2024/09/13

TRANSFORMスタディ

  タクロリムス減量・代替レジメンの代表で、7月に(導入維持それぞれ)紹介したベラタセプトとともに忘れてはいけないのが、mTOR阻害薬である。第一世代のシロリムスはイースター島(現地語でRapa Nui)の土壌から発見されたためRapamycin(商品名Rapamune®)とも呼ばれ、第二世代のエベロリムスはその誘導体である。

出典はWikipedia ”Rapamycin"

 シロリムスが1999年に腎移植に認可された当初は、CNIに取って代わるのではという期待もあったらしい。

 しかし、免疫抑制の有効性においてCNIに劣ることや、蛋白尿(尿細管再吸収の抑制、足細胞傷害、VEGF産生による内皮細胞透過性の亢進などによるとされる)、創傷治癒の遅延(や腎グラフト周囲の液貯留)などの問題がみられたことから、現在その使用は限定的だ。

 とはいえ日本をはじめ地域・施設によってはCNI減量レジメンの第一選択薬であり、その代表的なエビデンスが2018・2019年に発表されたTRANSFORM試験である(それぞれ、JASN 2018 29 1979、Am J Transplant 2019 19 3018)。日本の試験も参加している。PICOは、以下の通りだ。


 P:18歳以上で新規腎移植(生体腎ないし脳死献腎)を受けた42か国の患者2037人。主な除外基準はHLA完全マッチ(双子)、CIT 30時間以上、高拒絶リスク(既知のDSAや高率のHLA抗体)、ドナー・レシピエントのHCV感染※など。

 ※DAAの普及により、現在では問題にならなくなっている。代表的なスタディはTHINKER試験(NEJM 2017 376 2394)。

 I:エベロリムス1.5mg1日2回(目標トラフ3-8ng/ml)+低用量タクロリムス※(目標トラフは移植後0-2か月で4-7、3-6ヵ月で2-5、6か月以降で2-4ng/ml)。

 ※シクロスポリン用のレジメンもあるが、全体の10%程度であったため省略。

 C:MPA/MMF※(0-2週で1440/2000mg分2、それ以降で1080/1500mg分2)+標準タクロリムス(目標トラフは移植後0-2か月で8-12、3-6ヵ月で6-10、6か月以降で5-8ng/ml)。

 ※720/1000mg分2にすることが多いと思われ、少し多い。

 なお、両群ともステロイドを併用し(最低維持量はプレドニゾン5mg/d)、導入免疫抑制は約80%でバシリキシマブ、約15%で抗胸腺免疫グロブリンであった。

 O:主要アウトカムは①生検で証明され治療も要した拒絶、または②eGFR 50ml/min/1.73m2未満。12/24か月の観察期間で、いずれもエベロリムス+低用量タクロリムス群はMPA/MMF+標準タクロリムス群に対して非劣性であった。

 安全性においては、介入群でCMV感染とBK感染が有意に少なかったほか、振戦・不眠(タクロリムス関連)、嘔吐・下痢・白血球減少(MPA/MMF関連)なども少なかった。

 いっぽう、介入群で多かった有害事象は蛋白尿(3.1%の患者が12か月時点で3g/gCr以上)、創傷治癒の遅延、口腔内潰瘍、浮腫など。薬の中断は介入群のほうが多かった。


 というわけで、残念ながらTRANSFORMというほど移植診療を変えるまでには至っていない。

 ただ、創傷治癒の遅延がそこまで多くなかった(リスク比1.22、信頼区間1.01-1.47)ことは移植外科医達への後押しになり、この試験を行った施設(UCSFなど)ではCNI減量レジメンに用いられているようだ。また、CMV・BK感染例においても、目にすることがある。

 筆者はmTOR阻害薬をほぼ使わない施設にいるので、今はBela(ベラタセプト)派であるが、施設が移ったら「エベロリムスを使いましょう、ウイルスに対しては効果があるかもしません。ただし、蛋白尿に注意が必要です」などと説明しているかもしれない。


 それにしても、タクロリムスが筑波の土壌、シロリムスがイースター島の土壌から見つかったというのは興味深い。この二つの土地が特別なのかもしれないし、あなたの地域の土壌にも未知の菌と化合物が眠っているのかもしれない・・?


