2020/02/14

とりあえずじゃダメな輸液

 70歳女性。10日前に発熱あり、前医で抗菌薬を処方された。以後、解熱したが咳がつづき、数日前から咳き込むたび吐くようになった。食思不振を心配した家人が「点滴を希望して」受診させた。発熱なし、血圧120/60mmHg、脈拍60/min。


Q1:とりあえず、どうしますか?



 
 外来・救急室で抗生物質くらいよく聞かれるであろう、点滴のお願い。点滴に益はあまりないが、害もあまりない(抗生物質とちがって耐性菌が増えるわけでもない)から、このようにバイタルに問題のない症例でも、お願いを叶えてしまいがちだ。

 また、血液検査をオーダしたあと看護師さんから「輸液もつなげますか?」と聞かれることもあるだろう。静脈路が必要なら採血と一緒に取ったほうが便利だし、患者さんも痛くない。

 しかし、残念ながら「とりあえずの輸液」にも害がないわけではない・・(なお、1Lの輸液が生死を分けるかもしれない話として、他にSALT-EDスタディも参照されたい)。


Q2:以下ですが、どうしますか?

Na 122mEq/l(←138mEq/l)
Cr 1.8mg/dl(←1.0mg/dl)

 Q1で低張の維持液を選択したなら、いまごろ低Na血症を増悪させているだろう。AKIを合併しており、食思不振・体液量減少にともなう腎前性を疑いたくなる。では、高張の細胞外液を輸液すればよいだろうか?


Q3:以下ですが、どうしますか?

体重 52kg(←49kg)
診察 下腿浮腫あり
BNP 1000pg/ml(←100pg/ml)

 よく診ると、もともと本例には心不全の既往があり、食べなくなったのは(ウイルス感染による)心不全増悪のため悪化した、咳のためだった。AKIも同様に、腎うっ血にともなうもの(+RAA系阻害薬の影響)と考えられる。

 だから細胞外液を輸液することは、患者に害になると考えられる。RAA系阻害薬を中止して利尿薬を点滴するのが適切だろう。結果、咳はおさまり、体重・Crもベースに戻り、食事が摂れだし、低Na血症も改善した。


 そもそも最初からよく話を聴いて診察していれば、こうはならないのだが・・。忙しい診療では反射的に対応してしまうこともある。大切なのはフォローして考えなおすことだと、痛感する。そしてそれこそが、医師が「点滴屋さん」と違うところなのだと、信じたい。