2024/09/22

IVRならではのアプローチ

 血液透析のバスキュラー・アクセスといえば、自己血管内シャント、人工血管内シャント、表在化動脈、そして中心静脈カテーテルである。中心静脈カテーテルは急性期に用いられるカテーテルと、外来透析で長期使用できる皮下トンネルとカフのあるカテーテルに分かれる。

 なお、以前は前者をtemp cath、後者をperm cathと呼んでいたが、残念ながら感染や閉塞などの問題が起きうるため、永久(permanent)には使えない。そのため、最近はトンネル透析カテーテル(tunnelled dialysis catheter, TDC)と呼ばれる。

 カテーテルが使えなくなったら、他の静脈に新しいカテーテルを挿入すればよいのだが、体表からアクセスできる中心静脈は左右の内頚・鎖骨下・大腿静脈の6つしかない(鎖骨下静脈は、上肢腫脹のおそれや同じ側に内シャントが作れなくなるおそれがあり、避けられる)。

 これらの静脈がどれも使えなくなると、非常にまずい。しかし、問題あるところに解決策あり(必要は発明の母である、とも言うが)。そこで、私の知る限り3つの方法が提案されている。それぞれ、Surfacer® Inside-Out Access Cather System、経腰部カテーテル、経肝臓カテーテルである。

・Surfacer® Inside-Out

 2016年に欧州で基準適合となり、2020年に米国で承認された。上大静脈や腕頭静脈が血栓閉塞している場合の解決策で、大腿静脈から挿入したカテーテルを血栓閉塞の右心房側まで進め、デバイスを透視下に透析カテーテルを挿入したい皮膚の位置まで貫通させる。そして、needle wireで体表に出てくる。

(出典はこちら

(出典はこちら

・経腰部(translumbar)カテーテル

 腰部から下大静脈にアプローチする方法である。一例は:腹臥位で腸骨稜の少し頭側(L3レベル)から透視下に脊柱起立筋や腸腰筋を貫通し、腎静脈合流部よりすこし尾側の下大静脈を穿刺してガイドワイヤーを挿入する。出口部は、ベルトの位置より頭側でできるだけ前側(中腋窩線)にする(J Bras Nefrol 2019 41 89)。

(出典は前掲論文)

・経肝臓(transhepatic)カテーテル

 腹臥位になれないなどの理由で経腰部アプローチができない場合の選択肢とされ、右・正中・左肝静脈などを通じて下大静脈に至る。どの静脈を穿刺するかはエコーなどで決定され、安全性を考慮し細い支流の静脈が選択される。

(出典はDiagn Interv Radiol 2016 22 560)

 経腰部・肝臓とも第3、第4選択肢であり、血栓閉塞・感染・迷入・屈曲などの合併症は避けられない。経腰部の開存・使用可能率は12か月で45%、経肝臓は挿入後136日で50%にすぎなかった(それぞれ、前掲論文)。

 いずれも、IVRならではの発想であり、インターベンショナル・ネフロロジーを専門にしている経験豊富な施設・医師に任せるべきだと思うが、選択肢を知っておくことは、例によって「いまのアクセスがだめでも、次があります」と言えるので医師と患者の心の支えになるだろう。
 
 それにしても、この世にpermanentなものは、なかなか見つからないものである。しかし、2019年のディズニー映画『アナと雪の女王2』でオラフはアナに"I thought of one thing that's permanent. Love."といった※。

 諦めずに可能性を探ることもまた、変わらない愛なのだろう。

 ※5年前なのでネタバレでも許してほしい。なお先日、アナ雪1と2の監督Jeniffer Leeが、アナ雪3と4(二つでセットの物語になる予定)の制作に集中するためDisney AnimationのChief Creation Officerを退任した。

2024/09/18

膜性腎症とオビヌツズマブ

  膜性腎症に対するリツキシマブの有効性を示すMENTOR試験が発表されたのは、2019年。その2年後には、2021年版KDIGO腎炎・ネフローゼガイドラインで膜性腎症の第一選択薬の一つになった。

 ということはそろそろ、先を行く薬が登場しているころかな・・と思ったら、オビヌツズマブとリツキシマブを比較する中国の一施設試験がCJASNに発表されていた(DOI: 10.2215/CJN.0000000000000555)。

 ヒト化タイプII抗CD20モノクローナル抗体オビヌツズマブ(商品名ガザイバ®)は、タイプI抗CD20モノクローナル抗体のリツキシマブと異なるエピトープを認識して、より効率にB細胞をアポトーシスに至らせる。

