2017/05/07

腎移植レシピエントとHCO3濃度

 腎移植患者さんと代謝性アシドーシスといえば、移植時点のグラフト機能(献腎か生体腎か)、カルシニューリン阻害薬(4RTAの原因となる)、そして高血圧や糖尿病や原疾患などによるCKDの進行などが関係していそうで、おそらく代謝性アシドーシスのあるレシピエントはそうでないレシピエントに比べてグラフト予後や生命予後がわるい気がする。これを調べた韓国のグループによる論文が昨年出た(doi:10.1681/ASN.2016070793)。

 結果を見ると移植3ヵ月後のポイントTCO2、時間ごと追ったtime-varying TCO2いずれも、低い群で正常群にくらべグラフト予後が有意にわるく、生命予後はtime-varying TCO2が低い群で正常群より有意にわるかった。前段の交絡因子(eGFR、合併症、ドナーのタイプ、タクロリムスかシクロスポリンかなど;タクロリムス群のほうがシクロスポリン群よりTCO2が低かった)などを補正しても、有意だった。



 なお、これらの施設(ソウル大学病院、ソウル大学Boramaeメディカルセンター、ソウル峨山病院)ではTCO2が22mEq/l以下の群の約10%に重曹を使っている。

 個人的にこの論文は、韓国の移植事情が見え隠れして興味深かった。生体腎が約7割、ABO不適合が約5%、レシピエントの男女比が約6:4、PEKTが約10%、など。ABO不適合が少ないのはKPDの影響だろうか(以前かいたが、最初におこなったのは韓国だ)。


Paragraph Break Symbol


 ここまで腎におけるHCO3回収、酸排泄とアンモニア輸送のしくみ、スチュワート法のエッセンス、高Cl輸液とSIDアシドーシス、酸負荷・酸産生・酸排泄を計算する歴史やそれにもとづいたCKDアシドーシスの診療、重曹の使い方、血液透析患者さんの血中・透析液HCO3濃度と移植患者さんの代謝性アシドーシスについて最近の論文をレビューしてみた。

 知らないことがたくさんあったし、調べるほどわからないことは増えるけど、こういう機会があるとまた新しい知見が網にひっかかり少しずつ深めていくことも出来るからありがたい。酸塩基平衡はさまざまな患者さんのさまざまなシチュエーション、さらに人間だけでなく動物・自然界までも支配する普遍的名法則だから、いろいろ飽きない。

 ほら、いま日本の温室で見ごろのこの花がなぜこんなに鮮やかかだって、色素とpHで決まる(Biochemical Systematics and Ecology 2010 38 630)のだから。花の名前は、ヒスイカズラ。






 [2017年6月追加]オンラインで先行した上記論文に紙が追いついて(JASN 2017 28 1886)、エディトリアルも手にはいった(JASN 2017 28 1672)。このエディトリアル論文の注目度を示すAltmetricsのAttention Scoreは115で、トップ5%の注目度らしい。なかでもわたしの注目は、タクロリムスとシクロスポリンがアシドーシスを起こす仕組みに違いがあることだった。

 シクロスポリンは、ペプチジルプロリルcic-transイソメラーゼ活性をもつシクロフィリンをブロックしてβ介在細胞(β、すなわちbaseを捨てる)からα介在細胞(alpha、すなわちacidを捨てる)への変身を妨げる(Am J Physiol 2005 288 F40)。それに対してタクロリムスはNHE3、アニオン交換体(AE1)、Na/HCO3共輸送体(NBCn1)などの発現を減らす(Am J Physiol 2009 297 F499)。いままでカルシニューリンインヒビターはRAA系をレニンのところでブロックする(図はNEJM 2004 351 585より)と教わってきたが、もう少し複雑みたいだ。


 実際、冒頭のスタディでもシクロスポリンよりもタクロリムスで有意にアシドーシスが多かった。CNI-sparingレジメンのベラタセプトがシクロスポリンに優れていたBENEFIT-EXTスタディ(Am J Transplant 2016 16 3192)の結果も、このような差を考慮しなければならないのかもしれない。


2017/05/06

透析液のHCO3濃度

 腎臓から酸を排泄できない血液透析患者さんではどのように酸のバランスをたもつか。からだにたまった酸が透析によって排泄できればいいが、抜けにくいものもおおい。それで、透析液からアルカリを体内にバッファーすることで酸を中和するのがメインの方法になる。

