低ナトリウム血症の患者さんでADH(抗利尿ホルモン)分泌を見つけるのはたやすい。尿浸透圧が血漿浸透圧より高ければADHはオンだからだ。その意味は、患者さんが水(H2O)をため込んでいる(holding on to water)ということだ。
ただそこから、なぜADHが出ているのかを見つけるのはたやすくない。まずvolume statusを見定めなければならないが、どの患者さんもたいていa little bit of浮腫があって、a little bit of起立性低血圧があるからだ。
そのうえでADHが訳もなく(inappropriatelyというが)出ていると判断した時にどうするか。これまたどの患者さんも少しの痛み、少しの鎮痛剤、少しの嘔吐などがあって(これらはADH分泌刺激)、それらに帰着させようとしがちだ。
こないだ診た患者さんは、一週間前の退院時には135mEq/lのナトリウムが今度の入院時に120mEq/lだった。その後生理食塩水を与えられた結果ナトリウムが114mEq/lになって(生理食塩水が尿よりも希釈なため塩をあげるつもりが水を余計にあげてしまったということ)コンサルトが来た。
このような急性の低ナトリウム血症ではその期間に何かがあったと考えるのが常套だ。新しい薬、新しい何か。重喫煙者で末梢血管障害の合併症で血栓溶解療法の為に入院、そして再入院になったことと、コルチゾールが低値だったことから、adrenal hemorrhageから副腎不全かなあなどと考えていた。
しかしこういう一本槍な推理をすると、当たるも八卦当たらぬも八卦だ。たしかに患者さんは血圧も低めで、カリウムは少し高く、HCO3は低めであった。果たしてACTH刺激試験をすると副腎の反応は良好で、結局この推理は否定。確かに副腎不全crisisっぽい切迫感のあるlethargyがなかった。
代わりに指導医がADH分泌腫瘍を疑って、重喫煙者なことから胸部レントゲンを撮ってみるとなんと腫瘍が。腫瘍疾患は慢性の経過をとるので急性なプレゼンテーションの鑑別診断には入れないという落とし穴を、経験豊かな指導医が補って診断にいたった(まだ確定はしていないが)。
たしかに、言われてみると痛みや嘔吐といったよくあるADH刺激因子がこの患者さんには見られず、ADHはジャンジャンでているのに(尿浸透圧は約600mOsm/kgと、生理食塩水の約二倍)その理由が見当たらなかった。そういうときにはSIADHの原因疾患リストを思い出し丁寧に捜査を進めなければならない。