 そして、Fc部分についた糖鎖(フコース)を極力減らすことで、Fc受容体を介したナチュラルキラー細胞による細胞傷害やマクロファージによる貪食が起きやすくなっている。

(出典はDrug Design Development and Therapy 2017 11 295)

 もちろんリンパ腫に対して開発された薬だが(日本でも2018年に承認された)、リツキシマブと同様に免疫疾患にも試されている。

 腎臓内科領域では、ループス腎炎に対するプラセボ対照の第2相試験NOBILITYが2022年に発表され(Ann Rheum Dis 2022 81 100)、ステロイド+MMFに追加した介入群は対照群にくらべて104週の完全腎寛解(蛋白尿<0.5g/gCr、正常腎機能、尿RBC 10/hpf未満)の割合が有意に高かった。

 膜性腎症についてはRTX不応・不耐例に試された一施設試験が2020年に発表され(KI Reports 2020 5 1510)、蛋白尿の改善を認めた。

出典は前掲KI Reports

 そして今回の試験では、ACEI/ARBにかかわらず蛋白尿が3.5g/gCr以上(平均約8g/d)でeGFR 30ml/min/1.73m2以上(平均約100ml/min/1.73m2)の原発性膜性腎症患者をオビヌツズマブ群21例、リツキシマブ群42例にランダム化した。

 リツキシマブは375mg/m2を週1回×4(非寛解例は6ヵ月後に再投与:約80%が再投与された)、オビヌツズマブは1gを2週間あけて2回(再投与はなし)のレジメンだった。どちらも初回投与時のみソルメドロール40mgが、そしてすべての投与時にクロルフェニラミン10mgとアセトアミノフェン500mgが前投薬された。

 結果、12か月後の完全寛解(蛋白尿<0.3g/gCrかつ腎機能低下なし)はオビヌツズマブ群の38%、リツキシマブ群の14%にみられた(p=0.04)。不完全寛解を含むプライマリ・アウトカムはオビヌツズマブ群の95%、リツキシマブの67%にみられた(p=0.03)。

 また、PLA2R関連原発性膜性腎症に限ると、PLA2R<2RU/mlの免疫学的寛解はオビヌツズマブの93%、リツキシマブの73%にみられ(p=0.11)、寛解例ではほとんどが6ヵ月後の時点でCD19陽性B細胞が血中からdepleteされていた。

 安全性については、重度の有害事象は両群とも報告されず、感染症(約20%)、infusion-related reactions(約6%)は両群でほぼ同じ割合で、いずれも軽症だった。

 

 「どうせやるならとことん」という感じである。B型肝炎の活性化とPMLがFDAのblack box warningになっているが、これらはリツキシマブにおいても懸念されていたことであり、少なくとも前掲試験では有害事象に差は見られなかった(ただし、両群ともHBV抗体陽性のキャリア例はエンテカビル、潜在結核例はイソニアジドが投与されていた)。

 身近なところでも、移植後FSGS再発など、少しずつリツキシマブ不応例に試されて始めている。臨床現場にいると「今の薬がだめでも次の薬があります」と言えることは医師と患者両方にとって心の支えになる。リツキシマブの次世代薬として、今後オビヌツズマブ(筆者はオビと略しているが)を目や耳にする機会は増えていくと思われる。


ACORNスタディ

  2018年にバンダービルト大学病院が発表したSMART、SALT-ED試験を覚えているだろうか?0.9%NaCl液(生理食塩水)が腎予後に与える害を生理的輸液と比較した、プラグマティック・スタディである。

 大学病院の電子カルテを利用して日常的に行われ、個々の患者に同意をとる必要はなく、臨床上の質問を電子カルテ(Epic®)に「ぽい」と入れれば、何千人という患者を対象にした試験が行える。いやはや、すごいやり方である(もちろん、専門スタッフの助けがあってのことであるが)。

(米国最大手の電子カルテ、Epicのロゴ)

 あれから5年、同じ施設からACORN試験が発表されていた(JAMA 2023 330 1557)!・・今度は、PIPC/TAZ(ゾシン)とCFPM(セフェピム)の腎障害と神経・意識障害を比較した試験である。筆頭著者は当時集中治療科のフェロー(とApplied Clinical Informaticsのマスター)だった。

 PIPC/TAZとVCM(バンコ)の組み合わせでAKIが起りやすいことが多くの後方視観察で示され(メタアナリシスはClin Infect Diss 2017 64 666)、以後少なくとも米国では初期治療の広域スペクトラム抗菌薬がだいたいCFPMになった。