 透析液のアルカリはもともと酢酸イオンで肝臓でHCO3に変換されていたが、透析中の低血圧や心筋抑制などの副作用が懸念された。それでアルカリの大部分は重炭酸イオンにおきかえられた。それでも、カルシウムと重炭酸が沈殿しないよう少量の有機酸が必要なので、酢酸や酢酸ナトリウム、クエン酸がまぜてありこれらも体内でアルカリとなる。

 透析膜の内と外で重炭酸がどのような動きをするかは複雑だが、透析患者さんにおける酸塩基バランスはおおまかに図のようになる(KI 2016 89 1008)。透析しないあいだに酸がたまり体液貯留でHCO3-濃度がさがり、透析するとHCO3がバッファーされHCO3濃度があがる。


 こうしてくわえるアルカリ量が次の透析までに摂取や産生でためる酸の量とほぼ等しくなって、透析前のHCO3が一定に保たれる。…はずであるが、実際はそうでもない。透析間隔や食事量、体重の増えなどあり同じ患者さんでも一定しないし、体格や透析膜、血液流量などの違いで患者さんどうしでもばらつきがある。

 透析HCO3濃度(以下D-BIC)は各国で大きく差がある。2002-2011年のDOPPSデータ(AJKD 2013 62 738)をみると、北米でたかく(アメリカでは半数近くが38mEq/l以上)、欧州は大半の患者さんで33-37mEq/l(ドイツは32mEq/l以下の患者さんも多い)、そして日本では30mEq/l以下の患者さんが83%だ。

 米国でこんなにD-BICが高いのは、2000年に透析患者さんでHCO3濃度を毎月測り22mEq/lを維持しようという推奨がKDOQIからでてみんながD-BICを上げていったからだ。しかし、たかいD-BICで一気にpHをあげると低K血症、血管石灰化などにともなう血行動態の不安定や不整脈(突然死)や、免疫機能低下にともなう感染症などたくさんの心配がある(図、前掲KI論文)。



 実際透析大手FreseniusデータでD-BICが28mmol/l以上の群は突然死のリスクが高かったので透析前HCO3が24mEq/l以上の患者さんではD-BICを下げる方針にした。D-BICそのものではないが、FDAは2012年に透析液に含まれるクエン酸や酢酸もアルカリの一部として考慮するよう、安全に関する通達をだした。

 そもそも、KDOQIの推奨はアシドーシスの筋肉や骨にたいする影響を懸念してだされた。しかし、透析前HCO3濃度がひくい透析患者さんは酸摂取がおおい、つまりたんぱく摂取がおおい患者さんとも言えるから、彼らのほうがPEWがなくて栄養状態はいいのかもしれない。

 2006年にでた米透析施設最大手DaVitaコホートの研究(CJASN 2006 1 70)がこれを示唆している。栄養状態を考慮しないと透析前HCO3濃度がたかいほど死亡率が高かったが(図左)、栄養状態とcase-mixで補正すると2015カーブが反転しHCO3濃度が低いほど死亡率が高くなった(図右)。

 

 ではD-BICは低いほうがいいのだろうか?D-BICが多国より明らかに低い日本では、透析患者さんの予後がもっともよい。ただ、あまりにも他国とちがいすぎて前掲DOPPS論文では日本だけ分析から除外されてしまった。それでというわけでもないだろうが、日本のデータを独自に分析した論文が2015年にでた(AJKD 2015 66 469)。
 
 注目すべき点はいくつかあるが、ひとつめは透析前後のHCO3だけでなくpHにも注目し、結局死亡率に唯一有意に相関したのはHCO3ではなく透析前pHが7.40以上の群だけだったこと(生データが白丸、補正後が黒丸)。たしかにHCO3濃度が同じでもpCO2がひくくpHが高い患者さんとpCO2がたかくpHがひくい患者さんでは血管、筋、骨などへの影響がちがう気がする。



 ふたつめは透析液の総アルカリ濃度がいっしょでもD-BICが多ければ透析後のHCO3濃度とpH、透析前のHCO3濃度とpHは高くなったことだ(D-BIC 35とクエン酸1mEq/lの液と、D-BIC 31で酢酸6mEq/lの液を比較した)。FDAの通達は「クエン酸も結局アルカリとして体の中でHCO3になるのだから一緒」というものだったが、透析膜内外のHCO3濃度差はいくら透析液の総アルカリ濃度が一緒でもD-BICの影響を直接うける。