2024/09/12

輸血とHLA感作

  HLA抗原に感作される機会の代表は、移植、妊娠、輸血である。そして、HLA抗原への感作は移植の障害になる。

 たとえば、家族があなたに移植したくても、あなたが家族のもつHLA抗原に感作されていたら、血漿交換やリツキシマブなどで脱感作しなければならない。あるいは、あなたと適合する別のドナーを探すか、他の患者に対するドナーとのスワップを計画するかだ。

 さらに、献腎移植を待っている場合には、感作されているほど適合ドナーは見つかりにくい。もし感作されたHLA抗原が国民の99%にあるなら、適合ドナーが見つかる確率は100人に1人である。99.99%なら、1万人に1人の確率で、ただ待っていてはとても見つからないので脱感作を行う(99%以下になることはまずないが、それでも確率は何倍以上になる)。

 上にあげた三つのうち、避けられるものなら避けたいのが輸血である。しかし、そもそも輸血にはどれくらい感作への影響があるのか?製剤ごとの違いはあるのか?移植や妊娠に比べてどれくらいリスクがあるのか?輸血時の感作を減らす工夫はないか?・・など、わからずにいた。

 そこへ来て、先日Kidney Internationalにレビューが出た(doi:org/10.1016/j.kint.2024.07.030)。ニッチな領域ではあるが、移植前=保存期CKD+透析医療においても大切な内容であるため、要約して紹介したい。

 1.輸血によるHLA感作のメカニズム

 細胞なのか細胞ではないのか微妙な赤血球だが、HLAクラスI抗原は低レベルながら表面に存在する。また、白血球除去や放射線照射を行った赤血球輸血であっても抗原提示細胞が100%除けるわけではないので、HLAクラスII抗原が含まれる可能性はある。また、白血球には赤血球よりも多くのHLAクラスI抗原が含まれる。

(出典は前掲KIレビュー)

 2.HLAセレクション

 輸血が避けられないなら、HLAを適合させた製剤を選ぶのはどうか?というわけで、輸血製剤のHLAクラスI(腎移植で問題になるA、B)、HLAクラスII(腎移植で問題になるDRと、グラフト予後に影響するとされるDQ)を調べる方法がある。

 国民に多く共有されているHLA抗原ほど感作されたくないので、そうしたHLA抗原ほど避けたい。フルマッチの製剤を見つけるのは難しいが、それでもHLA抗原への感作を減らすことができたという報告がある(NDT 2009 24 2559※)。

 ※移植前にさかんに輸血をおこなっていた時代に、それを戒める目的で行われたスタディである。なお、腎移植ドナーとHLAを合わせたdonor-specific transfusionを行った群では、25%でクロスマッチが陽性になり、移植ができなくなった・・。

 コストとロジスティクスが問題だが、そもそも輸血を行う人たちというのはHLAのプロであり(日本でも、移植施設の多くは赤十字病院である)、high throughputなどのゲノム解析を統一して行うことは可能になってきているという(Blood Adv 2020 4 3495)。

 3.赤血球以外の血液製剤

 ①血小板 

 HLAクラスI抗原を赤血球よりも効率に表出し(12万 v. 550個/細胞)、HLAクラスII抗原を持つ細胞が混入している可能性があるのは赤血球製剤と同じである。血小板輸血を繰り返すことで産生された抗HLAクラスI抗体が血小板を破壊するようになる現象(血小板輸血不応)は血液内科でよく知られているが、腎移植患者に関するデータはない。

 ②血漿

 脱感作の血漿交換時に投与するくらいだし、細胞がないのだからHLA抗原もないのでは?と思われるが、都合の悪いことに可溶性HLA抗原は血漿や血漿由来の血液製剤にも含まれる。その意義はあまり分かっていないが、フロー・クロス・マッチを行った際にはHLA抗体が検出用のビーズ抗原に結合するのを阻害するため、判定量的な抗体値(MFI)が低くなるらしい(Bloos Res 2020 55 91-98)。

