2026/01/22

その「正常値」は罠かもしれない。謎の代謝性アシドーシスを解き明かせ

 今日は皆さんに、腎臓内科医たちが頭を悩ませる難解な症例検討会「Skeleton Key Group」から、特に教育的でスリリングなCase 37からの挑戦状をお届けします。

あなたは、提示されたデータだけで真犯人を突き止め、治療の落とし穴を回避できるでしょうか? 腎臓内科医たちが愛用する推理ツール**「pLACO」**を武器に、この謎に挑んでみましょう。


【第一の謎:事件の現場(病歴)】

患者: 55歳女性 

主訴: 意識障害、呼吸困難

現病歴: Rouen-Y胃バイパス術の既往があるこの女性は、ここ数日、激しい片頭痛に悩まされていました。家族によると、市販の鎮痛薬を頻繁に服用していたとのこと。痛みがつよく次第に内服のアスピリンの量が増えていた。 次第に傾眠傾向となり、呼吸が荒くなっているところを発見され救急搬送されました。

来院時のドラマ: ER到着時、彼女の意識レベルはGCS 3点(昏睡)。気道保護のため、トリアージですぐに鎮静・筋弛緩薬投与下で気管挿管が行われました。

バイタルサイン(挿管後):

  • 血圧: 109/61 mmHg

  • 心拍数: 97回/分

  • 体温:37.3℃

  • 呼吸数: 21回/分(人工呼吸器管理下)

  • SpO2: 98%

  • 身体所見: 神経学的所見は鎮静下で評価不能。明らかな浮腫なし。

血液ガス分析の結果が出ると少し状況が変わってきます。



【第二の謎:証拠品(検査データ)の分析】

手元に届いた静脈血ガス分析(VBG)と電解質のデータです。

ここで違和感に気づけるかが勝負の分かれ目です。



  • pH:7.17

  • pCO2:37 mmHg

  • HCO3⁻:10 mEq/L

  • Na:147 mEq/L

  • K:5.2mEq/L

  • Cl:115 mEq/L

  • BUN:42mg/dL

  • Cr:2.0mg/dL

  • Alb(アルブミン):4.0 g/dL

一見すると、「pCO2は正常範囲(35-45)」に見えます。しかし、酸塩基平衡の世界では「基準値内=正常」とは限りません。

ここで、酸塩基平衡の謎を解くための**魔法の言葉(ニーモニック)「pLACO」**を使って、データを紐解いていきましょう。


**ちなみにpLACOとは・・・*

pLACO の 5つのステップ


1. p = pH(第一印象)

まず最初にpHを見て、患者の状態が「酸性」か「アルカリ性」かを判断します。

  • pH < 7.35:酸血症(Acidemia)→ 主犯は「アシドーシス」

  • pH > 7.45:アルカリ血症(Alkalemia)→ 主犯は「アルカローシス」

  • pH 7.35-7.45:正常、または混合性障害で打ち消し合っている状態


2. L = Lungs / pCO2(肺・呼吸の評価)

次に、呼吸性因子である pCO2(二酸化炭素分圧) を確認します。

  • pCO2 > 45 mmHg:呼吸性アシドーシス(換気不足)

  • pCO2 < 35 mmHg:呼吸性アルカローシス(過換気)


【ここで一次性障害を決める】

  • pHが酸性で、pCO2も高い → 呼吸性アシドーシスが主

  • pHが酸性で、pCO2が低い(または正常)→ 代謝性アシドーシスが主(肺は悪くない、むしろ代償している)

    • Case 37の場合:pH 7.17(酸)に対し pCO2 37(正常〜やや低め)なので、主犯は代謝性アシドーシスと分かります。



3. A = Anion Gap(アニオンギャップの計算)

代謝性アシドーシスがある場合、アニオンギャップ(AG) を計算して原因を絞り込みます。

            AG = Na - (Cl + HCO3-)

  • AG > 12高AG性代謝性アシドーシス(HAGMA)

    • 原因:GOLDMARK(グリコール、オキソプロリン、乳酸、メタノール、アスピリン、腎不全、ケトン)

  • AG 正常:正常AG性代謝性アシドーシス(NAGMA)

    • 原因:下痢、尿細管性アシドーシスなど



4. C = Compensation(代償は適切か?)

ここが最も重要です。 体はpHを正常に戻そうと「代償」を行いますが、それが計算通りに行われているかを確認します。計算とズレていれば、「別の障害」が隠れている証拠です。

  • 代謝性アシドーシスの場合:Winterの公式

    予想 pCO2 = (1.5 × HCO3-) + 8 ± 
    • 実測pCO2 > 予想pCO2 → 呼吸性アシドーシスの合併(Case 37はこれ)

    • 実測pCO2 < 予想pCO2 → 呼吸性アルカローシスの合併


  • 代謝性アルカローシスの場合:

    予想 pCO2 = (0.7 ×Δ HCO3-) + 40 などを使用


5. O = Osmolar gap / Other(その他の確認)

最後に、さらに隠れた病態がないか確認します。


  • Delta-Delta (Δ/Δ) 比の計算:Δ AG / ΔHCO3-

    • HAGMAがある時、AGの上昇分とHCO3の減少分の比を見ます。

    • 比 < 1.0:NAGMAの合併

    • 比 > 2.0:代謝性アルカローシスの合併


  • 浸透圧ギャップ(Osmolar Gap)

    • 実測浸透圧 - 計算浸透圧。アルコール中毒(メタノール、エチレングリコール)を疑う時に確認。

  • 尿アニオンギャップ

    • NAGMAの原因鑑別(腎臓からか、腸管からか)に使用。



では、症例に戻って・・


【推理パート:pLACOメソッドで謎を解く】

Step 1: p (pH) - 酸かアルカリか?