 このスタディは死亡率が低すぎて統計的なパワーが足りない(患者さんにとってはいいことだが)など限界もある。しかしpHの話などはアシドーシス診療を根本から変える可能性もあり、これからの同様な再試や大規模な研究を待ちたい。

 

2017/05/05

重曹の立ち位置

 CKDの代謝性アシドーシスの治療で目標にされてきたのは、ずっと骨と筋の維持だった。もとは透析患者さんについての推奨で、アシドーシスによる過剰H+をバッファーするために筋と骨が弱くなる(海洋がCO2により酸性化してサンゴや貝殻が溶けているのとおなじように;図はBeachapediaより)ことから「22mEq/l以上に保つ」ことを提案した2000年のKDOQIガイドラインがでた。
 


 保存期CKDのアシドーシスについては2003年KDOQIガイドラインに触れているが、このくだりは「CKDにおける骨の代謝と病気の治療ガイドライン」にふくまれている。歴史的にアシドーシスの治療で目標にされたのはずっと骨だった。ここでも「22mEq/l維持を目標に」と書かれているが、OPINION(意見)と明記されている。

 それから、アシドーシスと腎予後・生命予後についても調べられるようになった。腎間質のアンモニアと補体活性、エンドセリン、RAA系など仕組み(図、KI 2014 85 529)はほぼ事実として確立しよく知られているし、アルカリ補充の腎保護を示す研究も小規模ながら複数でた(JASN 2009 20 2075、KI 2010 77 617)。


 
 それでも、2012年のKDIGOガイドラインは「HCO3値が22mEq/l未満」のときに、禁忌でなければ重曹でHCO3値を「正常範囲に」することを「示唆」(2B)、と曖昧な書き方をしている。だから、誰がいつからどれくらい重曹をつかったらいいのかについてはyet to be determined(JASN 2015 26 515レビューの結論)、つまりまだ決まっていない。

 誰がいつからはじめるか?ガイドラインのHCO3-が22mEq/l未満より早く使ったほうがいいかもしれないという研究もある(KI 2010 78 303)。平均eGFR 75ml/min/1.73m2でHCO3値が正常の高血圧患者120人に対し、同モルの経口NaClまたはNaHCO3(またはプラセボ)を5年間投与したところ、重曹群で腎機能の悪化が緩徐になり(図)尿中エンドセリンもおさえられた。


 また、HCO3が正常であってもアンモニア排泄がおちた例、または酸摂取が過剰な例は腎機能が低下しやすいことから、これらの場合にはアシドーシスがなくても重曹が腎機能低下を遅らせるかもしれない。


 なにを目標に重曹を投与するか?ガイドラインの「正常範囲」というのは曖昧である。そこで、昨年AJKDに目安となるエキスパートオピニオンをのせたレビューが出て(AJKD 2016 67 696)、24-26mEq/lはどうかと言っている。アルカリ補充の介入研究(JASN 2009 20 2075、KI 2010 77 617)がゴールを24mEq/lにしていること、AASKとCKDの退役軍人のスタディではHCO3 28mEq/dくらいが腎予後・生命予後Uカーブの底だったが、CRICコホートでは26mEq/l以上で死亡率がたかったからだというのが根拠らしい。このレビューでは具体的な投与例まで紹介している(図)。HCO3の分子量は84だから、1300mgは15mEq、3900mgは46mEq、5850mgは69mEqだ。


 HCO3を目標にしていいのかどうかも、はっきりしない。pCO2まで考えるならpHをみたほうがいいのだろうか。NAEや尿アンモニアのほうがよい目標なのだろうか。利尿薬をつかえばアンモニア排泄が亢進してHCO3は上がるが、それでもいいのだろうか(だめということになっているはずだが、利尿薬でアシドーシスをなおしたら腎予後が改善したというデータがないだけかもしれない)。

 最近は「高齢者CKDの代謝性アシドーシスは治療されるべきか?」などという刺激的な論説(NDT 2016 31 1796)まで出た。重曹をのませるなんてawkward(え?…重曹??と抵抗がある;まあたしかにお掃除にも使うくらいだし)などと主観的なことも書いているが、高齢者でだいじなのは腎保護よりも心血管系のアウトカムと筋力や骨などのADLであり、保存期CKDで重曹がそれらを改善したというデータは乏しいというのが彼らの主張だ。それで、著者はADL改善についてしらべるBiCARBスタディを組んでいる。ほかにもNCT01452412が筋力などをアウトカムにしたスタディだ。
 