 ③免疫グロブリン

 IVIGの抗体のなかには、抗HLA抗体(抗原ではなく)が含まれる可能性がある。しかし、IVIGを脱感作目的に使用したNIH IG02試験(JASN 2004 15 3256)では、IVIG使用による新規抗HLA抗体の報告はなかった。安心してよいだろう。

 4.輸血によるHLA感作の臨床的インパクト

 UNOSの解析によれば(NDT 2016 31 1746)、98%以上感作された患者7145人のうち輸血だけが原因だったのは5%だけだった。前回移植や妊娠の方が影響が大きいのは納得だが、「輸血だけで移植ができなくなる(かなりできにくくなる)」患者がそれだけいるのは大変なことである。

(出典はNDT 2016 31 1746)

  そこまでいかなくても、輸血によるHLA感作は約20%に起きるとされ、そのリスクは経産女性で高く、HLA抗体が陰性の男性で低い(以前は感作されないとすら言われていたがそんなことはないらしい)。

 また、感作後しばらくすれば抗体は検出されなくなるだろうが、記憶に残るので、移植後に出現するドナー特異抗体(DSA)の対象が、じつは何年も前の輸血で感作されたHLA抗原と同じだった・・などということもあり得る。

 5.移植後の輸血

 移植後1年で40%の患者が輸血を受けるというデータもあり(Front Transplant 2023 21215130)、歴史的には、術直後は免疫抑制をしっかり効かせるので、移植腎由来であれ輸血由来であれHLA感作は起きにくいと考えられてきた。しかし、近年そうではないとするエビデンスが蓄積している。

 たとえば、86人の英国移植患者が受けた輸血を提供したドナー244人のHLAを調べたところ、レシピエントの50%に輸血ドナー特異抗体がみつかり、その61%は臓器ドナー特異抗体と共有されていた。

 そして、臓器ドナー特異抗体と輸血ドナー特異抗体が共有された群は、抗体関連拒絶の発症が有意に高く腎予後も不良であった(Am J Transplant 2019 19 1720)。同じ抗原に二度感作されれば、それだけ抗体もできやすいだろう。

出典はAm J transplant 2019 19 1720
(青:共有された群、緑:共有されない群)

 6.解決策

 まず肝心なことは、輸血の必要性を減らすことである。外科領域ではPatient Blood Management(PBM)というイニシアチブが2000年代から提唱され、それは①貧血を見つけて治療する、②失血を最低限にする、③貧血に耐えられるよう患者の生理機能を高める、の3本柱からなる。
 
 腎移植においては、①術前に貧血治療を最適化し、周術期にもしっかり鉄・ESA(HIF-PH阻害薬)を使用する、②セルセーバーを考慮し、抗凝固のバランスを取り、漫然とした採血検査を避ける、③血液希釈を避ける体液管理を行う、などが考えられる。
 
 そのうえで、輸血をするなら必要最小限にとどめ、白血球除去や放射線照射を行い、できればHLAをマッチする。そして、HLAを追跡し、輸血ドナー特異抗体を臓器ドナー特異抗体のように把握できるようにする。


 「輸血も移植」とよく言われるが、ふだんそれをあまり意識することはない。しかし、血液製剤は誰かの献血から作られ、「ドナー」の細胞や体液を受け取っている(IVIGに至っては、海外の誰かであることがほとんどだ)。それを改めて認識した。


2024/09/07

BKウイルス

 つい先日、BKウイルスの診断と治療についての国際コンセンサスが19年ぶりに改訂された(Transplantation 2024 108 1834)!・・と言われても、「何のことやら?」と思う方も多いかもしれない。しかし、腎移植においては一大テーマであるから、少し紹介したい。

