腎疾患に関連した最も恐るべき皮膚疾患といえばNSF(Nephrogenic Systemic Fibrosis、ガドリニウム造影剤に関連した全身の線維化)だが、その次はcalciphylaxisだろう。どちらもcripplingで、かつ有効な治療法がない。透析患者さんにガドリニウムを避けるようになってからNSFはまず診ることはないが、きょうはcalciphylaxisかもしれないという症例にあった。
Calciphylaxisとは全身のリン酸カルシウム結晶の沈着で、いうなれば全身が骨になる病気だ。とくに沈着するのは小血管内膜で、それゆえ皮膚や皮下脂肪に網状の皮疹や発赤、潰瘍などができる。透析患者さんに圧倒的に多い現象だが、腎疾患(PTH、血清リン値)がコントロールされていないと起こるというわけでもなく、原因はいまだ不明だ。ワーファリン内服と関係しているともいわれる。
治療もまた決定的なものはなく、皮膚科、外科、腎臓内科などが一緒になって局所治療やCa、P、PTHをコントロールする。Sodium thiosulfateは、理論上不溶性のカルシウムを水溶性のCalcium thiosulfateに変えることで結晶沈着を抑えるはずだが、痛みなど症状を緩和したというわずかな報告があるだけでその有効性は未知数だ。
クマさんがおしっこしないで冬眠できるのも、じん臓が一日に体液の何十倍もろ過してから不要なものを残して再吸収するのも、じん臓の替わりをしてくれる治療があるのも、すごいことです。でも一番のキセキは、こうして腎臓内科をつうじてみなさまとお会いできたこと。その感謝の気持ちをもって、日々の学びを共有できればと思います。投稿・追記など、Xアカウント(@Kiseki_jinzo)でもアナウンスしています。
2011/07/30
ピンチ
緊急透析するには透析カテーテルを挿入する必要がある。そして私は透析カテーテルを挿入することが困難な状況など余り考えたことがなかったが、きょう困難な症例に出会った。それは虚血性心筋症による心不全でLVAD(左室補助デバイス)が挿入されている患者さんの急性腎不全だった。
無尿になって、わずかな尿を鏡検すると典型的なbrown granular castが見える。透析カテーテルが必要だなと思いながら何気なく胸部X線を見ると、上大静脈がラインで既に一杯だ。よく見ると、右から挿入された両室ペーシングのリード(二本)、AICD(二本)、それに左鎖骨下静脈から挿入されたHickman Catheter(home milrinon infusionのため)の計五本でごった返している。
こんなところに太い透析カテーテルが入るわけがない。たとえ入っても良いフローが得られるか判らないし、突っ込んで抜けなくなったら大変だ。INRは3.9(血液が固まりにくくなっているということ。僧帽弁置換後で抗凝固剤を飲んでいる)だし、大きな穴を内頚静脈に開けてラインを入れてからオメオメ引き抜くわけにもいかない。
「なら大腿静脈に挿入すれば?」と言いたいところだが、患者さんの状況から言って腎不全はそう簡単に治りそうもないし、大腿動脈カテーテルから持続透析を行うと患者さんは24時間臥位のまま全く動くことができない。「IR(放射線科医)に透視下にやってもらえば?」と言おうにも時は金曜日の午後、週末にIRを動かすのは至難の業だ。
この状態は、挿管困難などで気道確保が保証されない状況におかれた集中治療医のピンチに通じるものがあるだろう。腎機能がシャットダウンして透析ができなければ、早晩に(他の臓器がシャットダウンした時に比べればゆっくりだが)万事は休する。結局、INRはビタミンKでリバースして、へパリン持続静注を開始し、大腿静脈カテーテルを挿入することになりそうだ。
無尿になって、わずかな尿を鏡検すると典型的なbrown granular castが見える。透析カテーテルが必要だなと思いながら何気なく胸部X線を見ると、上大静脈がラインで既に一杯だ。よく見ると、右から挿入された両室ペーシングのリード(二本)、AICD(二本)、それに左鎖骨下静脈から挿入されたHickman Catheter(home milrinon infusionのため)の計五本でごった返している。
こんなところに太い透析カテーテルが入るわけがない。たとえ入っても良いフローが得られるか判らないし、突っ込んで抜けなくなったら大変だ。INRは3.9(血液が固まりにくくなっているということ。僧帽弁置換後で抗凝固剤を飲んでいる)だし、大きな穴を内頚静脈に開けてラインを入れてからオメオメ引き抜くわけにもいかない。
「なら大腿静脈に挿入すれば?」と言いたいところだが、患者さんの状況から言って腎不全はそう簡単に治りそうもないし、大腿動脈カテーテルから持続透析を行うと患者さんは24時間臥位のまま全く動くことができない。「IR(放射線科医)に透視下にやってもらえば?」と言おうにも時は金曜日の午後、週末にIRを動かすのは至難の業だ。
