2018/11/30

ACE inhibitorが癌の増加に寄与??

 高血圧患者の割合は多く、高血圧に対して降圧薬の内服をしている人も非常に多い。

 また、高血圧の基準に関しては近年変遷が大きい。これに関しては以前に書いている。

 日本でも2019年度に高血圧治療ガイドラインも刊行が予定されている。

 高血圧の基準値に関しては、現在、ACC(米国心臓協会)の高血圧ガイドラインでは、130/80mmHgに引き下げられている。

 本邦では現時点では、高血圧基準を140/90mmHgとし合併症がない75歳未満の降圧目標を130/80mmHg未満に引き下げる方向となっている。これは、最新の本邦のガイドラインが刊行されてみないとわからない。

 その降圧目標を達成するために、降圧薬もいろいろな種類が使用されている。

 下図はNDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)のデータである。




 割合としては、ARBが多いが、タナトリルやレニベースなどのACE阻害薬(ACE-I)も処方としては多い。

 今回は、このACE-Iが癌の増加に寄与しているのでは?という報告があったのでみてみよう。

 この報告の前までは、メタアナリシスではARBの使用やACE-Iの使用で全般的な癌関連死の増加との関連はないことが示されていた(LANCET oncol 2011)。

 今回の報告は、英国の100万人近いデータのコホート研究でACE-IかARB使用で、癌、特に肺癌との関連はどうなのか?というのを見ている(BMJ 2018)。

 細かい部分は論文を読んでいただきたいが、結論としてはACE-Iでは肺癌の発生率が増加し、また内服期間が延長すればするほど肺癌の発生率が上昇するといったものであった。

 これだけ聞いてしまうと、ACE-Iは肺癌の可能性が上がるから使用しない方がいいのか?と思ってしまう。

 この論文に関しては、早速Rapid responseが寄せられており、ACE-Iの肺癌リスクは少ないと言っている。もちろん肺癌の最大リスクは喫煙である。

 この報告で注意すべきこととしては、交絡や発見バイアスなどが含まれていることである。この場合の発見バイアスは

ACE-Iの使用 → 副作用の咳嗽 → 咳嗽の検査のために肺のレントゲン検査 →肺癌の発見率上昇

 が考えられる。

 この結果は、もちろん交絡因子の除外やバイアスの除外の点などからも前向き研究での検討が待たれる。

 ACE-IはARBに比してコストパフォーマンスはいい。コストの面、リスクの面色々な面を見て患者に適応していければいいと思う。

 
 是非、Twitterもフォローしてください!

 https://twitter.com/Kiseki_jinzo





2018/11/29

「じん」をめぐる冒険

 このところ、投稿の最後にTwitterのことが書いてあるので、もうサイト(https://twitter.com/Kiseki_jinzo)に行ってくださった方もいらっしゃるかも知れない。そして、下図のプロフィール写真にも目を留めてくださったかもしれない。




 これはもちろん、「今年の漢字」のパロディだ。いつかはこんな日が・・と、私はずっと「キセキ」に期待している。腎臓病の治癒ができたら、あるいは、新しい人工腎臓ができたら、叶うかな。しかし今年の応募期間は12月5日までだから、まだ「腎」にもチャンスはある。12月12日の京都・清水寺での発表が待ち遠しい。

 そんなわけで、きょうはこの「腎」という言葉について考えてみたい。まずは、空港でのこんな会話スキットに注目してみよう。




入国審査官「あなたは何をしていますか?」

私「医師です」

入国審査官「専門は?」

私「Nephrologistです」

入国審査官「え、何?」

 
 腎臓内科・腎臓病・腎不全は日本語ではすべて「腎」だが、英語だとそれぞれネフロ(nephro)・キドニー(kidney)・リーナル(renal) と異なる。そしてネフロはギリシャ語、リーナルはラテン語だから、一般には通じにくい(リーナルは、フランス・スペインなどのラテン語圏なら通じるかもしれないが)。

 それで、さきほどのスキットでは「キドニー・ドクターです」と言ったほうが通じやすい。中期英語でよりアングロサクソンな「キドニー」は、豆の名前にもなるくらい誰でも知っているからだ。CRF(chronic renal failure)をCKD(chronic kidney disease)にした米国腎臓財団タスクフォースK/DOQIの2002年宣言にも、名称変更の理由にその旨が明記されている。