 BKウイルスは、JCウイルスなどと同じポリオ―マ・ウイルスの仲間である。なおJCもBKも最初にウイルスが分離された患者のイニシャルで、JCはJohn Cunningham氏であるが、BKの素性はいまだに伏せられている(腎移植患者であったことは分かっている)。

出典はViruses 2017 9 327

 BKウイルスは小児期に不顕性に感染したのち、泌尿器系臓器に潜伏する。しかし、免疫抑制下では再活性化し、出血性膀胱炎、尿管狭窄、BKウイルス関連腎症(BKVAN)などを起こす。ひどい場合、グラフト廃絶に至る。

 BKウイルスの再活性化は、BKウイルス尿症(viuria)→BKウイルス血症(viremiaまたはDNAemia)→腎症の順に起きるとされ、とくにウイルス量が多い(1万copies/ml以上)と腎症のリスクが高い。

出典はCJASN 2007 2(S1) S36

 ウイルス尿症のほうが感度は高いが、特異度は低い。よって極論すれば血液PCR検査で十分である。ただし、PCR検査が困難な場合は、尿中のウイルス感染上皮細胞(decoy cells)を指標にして、それが診られた場合に限りPCR検査を行う方法もある。

出典はWikipedia
 
 BKウイルスについては分かったとして、何が問題なのか?
 
 まずは、診断の困難さである。まず、腎生検でBKVANと拒絶の見分けがつきにくい。ウイルス感染細胞を染色するSV-40抗原はあるが、陽性率は高くない。そのため、染色が陰性でもBKVANを除外できない。逆に、染色が陽性でも拒絶が混在している可能性を否定できない。

 次に、治療の困難さである。BKウイルス感染は免疫抑制の過剰を意味するため、本来ならば免疫抑制を減らさなければならない。しかし、拒絶が混在している(あるいはBKVANではなく拒絶である)場合、治療は免疫抑制薬の増量である!

 減量の方法は施設によって異なるが、antimetablolites(MMFやAZA)を減量する戦略と、CNI(cyclosporineやtacrolimus)を減量する戦略の二つに分かれる。より新しいmTOR阻害薬とbelataceptのレジメンについては、対応は手探りで、十分なデータはない。

 ウイルスは抗ウイルス薬で治療しつつ、拒絶は免疫抑制薬で治療する・・が理想であるが、残念ながらBKウイルスに対する有効性が確立された薬はない。Leflunomide、Cidofovir、Fluoroquinoloneなどは今回の改訂で使わないよう推奨された。

 ただし、中和抗体であるIVIGについては、ないよりはましということで使われることが多く(拒絶にも少し効くかもしれないので)、今回も考慮することが提案された(推奨度はweak、エビデンスレベルはD)。

 他には、新規のposoleucelという細胞薬が開発されている。これはBKV・JCV・アデノウイルス・CMV・EBV・HHV6に免疫を持つ複数ドナーから集めたT細胞をウイルスに感作させて戦う力を高めたものだ。

AlloVirウェブサイトより

 骨髄移植など血液内科領域で開発されたが、腎移植患者にも試され(JASN 2024 35 618)、第2相ではBKVANの発症を予防し、他人のT細胞ながらDSA(ドナー特異抗体)の発症は1例だけであった。第3相でがっかりする可能性もあるが、結果が待たれる。

 今回の改訂はコンセンサスというだけあって、現状の診療を肯定し、未解決な問題を認識し、将来の研究方向性を展望する内容になっている。19年ぶりの改訂のわりに未解決な問題が多いのは残念だが、次はもう少し早く新しい診断と治療のツールが確認されるといいなと思う。


2024/08/07

ELITE-Symphonyスタディ

 2007年にヨーロッパ・カナダ・ブラジル・メキシコ・トルコのグループが発表したELITE-Symphonyスタディ(NEJM 2007 357 2562)は、腎移植領域の数少ない大規模な前向きランダム化試験の一つであり(オープンレーベルではあるが)、移植に関わらない腎臓内科医も知っておいてよいと思われる。