 データがないといえば、これまでの重曹介入研究はいずれも高血圧性腎症を対象にしていて、小規模だし、たとえば糖尿病性腎症は抜けている。より大規模で多様な病態を含んだスタディが待たれ、NCT01640119、EUDRACT 2012-001824-36(SoBicスタディとも)などが進行中だ。




2017/05/04

アシドーシスの裏テーマ 4(治療)

 酸負荷がおおく酸排泄がすくなければ酸がたまる。ならば酸負荷のすくない食事をとってはどうか?と考えるのは、まあ理にかなっている。みてきたように酸はタンパクに、アルカリは野菜と果物におおいので、ひとつはタンパクを減らすこと、もうひとつは野菜や果物を増やすことだ。

 たんぱく制限はMDRDスタディの頃から長い歴史があって、最近VLPD(very-low protein diet) がふたたび注目されていることは以前書いたが、たんぱく制限は以前からおこなわれてきたし、最近プロテイン消耗(PEW)の問題がわかってきたこともありなかなか難しい。

 いっぽうの野菜と果物を多く摂るほうはどうか。以前にも書いたが、酸負荷を50%に減らすように計算して野菜と果物を貧しい高血圧性CKD患者さんにただで配るテキサスのGoyara先生らのグループがCKD1-2、3、4それぞれについての「3部作」を発表した(KI 2012 81 86、CJASN 2013 8 371、KI 2014 86 1031)。野菜と果物を摂ると重曹と同様に酸負荷がへり腎障害マーカーがへり腎機能低下が抑えられ、カリウムは増えなかった。
 
 これを受けて、「新しい腎臓病食」をつくろう、という論説を海外雑誌でたくさんみかける。タイトルも「お皿になにを盛ればいい?」(AJKD 2017 69 436)、「食事の酸負荷をへらすには」(J Ren Nutrition、doi:10.1053/j.jrn.2016.11.006)、「食の西洋化・産業化と腎臓病」(AJKD、doi:10.1053/j.ajkd.2016.11.012、こんな口絵まで)、「CKD患者さんの食事、見直すべき?」(BMC Nephrology 2016 17 80)など刺激的だ。


 
 もっともすべての野菜と果物がアルカリなわけでもすべてのたんぱく質が酸なわけでもない。上に書いたようにタンパク不足にはPEWの心配もある。ほかにも塩分にリンに、考えることはたくさんあるから、総合的に考えるには栄養師さんとの協力が不可欠だ。これらの動きでCKD患者さんの利益になればいいと思う。たとえば、透析があまり普及していない東ネパールで政府とISNがコラボして、減塩と野菜摂取励行などによりCKD進行を予防する試みも行われている(Lancet Global Health 2014 2 e506、写真はDharan Hill Station)。



 ここまで「裏テーマ」と題して酸負荷・酸排泄・食事療法についてみてきた。「裏」としたのは、現行ガイドラインがHCO3に基づく重曹補充が中心だからだ。しかしこの「表テーマ」にも、わかっていないことがおおい。つづく。

2017/05/03

アシドーシスの裏テーマ 3(疫学)

 酸の摂取量PRAL、産生量NEAP、排泄量NAEなどによって大規模コホートを層別化してCKDの進行やESRDとの相関を示したスタディが最近でてきた。

 まず2011年、アフリカ系アメリカ人の高血圧性腎症を対象にしたAASKコホートで、Frassettoの式で計算したNEAPと血中HCO3濃度の相関をしらべた論文がでた(CJASN 2011 6 1526)。たんぱくとカリウムの摂取量は24時間蓄尿の尿素窒素とカリウムから推計され、NEAPは平均71mEq/dだった。

 結果、NEAPが10mEq/dふえるごとHCO3-濃度が0.16mEq/lさがり、この関係はCKD2・3期よりもCKD4・5期でより顕著にみられた(図)。いままで代謝性アシドーシスでHCO3-を上げるには重曹と考えられてきたが、このスタディでNAEPを減らすのに(とくに動物性)たんぱくを減らし(アルカリのもとであるクエン酸カリウムなどが多い)野菜や果物をとってもいいんじゃないかと示唆された。