 つぎに、「腎」という漢字についてはどうか。左上の臣は「目を見開いた」、転じて「従う・家来」の意味があり、右上の又は「手」の意味がある。そしてこの二つが合わさると、「かたい・しっかりした」という意味になるそうだ。神のしもべの瞳を傷つけ身体を硬くする、家臣がひざまずいて身体を固くするなど諸説ある。

 だから「腎」は、「かたい・しっかりした臓器」ということだ。たしかに、かたい。そして、しっかりしている。余談だが「腎」の「にくづき」を「貝」にした「賢」も同様に、「しっかりした通貨・宝を持っている」から「かしこい」の意味になったという。

 ここまできたから、韓国語と和語についても触れておく。韓国語では、「腎臓」のハングル読み신장(シンジャン)も用いるが、より一般に使うのは콩팥(コンパッ)で、콩は「まめ」、팥は「あずき」だ(あずきカキ氷として日本でもお馴染みなパッピンスの「パッ」)。




 そして和語は、「むらと」だ。平安中期に編纂された辞書「倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)」に記載があるらしい。おそらく、身体の各部について説明した形體部だろう。解釈によれば「むら」は「まわる」、「と」は「ところ」に通じ、あわせて「循環するところ」という意味だそうだ。

 循環する臓器はたくさんあるが、腎臓を「むらと」と名づけた先祖はすごい。

 話はめぐってめぐりますが、最初のとおり、Twitterともども今後ともよろしくお願い申し上げます。

https://twitter.com/Kiseki_jinzo



2018/11/28

心臓が悪い人は腎臓も悪いのか??〜後編〜

 前回の投稿の続きで

◆この人にとってベストな治療はどうだろうか?について考えてみる。

 つまり、HFrEFとCKDを有する人に対しての治療である。

 ・治療目標:

 これは、症状の改善、機能の改善(心臓や腎臓の)、入院回数の減少などの生活の質(QOL)の向上、死亡率の改善であろう。

 ・治療としては、どんな方法があるのか?

 まず、HFrEFの治療として・・・ESC ( European Society of Cardiology)のガイドラインでは、ACE inhibitor、β blockerは耐えうるEBMで確立された最大投与量がFirst Lineの治療となる(下図に日本語のものを添付)。

 その後、症状残存しEFが35%以下ならばミネラルコルチコイド阻害薬を投与する。これも耐えうるEBMで確立された最大投与量が推奨されている。

 これでも、改善がない場合には本邦での発売は2018年12月現在未ではあるが、イバブラジンやARNI (Angiotensin Receptor Neprilysin inhibitor)を考慮する。

 それでも、難しい場合はジゴキシンやH-ISDN (Hydralazine and isosorbide dinitrate)やLVAD (左室補助装置)や心臓移植を考慮する必要がある。




では、CKDが加わった場合にはどうか??

 やはり薬がCKDに対してどれだけ影響を与えうるかは考える必要がある。

 ・ACE inhibitor、ARB

 これは我々が最も使用する薬の一つであると同時に悩ましい薬ではないだろうか?少なくとも私にとっては悩ましい薬である。

 では、CKDを有する心不全患者に対しての使用はどうであろうか?

 まず少し先行研究を振り返る。

 – 1987年にNEJMからCONSENSUS Trialが提唱された。

 これは、重症心不全に対して従来治療にenalapril(ACE阻害薬)を加えると全死亡はどうなるかを見た研究であるが、この結果でACE阻害薬の有用性が認められた(NYHA分類や心臓サイズの減少)。

 この際の腎機能としては平均で血清Cre 1.5mg/dL程度であったが、1.7~3.4mg/dLはハイリスク群として投与量を2.5mg/dayより開始し漸増する方法を用いた(通常は10mg/dayより漸増)。

 – 2001年にNEJMからVal-HeFT trialが提唱された。

 これは、慢性心不全治療に従来治療にvalsartan(ARB)を追加した場合の死亡率、合併症発生率などを見たものである。

 この研究は、ARBを従来治療(ACE-I, β遮断薬, 利尿薬, ジゴキシン)に加えた際に、死亡率や合併症発生は減少したが、ARB+ACE-I+β遮断薬の併用じは死亡率および合併症に有害な結果が出ていることがpost hoc analysisから分かっている。

 この研究では、血清Cre >2.5mg/dLは除外されている。

 CKD stage4以降の患者対象での研究がほとんどないため、結論づけは難しいがCKD stage3までのHFrEFの患者ではACE-Iの使用は効果を考えると使用はやむを得ないと考える。

・β遮断薬

 では、β遮断薬についてはどうであろうか?