1.結論

 端的には、現在腎移植後に最もよく用いられる「ステロイド+MMF+低用量タクロリムス」レジメンがその地位を確立したスタディである。2010年代以降に腎移植に関わった(筆者を含む)人々にとっては当たり前の組み合わせも、それまでは当たり前ではなかったようだ。

 まず、研究グループは「(アザチオプリンよりも優れた拒絶予防効果を持つ)MMFを併用すれば、シクロスポリン・タクロリムス・シロリムスの用量を下げられるのではないか?」と考えた。そして、低用量は「移植直後からでも大丈夫なのでは?」と考えた。

 そして、18-75才の生体腎・献腎(心臓死を除く)移植を受けた患者1645人を、①シクロスポリン高用量、②シクロスポリン低用量、③タクロリムス低用量、④シロリムス低用量の4群に分け、12か月フォローしたところ、生検で証明された拒絶は③が最も少なく、グラフト予後は③が最も優れていた。

2.解説

 対象患者は約9割が白人、A/B/DRの平均ミスマッチは約3/6、高リスク(expanded criteria)ドナーからの献腎移植は約17%、糖尿病による末期腎不全は6%と、免疫学的リスクやDGFリスクは比較的低いコホートであった。ただし、平均年齢は約45歳であった。

 それもあってか、全例で免疫抑制の導入には抗CD25(IL-2受容体)モノクローナル抗体でbasiliximabの仲間、daclizumabが用いられ(移植前に2mg/kg、移植後は2週間ごとに1mg/kg×4回)、Thymo(抗ヒト胸腺/リンパ球ウサギ抗体)を用いた患者は除外された。

 また、各レジメンの目標トラフは高用量シクロスポリンの移植後3ヵ月で150-300ng/ml、それ以降で100-200ng/ml、低用量シクロスポリンで50-100ng/ml、低用量タクロリムスで3-7ng/ml、低用量シロリムスで4-8ng/mlであった。

 「MMFをしっかり効かせて(2g/d※)CNI用量を下げる」がテーマのため、攻めた設定である。また、プレドニンの最小用量は移植後2週間で20mg/d、3-8週間で15mg/d、9週-4か月で10mg/d、4か月以降で5mg/dと、こちらもやや多めであった。※今では、MMFは1g/dに減量されることが多い。

 ただし、実際にはタクロリムスの平均トラフは6-7ng/ml(標準偏差は5-10ng/ml)と高めであった。後にタクロリムスのトラフが5ng/ml以下でDSAが増えることが報告されたこともあり(AJT 2015 15 2921)、施設ごとに目標を決める際の基準になった(「5を避けて6-8」、「ベラタセプトを併用しつつ、5を狙って4-6」、など)。

 最後にシロリムスであるが、残念ながら本スタディでは拒絶が最も多く、グラフト予後も高用量シクロスポリンと変わらず、感染症・貧血・創部の治癒遅延・リンパ嚢腫などの有害事象が多かった。目標トラフが低かった可能性はあるが、少なくともこの組み合わせは余り見られなくなった。

 現在では、シロリムス・エベロリムスなどのmTOR阻害薬は、CNI減量目的の追加薬として用いられ、米国ではベラタセプトに次ぐ第二選択薬の位置づけである(ベラタセプトが用いられない日本では、第一選択薬である)。

3.感想

 正直筆者は、今月までこのスタディを知らなかった。移植医療に限らず「どうしてこうしているの?」を問いかけないと、「そういうものだから」で終わってしまう。それでも診療はもちろん行えるのであるが、歴史を知ると、「いまはポスト・シンフォニー時代なのだな」と相対的に診療を認識できる。そして、次の時代の到来も予見できるようになる。


(出典はこちら



2024/08/03

夏の一冊 2024

 猛暑・酷暑・・・そのうち新しい暑さを表す言葉が現れるにちがいない(極夏、獄夏と書いて「ごくか」など?)ほど厳しい時候、屋内で過ごさざるを得ない方も多いだろう。そんなわけで、久々にお勧めの本を紹介したい。その名も、『先生、このへんどうでしょう?対談から学ぶCKD診療スタンダード』である。