  • pH 7.17 (< 7.35)

  • 判定: 重篤な酸血症(アシデミア)です。


Step 2: L (Lungs / CO2) - 肺は何をしている?

  • pCO2 37 mmHg

  • 判定: 数値上は正常範囲ですが、pH 7.17の状況でCO2が「普通」であること自体が異常です。本来なら過換気でCO2を飛ばしていなければなりません。ここに第一のトリックがあります。


Step 3: A (Anion Gap) - 隠れた酸はあるか?

  • AG = Na - (Cl + HCO3⁻)

  • 計算:147 - (115 + 10) = 22

  • 正常AG(アルブミン×2.5 = 10 or  12±2)と比較して著しく上昇。

  • 判定: **高アニオンギャップ性代謝性アシドーシス(HAGMA)**が存在します。

  • 犯人候補(GOLDMARK):グリコール、オキソプロリン、乳酸、メタノール、アスピリン、腎不全、ケトンなど


Step 4: C (Compensation) - 代償は適切か?(ここが重要!)

ここでWinterの公式を使い、患者の体が「本来あるべきpCO2」を計算します。

予測 pCO2 = (1.5 × HCO3⁻) + 8 ± 2

  • 計算:(1.5 × 10) + 8 = 23 ± 2

  • 実測値:37 mmHg

  • 判定: 予測値(23)よりも実測値(37)が圧倒的に高い。これは、体がCO2を吐き出しきれていないことを意味します。

  • つまり、HAGMAに加えて**「呼吸性アシドーシス」**が合併しています。


Step 5: O (Other / Osmolar gap) - その他の異常は?

最後に、Delta-Delta (Δ/Δ) 比を確認して、混合性異常がないか深掘りします。

Δ/Δ = (実測AG - 正常AG) / (正常HCO3⁻ - 実測HCO3⁻)

  • 分子(AG上昇分):22 - 10 = 12

  • 分母(HCO3減少分):24 - 10 = 14

  • 計算:12 ÷ 14 ≈ 0.86

  • 判定: 通常、比が1.0未満であれば、AGの上昇以上にHCO3⁻が減っているため、**「正常アニオンギャップ代謝性アシドーシス(NAGMA)」**の合併を示唆します。

  • しかし、本当にNAGMAもあるのでしょうか? ここに第二のトリックが潜んでいます。




【解決編:真犯人と「医療介入」のパラドックス】

真犯人の正体

病歴(片頭痛、鎮痛薬過多)とHAGMAから導かれる診断は、サリチル酸(アスピリン)中毒です。 実際のサリチル酸濃度は 54.3 mg/dL(中毒域)でした。

今回のアシドーシスの黒幕である「アスピリン(アセチルサリチル酸)」について、その危険な特性を整理しておきましょう。

1. 酸性環境を好む浸透者

アスピリンは pKa 3 という酸解離定数を持っています。これは、胃のような酸性環境下ではイオン化せずに吸収されやすくなることを意味します。 今回の症例のように全身がアシドーシス(酸性)に傾くと、サリチル酸は非イオン化型となり、血液脳関門(BBB)をすり抜けて中枢神経へ侵入しやすくなります。これが意識障害を悪化させるメカニズムです。

2. 危険水域(血中濃度)の目安

サリチル酸の血中濃度と毒性の関係は以下の通りです。本症例の患者は 54.3 mg/dL であり、明確な中毒域に達していました。

  • 治療域: 10 - 30 mg/dL

  • 中毒域: 40 - 50 mg/dL

  • 重篤な中毒: > 70 mg/dL

3. 捜査を撹乱する因子

単に摂取量だけでなく、以下の要因が重症度や吸収速度を変化させ、中毒症状の出現を遅らせたり長引かせたりすることがあります。

  • 多剤併用(Co-ingestion): 他の薬剤との相互作用。

  • 胃排出の遅延: 胃内でアスピリンが固まり(胃石)、少しずつ溶け出すことで、長い時間をかけて吸収され続けることがあります。

  • 製剤の種類: 腸溶錠などは吸収のピークを遅らせます。



ここからは少し上でお話したトリックについて深堀します。

トリック1:なぜ「呼吸性アシドーシス」になったのか?