 しかし、動物実験で再現性がないことや、PIPC/TAZはOAT1・OAT3によるクレアチニンの尿細管排泄を抑制することなどから、真の急性腎障害がどれくらいあるかには疑問もあった。いっぽう、CFPMには脳症(神経・意識障害)の心配もある。腎機能低下例でリスクが高いので、経験ある方もいるかもしれない。

 そこで、ACORN試験が行われた。PICOで説明すると:

 P:来院後12時間以内にPIPC/TAZまたはCFPMを処方された救急外来・内科ICUの成人患者。オーダーすると、eligibleな患者は自動的に電子カルテ上でスタディに登録される。

 I:CFPM 2g(5分で静注)8時間ごと※

 ※セフェピムの意識障害はゆっくり点滴した方が起りにくいとされる。

 C:PIPC/TAZ 3.375g(4時間で点滴)8時間ごと※

 ※標準とされる3.375g-4.5g 6時間ごとより少なめである。

 O:14日以内のAKI(レベル1、2、3)または死亡は、CFPM群でPIPC/TAZ群に対してオッズ比0.95(信頼区間0.8-1.1)。腎予後と神経予後については下記(%)で、せん妄または昏睡はCFPM群で有意に多かった。

 ※両群とも約80%の患者がVCMを併用された。

                                CFPM群 PIPC/TAZ群

    死亡                        7.6        6.0

    新規腎代替療法         3.3        2.3

    Crの倍加                  1.3        2.4

    せん妄または昏睡       20.8     17.3

 問題:オープン・レーベルであったこと、約半数が感染症ではなかったこと、両群とも3日程度しか抗菌薬を投与されていないこと(よいことではあるが!)、クロスオーバーが約20%あること、尿細管排泄の影響を受けないシスタチンCを用いていないこと、CFPM群はベースから数字上せん妄・昏睡患者が少し多かったこと、などがあげられる。

 また、感染症雑誌のエディトリアル(doi.org/10.1093/ofid/ofad645)が注目したsupplement結果によれば、投与期間が72時間以上、96時間以上に限ったdeath-censored(死亡例を除外した)AKIステージ2は、PIPC/TAZ群でCFPM群の2倍近くみられた。ただし、サブ解析でありランダム化などが保たれているかは保証できない。

 いわゆる「セフェピム脳症」で困ったことのある筆者としては、このスタディで少しでもCFPM一辺倒の傾向が変わるといいなと思ってしまうが、試験名の通り「どんぐり(acorn)の背比べ」の感は否めない。大事なことは、どちらを使うにしても適切なde-escalationを行って曝露を必要最小限にすることだろう。


(出典はこちら


2024/09/14

FGF23アップデート

 FGF23が心肥大を起こす機序が発表されて、はや13年。また、FGF23に対するモノクローナル抗体ブロスマブのX-linked hypophosphatemic ricketsに対する効果が発表されて、はや6年。いま私たちはFGF23についてどれくらい知っているのだろうか。

◇FGF23の作用

 心肥大を起こす機序については、FGF23がFGFR4という心筋細胞の受容体を利用してカルシニューリン/NFATシグナリングを活性化することがわかり、FGFR4をノックアウトするとCKDモデルのラットに心肥大が起らないことが分かった(Cell Metabolism 2015 22 1020)。

 FGF23のモノクローナル抗体をCKDラットに注射すると、FGF23のリン利尿作用まで抑制してしまうため、激しい石灰化と高リン血症が起きて死亡率が増悪する(JCI 2012 122 2543)。しかしFGFR4をターゲットにすれば、選択的に心肥大を抑制できるかもしれない。

 FGF23は心肥大だけでなく炎症も惹起することが分かっている。たとえば、肝細胞のFGFR4を介してIL-6やCRPの産生を(KI 2016 90 985)、マクロファージのFGFR1を介してTNFαの産生を(FEBS Letters 2016 590 53)高める。

 また貧血とも関連することがCRICコホートの解析で分かっている(CJASN 2017 12 1795)。相関はカルシウム、リン、腎機能、炎症などと独立して有意にみられた。鉄欠乏との関連については、後述する。

 FGF23産生元である骨への影響を直接調べることは困難であったが、FGFR1を介して骨前駆細胞(osteoprogenitor cells)の前骨芽細胞(pre-osteoblasts)への分化を抑制することが昨年示された(JCI Insight 2023 8 e156850)。

