2016/08/01

Crystals and Chemicals

 58面体にカットされたダイヤモンドをブリリアントカットと呼び(図)、1919年、ベルギー生まれのポーランド系ユダヤ人Marcel Toklowskyが20歳の時にロンドン大学大学院の研究論文として考案した。数学者であった彼がコンピュータのない時代にダイヤモンドの反射・屈折率を考慮して最も光り輝くように計算したのだ。
 これはideal cut(理想のカット)とも呼ばれ、現在までダイヤモンドカットの基本になっている。天才が才能で世界に貢獻するのは本当に素晴らしいことだなと思う。彼は1940年にニューヨークに移住して、1975年に引退するまで宝石デザイナー、宝石商として活躍した(New York Times 1991年2月15日付の追悼記事)。
 58面は、トップのtable、8個のstar facets、8個のkite facets、16個のupper girdle facets、16個のlower girdle facets、8個のpavilion main facets、そしてボトムのculetからなる。Culetをなくした場合は先がとがった57面体になる。ただこのカットもTolkowskyが光の3回以上の屈折を考慮していなかったことや、光はファセットに対していかなる角度からも入射してくることから、完璧ではないらしい。奥深い世界だ。
 さて腎臓内科医はたいてい元素が大好きだが、電解質しか興味がないわけじゃない。炭素、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、フレロビウムは周期表第14族で、共有結合性化合物の炭素から下に降りるに従って金属製が増していく(フレロビウムは不安定な超重核元素だが、陽子114は魔法数で、中性子の魔法数184とあわせた同位体フレロビウム298は目に見えて存在させることができるかもしれない)。ダイヤモンドやガラスのように結晶をつくることから別名crystallogenと呼ばれることもある。
 炭素もケイ素も外殻に4つの非共有電子を持っているが、炭素は炭素どうしで鎖になるのに対し、ケイ素は-Si-O-Si-構造でつながっていく。ガラスもそうだし、シリコンはH(OSiH2)nOHと(OSiH2)nを骨格に持つsiloxane polymerのことだ。で、この半有機的なケイ素化合物には免疫撹乱作用があって、シリカとANCA関連血管炎の相関(JASN 2001 12 134)、SIIS(silicon implant incompatibility syndrome、レビューのひとつはImmunol Res 2013 56 293)としての体内シリコンによるANCA関連血管炎がある(Case Rep Nephrol 2014 2014 902089)。とくにMPO-ANCA。
 このようにANCA関連血管炎にも原因がある場合があるなんて、お友達に教えてもらうまで知らなかった。コカインのbulking agentに用いられるレバミゾールによる血管炎は経験したが。最近抗GBM病の分布に時間・地理的なクラスタリングがみられるというアイルランドの報告(doi: 10.2215/CJN.13591215)、血管炎ではないが膜性腎症とPM2.5の相関を示した中国の報告(doi: 10.1681/ASN.2016010093)があったばかりでもあり、環境曝露がどんどん明らかになる。