じつはこれは、マグネシウム研究の黎明期から知られていた問題であり、「マグネシウム欠乏症(magnesiopenia)」という用語も提案されたほどだ(ミネソタ大学古典学科のマクドナルド教授による、Ann N Y Acad Sci 1969 162 934)。
血中濃度と体内貯蔵量の関係はマグネシウムだけでなく、たとえば鉄ならTSATやフェリチンが測れるし、骨量にはDEXAなどの測定方法がある。しかし、マグネシウムには、そこまで確立されたものはないのが現状だ。Mg点滴後の尿排泄量で足りているか判断するMg負荷試験も、腎のMg再吸収能が正常でなければ当てにならない。
生理学のレビューには赤血球、白血球、筋肉などの記載がみられるが(CKJ 2012 5 Suppl1 i3)、いずれも精度や侵襲度に問題があって利用は一般的ではない。最近は口腔上皮細胞も用いられるが、採取は簡単なものの、ゴールド・スタンダードとはいえないのか、用いた論文で「当てにならないのかも」と考察されることもある(KI Rep 2017 2 380)。
そんななか、意外な検体をもちいた論文(Circ J 2013 77 3029)を見つけたので、紹介したい。それは、「毛髪」である。
写真はボブ・マーリー (Wikipediaより引用) |
毛髪中の微量元素測定は公害や法医学の分野では確立された方法であり、それをマグネシウムにも応用したわけだ。頭髪は1ヶ月に1センチ伸長するので、この方法で過去3ヶ月程度のマグネシウム量を比定できるという。
この論文では、日本の血液透析1施設にいる男性患者79人を対象に、頭髪を数箇所から0.5グラム(3-4センチ)採取してマグネシウム濃度を測定した。すると、毛髪Mg量と左室重量(LVMI)の相関は有意差に達しなかった(p=0.09)が、下図のように心室壁厚などには有意な相関がみられた。
前掲論文より引用 |
毛髪Mg量は年齢・Kt/V・Ca値と相関していたので、これらは交絡因子になりうる。しかし、血圧・アルブミン・鉄・Hgb・リン・iPTH値などには相関していなかった。また、毛髪Mg量は血清Mg濃度とは相関していなかった。
「毛が血液ほどにモノを言う」興味深いデータである。毛髪診断士でもないかぎり、ふだんの診察で毛髪を意識することはないだろうが、血液・尿などと並び比較的低侵襲で採取できる毛髪から得られる情報は、意外と多いのかもしれない。
ミュージカル『ヘア・スプレー』 (Wikipediaより引用) |