◇FGF23の調節

 CKDにおいては、FGF23(またはその受容体)を直接ブロックする選択肢がまだないので、間接的にアプローチするしかない。

(出典はJASN 2010 21 1427)

 CaSRアゴニストについては、シナカルセトが血液透析患者においてFGF23濃度を低下させ、心血管系イベント・心不全・心血管系死亡の低下と相関していた(Circulation 2015 132 27)ほか、エテルカルセチドも血液透析患者においてアルファカルシドールに比較してFGF23と左室重量の低下に相関していた(Circ Res 2021 128 1616)。

 リンについては、メタアナリシスでリン吸着薬がおおむねFGF23を低下させることが示された(Ann Palliat Med 2022 1264)が、heterogeneityが大きい。たとえば、炭酸タンランは厳格なリン制限を併用しなければCKD3-4期のFGF23を下げることができない(CJASN 2013 8 1009、IMPROVE-CKDスタディを思い出した方もいるかもしれない)。

 また、鉄含有リン吸着薬は非含有リン吸着薬よりもFGF23を低下させやすい。

 近年、鉄欠乏・炎症・HIFなど、CKD-MBDによらないFGF23の亢進要素が明らかになっている。リン吸着と鉄補充の一石二鳥が狙えるため、鉄含有リン吸着薬、とくにクエン酸第II鉄は2019年にパイロットスタディ(JASN 2019 30 1495)が話題になったほか、日本でも多数の試験が行われている。

◇FGF23の切断

 おおくのホルモンがそうであるように、FGF23は251アミノ残基からなるペプチドであり、決定的に重要なことに、生理活性を持つインタクトFGF23(iFGF23)は179-180アミノ残基で切断される。そして、切断されたC末端のFGF23(cFGF23)は生理活性を持たず、多量にあるとiFGF23の作用を阻害する。

(出典はE & BP 2008 6 68)

 鉄欠乏・炎症・HIFなど、CKD以外のFGF23亢進においては、転写発現と同時に切断も亢進するため、生理活性のあるiFGF23のレベルは低く保たれる。しかし、CKDにおいては切断があまり行われない。

 その理由は・・現在解明中のようだ(Cells 2023 12 609)。転写量が多すぎて切断が間に合わないだけなのかもしれない。FGF23の切断ができないためiFGF23が亢進する遺伝疾患、autosomal dominant hypophosphatemic rickets(ADHR)が、参考になるかもしれない。


 CKD-MBD・鉄欠乏・炎症・HIFはいずれもCKD患者に併存しているため複雑であるが、せっかく同定されたのだから、FGF23(iFGF23、cFGF23)が診療にもっと活かされて、患者の役に立つ日がくるといいなと思う。まずは鉄含有リン吸着薬だろうが、個人的にはFGFR4に対する分子標的治療にも期待している。

(出典はFEBS Letters 2019 593 1879)

2024/09/13

TRANSFORMスタディ

  タクロリムス減量・代替レジメンの代表で、7月に(導入維持それぞれ)紹介したベラタセプトとともに忘れてはいけないのが、mTOR阻害薬である。第一世代のシロリムスはイースター島(現地語でRapa Nui)の土壌から発見されたためRapamycin(商品名Rapamune®)とも呼ばれ、第二世代のエベロリムスはその誘導体である。

出典はWikipedia ”Rapamycin"

 シロリムスが1999年に腎移植に認可された当初は、CNIに取って代わるのではという期待もあったらしい。

 しかし、免疫抑制の有効性においてCNIに劣ることや、蛋白尿(尿細管再吸収の抑制、足細胞傷害、VEGF産生による内皮細胞透過性の亢進などによるとされる)、創傷治癒の遅延(や腎グラフト周囲の液貯留)などの問題がみられたことから、現在その使用は限定的だ。

 とはいえ日本をはじめ地域・施設によってはCNI減量レジメンの第一選択薬であり、その代表的なエビデンスが2018・2019年に発表されたTRANSFORM試験である(それぞれ、JASN 2018 29 1979、Am J Transplant 2019 19 3018)。日本の試験も参加している。PICOは、以下の通りだ。


 P:18歳以上で新規腎移植(生体腎ないし脳死献腎)を受けた42か国の患者2037人。主な除外基準はHLA完全マッチ(双子)、CIT 30時間以上、高拒絶リスク(既知のDSAや高率のHLA抗体)、ドナー・レシピエントのHCV感染※など。

