米国内科学会誌で、尿中オートブルワリー症候群(urinary auto-brewery syndrome)なる症例が初めて報告され(DOI: 10.7326/L19-0661)話題になっている(下図はネット上も含めた引用度を示すAltmetrics、日を追うごとに上がっている)。
オートブルワリーとは、体内で真菌などが発酵・醸造してエタノールを産生してしまう稀な病態をいう。オートブルワリーがあると、飲酒をしていなくても各種エタノール検査が陽性になってしまうので、社会医学・法医学的に問題になる。
今回の症例も、肝移植のリストに載せるどうかが争点となって見つかった。患者は肝硬変・コントロール不良の糖尿病をもつ60歳代の女性だが、断酒していると主張しているにもかかわらず尿中エタノールが陽性のため他施設でリストに載らず、論文著者の施設にやってきた。
しかし、飲酒していれば上がるはずの血中エタノール濃度や代謝産物が陰性であり、よくみると尿中に大量のグルコース(1000mg/dl以上)と多数の出芽酵母(Candida glabrata)がみられ、尿中のオートブルワリーが疑われた。
そこで論文著者らは患者の尿を採取し、遠心して上清と沈殿(酵母を多く含む)に分けて、それぞれを異なる温度の培養器に入れた。すると24時間後には、沈殿の検体から大量のエタノール(37℃で816mg/dl)が検出された。
発酵を抑制するフッ化ナトリウムで抑制されたことから、エタノールは酵母の発酵で作られたと結論された。そして、移植リストに載せるかについても「再検討」されることになった(血糖や感染など課題が多いので、少なくともすぐには載らなかったのだろう)。
法医学の世界ではすでに、死後に尿中で菌が発酵してエタノールが検出されうることが知られていたが、存命患者の症例報告は今回が初という。大量の出芽酵母と尿糖のある患者じたいはどの国でも珍しくないうえ、今後SGLT2阻害薬の使用が広がれば、こうした事例を目にする機会が増えるのかもしれない。
なお、尿中エタノールが検査に出せない場合は、尿浸透圧ギャップが手がかりになるかもしれない。が、その際には「計算上の尿浸透圧」を求めるときに尿糖(mg/dlなら18で割る)を加えるのを、お忘れなきよう(以前の投稿では含めなかったので!)。