんについては、家族と透析のwithdrawalについて議論すべきである、高齢でfailure to thriveに陥った透析患者さんで透析を止めることは珍しいことではない、とHandbook of Dialysisにある(この私の手元に届いた第5版はinternational editionと銘打っているから、そう考えるのが妥当というのが国際的に認知されているということなのだろう)。

 というか、そもそも患者さんに意志決定能力があるうちにRRTに関してよく話し合い、shared decision-makingとしてのadvanced directiveを取るべきだ。これについてはRenal Physicians Associationsが出しているガイドライン(recommendation;第二版、2010年)が役に立つ。この冊子は九つのrecommendationを出しており、それぞれ;


  1. AKI、CKD4、CKD5、ESRD患者においてshared decision-makingが取れるような医師患者関係を築く
  2. AKI、CKD4、CKD5、ESRD患者において診断、予後、治療選択肢を十分に説明する
  3. AKI、CKD4、CKD5、ESRD患者において予後の見立てを伝える(surprise questionなどが役立つ;surprise questionとは「この患者さんが12ヵ月後にも存命していたら私は驚くか?」というもの)
  4. Advanced care planningを作る;全ての透析患者においてadvanced directivesないしphysician orders for life-sustaining treatment (POLST)を取る
  5. 本人の現在の意思が確実な場合、現在は意思決定能力がないが過去に明確な意思を示している場合、指名された代理人がしないといっている場合、重度の不可逆な意識障害がある場合は透析治療をforegoする
  6. 透析治療を安全に行えない(認知障害でチューブを抜く)、腎以外の疾患で予後が規定されている、75歳のCKD5患者でsurprise questionがyes・comorbidityスコアが高い・functional statusが低い(Karnofsky Score 40未満)・Alb 2.5g/dl未満の二つ以上が当てはまる場合はforegoを健闘する
  7. 話し合って結論が出ない場合や予後予測がつかない場合などは、time-limited trialを考慮する
  8. 話し合いで考えの相違がある場合、システミックな段階を経てその解消を図る
  9. 病気になったことによる重荷に悩むすべてのAKI、CKD、ESRD患者に対して緩和ケアを提供する


 だ。実際には私は「透析は絶対に嫌だ」といっていたCKD患者さんがいざ透析が必要になったときにforgoしたのを見たことがない(腎以外の疾患が予後を規定する患者さんがforgoするのは経験したことがあるが、透析室に来なくなったので最期を見届けることは出来なかった)。しかし、十分に話し合いを尽くして透析導入をしているかと言われると、正直分からない。しかも、いまは日本という透析患者さんが世界一長生きする国(かつ個人のなかでもとくに高齢者の意志決定に家族が大きく関わる国)にいるので、事情が違うのかもしれない。



