2012/11/03

Beyond ACEI/ARB

 ACEIとARBを最大限に用いても持続する蛋白尿には、spironolactoneが用いられる。Aldosteroneは腎臓でENaCに作用するだけでなく、線維化、左室肥大、内皮細胞障害などにも関わることが分かっているし、ことに循環器領域ではEPHESUS(Circulation 2009 119 2471)など複数のスタディでMRA(mineralocorticoid receptor antagonist)の有効性が示されている。腎臓、蛋白尿についてはどんなデータがあるのか?

 1996年にGreenらがACEI/ARB投与ラットにアルドステロンを投与すると蛋白尿が増悪することを示した(JCI 1996 98 1063)。さらにアルドステロンがNADPH oxydase、ERK1/2などの細胞内シグナルを介してmesangial/fibroblast prolifilation、podocyte injuryを起こすことも示された(Nature Review Nephrology 2010 6 261)。

 2009年にはspironolactone(25mg/d)をlosartan(100mg/d)、placeboと比較したスタディがでた(JASN 2009 10 2641)。これによればspironolactoneはlosartanよりもanti-proteinuric effectがあり、それは血圧と無関係であった。しかしspironolactoneは高K血症を起こした(20%でKが6.0mEq/l以上になった)。現在、Kを上げずに蛋白尿を抑えるようなselective MRAが研究されている。

PKD v. desensitization

 Living donorがいてABOないしクロスマッチが不適合の場合、選択肢はPKD(paired kidney donation)かdesensitizationだ。それぞれの第一人者のトークが聴けた。PKDを熱心に(30-40/year)しているNorthwestern Memorial Hospitalの先生は、自分の経験したnon-simultaneous  extended altruistic-donor chain(NEJM 2009 360 1096)を紹介した後、KPDには脆さ(chainは簡単に壊れる)があるし、cPRAが高ければいくらプールを広げてもマッチする可能性は低いが、効率をあげれば全米で年に1000-2000件は行けるのではないかと話した。

 Desensitizationを熱心にしているJohn Hopkinsの移植外科医は、やはり自分の経験した211例(mean cPRA 82、NEJM 2011 365 318)についてまず話し、術前後にIVIGと血漿交換をおこなうこと、Death-censored graft survival、patient survivalはcompatibleな移植例に比べれば悪い(抗体価の強さに応じてLuminex、Flow、CDCの順に悪い)が、移植を受けずに透析しながらマッチを待つのに比べれば(たとえCDCクロスマッチ陽性でも)良いと主張した。

 次に、LuminexやFlowをクロスマッチに用いる、脱感作にIVIGと血漿交換を用いるなどは全米の施設にほぼ共通したプラクティスと主張した(CJASN 2011 6 2041)。これを彼は"eminence-based medicine(誰かが始め、皆が従い、慣習になる医療)"と呼んだ。Rituximab、Bortezomibの話はでなかったが、Eculizumabの話は出た(NEJM 2010 362 1744、catastrophic APSの一例だが)。

 そのあとPKDとdesensitizationの比較に話は及び、cPRAとDSAと血液型できれいに治療方針を分けていた。Low PRA、low DSA、O donorならKPD、Low PRA、high DSA、O donorもPKD、High PRA、low DSA、non-O donor(とくにAB)、O recipientならまずPKDでマッチしない(モデルで示した論文はJAMA 2005 293 1883)からdesensitization、High PRA、high DSA、non-O donor、O recipientならPKDもdesensitizationも難しい。

 しかし、実際は最後のカテゴリーが一番多い…。彼はPKDでDSA抗体価の少ないドナーをみつけて脱感作するというコンビネーションを薦めていた。ただPKDは前述のようにchainがbreakしてしまうことが多々あり、実際は困難を極める。DSAのタイプ(DQが特に悪い?)についても会場から質問が出たが、まだスタディなどでvalidateはされていないようだ。

2012/11/02

それ知ってる

 今回は、2010年のNKFと違って「それ知ってる」ということも多い。遠位尿細管のNa再吸収などはその一例で、Framingham study cohortのGitelman、Bartter症候群遺伝子のhaplotypeが低血圧という話などは「はいはい(それについてはうちのGrand Roundでも発表しました)」と思えた。

 でもそのあと、生理学者らしき人が出てきて、ROMKチャネル、NKCC2チャネル、NCCチャネルの遺伝子変異が具体的にチャネルのどの部分に起こりチャネルをどう変容するかについて説明しだしたときは「恐れ入りました」と舌を巻きつつ「ここまで知らなくてもいいけどな」と思い、不謹慎ながら笑いがこみ上げた。