 これも少し先行研究を振り返る。

 –1999年にLANCETからでたMERIT-HF trialをまずは話す。

 HFrEFに対してmetoprolol投与で全死亡や全入院の推移を見たものである。

 結論としては、死亡率、突然死、入院の低下、NYHA心機能分類の改善に寄与した。
この研究では、腎疾患での除外を行っていなかったためpost hoc analysisで、eGFR<45mL/min/1.73m2の患者群で見た時に、eGFR>60の患者群よりも死亡率の低下に寄与したと報告されている。

 なので、進行したCKDでもβ遮断薬の使用は有用である。

 これと同様の結果は、高齢者を見たSENIORS trialCIBIS-Ⅱなどでも示されている。

 ただ、すべてのβ遮断薬がいいというわけではなく、アテノロール、ナドロール、ソタロールなどの腎排泄性のものに関しては、高度腎不全の際には使用を控えることが推奨される。

 腎臓と心臓に関して少し見ていけたかと思う。

 また、もしミネラルコルチコイドについてなどやARNに関して、またACE-Iを途中でや得た場合どうなるのか?などの希望があれば書きたいなとおもう。

 もし、希望があれば是非Twitterのフォローとツイートをお願いします。

 https://twitter.com/Kiseki_jinzo







2018/11/26

どうするDKD

 61才女性、糖尿病の既往あり(HgbA1cは7.2%)。かかりつけ医の血液検査で47ml/min/1.73m2のeGFR低下を指摘され、みずから予約して腎臓内科を受診。ARB内服中、アルブミン尿は30mg/日未満。




Q:(潜血・網膜症の有無にかかわらず)腎生検しますか?

 
 上の例は、日本糖尿病学会・日本腎臓学会が2014年に発表した腎症ステージ(下図)のピンク、1期に該当する。両学会はこれを「腎症早期」とも呼んでいるが、これが本当に早期なのかは、議論のあるところだ。




 第一に、2期・3期と進行していく(上図で右に向かう)のか分からない。DKDと言う言葉が出てきた時にも紹介したが、1型糖尿病とちがって2型は従来の腎症モデルがあてはまらないかもしれない。蛋白尿が増えずに4・5期に至る(上図で下に向かう)例もあるかもしれない。

 あるいは、ずっと1期のままかもしれない。大規模CKDコホートCRICでこの群(正確にはeGFRが20以上なので、上図で1期の真下まで含む)を6年余り追跡したところ、eGFRの低下は年にマイナス0.17ml/min/1.73m2で、末期腎不全に至ったのは5%だった(AJKD 2018 72 653、下図はGFR50%以上低下・末期腎不全をあわせた累積ハザード)。




 第二には、「糖尿病患者の蛋白尿のないeGFR低下」は、糖尿病性腎症でないかもしれない。腎硬化症、軽度のIgA腎症なども混じっているかもしれない。

 それで、冒頭の「腎生検しますか?」という問いが出てくる。やってもやらなくても予後が変わらないのなら、生検リスクを重く考えて見送る施設が多いかも知れない。しかし、病態解明には生検したほうがいいのかもしれない。尿細管病変中心とか(蛋白尿と尿細管といえば治験薬バルドキソロンも思い出されるが、こちら)、いろいろ情報が得られるかもしれない。

 ただでさえ糖尿病性腎症は「やっても治療が変わらない」と腎生検が避けられる傾向にあり、腎病理分類が確立したのもごく最近のことだ(JASN 2010 21 556、糸球体病変の診断フローは下図)。それからも、「8例生検しました」という報告で論文にできるほど(Diabetes Care 2013 36 3620)。




 そんなわけで、まだ「糖尿病患者の蛋白尿のないeGFR低下」を表す言葉は、正式に決まっていない。ただ、それを包含する考え方としてDKDが生まれたからには、NP-DKD(non-proteinuric diabetic kidney disease)、NA-DKD(normoalbuminuric diabetic kidney disease)など、DKDに関連した派生語になるかもしれない。

 この群を病態解明のために積極的に生検すべきか?腎予後の極めてよい群であり不要なリスクは避けるべきか?