教科書的には、サリチル酸中毒は呼吸中枢を刺激し、**呼吸性アルカローシス(過換気)を引き起こすはずです。 しかし、この患者は「来院直後に気管挿管・鎮静された」**のです。 サリチル酸中毒患者は、命を守るために必死で過換気を行っています。それを、標準的な呼吸器設定や鎮静で止めてしまった結果、CO2が(相対的に)蓄積し、pHが急降下しました。 酸性環境下では、サリチル酸は非解離型となり、血液脳関門(BBB)を通過して脳への毒性を強めます。良かれと思った挿管が、病態を悪化させるリスクとなったのです。

トリック2:Δ/Δ比 0.86 の罠(偽性高クロール血症)

計算上はNAGMAの合併が疑われました。しかし、Cl値 115 mEq/L に注目してください。 一部の検査機器では、サリチル酸イオンを塩化物イオン(Cl⁻)と誤認してカウントしてしまうことがあります(偽性高クロール血症)。 もし、血中のサリチル酸(約4 mEq/L相当)がClとしてカウントされていたと仮定して補正すると、真のClは111程度となり、AGはもっと開きます。 再計算するとΔ/Δ比は1.0を超え、「NAGMAは実は存在せず、検査の干渉(Interference)だった」という可能性があります。



【最新の文献的考察(2024-2025)】

この症例から学ぶべき、重要な点です。

1. サリチル酸中毒と挿管のジレンマ 

「サリチル酸中毒患者は絶対に挿管してはいけない」という古い格言があります。自発呼吸による強力な代償を人工呼吸器で再現するのが難しいためです。 しかし、最近の救急・集中治療の文献(McDonald et al.など)では、「気道保護が必要な場合(GCS低下など)は躊躇せず挿管すべきだが、管理には細心の注意が必要」というニュアンスに変わってきています。 重要なのは「挿管しないこと」ではなく、「挿管直後から、患者の自発呼吸レベルに合わせた大量の分時換気量を設定し、頻回な血液ガスでpHをモニタリングすること」です。

2. 治療戦略:透析のタイミング EXTRIPガイドラインに基づくと、以下の状況では血液透析が推奨されます。

  • 意識障害がある場合(本症例で該当)

  • サリチル酸濃度 > 100 mg/dL

  • 標準治療(尿アルカリ化など)が無効

  • pH ≤ 7.20 の重篤な酸血症 本症例は、濃度は54mg/dLと「超高値」ではありませんでしたが、意識障害と複合性アシドーシスがあるため、透析も視野に入れた集中治療が必要です。



【まとめ:明日からの診療に活かす鍵】

  1. 「正常なpCO2」に騙されるな: HCO3⁻が低い時のpCO2 40mmHgは、致死的な呼吸性アシドーシスです。必ずWinterの式で予測値を計算してください。

  2. pLACOで整理せよ: 複雑な酸塩基平衡も、p→L→A→C→Oの手順で解けば、混合性異常が見えてきます。

  3. 挿管のリスクを知る: 代謝性アシドーシスの患者を鎮静・挿管する際は、彼らの「必死の代償呼吸」を奪うことになるという事実を直視し、換気設定に細心の注意を払ってください。

一見シンプルな症例の中に、生理学の基本と中毒診療の落とし穴が詰まった、まさにSkeleton Key(マスターキー)のような症例でした。


Reference: Renal Fellow Network, Skeleton Key Group Case 37: A case of elevated anion gap metabolic acidosis (March 19, 2025) Recent updates on Salicylate Toxicity management & EXTRIP guidelines.

2026/01/15

【専攻医・若手腎臓内科医向け】腎腫瘤(Renal Mass)が見つかったら?腎臓内科医が知っておくべき評価と管理のポイント

ご無沙汰しております。今回、上記のタイトルで記載をしてみました。私も勉強になるので、少しずつブログも再開していきます!

 以前に腎癌についての記載を行っていますのでそちらも参考にしてください。


現在、画像診断技術の向上により、他疾患の検査中に偶然発見される「偶発的腎腫瘤(Incidental Renal Mass)」が増加しています 限局性腎細胞癌(RCC)の5年生存率は100%に近く、**「癌そのもの」よりも「基礎疾患(CKDやCVD)」が生命予後を左右する**時代になっています


今回は、泌尿器科任せにせず、腎臓内科医としてどのように介入し、腎機能を守るべきか、AJKDの最新Core Curriculum(2025)をもとに解説します


1. 腎細胞癌(RCC)とCKDの密接な関係

まず押さえておきたいのは、RCCのリスク因子とCKDのリスク因子は大部分が重複しているという事実です

【RCCとCKDの共通リスク因子】

  • 高齢: 加齢とともに両疾患のリスクは上昇します

  • 男性: 男性に多い傾向があります

  • 喫煙: 確実なリスク因子です

  • 高血圧: RCC患者では一般人口の2-3倍の高頻度で見られます

  • 糖尿病: 術後のCKD発症リスクを増大させます

  • 肥満: RCCのリスクですが、予後はむしろ良い傾向があるという「肥満パラドックス」が知られています

さらに、透析患者(末期腎不全)では一般人口と比較してRCCの発生率が100倍高いとされており、双方向の関連性があります




2. 腎臓内科医による「術前評価」の大切さ

「手術は泌尿器科、その後腎機能が悪くなったら腎臓内科」では遅すぎます。術前の段階で腎臓内科医が介入することで、術後の透析導入リスクを減らせる可能性があります

  • 蛋白尿・アルブミン尿の評価は必須 

eGFRだけでなく、尿蛋白(または尿アルブミン)定量を必ず確認しましょう 。術前のアルブミン尿の存在は、術後のeGFR低下やCKD発症の独立した予測因子です
  • 糖尿病の隠れ家を見逃さない 

