"Who's afraid of Virginia Woolf?(ヴァージニア・ウルフなんてこわくない)"といえば元はブロードウェイの戯曲だが、Martha役をエリザベス・テイラーがつとめた映画化作品のほうが有名かもしれない(1966年、写真;左のGeorge役はリチャード・バートンで、当時彼女の夫でもあった)。わたしはこの映画を大学生の頃に観て、激しい口論にはハラハラしたが、結末から何を感じ学べばよいのかよく分からなかった。
このタイトルはもちろん「狼なんか怖くない」のwolfとヴァージニア・ウルフをかけているわけだが、同じ狼(ラテン語でlupus)を名前に持つ数少ない疾患であるSLEもまた、映画に劣らず難解で奥が深い。それでも膠原病領域の研究が著しく進歩して、リツキシマブ、ベリムマブ(この薬を最初に聞いたのは2011年のことだ)などの応用にもつながっている。
しかしループス腎炎のほうは、SLEのなかでも重症なためか、MMFなど若干の変化にとどまっている印象だ(こちらとこちらにもまとめています)。そんななか、ループス腎炎の動物モデルですばらしい効果が示されたという論文がJCIにでた(JCI 2018 128 1397)。これほど基礎の段階でも各方面(NKFのニューズレターなど)で注目を集めているこの研究が、狼退治の新しい治療につながればなと思う。
論文を説明すると、ADAM(a disintegrin and metalloproteinase)17は膜結合タンパクの切断酵素(こんなふうに切る、図元はwikipedia)で、TTPにでてくるADAMTS(a disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin motifs)13とは似ているが違うファミリーだ。17番はとくにTNF-αとEGFRリガンド(HB-EGFなど)を切り、炎症や組織傷害の火付け役になる。
ただし、他にも大事なものをいろいろ切っている(アルツハイマー病に関連したβアミロイドができないようにもしている)ので、全部をブロックするわけにも行かない。そこで近年みつかったADAM17の調節因子iRhom(inactive rhomboid)2に注目して、SLEモデルマウス(Fcγ受容体IIB遺伝子ノックアウト)でiRhom2もノックアウトさせたらどうなるかを調べたのがこの研究だ。
で、どうなったか?腎障害は、防がれた(足突起やポドシンが保たれ、KIM-1などの傷害マーカーも上昇しなかった)。その一方、dsDNAなどのマーカーは下がらず、糸球体への免疫複合体の沈着も変わらなかった。つまり、腎組織が破壊される最後のところがブロックされ、実際その指示を出す腎の組織球(マクロファージ)ではTNF-αやEGFRによるカスケードのスイッチが入っていなかった。
ここまでは、美しい。
ここからが、大変だ。
腎組織球のスイッチを入れない治療があればいいんですね!ということになるが、TNF-α阻害薬もEGFR阻害薬も、効く場所としては非特異的だし、膜結合と遊離のどちらも阻害してしまう。実際スタディされているが結果はいまひとつだ。いっそ、iRhom2の阻害薬を作れば?と思うだろうし、実際その方向で研究は進んでいると思われる。ただ、他に何をどこでしているかも分からないものを阻害するのには心配もあるだろう。
腎組織球の炎症スイッチを切る方法があれば、ループス腎炎だけでなく、さまざまな腎炎、さらにはAKIやCKDの治療にまで役立つだろう。方法論的にはあとひとつブレイクスルーがあれば越えられる気もする。それが何かわかれば、いいのだが…。