2010/01/27

master of all trades

 "Jack of all trade, master of none"という言い回しがある。これは一方では「generalistは器用貧乏になりがち」という意味である。他方では「専門に偏りすぎてもいけない」という戒めでもある。今月は内分泌内科専門医がattendingであったので、糖尿病の管理や甲状腺疾患、ビタミンD欠乏症と副甲状腺機能亢進症まで、彼の専門分野については耳にタコができるほど学んだ。専門家だから聴ける高尚で深い知見は刺激的でもあった。

 ただし、今月学んだこれらの専門的な診療がはたして一般医家にも受け入れられるかというとそうでもない。他の指導医(とくに総合内科医)と働いた場合には、「そんな風に診療する必要はない」と言われるかもしれない。総合内科の指導医と勉強すると何でもオールラウンドにカバーして学べるのだが、どうにも深みがない。基本的にガイドラインに沿った診療で、専門的判断は各専門科医に任せることになる。

 そこで私が勉強したい道は、まずとことん何か一個専門を学んで、そこから周辺領域にも理解を深めていくやり方だ。腎臓内科はその点、周辺領域が広い(糖尿病、高血圧、心血管疾患、腎炎、移植と免疫抑制、緊急透析とcritical care、など)。ここまで医学が専門分化すると、結局master of oneで精いっぱいというのが現状だとは思うけれど、一生懸命勉強してmaster of all tradesを目指したい。


2008/09/29

生物系

 クマが冬眠中に水分も取らずほとんど尿もせずに体液のバランスを保てるのはなぜか。冬眠中の代謝で生じる老廃物(おもに窒素)や尿はどうなるのか。腎臓内科の先生が講義をしていた。この先生は、以前にペンギンがなぜ足元まで体温をたもてるのか、という話もしていた。動脈と静脈を併走させて温かい血液と冷やされた血液が対向して流れることで、熱が循環し末梢も冷たくなりにくいそうだ。

 冬眠中は脂肪をエネルギー源にして、たんぱく質が分解されて老廃物がでるのを防いでいるそうだ。また、エネルギーを消費して生じる水を水分として再利用するので、尿をほとんど作らないで済む(少し作られても膀胱でほとんど吸収される)らしい。また、アミノ酸が分解されて老廃物にならないような、リサイクル回路があるという。こういう話は面白く、食後のレクチャーでも眠くなりにくい。


[2019年10月4日追記]あれから11年、筆者共著の『腎臓診療の考具箱』にも、これを考具の一つとして紹介させていただいているので、よろしければ。

 なお上述のアミノ酸(窒素化合物)のリサイクルについては、クマが冬眠前に食べるベリー類に多く含まれる、quercetin(クエルセチン)が大切だと考えられている。尿素代謝に大切なSIRT5(サーチュイン5)やCSP1といった酵素を活性化するそうだ。

 さらに、補足すると・・。

 近頃は、こうしたクエルセチンやサーチュイン5についての腎臓領域での研究が、よく見られる!

 クエルセチンは、チロシンキナーゼ阻害薬dasatinib(ダサチニブ)と組み合わせることで老化細胞や老化物質を抑えることが期待され(senolyticsと呼ばれる)、糖尿病性腎臓病患者の皮下組織や血中から老化物質が選択的に減ったという第1相試験結果が報告されている(EBioMedicine 2019 47 446)。

 またサーチュイン5は、近位尿細管で脂肪酸がβ酸化される細胞内器官を、ペルオキシソームからミトコンドリアにスイッチすることが示唆されており、サーチュイン5遺伝子ノックアウトマウスはミトコンドリアの負担が減ってAKIになりにくい(doi:10.1681/ASN.2019020163)。


 これだけ真に受けると、「ベリー(写真は、クマもヒトも食べるランゴンベリー)を食べると老化しないけどAKIになりやすい?」となってしまうように、いまだ未解明の部分は多い。しかし今後も、この領域から目が離せない。






 
 

2007/12/29

節目にあたり

 私はこの2ヶ月間フル回転だったらしい。自分にはあたらしい科だったので、知識や経験を吸収しようと一生懸命だった。透析のことも、透析室に日参しては本にかじりつきスタッフの皆さんに聞いてまわった。透析事典という本を、100頁くらいコピーしたかもしれない。指導医の先生もねぎらってくれた。