 ※DAAの普及により、現在では問題にならなくなっている。代表的なスタディはTHINKER試験(NEJM 2017 376 2394)。

 I:エベロリムス1.5mg1日2回(目標トラフ3-8ng/ml)+低用量タクロリムス※(目標トラフは移植後0-2か月で4-7、3-6ヵ月で2-5、6か月以降で2-4ng/ml)。

 ※シクロスポリン用のレジメンもあるが、全体の10%程度であったため省略。

 C:MPA/MMF※(0-2週で1440/2000mg分2、それ以降で1080/1500mg分2)+標準タクロリムス(目標トラフは移植後0-2か月で8-12、3-6ヵ月で6-10、6か月以降で5-8ng/ml)。

 ※720/1000mg分2にすることが多いと思われ、少し多い。

 なお、両群ともステロイドを併用し(最低維持量はプレドニゾン5mg/d)、導入免疫抑制は約80%でバシリキシマブ、約15%で抗胸腺免疫グロブリンであった。

 O:主要アウトカムは①生検で証明され治療も要した拒絶、または②eGFR 50ml/min/1.73m2未満。12/24か月の観察期間で、いずれもエベロリムス+低用量タクロリムス群はMPA/MMF+標準タクロリムス群に対して非劣性であった。

 安全性においては、介入群でCMV感染とBK感染が有意に少なかったほか、振戦・不眠(タクロリムス関連)、嘔吐・下痢・白血球減少(MPA/MMF関連)なども少なかった。

 いっぽう、介入群で多かった有害事象は蛋白尿(3.1%の患者が12か月時点で3g/gCr以上)、創傷治癒の遅延、口腔内潰瘍、浮腫など。薬の中断は介入群のほうが多かった。


 というわけで、残念ながらTRANSFORMというほど移植診療を変えるまでには至っていない。

 ただ、創傷治癒の遅延がそこまで多くなかった(リスク比1.22、信頼区間1.01-1.47)ことは移植外科医達への後押しになり、この試験を行った施設(UCSFなど)ではCNI減量レジメンに用いられているようだ。また、CMV・BK感染例においても、目にすることがある。

 筆者はmTOR阻害薬をほぼ使わない施設にいるので、今はBela(ベラタセプト)派であるが、施設が移ったら「エベロリムスを使いましょう、ウイルスに対しては効果があるかもしません。ただし、蛋白尿に注意が必要です」などと説明しているかもしれない。


 それにしても、タクロリムスが筑波の土壌、シロリムスがイースター島の土壌から見つかったというのは興味深い。この二つの土地が特別なのかもしれないし、あなたの地域の土壌にも未知の菌と化合物が眠っているのかもしれない・・?


2024/09/12

輸血とHLA感作

  HLA抗原に感作される機会の代表は、移植、妊娠、輸血である。そして、HLA抗原への感作は移植の障害になる。

 たとえば、家族があなたに移植したくても、あなたが家族のもつHLA抗原に感作されていたら、血漿交換やリツキシマブなどで脱感作しなければならない。あるいは、あなたと適合する別のドナーを探すか、他の患者に対するドナーとのスワップを計画するかだ。

 さらに、献腎移植を待っている場合には、感作されているほど適合ドナーは見つかりにくい。もし感作されたHLA抗原が国民の99%にあるなら、適合ドナーが見つかる確率は100人に1人である。99.99%なら、1万人に1人の確率で、ただ待っていてはとても見つからないので脱感作を行う(99%以下になることはまずないが、それでも確率は何倍以上になる)。

 上にあげた三つのうち、避けられるものなら避けたいのが輸血である。しかし、そもそも輸血にはどれくらい感作への影響があるのか?製剤ごとの違いはあるのか?移植や妊娠に比べてどれくらいリスクがあるのか?輸血時の感作を減らす工夫はないか?・・など、わからずにいた。

 そこへ来て、先日Kidney Internationalにレビューが出た(doi:org/10.1016/j.kint.2024.07.030)。ニッチな領域ではあるが、移植前=保存期CKD+透析医療においても大切な内容であるため、要約して紹介したい。

 1.輸血によるHLA感作のメカニズム

 細胞なのか細胞ではないのか微妙な赤血球だが、HLAクラスI抗原は低レベルながら表面に存在する。また、白血球除去や放射線照射を行った赤血球輸血であっても抗原提示細胞が100%除けるわけではないので、HLAクラスII抗原が含まれる可能性はある。また、白血球には赤血球よりも多くのHLAクラスI抗原が含まれる。