この状態は、挿管困難などで気道確保が保証されない状況におかれた集中治療医のピンチに通じるものがあるだろう。腎機能がシャットダウンして透析ができなければ、早晩に(他の臓器がシャットダウンした時に比べればゆっくりだが)万事は休する。結局、INRはビタミンKでリバースして、へパリン持続静注を開始し、大腿静脈カテーテルを挿入することになりそうだ。
Creatinine secretion
腎臓内科にいる以上、患者さんが服用した全ての薬剤をチェックして、腎障害を起こすものがないか吟味しなければならない。NSAIDs(イブプロフェンのような鎮痛剤)、造影剤、抗生剤のような有名なものを見逃さないのは無論だが、腎機能が悪化したタイミングで始められた新しい薬剤があれば何でも、腎障害の副作用がないか確認する。
そこで最近目にするのが、「この薬はクレアチニンの尿細管排泄を促進するので血清クレアチニンが見掛け上高くなります」という表示だ。たとえばranolazine(商品名Ranexa、抗狭心症薬)、それにTS合剤(Bactrim、抗生剤)。そこで「この薬を飲んでから血清クレアチニン濃度が上がりました。これは間質性腎炎による腎障害ですか、それとも見掛け上高まっただけですか?」という議論になる。
この問いの答え次第で薬を飲むか飲まないか(他の薬に変えるか)が決まるわけで、ふたつを鑑別できることは臨床上重要だ。先生によれば、三つのポイントがあった。①クレアチニン排泄が増えても血清クレアチニンは健常人で0.1mg/dl程度しか上がらないはず。②クレアチニン排泄だけが問題ならBUN(尿素)は動かないはず。③クレアチニン排泄が問題なら、薬をやめて48時間以内にクレアチニン濃度は元に戻るはず。
しかしこれらにも限界がある。たとえば①は、もともと腎疾患があるような場合には血清クレアチニン上昇幅が大きいかもしれない。また②についても、急性期の場合は異化や栄養状態などによりBUN値も動きうる。そんなわけで鑑別は難しく、最終的な決定はリスクと利益を勘案して主治医(primary team)が判断することになる。
そこで最近目にするのが、「この薬はクレアチニンの尿細管排泄を促進するので血清クレアチニンが見掛け上高くなります」という表示だ。たとえばranolazine(商品名Ranexa、抗狭心症薬)、それにTS合剤(Bactrim、抗生剤)。そこで「この薬を飲んでから血清クレアチニン濃度が上がりました。これは間質性腎炎による腎障害ですか、それとも見掛け上高まっただけですか?」という議論になる。
この問いの答え次第で薬を飲むか飲まないか(他の薬に変えるか)が決まるわけで、ふたつを鑑別できることは臨床上重要だ。先生によれば、三つのポイントがあった。①クレアチニン排泄が増えても血清クレアチニンは健常人で0.1mg/dl程度しか上がらないはず。②クレアチニン排泄だけが問題ならBUN(尿素)は動かないはず。③クレアチニン排泄が問題なら、薬をやめて48時間以内にクレアチニン濃度は元に戻るはず。
しかしこれらにも限界がある。たとえば①は、もともと腎疾患があるような場合には血清クレアチニン上昇幅が大きいかもしれない。また②についても、急性期の場合は異化や栄養状態などによりBUN値も動きうる。そんなわけで鑑別は難しく、最終的な決定はリスクと利益を勘案して主治医(primary team)が判断することになる。
Osmotic gradient
Furosemideがヘンレ上行脚のNa-K-2Clトランスポーターを阻害することは知られているが、そこで水の再吸収が行われているわけではない。ではなぜ、Furosemideによって水排泄が促進されるのだろうか。このように、現象としては常識なことも生理学的に問われると答えに詰まる。
正解は、furosemideによってネフロンの浸透圧勾配(osmotic gradient)が消失するから。水の再吸収と尿の濃縮は、それぞれヘンレ下行脚と集合管で行われるが、そのためには腎髄質の高浸透圧が必要だ。これを維持しているのがヘンレ上行脚なのである。Na-K-2Clで細胞内に再吸収されたNaは、血管側にあるNa-K ATPaseによって汲みだされ体循環に帰っていく。
この話は回診で一週間前くらいにあったが、なかなか一回聴いて全部覚えられるものではない(先生は一回で覚えなければならないとおっしゃるが)。同僚のフェローが同じ質問をしたら、先生は「この話、前にしたよね…」と言いつつちゃんともう一度教えてくれた。私も忘れていたので復習できてよかった。