 終わるに当たり、虚脱感をあじわっている。虚脱感は、中学1年生の体育祭後におこった。中学受験のときは「受験で燃え尽きない頭脳の育成」を謳った塾に通っていたので大丈夫だったが、体育祭前の熱き練習の日々、そして本番・優勝という興奮がおわったあとにぽかんとしていたのを思い出す。

 昨日は仕事納めで、夕方に職員の多く(数百人)が集まり立食の食事をとりながら歓談した。新しい職場で話す相手もいないとおもったら、透析室の皆さん、看護師さん、リハビリスタッフ、事務の方々など、共に患者さんのために良かれと思って働いた人たちがたくさんで和んだ。

 「来年はどうするんですか?」「来年はあんなことをしたいですね」「来年もよろしくおねがいします」「○○病棟、○○室で待ってます」ありがたい言葉である。熱心だなどと、評価してくれる人もいる。もったいない言葉、励みになる。確かに来年もあんな新しいことやこんな楽しいことをしたい。

 一方で、来年は大きな変化の年である。折角こうして新しい仲間を得たのに残念ではあるが、別れと出会いは避けられぬさだめ。前の職場の人たちとも、もう一生会わないかもしれないがきっと繋がっているに違いない。おたおたしていられない、次の目標に向っていかねば。

2007/12/26

生理学

 電解質異常、酸塩基平衡をとりあつかうのも腎臓内科である。体液バランス、イオンバランスが崩れた状態のことだが、腎臓がこのバランス(恒常性、ホメオスタシス)を保っているからである。これらの病態理解と治療計画を苦手に感じる人はおおいようだ。私など研修医時代、理解できなくて辛い思いをすることを「低ナトリウム血症」という隠語で表現していたくらいである。

 細胞内外の物質移動、血管内外の物質移動、腎臓内外での物質移動を理解し、それに基づく系で計算式をたてるのがこれら治療の基本である。生理学の根底を理解するのに勉強になるし、理論をたて、治療を計画し、結果をチェックして考察するというところが科学的である。

 まじめに考えると、計算をえっちらおっちらしているうちに何時間も過ぎていることがあるが、結果がついてくるのはうれしいものだ。なんとなく治療すると一向に下がらない値が、ちゃんと計画してやると順調に下がることもある。

 ただ、あまりに熱中すると他の問題点がみえなくなって、患者さんにマイナスになることもあるので注意が必要だ。点滴だけで治療することしか頭にないと、食事をはじめるタイミングが遅れることがありうる。状態は刻々と変わるし、広い視野が必要だ。

2007/12/11

難しい場面

 ちょっと先の見えない患者さんがいる。手を尽くしているが、押してもだめ、引いてもだめである。このままジリ貧かと思うときつい。透析医療は、慢性期のどんづまりの医療である。導入された時点で、患者さんは死を意識するという。じっさい、段々状態がわるくなってくる。でも、死を意識しながら生きることに人はたえられない。心の準備ができる人など居ない。
 ある意味では、先が見えているのである。しかし、医者がもう助かる方法はありませんと言ったら大変なことだ。死にゆく人のそばにいること。あまり抱え込むと、燃え尽きてしまう。心の底に冷たさを宿していなければ、心の安定を保つことは難しい。

2007/12/04

もう一ヶ月

 今週から新しいクールになる。引き続き腎臓内科で、一ヶ月いたなりに教えられることもあり、その先に知りたいこともある。教えることは、学ぶことである。これを機会に知りたいことについて調べたまとめをしてみよう。考えるべきことはたくさんある。手技もあるし、一層がんばってみよう。

熟練

 経験豊かな人は、人に教えるのも上手である。針を血管に刺すにしても、血管の走行を見る方法や、血管に到達するまでの距離を知る方法など、きわめて実践的である。それらが、あたりまえに意識せずにできるようになって、やっと一人前である。合併症をおこさないようにできるひとが一人前、合併症を万一おこしても対応を知っていて一人前である。