ある論文(JASN 2005 16 3711)を、とても興味深く読んだ。これはカリフォルニア州北部、ハワイ、アメリカ領サモア、グアム、サイパン地域(Network 17)のUSRDSデータから、Asians and Pacific islandersのサブグループについて生存率と移植率を白人と比べたものだ。わたしがとくに注目したのは、日系米国人の成績だ。
日系人は白人に比べて(ほかのアジア系やPacific islandersに比べても)高齢で、医療保険をもち、仕事をしていた。ESRDの原因は白人に比べて圧倒的に糖尿病が多かった(61.5%)が、高血圧の有病率は白人より高かった(88.5%)。透析開始時の血液検査データは白人に比べて低アルブミン(3g/dl)、低eGFR(5.9ml/min/1.73m2)だった。
透析の死亡率はどうか?白人より低い0.64であった(信頼区間0.57-0.72)。年齢、性別、保険の有無、仕事の有無、ESRDの原疾患、既往症、クレアチニン、アルブミン、ヘモグロビン、透析前ESAの有無、BMI、喫煙の有無を調整した後での値だ。それから移植を受ける率は同様の調整をかけても白人より有意に低かった(0.34、信頼区間は0.24 to 0.46)。
この論文は「日本の透析診療の成績が世界で一番なのはなぜか?」という大きな質問に対しての、「日本人の遺伝子と文化習慣そのものがESRD患者さんの生存率を高めているのだろうか?」という問いを想起させる。私はこの問いに「そうだ(あるいは、それもある)」と思ってその仮説を検証すべく探していたところに、この論文に出会った。
もちろん、この論文は後ろ向きの観察研究だから相関は言えても因果関係は言えない。もし因果関係があったとしても、日系人の患者さん達で透析間の体重増がどうだったか、透析時間は、などのデータがないので「日系人群の何がいいのか」は分からない。というわけで、確実なことはいえないが、示唆的な論文だった。