(出典は前掲KIレビュー)

 2.HLAセレクション

 輸血が避けられないなら、HLAを適合させた製剤を選ぶのはどうか?というわけで、輸血製剤のHLAクラスI(腎移植で問題になるA、B)、HLAクラスII(腎移植で問題になるDRと、グラフト予後に影響するとされるDQ)を調べる方法がある。

 国民に多く共有されているHLA抗原ほど感作されたくないので、そうしたHLA抗原ほど避けたい。フルマッチの製剤を見つけるのは難しいが、それでもHLA抗原への感作を減らすことができたという報告がある(NDT 2009 24 2559※)。

 ※移植前にさかんに輸血をおこなっていた時代に、それを戒める目的で行われたスタディである。なお、腎移植ドナーとHLAを合わせたdonor-specific transfusionを行った群では、25%でクロスマッチが陽性になり、移植ができなくなった・・。

 コストとロジスティクスが問題だが、そもそも輸血を行う人たちというのはHLAのプロであり(日本でも、移植施設の多くは赤十字病院である)、high throughputなどのゲノム解析を統一して行うことは可能になってきているという(Blood Adv 2020 4 3495)。

 3.赤血球以外の血液製剤

 ①血小板 

 HLAクラスI抗原を赤血球よりも効率に表出し(12万 v. 550個/細胞)、HLAクラスII抗原を持つ細胞が混入している可能性があるのは赤血球製剤と同じである。血小板輸血を繰り返すことで産生された抗HLAクラスI抗体が血小板を破壊するようになる現象(血小板輸血不応)は血液内科でよく知られているが、腎移植患者に関するデータはない。

 ②血漿

 脱感作の血漿交換時に投与するくらいだし、細胞がないのだからHLA抗原もないのでは?と思われるが、都合の悪いことに可溶性HLA抗原は血漿や血漿由来の血液製剤にも含まれる。その意義はあまり分かっていないが、フロー・クロス・マッチを行った際にはHLA抗体が検出用のビーズ抗原に結合するのを阻害するため、判定量的な抗体値(MFI)が低くなるらしい(Bloos Res 2020 55 91-98)。

 ③免疫グロブリン

 IVIGの抗体のなかには、抗HLA抗体(抗原ではなく)が含まれる可能性がある。しかし、IVIGを脱感作目的に使用したNIH IG02試験(JASN 2004 15 3256)では、IVIG使用による新規抗HLA抗体の報告はなかった。安心してよいだろう。

 4.輸血によるHLA感作の臨床的インパクト

 UNOSの解析によれば(NDT 2016 31 1746)、98%以上感作された患者7145人のうち輸血だけが原因だったのは5%だけだった。前回移植や妊娠の方が影響が大きいのは納得だが、「輸血だけで移植ができなくなる(かなりできにくくなる)」患者がそれだけいるのは大変なことである。

(出典はNDT 2016 31 1746)

  そこまでいかなくても、輸血によるHLA感作は約20%に起きるとされ、そのリスクは経産女性で高く、HLA抗体が陰性の男性で低い(以前は感作されないとすら言われていたがそんなことはないらしい)。

 また、感作後しばらくすれば抗体は検出されなくなるだろうが、記憶に残るので、移植後に出現するドナー特異抗体(DSA)の対象が、じつは何年も前の輸血で感作されたHLA抗原と同じだった・・などということもあり得る。

 5.移植後の輸血

 移植後1年で40%の患者が輸血を受けるというデータもあり(Front Transplant 2023 21215130)、歴史的には、術直後は免疫抑制をしっかり効かせるので、移植腎由来であれ輸血由来であれHLA感作は起きにくいと考えられてきた。しかし、近年そうではないとするエビデンスが蓄積している。

 たとえば、86人の英国移植患者が受けた輸血を提供したドナー244人のHLAを調べたところ、レシピエントの50%に輸血ドナー特異抗体がみつかり、その61%は臓器ドナー特異抗体と共有されていた。

 そして、臓器ドナー特異抗体と輸血ドナー特異抗体が共有された群は、抗体関連拒絶の発症が有意に高く腎予後も不良であった(Am J Transplant 2019 19 1720)。同じ抗原に二度感作されれば、それだけ抗体もできやすいだろう。

出典はAm J transplant 2019 19 1720
(青:共有された群、緑:共有されない群)

