2017/07/17

がん患者での急性腎不全 4

今回はパート4になる。
造血幹細胞移植とAKIについて簡単に触れようと思う。


まず、
★造血幹細胞移植とはなにか?
造血幹細胞移植:Hematopoietic Stem Cell Transplant (HSCT) は造血幹細胞(血液細胞である白血球、赤血球、血小板のおおもとになる細胞)を輸注し、それが骨髄に根付くことによって造血機能の再構築をはかる代替療法である。


造血幹細胞移植を行う目的としては、骨髄の最大用量を上回る大量の抗がん剤や放射線照射による治療を可能とすることと、ドナー免疫に由来するGVL(Graft versus Leukemia:移植片による抗白血病効果)やGVT(Graft versus Tumor:移植片による抗腫瘍効果)を得ることができることである。


1960年代から行われ始めており、今では血液腫瘍治療では欠かせないものになっている。




★造血幹細胞の種類(採取方法について)
①骨髄移植
ドナーに全身麻酔をして腸骨(腰の骨)から採取した骨髄液を、レシピエントの静脈へ点滴で注入。HLA型の適合は重要。

生着まで:2-4週間

②末梢血幹細胞移植
ドナーに白血球を増やす薬(G-CSF)を3~4日間、連続注射し、末梢血中の造血幹細胞が増えたところで血液成分分離装置で造血幹細胞を採取し、骨髄移植と同様にレシピエントへ移植。

生着まで:2-3週間

③臍帯血移植
臍帯血は、母親と胎児を結ぶ臍帯と、胎盤の中に含まれる血液で、その血液中に造血幹細胞がたくさん含まれている。臍帯血バンクでは臍帯血を保存し、移植の必要な患者さんに提供し移植。メリットとしてはドナー負担がなく移植可能なHLA型が広い。

生着まで:3-4週間

★造血幹細胞の種類(用いる検体について)
①自家移植
患者自身の造血幹細胞を事前にあらかじめ採取・保存し、それを幹細胞移植に用いる方法
・利点:拒絶・GVHDリスク低い、ドナー不要
・欠点:自己の造血幹細胞に腫瘍細胞が混入している可能性、GVL効果・GVT効果は期待できない。

②同種移植
HLAの一致した健常ドナーから提供された造血幹細胞を移植に用いる方法。
・利点:GVL効果・GVT効果が期待できる。
・欠点:拒絶・GVHDリスクあり。免疫抑制剤を用いるので感染にかかりやすい。ドナーがみつからないことも。

★造血幹細胞の分類(前処置の種類によるもの)
移植前には大量の抗がん剤投与、および放射線照射による治療がおこなわれる。
前処置の強さで2つにわかれる。
①フル移植(骨髄破壊的前処置)
様々な方法があるが、多くは全身放射線療法+エンドキサンの大量療法

②ミニ移植(骨髄非破壊的前処置)
前処置が弱いため腫瘍細胞が残ってしまうが、その後のドナー由来のリンパ球による GVL効果 、GVT効果で腫瘍細胞の排除を目指す。
高齢者や臓器障害がある患者や体力低下した患者にも可能であるが、再発が増加する危険差異はある。


ここまで、前置きがかなり長くなってしまったが、造血幹細胞移植とAKIに関しては高頻度で認める。
報告も様々ではあるが、10-73%と幅は広い(NEJM 2016←秀逸なReviewなので一読すべし)。
また、透析を要する重症のAKIの割合は5%程度と言われている(Bone Marrow Trans 2011)。

★リスクファクター
体液量減少、敗血症、腎毒性薬物の使用、GVHD、SOS(sinusoidal obstruction syndrome)などがリスクになる。

※腎毒性薬物:バンコマイシン、アミノグリコシド、アシクロビル、アンホテリシンなど。また、カルシニューリン阻害薬も関連する。

※SOS:放射線や大量化学療法(特にアルキル化剤)で類洞内皮細胞障害や肝細胞障害を起こし肝臓の小血管が閉塞し、門脈圧亢進症を呈する状態。いわゆるhepatorenal-syndromeを起こすので腎臓は強い血管収縮から虚血をきたし腎不全を起こす。発症時期は移植後3か月以内が多い。

※上記にはないが、ウイルス感染は重要。ウイルスとしてはアデノウイルス、BKウイルス、サイトメガロウイルスなどである。


今回は造血幹細胞移植のAKIを少し話した。
ここで、分かるように患者さんがどんな移植をうけたかを知ることは重要である。

つまり、自家移植なのか同種移植なのか(これによってGVHDなどのリスクや免疫抑制剤内服の事など分かる。)
前処置はフル移植かミニ移植か(ミニ移植であればSOSのリスクは低い)

今回のことが少しでも何らかの腎機能障害を見る時のツールになればうれしい。