術前検査で尿糖陽性や軽度の血糖上昇があれば、未診断の糖尿病がないか精査します 。糖尿病は術後のCKD発症リスクを60%(非糖尿病は43%)まで引き上げます
  • 術前管理チェックリスト

    • 血圧管理: 130/80 mmHg未満を目標にコントロール。

    • 血糖管理: HbA1cの確認とコントロールを行います。

    • 腎機能評価: クレアチニンだけでなく、必要に応じてシスタチンCや腎シンチグラム(分腎機能評価)を検討します

    • 禁煙指導: 必須です


3.治療選択:腎機能を守るための優先順位

かつては「腎全摘(根治的腎摘除術)」が主流でしたが、現在は**「腎温存(Nephron-Sparing)」**がキーワードです

  1. 腎部分切除術 (Partial Nephrectomy)

    • 第一選択: 小径腎腫瘤(T1a: 4cm以下)では、全摘と比べて癌の予後は同等ですが、腎機能温存効果は圧倒的に優れています(CKD発症リスクを61%低減)

  2. アブレーション治療 (Ablation)

    • 適応: 手術リスクが高い患者や高齢者

    • メリット: 腎実質の喪失が少なく、腎機能への影響は全摘より軽微です

  3. 能動的監視 (Active Surveillance)

    • 適応: 高齢、多併存疾患、手術困難例

    • 根拠: 小径腎腫瘤の転移リスクは当初3年間でわずか2%程度です 。腫瘍径が3cmを超えるか、年5mm以上の増大がなければ経過観察も立派な選択肢です

腎臓内科医のスタンス 

「全摘」が予定されている場合でも、CKDステージ3b以降や蛋白尿があるハイリスク症例では、泌尿器科医と相談し、部分切除やその他の温存療法が可能かディスカッションすることが重要です


4. 進行癌と薬物療法:Onco-Nephrologyの知識

進行癌(T4など)で全身化学療法が行われる場合、薬剤性腎障害に注意が必要です

主な薬剤と腎合併症

  • 抗VEGF薬(アキシチニブ、スニチニブなど)

    • 注意点: 高血圧(11-43%)、蛋白尿(41-63%)、TMA(血栓性微小血管症)

    • 対応: 降圧薬での管理が基本です。TMAや高度腎障害時は休薬を検討します。

  • 免疫チェックポイント阻害薬 (ICI)(ペムブロリズマブ、ニボルマブなど)

    • 注意点: 急性間質性腎炎 (AIN)

    • 対応: ステロイド治療が有効ですが、重篤な場合は中止が必要です。




5. まとめ:腎臓内科医の役割

  1. 早期発見・介入: 偶発的に見つかった腎腫瘤に対し、CKDリスク(蛋白尿、DM、HTN)を徹底的に評価・管理する

  2. 治療方針への助言: 腎機能温存(部分切除など)のメリットを提示し、過剰な腎全摘を防ぐ

  3. 術後・治療中のフォロー: 術後のeGFR低下や、化学療法に伴う腎障害(高血圧・蛋白尿・AIN)を管理する


腎腫瘤の患者さんにとって、癌のサバイバーになった後の「腎臓の寿命」を守れるのは、私たち腎臓内科医です。泌尿器科と連携し、最適な治療戦略を立てていきましょう

参考文献 Tillquist K, et al. The Nephrologist’s Perspective in Evaluation and Management of Localized Renal Masses: Core Curriculum 2025. Am J Kidney Dis. 2025;86(5):690-701.

2024/10/11

アバコパン・フォローアップ

 2017年2019年2021年に興奮と共に紹介してきた経口C5a受容体阻害薬、アバコパン。日本でも2022年6月に販売が開始されたが、残念ながらゲーム・チェンジャーになるほどANCA関連血管炎でどんどん使われてはいなかったように思われる(あくまでも2024年4月までの筆者の印象)。

(出典はこちら

 理由を推察するに、①長期使用データが乏しいこと、②使用期間が明記されていない(維持レジメンのデータがない)などだろうか。③薬価は新薬で必ず懸念される要素だが、患者の多くは特定疾患対象であり、少なくとも自己負担は生じないはずだ。

 そんななか、①についてのリアル・ワールド・データが2024年に発表され(KI Rep 2024 9 1783)、②については維持レジメンとしての使用が治験中(NCT06072482)であることを知った。それぞれ少し紹介したい※。

