2014/01/08

こういうレベルの学び

 今月の目標は、教育をチーム内で充実させることだ。それでさっそく「私達のチームは患者さんによいケアを提供することだけでなく、私達一人ひとりが成長することをも使命にしています」という意思表示をして、平日昼の3つを研修医向けミニレクチャ、1つをフェロー成長の時間に割り当てることにした。

 研修医向けミニレクチャは、ローテーターがせっかく一ヶ月まわっても「酸塩基平衡が読めない」とか抜けてしまってはいけないので、重要なテーマをリストして一つ一つはじめた。二人のフェローと私でやれば、週1回で済む(フェローの分は、私が助けてあげる)。最初は簡素でも、二ヶ月・三ヶ月とやれば質も高められるはずだ。

 フェロー成長の時間は、なんと言っても論文を読むことだ。専門内科医は(少なくとも腎臓は)論文を読むことなしには育てられないし、成長もできない。週1回論文を読むことを習慣にしている(私が以前いた尊敬すべき)病院に倣って、それを始めることにした。うちだってJASN、CJASN、KI、AJKDが毎月送られてくるのだから、読むネタには困らない。

 そこでさっそく本棚にあったCJASNを手にとってパラパラめくるとAttending Roundsというコーナーが。見るとあのMayo ClinicのFervenza先生が自験例をもとにレクチャしている(CJASN 2013 8 1979)。これはよいと読み進めると、例の「nephrotic-range proteinuriaとnephrotic syndromeは違う病態」というコメント(以前も聞いた)に始まり、primaryとsecondary FSGSの違い、FSGSの分類について解説してくれた(参照していたNEJM 2011 365 2398もよいレビューだ)。

 さらにnephrotic-range proteinuria(アルブミン3.8g/dl)とhypercalciuriaを発症した若い男性の腎生検を紹介し、糸球体がglobal glomerularsclerosisを呈しつつ電顕で足突起が保たれていることからMCD、FSGS以外の病態を考えていた。

 見直すと蛋白尿の多くはアルブミンではなかったこと、H+Eで紫・von Kossa染色で黒・偏光レンズで極性のないcalcium phosphate crystalを含有していることなどから近位尿細管障害を疑い、しかしFanconi症候群がないことからDent病を疑い、遺伝子診断で診断を確定した。

 Dent病については以前にも書いたので病態は省略するが、ここで興味深いのは尿細管の病気だと思われていたDent病も(nephrocalcinosis以外の機序で)糸球体の病気を起こすことだ。詳細は不明だが、足細胞にもCLC5はあるそうだ(PLoS ONE 2012 7 e45605)から、CLC5が異常だとTGF-βなどが作られ糸球体がしぼむのかもしれない(doi:10.5414/CN107429)。

 そのあといろんな先生からFervenza先生が質問を受け答えていたが、最後の質問は「あなたはglomerular hyperfiltrationはadaptive FSGSの原因になる(obesityなど)というが、腎提供したliving donorはどうか?」というものだった。まあ「ドナーの長期成績は(日本では知らないが少なくとも米国では)一般の人たちよりずっと良い」という答えが来るとは思ったが、そのあとでドナー以外のデータ(NEJM 1991 325 1058)を紹介しており興味深かった。

 これは片腎(片方が低形成あるいは腎摘後)の腎癌患者さんに部分腎摘をした後の長期データだ。血圧や蛋白尿だけでなく、なんと4例にはopen biopsyまでしている。これによれば、蛋白尿の程度は残腎量に逆相関し、0.9-6.7g/dl出ていた群は残腎が38±16%だった。腎臓が2個から1個になったくらいではreserveがあるが、1個から0.3個になるとさすがに影響がでるということか。

 考えてみれば、フェローシップをしていた2年間はこういうレベルの学びが毎週(しかも2回以上)あった。だから(研修医教育もよいが)専門医教育にこそ情熱を感じていまの仕事を選んだ私は、いまの環境でいまのフェロー達にこういう学びを提供せねばならない。そしてそれは、他人に何といわれようと動かない決意であるべきだと思っている。