Psychonephrology 1

 渡米前の短い腎臓内科経験で得た教訓のひとつは、治せない慢性疾患の多い腎臓内科においては患者さんの心理精神面のケアが大事だということだ、と2007年に書いてからはや8年が過ぎた。その間、末期腎不全患者さんのうつ病スクリーニングを一回でもしたかと言われると、してこなかった。幸い私が担当した患者さんが自殺することはなかったが、運が良かっただけである。
 末期腎不全患者さんは多彩な心理精神的なストレッサーにさらされる。疾患そのもの、治療によるもの、機能の低下、性機能不全、食事制限、死の恐怖、結婚問題、家族や医療者とのしがらみ、治療費の心配、雇用の不安など、あげれば切りがない。今日届いたHandbook of Dialysis 5th edition(2014年刊)によれば末期腎不全の入院患者の約10%に基礎精神疾患があるといわれているが、実際はもっと多いだろう。
 まず話をうつ病から始めるが、うつ病が有病率が高いのにその一部しか治療を受けていない、そしてうつ病で自殺する患者さんの多くがその前1ヶ月以内に医療機関を受診している、というのはgeneral populationでも同じである(Ann Intern Med 2010 152 ITC5-1)。うつ病について尋ねることを「パンドラの箱を開ける」ように感じる医療者がまだ多い。
 末期腎不全患者さんがうつ病になると透析に来なくなったり薬を飲まなくなったり自殺リスクが上がったりする。免疫能が低下したり、食事を取らなくなり栄養状態が悪化したりもする。末期腎不全患者さんにおける自殺率はgeneral populationより当然高い。リスク因子は精神疾患の既往、75歳以上、男性、白人、アジア系、アルコール・薬物依存などだ。
 そもそも末期腎不全患者さんは、透析をやめたら一週間程度で死んでしまう(以前どこかで、数日から数週間まで幅があるがmeanは8日と読んだが、その文献を忘れてしまった…米国腎臓財団、米国大手透析クリニックDaVitaなどが患者さん向けにだしている「透析をやめることについて」という良心的なパンフレットには1-2週間とかいてある;ICUでRRTのみが生命維持治療の場合は止めると数日で死んでしまうとは、NEJM 2014 370 2506で読んだが)。
 透析を自分の意志でやめたいならそれの意思は尊重されるべきだが、うつ病でやめたい人がやめたらそれはpreventable deathだ。スクリーニングしなければならない。しかし、血液透析なら週3回(米国は週1回)、腹膜透析なら月1回も濃密にフォローしているものの、透析室にはプライバシーがないことなどもあり話しにくい。
 Handbook of DialysisはBeck Depression Inventoryというツールで14点以上をカットオフにすべきと言っているが、これは21個もの質問からなる…透析回診でできることじゃない。臨床心理士さんに何ヶ月かに1回、介入してもらうのが現実的だろう。その場合、透析につながれた状態ではなく(それだけでもdepressingだから)、できれば非透析日に個室でするのがいいと思う。
 さて末期腎不全患者さんのうつをどう治療するか。TCAは不整脈死と過量服薬死のリスクがあるのでできれば避けたい。SSRIは肝代謝だが蛋白結合率が高く、通常量の2/3で開始することが一般に推奨されている。4-6週間たって効果がなければ他の薬に変えるのがよいとある。SNRI(venlafaxineなど)、DNRI(bupropione)は腎排泄なので蓄積しないよう注意が必要だ。Bupropioneは代謝産物の蓄積でけいれんを起こすことがある。
 精神療法(認知行動療法、対面の対話、傾聴、グループの治療など)も効果があるとされる。透析患者であるということからくる感情や、その他の不快な感情をシャットアウトするためにdenialになる患者さんも少なくなく、それが透析拒否などにつながっていることもある。Denialに対して精神療法がきくこともあるし、きかないこともある。ストレスマネジメント療法、サポート療法+薬物療法、グループ治療などさまざまに試され一定の効果を挙げている。ECTは最後の手段だ。




Anti-AQP4 IgG

 NMO(neuromyelitis optica)で陽性の自己抗体がAQP4をターゲットにしているということが分かるにつれ、この抗体が陽性な疾患群をNMO spectrum disorderと呼ぶようになったそうだ(たとえばAsian optic spinal multiple sclerosisなど)。NMOは自己免疫疾患に続発することが多く、典型的には視神経と脊髄の脱髄(ただし広汎に中枢神経系の脱髄を起こすこともある)と浮腫・壊死、好中球・好酸球優位の浸潤、病変部細胞表面のAQP4消失などを特徴とする(Nat Clin Pract Neuro 2008 4 202)。

 抗AQP4-IgGは、脳血管バリアを越えてAQP4を攻撃しているらしく、抗体価と病勢が相関することがわかっているが、なぜ中枢神経系の、それも視神経と脊髄にあるAQP4を好んで標的にするのかは分かっていない(腎臓においてもAQP4は集合管の間質側に表出している;Physiol Rev 2002 82 205)。

 いずれにせよ抗AQP4-IgGないしそれを産生するB細胞を対象にした治療が行われ(Nat Rev Neuro 2010 6 383)、ステロイドパルス±血漿交換(重症例、不応例に;比較スタディがArch Ophthalmol 2012 130 858;血漿交換追加群で視力がより回復した←以前書いた血漿交換適応疾患リストには載っていないが)。しかし再発する経過を取ることが多く、予防にはAZA+RTX+MMFが慣習的に行われるそうだが、RTX単剤も試されているようだ。