 6.解決策

 まず肝心なことは、輸血の必要性を減らすことである。外科領域ではPatient Blood Management(PBM)というイニシアチブが2000年代から提唱され、それは①貧血を見つけて治療する、②失血を最低限にする、③貧血に耐えられるよう患者の生理機能を高める、の3本柱からなる。
 
 腎移植においては、①術前に貧血治療を最適化し、周術期にもしっかり鉄・ESA(HIF-PH阻害薬)を使用する、②セルセーバーを考慮し、抗凝固のバランスを取り、漫然とした採血検査を避ける、③血液希釈を避ける体液管理を行う、などが考えられる。
 
 そのうえで、輸血をするなら必要最小限にとどめ、白血球除去や放射線照射を行い、できればHLAをマッチする。そして、HLAを追跡し、輸血ドナー特異抗体を臓器ドナー特異抗体のように把握できるようにする。


 「輸血も移植」とよく言われるが、ふだんそれをあまり意識することはない。しかし、血液製剤は誰かの献血から作られ、「ドナー」の細胞や体液を受け取っている(IVIGに至っては、海外の誰かであることがほとんどだ)。それを改めて認識した。


2024/09/07

BKウイルス

 つい先日、BKウイルスの診断と治療についての国際コンセンサスが19年ぶりに改訂された(Transplantation 2024 108 1834)!・・と言われても、「何のことやら?」と思う方も多いかもしれない。しかし、腎移植においては一大テーマであるから、少し紹介したい。

 BKウイルスは、JCウイルスなどと同じポリオ―マ・ウイルスの仲間である。なおJCもBKも最初にウイルスが分離された患者のイニシャルで、JCはJohn Cunningham氏であるが、BKの素性はいまだに伏せられている(腎移植患者であったことは分かっている)。

出典はViruses 2017 9 327

 BKウイルスは小児期に不顕性に感染したのち、泌尿器系臓器に潜伏する。しかし、免疫抑制下では再活性化し、出血性膀胱炎、尿管狭窄、BKウイルス関連腎症(BKVAN)などを起こす。ひどい場合、グラフト廃絶に至る。

 BKウイルスの再活性化は、BKウイルス尿症(viuria)→BKウイルス血症(viremiaまたはDNAemia)→腎症の順に起きるとされ、とくにウイルス量が多い(1万copies/ml以上)と腎症のリスクが高い。

出典はCJASN 2007 2(S1) S36

 ウイルス尿症のほうが感度は高いが、特異度は低い。よって極論すれば血液PCR検査で十分である。ただし、PCR検査が困難な場合は、尿中のウイルス感染上皮細胞(decoy cells)を指標にして、それが診られた場合に限りPCR検査を行う方法もある。

出典はWikipedia
 
 BKウイルスについては分かったとして、何が問題なのか?
 
 まずは、診断の困難さである。まず、腎生検でBKVANと拒絶の見分けがつきにくい。ウイルス感染細胞を染色するSV-40抗原はあるが、陽性率は高くない。そのため、染色が陰性でもBKVANを除外できない。逆に、染色が陽性でも拒絶が混在している可能性を否定できない。

 次に、治療の困難さである。BKウイルス感染は免疫抑制の過剰を意味するため、本来ならば免疫抑制を減らさなければならない。しかし、拒絶が混在している(あるいはBKVANではなく拒絶である)場合、治療は免疫抑制薬の増量である!

 減量の方法は施設によって異なるが、antimetablolites(MMFやAZA)を減量する戦略と、CNI(cyclosporineやtacrolimus)を減量する戦略の二つに分かれる。より新しいmTOR阻害薬とbelataceptのレジメンについては、対応は手探りで、十分なデータはない。

 ウイルスは抗ウイルス薬で治療しつつ、拒絶は免疫抑制薬で治療する・・が理想であるが、残念ながらBKウイルスに対する有効性が確立された薬はない。Leflunomide、Cidofovir、Fluoroquinoloneなどは今回の改訂で使わないよう推奨された。

 ただし、中和抗体であるIVIGについては、ないよりはましということで使われることが多く(拒絶にも少し効くかもしれないので)、今回も考慮することが提案された(推奨度はweak、エビデンスレベルはD)。

 他には、新規のposoleucelという細胞薬が開発されている。これはBKV・JCV・アデノウイルス・CMV・EBV・HHV6に免疫を持つ複数ドナーから集めたT細胞をウイルスに感作させて戦う力を高めたものだ。