 
 つづいて、NHANESIIIコホートでRemer式の酸負荷(PRALとOAの和)とESRDリスクの相関を調べた論文がでた(JASN 2015 26 1693)。RRALは食事内容のアンケートから推計し、OAは体表面積から計算し、酸負荷は平均で42mEq/dだった。結果、酸負荷が多い群ほどESRDリスクが高く(図)、HCO3-やたんぱく摂取量、糖尿病や高血圧、腎機能やアルブミン尿などの交絡因子の影響を除外しても酸負荷が1mEq/d増えるごとESRDリスクが1.39(95%CI 1.19-1.63)倍になった。


 うえのふたつは酸負荷(摂取、産生量)からみたスタディで、負荷がおおいと腎臓に悪いから負荷を減らそうという結論が示唆された。それにたいして2015年にヨーロッパのNephroTestコホート(KI 2015 88 137)を対象に酸排泄能に注目した論文がでた。

 まずcross-sectional研究をおこない、腎機能が低下した群ほどNAE(尿NH4 + 滴定酸 - HCO3)が下がり酸排泄能がおちているのに対し酸産生NEAP(Frassettoの式)は下がらないのでNAE-NEAPバランスがプラスで酸がたまっていることを示した(図)。


 
 つづいてこのコホートを約4年フォローしてESRDリスク因子について分析したところ、TCO2ではなく24時間尿NH4量(Cr補正)と断食早朝尿NH4濃度(浸透圧補正)に相関がみられた(図)。どうしてNAEではなく尿アンモニアでみたかというと、cross-sectional研究のときに腎機能に比して滴定酸排泄量はあまり変わらず、NAEの低下にもっとも関与するのはアンモニアと考えたからだそうだ。尿HCO3は、もともと微量だ。


このスタディで、

A. 酸負荷がおおいのがいけないのか
B. 酸排泄できないのがいけないのか

 という問題がうまれた(図は前出JASN論文の著者Scialla先生によるcommentary;KI 2015 88 9)。


 で、この問いに答える形で4月に発表されたのがこのブログでも取り上げられた論文だ(doi: 10.1681/ASN.2016101151)。2011年のCJASN論文とおなじAASKコホートを使い、24時間蓄尿で求めたアンモニア排泄量とさまざまな因子の関係を調べた。これをみると尿アンモニア排泄量とESRD/死亡率の関係はU字で、30mEq/を底辺にそれより低いほどあがるのは2015年KI論文と一緒だけれど、たかくても上がることがわかった(図)。



 尿アンモニア能があれば酸をどれだけ摂っても排泄してくれるから大丈夫、というわけではないということだ。そう考えると、前出のA・Bをあわせた

C 酸がたまるのがいけない

 ようにも思われる。NAEPとNAEの差や、間質のアンモニアレベルやそれを代理する新たなマーカーを調べた研究が今後あれば、それについて分かるかもしれない。

 これらを踏まえて、CKDのアシドーシス診療どうなっていくのだろうか?つづく。





2017/05/02

アシドーシスの裏テーマ 2(PRAL、NEAP、NAE)

 動物の食餌にふくまれる酸を見積るDCADについて書いたが、人間の食事ではどうか?よく用いられる式がいくつかある。ひとつは、食事そのものの成分をみるRemerの式(J Am Diet Assoc 1995 95 791)だ。

0.49 x たんぱく[g/d] + 0.03 x リン[mg/d] - 0.021 x カリウム[mg/d] - 0.026 x マグネシウム[mg/d] - 0.013 x カルシウム[mg/d]

 で、S(たんぱく)・Pは酸でK・Mg・Caはアルカリという動物のDCADと同様の考え方だ。これをPRAL(Potential Renal Acid Load)と呼び、これを元にさまざまな食品がどれくらい身体に酸性、アルカリ性かをしらべることができる(ACKD 2013 20 141)。



 ただし、どのミネラルとタンパクをどれだけ食べたかを推計するのは手間で不正確だし、どれだけ吸収されているかもわからない。身体のなかで新たにつくられる酸もある(おもに有機酸)。じっさいにほしいのは、身体で1日につくられる(捨てなければならない)酸の量だ。

 そこで、ベルナールがいうように恒常性が保たれるならば「身体に入ってきた+身体のなかで新たにつくられた有機酸の量」と「排泄された酸の量」は同じでしょ、という前提を導入する。前者をNEAP(Net Endogenous Acid Production)、後者をNAE(Net Acid Excretion)と呼ぶ。健常人ならNEAPとNAEは同じで、身体に酸はたまらないはずである。