 ROMKの変異箇所は主にcytoplasmic domainにあり(Am J Physiol Ren Physiol 2010 299 F1359)、mis-trafficking(Goldi体に異常チャネル蛋白が溜まる、Cell 2011 145 1102)を起こしたり、PIP2というチャネルの開放に関わる箇所でPIPが外れるようになったりしているらしい。

 NKCC2の変異は、processing problem、altered response to low intracellular Clを起こしているらしい(Am J Physiol Ren Physiol 2011 300 F840)。そしてNCCは、NCC自体の変異というのはあまりない(あっても機能はほとんど正常と変わらない、J of Hypertension 2011 29 475)が、それを制御するWNKsやSPAKの異常が問題なようだ。


鉄の副作用

 今回ハリケーンSandyの影響で、iron in CKD/ESRDのセッションでは演者二人が来れず、一人はBostonから電話でプレゼン(司会がパワーポイントを操作)、もう一人は代わりの演者を立てるなど学会は対応に追われていた。電話で講演したのはMGHのBabitt先生で、彼女のHepcidin/ferroportinについてのトークはJASNのレビューを読んだ後なので理解が深まった。

 彼女の研究分野はどのように鉄が肝のHepcidin分泌を促進するかで、hereditary hemochromatosisの遺伝子異常に注目してその一つHJVがBMP6のco-receptorであることを示した(Nat Genet 2009 41 482)。その下流はSMAD(Blood 2008 112 1503)。Fc HJVも作って、ESAと併用するとESA resistantが解けることも調べた(JCI 2007 117 1933)。

 鉄の副作用について話す予定だったのはDr. Fishbaneだが、Long Islandの病院で働く彼は来れなかった。彼のスライド(他の先生が代わりに講演した)によれば、鉄の副作用に①anaphylactoid(iron dextranを使わない現在では稀)、②iron overload、③infection、④oxidative stressなどがある。

 ②は、剖検するとかなりのESRD患者で肝iron overloadが見られた(JAMA 1980 244 343)、剖検しなくてもMRIで肝のiron overloadが見られた(KI 2004 65 1091)という報告がある。どちらもFerritinは相関しなかった。ただし肝iron overloadのclinical significanceは不明だ。

 ③はanimal modelでのtheoreticalな話かと思ったら透析患者さんでも調べられており、S. epi growth indexなる数値が上がった(NDT 2000 15 1827)とか、neutrophil functionが下がった(KI 2003 64 728)とか報告があった。④はよく分からなかった。

ESRDと掻痒

 ESRDと掻痒について。特に注意して聞かなければ、患者さんから訴えることは少ない。以前はESRDの半数以上と言われていたが、DOPPSでは各国で約40%という(NDT 2006 21 3495)。痒みのメカニズムは何らかのシグナル(keratinocytes、mast cell、eosinophilなど)が神経終末に伝わるのが始まり。

 ヒスタミンを介したtransmission(HR4、IL31、TRPV1らが関与)、介さないtransmission(PAR-2などが関与)がある(Lancet 2003 361 690、Trends in Neuroscience 2010 33 550)。それが脊髄dorsal hornで脊髄神経にスイッチし、脳に伝わる。Functional MRIによればDFC、PCC、ACCなどが痒みに関係しているようだ(Br J Dermatol 2009 161 1072)。

 痒み神経線維と痛み神経線維は別と考えられ、痛みはVglut2を介してシナプスが交代するのに対し痒みはVglut1/3を介する(Neuron 2010 65 886)。さらに痛み神経はBhlhb5を介して痒み神経を抑制するのでBhlhb5を抑制するとマウスが痒がる。

 さて、ESRDと掻痒の関係はどうか?以前は二次性副甲状腺亢進症が悪いと考えられ、Cinacalcetが痒みを改善したというデータもあった。しかしDOPPS、ITCH National Registryなどのデータによれば痒みの程度とPTH、P、Ca、Mg、透析のefficiencyなどに相関はなかった(CJASN 2010 5 1410)。相関があったのはHep B/C(NDT 2008 23 3685)、CRP。

 現在では慢性炎症が重要なリスク因子と考えられ、痒みは慢性炎症のmanifestationであるがゆえにsurvivalとも相関している(Q J Med 2010 103 837、KI 2006 69 1626)ことも示された。Depressionとも相関しているという(DOPPSデータ)。