 これが「がん」なら、早期癌でも前がん病変でも癌のように見える正常組織でも、比較的迷わず生検されるかもしれない。心血管死や腎不全はがんとは少し違うが、議論のポイントとしては似ている。患者さんもまじえて議論すべき、難しい問題だ。



2018/11/23

シカゴおみやげ

 例年春と秋は学会シーズンだが、シカゴはこの時期に多数の学会誘致に成功している(もう寒いにもかかわらず・・私の留学していた夏はこんな感じだが)。本土の真ん中にあってみんなが参加しやすいのかもしれない。




 そのひとつがAHA(米国心臓協会)で、私は参加していないがこんなニュースがメールボックスに入ってきた。 

Cardiac Remodeling Following Ligation of Arteriovenous Fistula in Stable Renal Transplant Recipients: a Randomised Controlled Study. Abstract 19322

 発表は著者がインタビューを受けるくらい(リンク内にYouTube動画あり)だから、かなり注目されたのだろう。

 これは、腎移植後1年が経過し、安定したグラフト機能があって、もう透析することはないと見込まれるのなら、「保険」としてシャントを残すメリットよりも、心負荷のデメリットのほうが大きいんじゃないですか?という問いに答えるスタディだ。
 
 約30例ずつのランダム化で結紮群と非結紮群をくらべたところ、6ヵ月後に結紮群で心MRI上左室筋肉量がマイナス11g/m2と有意に減少した。左室筋肉量は心血管死の代理マーカーとして確立しており、これは相当インパクトのある数字だ。ほかにも、左房容積がさがる(心房細動になりにくい)、ANP・BNPなどの心筋ホルモン値の低下などがみられた。

 そうはいっても、移植患者さんのシャントを閉じるというのは相当覚悟のいることで、(シャント感染など他の理由がない限り)まずやらない。この発表が大きく取り上げられたのも、そのためである。

 移植業界は施設間で診療の差が大きいが、このオーストラリア発のパイロットスタディから、グラフト生着率のよい時代にあわせ移植医療がかわっていくかもしれない(下図は英エコノミスト誌2018年10月27日付のオーストラリア特集号)。






2018/11/22

心臓が悪い人は腎臓も悪いのか?? 〜前編〜

 腎臓の増悪を腎臓内科としては防ぐことが重要である。

 腎臓が悪くなる原因に色々とあるが、心臓が悪いというのは一つ大きな原因として見かける。

 今回は、慢性腎不全(CKD: Chronic Kidney Disease)と心機能が低下している人について考えてみる。

 ある症例を見てみよう。

 もともと慢性腎臓病で腎臓内科外来に通院していた80歳男性。この男性は、高血圧と心筋梗塞の既往があり循環器内科にも通院している。心臓に関しては収縮機能の低下した心不全(HFrEF: Heart Failure with reduced Ejection Fraction)として管理されている。内服薬はアスピリン、βブロッカー、ループ利尿薬、スタチン、ARBを内服している。バイタルは、血圧:118/70mmHg、心拍数:62回/分、呼吸数:16回/分。身体所見上は軽度のpitting edemaを下肢にに認めるが、JVPの上昇などは認めていない。生活の中では、悪い時にはNYHA class Ⅱの症状を夜間に感じるが朝には改善するとのこと。

 もともと外来では血清Cr:1.3-1.6mg/dL程度であったが、ここ2年間では2.1-2.3mg/dLと増悪を認めている。特に尿蛋白定量や尿所見での新たな異常の出現はない。。

 心機能に関しては心エコー所見でEF 38%であった。

 ここで疑問がわく。

 ◆これは、心腎症候群 (CRS: Cardio Renal Syndrome)なのだろうけど、HFrEFの患者でCKDを持っている人はどのくらいなのだろうか??

 ◆この人にとってベストな治療はなんだろうか??

 CRSの機序に関しては、下記の図が非常にまとまっている。


AJKDより引用


 このような場面は、よく遭遇する機会が多い。今回はこの部分を少し考えれたらと思う。

 ・まず、HFとCKDが共に起こる割合はどうか?

