嘔吐でまず知っておくべきことは、胃液はH+(pHが2なら、10mEq/l)が多いのみならずNa+(60-90mEq/l)やK+(10-15mEq/l)が多く、それらと一緒に失われる陰イオンはほとんどCl-(100-130mEq/l)ということだ。だから、直感的に「嘔吐すると酸が失われるからアルカローシス」というのも間違いではないが、前述のメカニズムを振り返ると「嘔吐するとNa+とK+とCl-が失われるからアルカローシス」というのも正しい。
それから、腎臓内科医としては腎外のCl-喪失に以下のようなものを知っておきたい。いずれも稀だが、①先天性塩素下痢(congenital chloridorrhea、腸のCl-/HCO3- exchangerが異常で塩素下痢になる)、②結腸の絨毛腺腫、③嚢胞線維症(CF)、④大量の(Na+とCl-が豊富な)回腸導管からの喪失、⑤胃の一部を使って膀胱形成した場合(Cl-が尿に分泌される)など。
血圧が低くて、代謝性アルカローシスで、低K血症があって、嘔吐と利尿剤(と隠れた利尿剤とGitelman症候群・Bartter症候群と…)どうやって鑑別しよう。尿Cl-は利尿剤を使った直後なら高い。Gitelman、Bartterも常に尿にCl-が失われるから尿Cl-は高い。隠れた利尿薬使用を診断するのには、利尿薬のスクリーニング検査、と言うのもあるらしい。
嘔吐している最中には体液量減少とCl-喪失によって血中のHCO3-濃度が上がり、腎臓でのHCO3-ろ過量が(近位尿細管で再吸収できないほど)増え、Na+を引き連れて捨てられる。したがって尿pHが高くなり、尿Na+が高い。遠位ネフロンに大量のNa+が届くことでENaCが活性化(体液量低下によるアルドステロン亢進もあり)し、K+が失われるので尿K+も高い。
しかし、透析患者さんが嘔吐で重症の代謝性アルカローシスになった症例はいくらも報告されているが、Cl-喪失が無尿の透析患者さんで代謝性アルカローシスを起こすなんて変じゃない?以前にも取り上げたレビュー(AJKD 2011 58 144)は、Cl-喪失よりもH+喪失がメインと説明する。とくに消化管の閉塞などあれば胃が刺激されて、pHが1 = 100mEq/lに上がることもあるというから、そんなのを何リットルも吐いたら大変だ。
さあさあ、盛り上がってきたところで、次は治療とかについて書く。