(出典はこちら


 腎臓内科医師が対談でCKD診療についてさまざまに語り合う、という設定で著者らが書いた本である。
 
 まず気づくのは、思わず手に取りたくなるソフトな印象のカバーである。なお、対談医師が二人とも男性なのは、おそらく著者らが男性だからで、「医師と言えば男性」という固定観念を押し付けるものではないだろう。

「診療スタンダード」と銘打つだけあって、読んだらすぐに外来で役立つ内容である。患者の質問などにもよりよく答えられるようになるだろう。このような教育機会が現実にももっとあればよいのにと思う。

 専門家と非専門家の対談形式は、得てして専門家が語り、非専門家は聴くというパターンになりがちである。しかし本書は両者ともに専門家であるため、やりとりが丁々発止で心地よい。時にはお互い診療の考え方が違うこともあるが、互いの違いを認め合うポジティブさが、却って雰囲気をよいものにしている。

 ただし、あくまで対談の対象は非専門医であるため、内輪ネタで盛り上がって終わりにするのではなく、両者が非専門医に語り掛ける形になっている。そしてそこには上から目線がなく、「初心忘れるべからず」や「知らないことを知っている」といった、専門家ならではの謙虚さが感じられる。

 また、どのトピックにも「先人の苦労を偲び、現在の問題・悩みを共有し、未来に希望を託す」という姿勢が通底している。人類の進歩を信じていると言えばややナイーブな楽観主義にも聞こえるが、その一方で「変わるもの」と「変わらないもの」を見極めようとしているのかもしれない。そのことは、随所に出てくる古代から中世に至るさまざまな引用句からもわかる。

 もちろん個々に挙げられた個々の治療やその推奨度は何年もすれば変わってしまうだろう。しかし、本書を読んで得られた知識や智恵、そしてクス笑いは、時を越えて残るのではないだろうか。

 それにしても・・いったいどんな本なのか?

 それは、読んでのお楽しみである。

 

2024/08/02

FSGSと抗ネフリン抗体

  一次性FSGSはcirculating factorが足細胞を傷害すると考えられており、その如実な例が移植後の再発FSGSである。2012年に、移植直後からFSGSを再発した腎グラフトを別の患者に移植しなおすことで腎グラフトを救ったケースが話題になったことは、以前にも述べた

 もちろん、FSGSの患者が腎移植を受けられないわけではなく、再発率は高いものの報告された文献をまとめると成人で約16%、小児で約40%である(KI 2024 105 450)。移植後は頻回に蛋白尿をモニターし、腎生検を行う。病名通りの硬化が診られるまでには何週間もかかるため、治療を遅らせてはならない。

 ※電顕レベルでは広汎に足細胞の病変が診られるため、Focalという呼称は誤解を招きがちである。また、光顕病変は髄質付近の糸球体に好発するため、サンプリング・エラー(MCDと誤診される)も起こりがちである。

 しかし、血漿交換、免疫吸着、リツキシマブなどを行っても、治療成績はあまりよくない。新規抗CD20抗体(ofatumumab、obinutuzumabなど)、間葉系幹細胞なども、試行段階である。また、二度目の移植では再発率がさらに高くなる。それで、circulating factorを含む、病態の解明が待たれていた。

 そんななか、2022年にハーバード大学らのグループがMCD患者の血中に抗ネフリン抗体を確認し、それが治療効果・病勢と同期することと、抗ネフリンIgGが腎生検の組織上でネフリンに局在することを発表した(JASN 2022 33 238)。

 MCDもFSGSも肉眼的な病理の呼称であり両者は足細胞病のスペクトラムと考えられるため、抗ネフリン抗体がcirculating factorなのでは?という期待が高まった。

 そして2023年、日本の多施設グループが移植後に再発した一次性FSGS小児患者で抗ネフリン抗体が著明に高値で、病理組織で抗ネフリンIgGがネフリンに局在し、治療効果・病勢と同期することを示した(KI 2024 105 608)。