 ※筆者はこの投稿に利益の相反を持たない。

・リアル・ワールド・データ

 米国の12医療機関で、2021-2023年に、ANCA関連血管炎に対してアバコパンの治療を受けた、92例(新規61、再発32)の患者が対象で、平均フォローアップ期間は6ヵ月と短め。平均年齢59歳、女性64%、白人82%、MPO-ANCAが72%であった。

 約8割に腎病変があり、平均eGFRは32ml/min/1.73m2、eGFR15未満が23%、透析依存が10%、平均蛋白尿は1.6g/g、腎生検を受けた48例のうち半月体タイプは37%だった。また、約半数に肺病変が見られた。なかなか重症である。

 それもあってか、寛解導入レジメンはRTX+低用量CYCが47%、RTXが48%(その他、通常用量CYCが2例、MTXが1例、ステロイドパルスのみが1例)。また、14%で血漿交換が用いられた。ステロイドパルスは64%に使用された。

 アバコパンは平均3.6週(四分位範囲2.1-7.7)目から開始され、アバコパン開始から平均5.6週(四分位範囲3.3-9.5)でステロイドが漸減されていた。26週時点の平均プレドニゾン用量は1.8mg/d、52週時点の平均は0.6%であった。

 また、60%の患者がDay 30までにアバコパンを開始され、40%の患者がDay 31以降に開始されていた。遅く始まった患者の方がeGFRが低く、血漿交換を受けた患者が多かった。eGFRの回復が遅めであったのは、アバコパンのためかもしれないし、それだけ重症だったためかもしれない。

 なおアバコパンは99%タンパク結合のため、透析では除去されないが血漿交換では除去される。ただしアバコパンの分布容積は345Lもあるので、そこまで問題にはならないかもしれない。

 それで、「治療医師の裁量」による26週後の寛解率は90%であった。より客観的には、eGFRが平均12.2ml/min/1.73m2上昇し、血尿が68%で消失し、蛋白尿が平均0.4g/gに改善していた。スタディ開始時に透析を要した9例のうち5例が透析を離脱したが、2例が透析後に透析依存となっていた。

 また、臨床的な再発は3%、入院を要する感染症は13%、死亡は4%であった(卵巣がんが1例、COVID19が3例)。有害事象による内服中止は20%に見られ、肝障害(4例、うち2例で肝酵素が200-500U/l程度まで上昇)・消化器症状などが主な理由であった。

・維持レジメンとしての使用

 アバコパンがリアル・ワールドでステロイドの累積使用量を減らして患者のためになっているのは素晴らしいことである。だが、せっかくfirst-in-classで出てきた薬であり、1年間※と言わずもう少し出番はないだろうか?

 ※ADVOCATEが52週の使用であったため。UpToDateにも「52週を越えた有効性と安全性は確立されていない」とある。ただし、前述データでは、52週でアバコパンを完了していたのは12%であった。(それと中止された20%を除く)68%は52週以降も使用されていたようである(その期間は不詳)。

 ・・となると、維持レジメンとしての使用はどうかという話になる。現在ANCA関連血管炎の維持レジメンといえばRTXが定番で(前述のデータでは98%がRTXであった)、MAINRITSAN 3スタディで長期の寛解維持も示されている。 

 しかし、RTXにも問題がないわけではない。たとえば、B細胞の慢性的な除去による低ガンマグロブリン血症は、感染症などのリスクとなる。そこで、MAINRITSAN 3のように6ヵ月ごとが本当に適切なのかが研究されている。

 その一つ、MAINTANCAVASスタディ(Ann Rheum Dis 2024 83 351)は、6ヵ月ごとのRTXで2年の寛解を維持した患者をB細胞が戻ってきてから打つ群とANCA抗体が戻ってきてから打つ群に分けて比較した。

 その結果、約4年間で平均3.6gのRTXを受けたB細胞群は、平均0.5gのRTXを受けたANCA群に比べて寛解率が有意に高かったものの、COVID-19感染も有意に多く、うち2例が死亡していた。中間の2g(1年に0.5g)くらいがちょうどよいのだろうか?今はまだ、わからない。

 そんなわけで、アバコパンを長期使って維持してはどうか?というのが治験である。プラセボ対照で「標準治療(standard of care、SOC)+アバコパン30mg1日2回60か月」と「SOC+アバコパン30mg1日2回12か月(残りはプラセボ)」と「SOC+プラセボ60か月」を比較するという。

 SOCはその施設の裁量であるため、多くがRTXになってしまうだろう。あるいは「実薬かもしれないから弱めのレジメンにしよう」となるかもしれない。この治験が終わったら、今度はRTXとの比較対照試験が始まるかもしれない。

 患者にしてみれば、「6ヵ月(あるいは1年)に1回注射」のほうが「3カプセル1日2回の薬を5年間内服し続ける」よりも便利かもしれない。ただ、寛解維持率や感染リスクの点でRTXより優れていると分かれば、選択肢になるだろう。

 【訂正】以前の稿で、アバコパンの使用開始時期と使用期間を誤って記載していました。お詫びします。


2024/09/28

もう一つのシュウ酸腎症

  高シュウ酸尿症(hyperoxaluria)の原因には、遺伝的な代謝異常によって肝臓で異常にシュウ酸が産生される原発性と、Roux-en-Yバイパス手術後などで吸収されない脂肪酸が腸管内のカルシウムと吸着するぶんシュウ酸が遊離して吸収される腸性(enteric oxaluria)がよく知られている。