 さまざまな治療があるが、moisturising cream、capsaicinが最もよく用いられちゃんとしたデータもあるようだ。tacrolimus cream、endocannabinoids、γ-linolenic acidなども試されている。鍼はsystematic reviewが出ているし(J of Pain and Symptom Management 2010 40 117)、κ opioid agonistのnalfurafineも複数のcontrolled studyで有効性が示された(Am J Nephrol 2012 36 175)。SSRI、serotonin agonist(ondansetronの仲間)、gabapentin/pregabalin、UVBなども用いられている。

 腎臓内科にいると、このような皮膚科や神経内科領域ともオーバーラップするので飽きることがない。


[2013年12月追加] κ opioid agonistのnalfurafineは、すでに日本で適応が通っている(商品名レミッチ®、2.5mcg眠前)ことが分かった。μ受容体刺激はかゆみを起こし、κ受容体刺激はかゆみを抑えるという。副作用に不眠も傾眠もあるようだ。


[2019年11月11日追加]上記のnalfurafineは、むしろ2019年現在日本でしか認可されていない。米国でも治験は行われているようだが、nalfurafineは中枢神経系にも作用する「オピオイド受容体アゴニスト」なだけに、オピオイド禍に悩む米国でのハードルは高いかもしれない。

 それもあってか、当地では中枢神経系に入らず末梢組織限定のκ opioid angonist、difelikefalin(ダイフェリケファリン)が開発されている。そして、血液透析患者での第3相試験、KALM-1の結果が、11月8日にニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに載った(doi:10.1056/NEJMoa1912770)。

 ・・だけでなく、同じ日にワシントンDCで開催されていたKidney Weekでも"High Impact Clinical Trial"の一つとして発表された。

 スタディは、ダイフェリケファリン0.5mcg/kgを週3回透析後に12週間静注した群(189人)は、プラセボ群(188人)とくらべたもの。両群とも平均年齢は50歳代、透析年数は約4年、カルシウムは8mg/dl台、リンは5mg/dl台。かゆみは約3年訴え、かゆみスコアWI-NRSは平均7点(最悪のかゆみが10点)とたかいが、約4割しか抗ヒスタミン薬などの治療を受けていなかった。

 結果は、12週時点でWI-NRSが有意に低下し(3点以上の低下は介入群で57%、プラセボ群で28%)、ADLへの影響も有意に低下していた。副作用でプラセボより介入群で多かったのは、下痢、嘔吐、たちくらみなどだった。





 KALM-1を受けて、欧州・英国・韓国・台湾・オーストラリア・ニュージーランドを含めたKALM-2(NCT03636269)が行われているという。日本では治験されていないが、いずれ入ってくるかもしれない。あるいは、国産で第2・第3世代のκ受容体アゴニストが開発されるかもしれない。

 Nalfurafineが登場して助かった患者さんもいるが、残念ながらあまり効かない患者さんもいる。どこの薬にせよ、患者さんのQOL向上につながるとよいなと思う(下図は日本昔ばなしの『河童のくれた妙薬』。同様の伝説は、日本各地にあるそうな)。









2012/10/23

Hypomagnesemia and hypokalemia

 電解質異常・酸塩基平衡は腎臓内科の専売特許ではない。こないだ総合内科の診療チームの部屋で共有する患者さんの治療方針について議論していたら、ふとホワイトボードをみると細胞とイオンチャネルの図が描いてある。聞けば、チームについている医学生が「どうして低Mg血症があると低K血症は治りにくいのか」について論文を調べて講義したのだという。

 正直この質問については「まだ良くわかっていない」という答えに安住していたので、感心して彼の見つけた論文(JASN 2007 18 2649)を読んだ。著者によれば低Mg血症は低K血症の半数以上にみられ、低Mg血症が低K血症の治療を困難にする理由は"remains unexplained"としつつもどうやらそれが遠位尿細管での尿K排泄の亢進によるらしいと主張し説明している。

 というのも、Bartter症候群の患者やHCTZ服用の患者にMgを補うと尿K排泄が減り、健常な人にMgを静注するとに尿K排泄が減り、Gitelman症候群の患者にMgを静注するとTTKGが減るからだ。遠位尿細管でのK排泄はROMK(non-flow stimulated)とmaxi-K channels(flow stimulated)が司るが、MgはROMKを通じたK排泄を抑制しているらしい。

 ROMKはチャネル(ポンプではない)なのでKは自由に出入りできる。ただmembrane potential(細胞内が陰性チャージ)による内向きK流とカリウムのgradient(細胞内にKがたくさん)による外向きK流が平衡して、通常はKが外に排泄されている。しかし細胞内にfree Mgがあると、これが内側からチャネルの孔をふさいでK排泄を抑制するのだ(Science 1994 371 243)!