 NEAPをさきほどのPRALから求めるには、体表面積や体重で推定した有機酸(organic acid、OA)の量を足す。OA[mEq/d]は

41 x 体表面積[m2] / 1.73m2 または 体重[kg] x 0.66

 だ。あるいは、ふたつめのFrassettoの式(Am J Clin Nutr 1998 68 576)で食事のたんぱく量とカリウム量から以下のように推計する。

54.5 x たんぱく[g/d] / カリウム[mEq/d] - 10.2

いっぽうNAEは、尿からもとめる。

NH4+ + 滴定酸 - HCO3-

 しかし、24時間蓄尿しなければならず、またアンモニアやCO2が揮発しないよう工夫(油の膜を表面にはるとか)するのも手間だ。

 このように酸の1日摂取量・産生量・排泄量はそれぞれPRAL、NEAP、NAEとよばれ、体格と食事量、蓄尿などで算出できる。腎臓が正常な例で、いくつもの仮定をたててつくられた式ではあるけれど、最近はこれらの式と概念がCKD領域の疫学研究に用いられ、治療への応用も示唆されるようになってきた。つづく。


2017/05/01

アシドーシスの裏テーマ 1(歴史)

 現代人が一日に腎臓から排泄する酸は1mEq/kgとよくいわれるが、酸の排泄量は体重だけで決まるわけではない。たとえば、酸をどれだけ摂るかによっても決まるはずである。しかし、ナトリウムやカリウムとちがって、食事の酸制限というのはあまり聞かない。

 そもそも食事中にどれだけ酸がふくまれているかなんて、どうやって計るのだろうか?というのは100年以上まえから研究されているテーマだが、これまで医学の表にあまりでてこなかった。しかしいま、食事に含まれる酸が注目を集めているので、あえてこの裏テーマにスポットを当ててみたい。

 尿細管のチャネルが魚からみつかったように、この分野も最初は動物からはじまった。
草食動物の尿はリトマス試験紙でアルカリ性に、肉食動物の尿はリトマス試験紙で酸性に反応するというのは常識である。 
ーN. R. Blatherwick(Arch Int Med 1914 XIV 409)
 この「常識」に注目したひとりが、フランスの生理学者クロード・ベルナール(1813-1878)だ。彼は研究室(写真)につれてきたウサギが草をたべるとにごったアルカリ尿、肉を食べると(肉しか与えなければたべるらしい)クリアな酸性尿をだすと発表した。原著はLeçons sur les proprietes physiologiques et les alterations pathologiques des liquides del’organisme. Paris: Balliere; 1859、これについてふれたベルナールの伝記論文はNDT Plus 2010 3 335。



 これは酸を摂ればそのぶん酸を、アルカリをとればアルカリを排泄して「内部環境」をたもっているという、彼が提唱した生命の恒常性を例示したエピソードでもある。

 20世紀初頭にはいると、食品を燃やしてできる灰の分析から、より定量的に食事の酸・アルカリを測定する試みがはじまった(J Biol Chem 1912 11 323)。灰にふくまれるK、Ca、Mg、Pなどのミネラルのうち、陽イオンはアルカリを提供し陰イオンは酸を提供するので、陽イオンより陰イオンがおおければ酸、陰イオンより陽イオンのほうがおおければアルカリと考えられた。

 この概念は腎臓内科医にはなじみがあまりないかもしれない(私にはなかった)が、動物界には、単位あたりの食餌における陽イオンと陰イオンの差、DCAD(dietary cation-anion difference)という概念がある。いろんな式があるがよく用いられるのはNa + K - (Cl + S)。

 たとえば、DCADを低くして酸性の食餌をあたえることでカルシウムを骨から出やすくしておくことが、乳牛のミルク・フィーバー(産褥期にカルシウムを乳にとられて低Ca血症になることで熱はでない、写真)予防になる。



 また、水族館のイルカで尿酸アンモニウム結石がおおい(写真はサンディエゴ・シーワールドのDottieというイルカの石;J of Zoo and Wildlife Med 2012 43 101)のは食餌のDCADが野性と比べて低く酸性だからではないかという研究(doi:10.2527/jas.2016.1113)もでている。



 人間界ではどうか?つづく。