 他にはエチレングリコール、ビタミンC大量内服やチアミン欠乏などがあるが、2023年に縮毛矯正剤(hair straightening products)によるシュウ酸腎症の報告が立て続けに出ていたことを、先日知った。

 縮毛矯正薬による急性腎障害は2019年にエジプトのグループが最初に報告した(Iran J Kidney Dis 2019 13 129)が、2023年1月にイスラエルのグループが26症例を報告し話題になった(AJKD 2023 82 43)。患者はいずれも女性で、曝露から数日後に発症し、平均のクレアチニン値は5.3mg/dlで、多くは回復したが3例は透析を要した。

 そして、腎生検を受けた7例のうち5例の尿細管内に、多数のシュウ酸カルシウム結晶が観察された。

(出典は後述のKI Reports、偏光顕微鏡でpositive bifringent)

 縮毛矯正薬は、以前はホルムアルデヒドが用いられていたが、刺激が強く発がん性の懸念があることなどから、グリコール酸を主成分とする製品に切り替わっているという。

 ただ、グリコール酸はエチレングリコールと同様シュウ酸に代謝されるが、経皮的にそこまで吸収されるかには疑問もあった(38%に頭皮の皮疹があったので、吸収が高まったのかもしれないと推察された)。

 また、使用者の全員が発症するわけではないことから、使用時のpHが低すぎた可能性や、シュウ酸代謝に関わるHOGA1、輸送に関わるSLC26A1、SLC26A6などの遺伝子多型との関連も推察された。

 続く2023年3月には、フランスのグループが縮毛矯正剤を背部に塗布したマウスとワセリンを塗布したマウスを比較した報告が、NEJMのcorespondenceに投稿された(NEJM 2023 2024 390 1147)。

 それによれば、縮毛矯正剤を塗布されたマウスでは尿にシュウ酸カルシウム1水和物の結晶が検出され、28時間後のクレアチニン値が有意に上昇し、腎の3次元CTでシュウ酸カルシウム結晶が広汎に沈着していた。

 そして、この縮毛矯正剤にはグリコール酸は含まれておらず、代わりにグリオキシル酸が含まれていたことから、グリオキシル酸が原因の可能性が高まった(同じ矯正剤を使われた女性が治療のたびにAKIを3度発症したことから、上記の動物実験に至った。なお彼女も頭皮に潰瘍ができており、遺伝子検査は陰性だった)。

 続く2023年6月には、スイスのグループがKI Reportに同様の報告を発表し(KI Report 2024 9 2571)、まとめとして、エチレングリコール・ビタミンCと縮毛矯正薬を統合する下図のような病態生理が提唱された。

(出典は前掲KI Reports論文)

  縮毛矯正やグリオキシル酸を鑑別診断として頭の片隅に置いておくことが大切だ(報告は南米、中東などで施術されたケースがほとんどで、濃度やpHなども関係しているのだろう)。ただ、もっと大事なことは、いつどこで発生するかわらない未知の物質による腎障害に備えておくことだろう。

 2022年には小児用せき止めシロップにエチレングリコールが混入し、ガンビアで急性腎障害が多発した(のちにインドネシア、ウズベキスタンなどでも多発した)。そして、最近日本でペブルル酸によるとほぼ確定されたサプリメントによる腎障害が多発したのは周知のとおりである。

 診断のカギは、曝露歴の聴取と病態生理の理解である。


2024/09/22

IVRならではのアプローチ

 血液透析のバスキュラー・アクセスといえば、自己血管内シャント、人工血管内シャント、表在化動脈、そして中心静脈カテーテルである。中心静脈カテーテルは急性期に用いられるカテーテルと、外来透析で長期使用できる皮下トンネルとカフのあるカテーテルに分かれる。

 なお、以前は前者をtemp cath、後者をperm cathと呼んでいたが、残念ながら感染や閉塞などの問題が起きうるため、永久(permanent)には使えない。そのため、最近はトンネル透析カテーテル(tunnelled dialysis catheter, TDC)と呼ばれる。

 カテーテルが使えなくなったら、他の静脈に新しいカテーテルを挿入すればよいのだが、体表からアクセスできる中心静脈は左右の内頚・鎖骨下・大腿静脈の6つしかない(鎖骨下静脈は、上肢腫脹のおそれや同じ側に内シャントが作れなくなるおそれがあり、避けられる)。

 これらの静脈がどれも使えなくなると、非常にまずい。しかし、問題あるところに解決策あり(必要は発明の母である、とも言うが)。そこで、私の知る限り3つの方法が提案されている。それぞれ、Surfacer® Inside-Out Access Cather System、経腰部カテーテル、経肝臓カテーテルである。