 –これに関しては、年齢上昇とともに並存する割合は増加する。また、高血圧、糖尿病、心血管疾患、腎疾患などのリスクファクターに強く影響を受ける。

 ☆エビデンスとして・・

 ADHERE(The Acute Decompensated Heart Failure National Registry)の報告から、12万人のうっ血性心不全で入院した患者の半数以上がCKDの並存があったとしている。

 HFrEF、HFpEF( Heart Failure with preserved Ejection Fraction)の患者が混合しているが、25の研究のメタアナリシスで55%の患者が、CKDを有していることが示された。

 →なので、まず最初の疑問のどのくらいかに関しては50-60%の割合で持っていることがわかる。

 ・では、このように高率で併存する場合に何か悪いことがあるのだろうか?

 –これに関しては、腎機能の低下と死亡率の上昇は先行研究によって示されている。下図が非常にわかりやすいが、CKDのステージが進行すると共にこの場合は生存割合は減少することがわかる。





別のデータ(USRDS)からもCKD患者の40%以上が慢性心不全を併発するのに対し、CKDがない患者では20%未満になることもわかっている。(下図)




 なので、我々は腎不全の進行を抑えることは心不全の併発の割合を抑えているんだなーと感じながら管理をする必要がある。

 ただ、腎機能だけを見ているわけにはいかず、ARIC(The Atherosclerosis Risk in Communicate) studyから、尿中のAlbumin/Cr比が心不全発生に関与していることも示されているため、尿中のデータも見て行く必要がある。




 では、次の疑問のどのように管理すれば適切なのかであるが、今日は長くなってしまったので次回にしようと思う。

 何かコメントあれば、Twitterにぜひ!

 https://twitter.com/Kiseki_jinzo

 とても、commonではあるが非常に重要なテーマなのかなと思う。



2018/11/20

さまざまな血管雑音

 腎臓内科医は、じつは腎臓をあまり診察しない。腎臓の診察といえばCVA叩打痛が有名だが、これらが陽性になるのは結石や腎盂腎炎のときだ。また腎臓を両手でお腹と背中から挟むように診察する方法(下図は日内会誌2000 89 2465)もあるが、ADPKDを疑う時などを除き実際はあまりしない。



 ではどこを診ているのかと言うと、体液量の評価・血管の評価・膠原病関連の評価になる。体液量は浮腫や頚静脈怒張・hepatojugular refluxなどをみる。膠原病関連は関節・皮疹・紫斑・末梢神経障害・爪周囲の毛細血管など(本家のリウマチ内科に比べればざっくりだろうが)。

 血管の評価では、coarctationの有無をざっくり血圧左右差でみたり、足背動脈をふれてPADを疑ったりする。さらに腹部にも聴診器をあてるが、これは腸音よりは血管雑音を聴こうとしている。少し深めにベルを押し当てる人もいるかもしれない。

 そこで拍動性でシューシューした音がきこえたら、どうするか?




 腎動脈からの音(腎血管性高血圧が示唆される)、大動脈からの音(瘤がみつかるかもしれない)などが疑われるので超音波(検査についてはこちら、腎動脈瘤についてはこちらも参照)やその他の画像検査、また見つかれば治療(実際は内服が最初になることが多い、こちらも参照)などが考慮される。

 しかし、シューシューするものがすべて腎臓・大動脈からとは限らない(写真は、シェイクスピア『ヴェニスの商人』で有名になった引用句「輝くものがすべて金とは限らない」)。



 
 そのひとつが、内側弓状靭帯症候群(Median Arcuate Ligament Syndrome、MALS)だ。別名を腹腔動脈起始部圧迫症候群(Celiac Artery Compression Syndrome、CACS)とも言い、同靭帯によって腹腔動脈が圧迫される(図右、引用元はWikipedia英語版)。




 この疾患は、原因不明の腹痛が聴診ひとつで診断に至る点で教訓的だ。それもあって、日本(QJM:An Internal Journal of Medicine 2018 111 407)をふくむ各国から多数の報告がある(J Investig Med High Impact Case Rep 2017 5 2324709617728750)。しかし腹腔動脈が圧されている人は全体の10-20%いるとされ(Radiographics 2005 25 1177)、症状がなければ減圧手術などの介入を必要とせず経過観察となる。

 ほかにも腹部血管雑音の原因はあるようだ(肝海綿状血管腫の報告はTrop Gastroenterol 1985 6 10)。せっかく聴きに行くのだし、腎臓内科医としてはこれらの鑑別を知っておきたい。さらに部位と音の違いだけで診断できれば、なおカッコいい。