 では低Mg血症のとき、尿細管細胞内のfree Mg濃度もやはり低いのだろうか。実は、これを直接証明した人はまだいない。まずMgは60%が骨、38%が細胞内、2%がplasmaなど細胞外液にある。細胞内Mg濃度は10-20mMだが、free Mg濃度は0.5-1mM。細胞内外のMgは3-4時間で100%入れ替わる(Biometals 2002 15 203)ので、おそらく低Mg血症なら細胞内 free Mgも低いだろうと著者は推測している。

 OK、では低Mg血症だが低K血症を起こさない疾患(TRPM6変異など)はどう説明する?著者は、いくらROMKの滑りが良くなっても、流れを起こすdriving forceがなければK排泄は変わらないだろうと主張し、driving forceの例に遠位尿細管へのNa delivery、アルドステロンなどを挙げている。この論文はextremely interestingだった、関連論文も読みたい。


Anemia in CKD

 今月は仕事が忙しくなくて、読む時間があるので勉強になる(それに、他のアカデミックなプロジェクトが色々進んでいる)。読むのはだいたい症例で経験した臨床的なトピックに関する論文で、今日は慢性腎不全と貧血についてのレビュー(JASN 2012 23 1631)を読んだ。

 貧血が慢性腎不全患者のほぼ全員に起こり、QOLを下げ多くの疾患のリスク因子であることは既に知られている。EPO(erythropoietin)が1950年代に発見され、1980年代にrecombinant human EPOが作られたまでは良かったが、それで話は終わらない。

 まず、ESA(erythropoiesis stimulating agent)によりHgbを上げ過ぎた群では死亡や疾患リスクが高かった(secondary analysesでは高いHgb自体ではなくEPO resistanceがリスクと示されたが)。それで、KDOQIガイドラインは"should generally be in the range of 11.0 to 12.0 g/dL"だった。

 さらに、最近のKDIGOガイドライン(KI supplement 2012 2 299)では"In general, we suggest that ESAs not be used to maintain Hb above 11.5 g/dl"とターゲットが引き下げられた。ESA開始時期も、非透析患者は"ESA therapy not be initiated with Hb concentration >10.0 g/dl"、透析患者は"ESA therapy be used to avoid having the Hb concentration fall below 9.0 g/dl when the hemoglobin is between 9.0–10.0 g/dl"という。

 さらに、ESA resistanceがあるように、慢性腎不全患者の貧血はmulti-factorialだ。uremic inhibitors of erythropoiesis(想像上だが)、赤血球の短寿命、ビタミンB12不足(透析で失われると考えられ、透析患者さんはnephrocapというビタミン剤を飲む)、それに何より鉄欠乏だ。

 鉄欠乏の原因に、鉄喪失(透析で失われる、uremic platelet dysfunctionによる出血)、鉄吸収障害、鉄利用障害(reticulo-endothelial cell iron blockade)などがある。鉄利用障害があると、ferritinが高値でiron saturationが下がる(ferritinは急性炎症でも上がるが)。

 鉄吸収・利用障害の原因は?と思っていたら2000年にhepcidinという分子が発見された。これは肝臓で作られ血中をめぐり、鉄トランスポータのferroportinを壊す。このトランスポータは十二指腸、マクロファージ、肝細胞などにみられ、hepcidinがあると鉄吸収・鉄利用ができなくなる。hepcidin/ferroportin axisに効く薬が動物実験レベルで研究中という。

 [2015年5月追加]鉄欠乏性貧血のレビューがでたのを知った(NEJM 2015 372 1832)。鉄の吸収はHIF-2αにより腸管細胞の内腔側に表出されるduodenal divalent metal transporter 1 (DMT1)を通じて細胞内に入り、ferroporinによって細胞の外にでて身体をめぐる。そのためにはferroportinを壊すhepcidinが抑制されていなければならないが、hepcidinを抑制するものには次のようなものがあるという:

 鉄が結合したtransferrinや肝内鉄量の減少
 hepcidinのinhibitorであるtransmembrane protease, serine 6 (TMPRSS6)の上昇
 hepcidinのactivatorであるbone morphologic protein 6 (BMP6)の減少
 hepcidinを抑制するerythropoietin-stimulated erythropoiesisの増加