・Surfacer® Inside-Out

 2016年に欧州で基準適合となり、2020年に米国で承認された。上大静脈や腕頭静脈が血栓閉塞している場合の解決策で、大腿静脈から挿入したカテーテルを血栓閉塞の右心房側まで進め、デバイスを透視下に透析カテーテルを挿入したい皮膚の位置まで貫通させる。そして、needle wireで体表に出てくる。

(出典はこちら

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・経腰部(translumbar)カテーテル

 腰部から下大静脈にアプローチする方法である。一例は:腹臥位で腸骨稜の少し頭側(L3レベル)から透視下に脊柱起立筋や腸腰筋を貫通し、腎静脈合流部よりすこし尾側の下大静脈を穿刺してガイドワイヤーを挿入する。出口部は、ベルトの位置より頭側でできるだけ前側(中腋窩線)にする(J Bras Nefrol 2019 41 89)。

(出典は前掲論文)

・経肝臓(transhepatic)カテーテル

 腹臥位になれないなどの理由で経腰部アプローチができない場合の選択肢とされ、右・正中・左肝静脈などを通じて下大静脈に至る。どの静脈を穿刺するかはエコーなどで決定され、安全性を考慮し細い支流の静脈が選択される。

(出典はDiagn Interv Radiol 2016 22 560)

 経腰部・肝臓とも第3、第4選択肢であり、血栓閉塞・感染・迷入・屈曲などの合併症は避けられない。経腰部の開存・使用可能率は12か月で45%、経肝臓は挿入後136日で50%にすぎなかった(それぞれ、前掲論文)。

 いずれも、IVRならではの発想であり、インターベンショナル・ネフロロジーを専門にしている経験豊富な施設・医師に任せるべきだと思うが、選択肢を知っておくことは、例によって「いまのアクセスがだめでも、次があります」と言えるので医師と患者の心の支えになるだろう。
 
 それにしても、この世にpermanentなものは、なかなか見つからないものである。しかし、2019年のディズニー映画『アナと雪の女王2』でオラフはアナに"I thought of one thing that's permanent. Love."といった※。

 諦めずに可能性を探ることもまた、変わらない愛なのだろう。

 ※5年前なのでネタバレでも許してほしい。なお先日、アナ雪1と2の監督Jeniffer Leeが、アナ雪3と4(二つでセットの物語になる予定)の制作に集中するためDisney AnimationのChief Creation Officerを退任した。

2024/09/18

膜性腎症とオビヌツズマブ

  膜性腎症に対するリツキシマブの有効性を示すMENTOR試験が発表されたのは、2019年。その2年後には、2021年版KDIGO腎炎・ネフローゼガイドラインで膜性腎症の第一選択薬の一つになった。

 ということはそろそろ、先を行く薬が登場しているころかな・・と思ったら、オビヌツズマブとリツキシマブを比較する中国の一施設試験がCJASNに発表されていた(DOI: 10.2215/CJN.0000000000000555)。

 ヒト化タイプII抗CD20モノクローナル抗体オビヌツズマブ(商品名ガザイバ®)は、タイプI抗CD20モノクローナル抗体のリツキシマブと異なるエピトープを認識して、より効率にB細胞をアポトーシスに至らせる。

 そして、Fc部分についた糖鎖(フコース)を極力減らすことで、Fc受容体を介したナチュラルキラー細胞による細胞傷害やマクロファージによる貪食が起きやすくなっている。

(出典はDrug Design Development and Therapy 2017 11 295)

 もちろんリンパ腫に対して開発された薬だが(日本でも2018年に承認された)、リツキシマブと同様に免疫疾患にも試されている。

 腎臓内科領域では、ループス腎炎に対するプラセボ対照の第2相試験NOBILITYが2022年に発表され(Ann Rheum Dis 2022 81 100)、ステロイド+MMFに追加した介入群は対照群にくらべて104週の完全腎寛解(蛋白尿<0.5g/gCr、正常腎機能、尿RBC 10/hpf未満)の割合が有意に高かった。

 膜性腎症についてはRTX不応・不耐例に試された一施設試験が2020年に発表され(KI Reports 2020 5 1510)、蛋白尿の改善を認めた。

出典は前掲KI Reports

 そして今回の試験では、ACEI/ARBにかかわらず蛋白尿が3.5g/gCr以上(平均約8g/d)でeGFR 30ml/min/1.73m2以上(平均約100ml/min/1.73m2)の原発性膜性腎症患者をオビヌツズマブ群21例、リツキシマブ群42例にランダム化した。

 リツキシマブは375mg/m2を週1回×4(非寛解例は6ヵ月後に再投与:約80%が再投与された)、オビヌツズマブは1gを2週間あけて2回(再投与はなし)のレジメンだった。どちらも初回投与時のみソルメドロール40mgが、そしてすべての投与時にクロルフェニラミン10mgとアセトアミノフェン500mgが前投薬された。

 結果、12か月後の完全寛解(蛋白尿<0.3g/gCrかつ腎機能低下なし)はオビヌツズマブ群の38%、リツキシマブ群の14%にみられた(p=0.04)。不完全寛解を含むプライマリ・アウトカムはオビヌツズマブ群の95%、リツキシマブの67%にみられた(p=0.03)。