正解は、furosemideによってネフロンの浸透圧勾配(osmotic gradient)が消失するから。水の再吸収と尿の濃縮は、それぞれヘンレ下行脚と集合管で行われるが、そのためには腎髄質の高浸透圧が必要だ。これを維持しているのがヘンレ上行脚なのである。Na-K-2Clで細胞内に再吸収されたNaは、血管側にあるNa-K ATPaseによって汲みだされ体循環に帰っていく。
この話は回診で一週間前くらいにあったが、なかなか一回聴いて全部覚えられるものではない(先生は一回で覚えなければならないとおっしゃるが)。同僚のフェローが同じ質問をしたら、先生は「この話、前にしたよね…」と言いつつちゃんともう一度教えてくれた。私も忘れていたので復習できてよかった。
腎血流シンチ
腹部大動脈瘤の修復術後に急性腎不全が見られるのは仕方がないことだ。というのも術中に大動脈をクランプしなければならない(から腎血流が遮断される)からだ。血流が滞ることにより腎動脈に血栓が出来てしまうこともある。術中の低血圧や造影剤による腎障害など、他にも腎臓に悪い条件が重なるperfect stormだ。
今月もそんな患者さんを診ていたが、senior fellow(F2、一年先輩)が残存腎機能を推定する手掛かりに、腎血流シンチグラフィをオーダーするという妙案を思いついた。果たして結果は、右腎血流の完全な途絶と、左腎上極の血流障害(腎梗塞)だった。残念ながら患者さんが透析から離脱する可能性は低そうだ。
この症例を通して、シンチグラフィを思いついた先輩の機転に恐れ入った。コロンブスの卵というか、言われてみればそうだが、思いつくのは中々簡単ではない。このレベルに達するには、腎臓内科医が持つツールを熟知することと、腎臓内科医として「いかにして腎臓を助けられるか」「いかに腎臓が回復するか」という視点を持つことが必要だ。
今月もそんな患者さんを診ていたが、senior fellow(F2、一年先輩)が残存腎機能を推定する手掛かりに、腎血流シンチグラフィをオーダーするという妙案を思いついた。果たして結果は、右腎血流の完全な途絶と、左腎上極の血流障害(腎梗塞)だった。残念ながら患者さんが透析から離脱する可能性は低そうだ。
この症例を通して、シンチグラフィを思いついた先輩の機転に恐れ入った。コロンブスの卵というか、言われてみればそうだが、思いつくのは中々簡単ではない。このレベルに達するには、腎臓内科医が持つツールを熟知することと、腎臓内科医として「いかにして腎臓を助けられるか」「いかに腎臓が回復するか」という視点を持つことが必要だ。
2011/07/29
リン
腎臓内科を始めてからリン(phosphorus)に注意を払うようになった。というのも腎臓が悪くなるとリンが排泄できなくなるからだ。リンはDNA、RNAなどの骨格に含まれるほか、細胞膜(リン脂質)の主成分でもあり、いたるところに存在している。だからリンは大体の食品に含まれているわけだが、こちらでは牛乳やチーズなどの乳製品をとくに避けるよう指導している。マメ類にも多いが、いまの先生によれば野菜類に含まれるリンは体内に吸収されないらしい。
体内におけるリンの代謝とその制御はとても複雑で、正直腎臓内科を選ぶときに「こんなの判るようになるのかな」と心配したほどだが、少しずつ理解している。低リン血症で入院になった患者さんがいて、カルシウムもPTHもVitamin Dも何も問題ないのにリン濃度だけが補っても補っても下がる。こういう場合は、腎臓がリンをどんどん捨てているわけで、そのシグナルを送っているのはFGF-23を最も考えるらしい。まれだがFGF-23 secreting tumorと言うのがあるそうだ。
体内におけるリンの代謝とその制御はとても複雑で、正直腎臓内科を選ぶときに「こんなの判るようになるのかな」と心配したほどだが、少しずつ理解している。低リン血症で入院になった患者さんがいて、カルシウムもPTHもVitamin Dも何も問題ないのにリン濃度だけが補っても補っても下がる。こういう場合は、腎臓がリンをどんどん捨てているわけで、そのシグナルを送っているのはFGF-23を最も考えるらしい。まれだがFGF-23 secreting tumorと言うのがあるそうだ。
TRI
こちらにきて沢山の症例を毎日見ているが、腎生検は二件しかしていない。今日はその一件について、みんなで回診中に腎病理の先生のところまで話を聞きに行ってきた。そしてtubulo-reticular inclusion(TRI)のことが勉強になった。先生によればこれはinterferonによるものらしく、それを惹起するウイルス感染、炎症(とくにlupus)、それにinterferon治療そのものなどが主な原因という。ただしlupusであれば、多くの場合免疫複合体の沈着が見られるらしい。
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