 それだけでなく、ネフリンのチロシン残基がリン酸化され、ネフリンの細胞内への移動に関わるShcA蛋白などの発現が増加していた。また、抗体のサブクラスは複数であったこと(polyclonal)、補体の沈着はわずかしか見られなかったことなどがわかり、病態への理解も進んだ。

 さらに昨日、ヨーロッパ各国のグループが537例(成人患者357、小児患者182)、対照117例に対して抗ネフリン抗体を調べた結果を発表した(NEJM 2024 391 422)。ランドマーク・スタディと考えられるため、急遽取り上げることにした。

 結果、小児の低Alb血症や高度蛋白尿を伴う特発性ネフローゼ症候群の79%、免疫抑制薬の未使用例に限れば89%に抗ネフリン抗体が見られた。やはり病勢に同期し、リツキシマブ・シクロスポリン・ステロイドなどで蛋白尿が改善すると抗体量も減っていた。

 さらに、抗ネフリン抗体の動物モデルも検証し、ヒトのネフリン1176チロシン残基に相当する1191チロシン残基のリン酸化、Shc1やClathrinの発現増加、slit-diagramに関わる蛋白の発現低下を示した。

 ただし、成人の一次性FSGSでは、抗ネフリン抗体の陽性率は9%にとどまった(MCDでは43%)。小児の特発性ネフローゼのなかには、MCDもFSGSも入っているため、成人よりも陽性率は高いかもしれない。

 まだ話は途中であるが、少なくとも小児領域では腎生検の代替になりうる他、陽性率が高ければ一次性FSGSや移植後再発の病勢マーカーとして使用できる。

 また、病態に関連して言えば、補体関連の治療薬(エクリズマブ、ラブリズマブなど)よりも、抗体産生を抑制するB細胞・形質細胞をターゲットにした治療(抗CD28、抗CD38など)に照準を合わせられる。

 さらに、チロシン残基のリン酸化まで分かったのであれば、世の中にはチロシンキナーゼ阻害薬がたくさんある。もう少し「どこにどのように効かせればよいか」の確証が得られれば、せっかく薬もあるのだから、試される日が来るかもしれない。

 何事も、病態理解がカギである(下図はKI 2024 105 440)。


2024/08/01

タクロリムスとサイアザイド

  移植後に用いられるタクロリムスは、遠位尿細管のNCC活性を亢進するため、遠位ネフロンに届くNa+が減り、Na+の再吸収と交換で排泄されるK+とH+が減り、高カリウム血症と代謝性アシドーシス(4型RTA)を起こす。

 この仕組みが解明されたのは2010年代で、筆者は当時(それならサイアザイドを使えばよいのでは?)と思った。ただし、当時はまだ、「移植後患者をdryにしたくない」というためらいや、「血管収縮作用に拮抗するCCBを使うべきだ」といった意見もあった。

 しかし、2017年にアムロジピンに対するクロルサリドンの非劣勢を示すランダム化クロスオーバー試験(AJKD 2017 69 796、下図)が行われ、現在では移植後患者にサイアザイドを少量足して血圧とカリウム値をコントロールするtrickは一般的なものになっている。

 「病態理解から診療の変化につながるまで、10年はかかる」とは、よく言ったものである。ただし、同論文は移植後平均2年、平均eGFRは約60ml/min/1.73m2であった。移植直後や、DGF後で腎機能が十分に回復していない場合などは、ループ利尿薬のほうが効果的かもしれない。

 優秀なカリウム吸着薬がある昨今、医療者はついついそれに甘えがちであるが、利尿薬のほかにもSGLT2阻害薬、インスリン、重曹、(体液量が少なければ鉱質コルチコイド)など、さまざまなtricksがある。病態生理に合わせて使いたい。※ただし、移植後患者についてはSGLT2阻害薬のデータは少なく、重曹は腎予後や拒絶予防に否定的なRCTが出た(Lancet 2023 401 557)。