 また、PLA2R関連原発性膜性腎症に限ると、PLA2R<2RU/mlの免疫学的寛解はオビヌツズマブの93%、リツキシマブの73%にみられ(p=0.11)、寛解例ではほとんどが6ヵ月後の時点でCD19陽性B細胞が血中からdepleteされていた。

 安全性については、重度の有害事象は両群とも報告されず、感染症(約20%)、infusion-related reactions(約6%)は両群でほぼ同じ割合で、いずれも軽症だった。

 

 「どうせやるならとことん」という感じである。B型肝炎の活性化とPMLがFDAのblack box warningになっているが、これらはリツキシマブにおいても懸念されていたことであり、少なくとも前掲試験では有害事象に差は見られなかった(ただし、両群ともHBV抗体陽性のキャリア例はエンテカビル、潜在結核例はイソニアジドが投与されていた)。

 身近なところでも、移植後FSGS再発など、少しずつリツキシマブ不応例に試されて始めている。臨床現場にいると「今の薬がだめでも次の薬があります」と言えることは医師と患者両方にとって心の支えになる。リツキシマブの次世代薬として、今後オビヌツズマブ(筆者はオビと略しているが)を目や耳にする機会は増えていくと思われる。


ACORNスタディ

  2018年にバンダービルト大学病院が発表したSMART、SALT-ED試験を覚えているだろうか?0.9%NaCl液(生理食塩水)が腎予後に与える害を生理的輸液と比較した、プラグマティック・スタディである。

 大学病院の電子カルテを利用して日常的に行われ、個々の患者に同意をとる必要はなく、臨床上の質問を電子カルテ(Epic®)に「ぽい」と入れれば、何千人という患者を対象にした試験が行える。いやはや、すごいやり方である(もちろん、専門スタッフの助けがあってのことであるが)。

(米国最大手の電子カルテ、Epicのロゴ)

 あれから5年、同じ施設からACORN試験が発表されていた(JAMA 2023 330 1557)!・・今度は、PIPC/TAZ(ゾシン)とCFPM(セフェピム)の腎障害と神経・意識障害を比較した試験である。筆頭著者は当時集中治療科のフェロー(とApplied Clinical Informaticsのマスター)だった。

 PIPC/TAZとVCM(バンコ)の組み合わせでAKIが起りやすいことが多くの後方視観察で示され(メタアナリシスはClin Infect Diss 2017 64 666)、以後少なくとも米国では初期治療の広域スペクトラム抗菌薬がだいたいCFPMになった。

 しかし、動物実験で再現性がないことや、PIPC/TAZはOAT1・OAT3によるクレアチニンの尿細管排泄を抑制することなどから、真の急性腎障害がどれくらいあるかには疑問もあった。いっぽう、CFPMには脳症(神経・意識障害)の心配もある。腎機能低下例でリスクが高いので、経験ある方もいるかもしれない。

 そこで、ACORN試験が行われた。PICOで説明すると:

 P:来院後12時間以内にPIPC/TAZまたはCFPMを処方された救急外来・内科ICUの成人患者。オーダーすると、eligibleな患者は自動的に電子カルテ上でスタディに登録される。

 I:CFPM 2g(5分で静注)8時間ごと※

 ※セフェピムの意識障害はゆっくり点滴した方が起りにくいとされる。

 C:PIPC/TAZ 3.375g(4時間で点滴)8時間ごと※

 ※標準とされる3.375g-4.5g 6時間ごとより少なめである。

 O:14日以内のAKI(レベル1、2、3)または死亡は、CFPM群でPIPC/TAZ群に対してオッズ比0.95(信頼区間0.8-1.1)。腎予後と神経予後については下記(%)で、せん妄または昏睡はCFPM群で有意に多かった。

 ※両群とも約80%の患者がVCMを併用された。

                                CFPM群 PIPC/TAZ群

    死亡                        7.6        6.0

    新規腎代替療法         3.3        2.3

    Crの倍加                  1.3        2.4

    せん妄または昏睡       20.8     17.3

 問題:オープン・レーベルであったこと、約半数が感染症ではなかったこと、両群とも3日程度しか抗菌薬を投与されていないこと(よいことではあるが!)、クロスオーバーが約20%あること、尿細管排泄の影響を受けないシスタチンCを用いていないこと、CFPM群はベースから数字上せん妄・昏睡患者が少し多かったこと、などがあげられる。

 また、感染症雑誌のエディトリアル(doi.org/10.1093/ofid/ofad645)が注目したsupplement結果によれば、投与期間が72時間以上、96時間以上に限ったdeath-censored(死亡例を除外した)AKIステージ2は、PIPC/TAZ群でCFPM群の2倍近くみられた。ただし、サブ解析でありランダム化などが保たれているかは保証できない。

 いわゆる「セフェピム脳症」で困ったことのある筆者としては、このスタディで少しでもCFPM一辺倒の傾向が変わるといいなと思ってしまうが、試験名の通り「どんぐり(acorn)の背比べ」の感は否めない。大事なことは、どちらを使うにしても適切なde-escalationを行って曝露を必要最小限にすることだろう。


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