AlloVirウェブサイトより

 骨髄移植など血液内科領域で開発されたが、腎移植患者にも試され(JASN 2024 35 618)、第2相ではBKVANの発症を予防し、他人のT細胞ながらDSA(ドナー特異抗体)の発症は1例だけであった。第3相でがっかりする可能性もあるが、結果が待たれる。

 今回の改訂はコンセンサスというだけあって、現状の診療を肯定し、未解決な問題を認識し、将来の研究方向性を展望する内容になっている。19年ぶりの改訂のわりに未解決な問題が多いのは残念だが、次はもう少し早く新しい診断と治療のツールが確認されるといいなと思う。


2024/08/07

ELITE-Symphonyスタディ

 2007年にヨーロッパ・カナダ・ブラジル・メキシコ・トルコのグループが発表したELITE-Symphonyスタディ(NEJM 2007 357 2562)は、腎移植領域の数少ない大規模な前向きランダム化試験の一つであり(オープンレーベルではあるが)、移植に関わらない腎臓内科医も知っておいてよいと思われる。

1.結論

 端的には、現在腎移植後に最もよく用いられる「ステロイド+MMF+低用量タクロリムス」レジメンがその地位を確立したスタディである。2010年代以降に腎移植に関わった(筆者を含む)人々にとっては当たり前の組み合わせも、それまでは当たり前ではなかったようだ。

 まず、研究グループは「(アザチオプリンよりも優れた拒絶予防効果を持つ)MMFを併用すれば、シクロスポリン・タクロリムス・シロリムスの用量を下げられるのではないか?」と考えた。そして、低用量は「移植直後からでも大丈夫なのでは?」と考えた。

 そして、18-75才の生体腎・献腎(心臓死を除く)移植を受けた患者1645人を、①シクロスポリン高用量、②シクロスポリン低用量、③タクロリムス低用量、④シロリムス低用量の4群に分け、12か月フォローしたところ、生検で証明された拒絶は③が最も少なく、グラフト予後は③が最も優れていた。

2.解説

 対象患者は約9割が白人、A/B/DRの平均ミスマッチは約3/6、高リスク(expanded criteria)ドナーからの献腎移植は約17%、糖尿病による末期腎不全は6%と、免疫学的リスクやDGFリスクは比較的低いコホートであった。ただし、平均年齢は約45歳であった。

 それもあってか、全例で免疫抑制の導入には抗CD25(IL-2受容体)モノクローナル抗体でbasiliximabの仲間、daclizumabが用いられ(移植前に2mg/kg、移植後は2週間ごとに1mg/kg×4回)、Thymo(抗ヒト胸腺/リンパ球ウサギ抗体)を用いた患者は除外された。

 また、各レジメンの目標トラフは高用量シクロスポリンの移植後3ヵ月で150-300ng/ml、それ以降で100-200ng/ml、低用量シクロスポリンで50-100ng/ml、低用量タクロリムスで3-7ng/ml、低用量シロリムスで4-8ng/mlであった。

 「MMFをしっかり効かせて(2g/d※)CNI用量を下げる」がテーマのため、攻めた設定である。また、プレドニンの最小用量は移植後2週間で20mg/d、3-8週間で15mg/d、9週-4か月で10mg/d、4か月以降で5mg/dと、こちらもやや多めであった。※今では、MMFは1g/dに減量されることが多い。

 ただし、実際にはタクロリムスの平均トラフは6-7ng/ml(標準偏差は5-10ng/ml)と高めであった。後にタクロリムスのトラフが5ng/ml以下でDSAが増えることが報告されたこともあり(AJT 2015 15 2921)、施設ごとに目標を決める際の基準になった(「5を避けて6-8」、「ベラタセプトを併用しつつ、5を狙って4-6」、など)。

 最後にシロリムスであるが、残念ながら本スタディでは拒絶が最も多く、グラフト予後も高用量シクロスポリンと変わらず、感染症・貧血・創部の治癒遅延・リンパ嚢腫などの有害事象が多かった。目標トラフが低かった可能性はあるが、少なくともこの組み合わせは余り見られなくなった。

 現在では、シロリムス・エベロリムスなどのmTOR阻害薬は、CNI減量目的の追加薬として用いられ、米国ではベラタセプトに次ぐ第二選択薬の位置づけである(ベラタセプトが用いられない日本では、第一選択薬である)。

3.感想

 正直筆者は、今月までこのスタディを知らなかった。移植医療に限らず「どうしてこうしているの?」を問いかけないと、「そういうものだから」で終わってしまう。それでも診療はもちろん行えるのであるが、歴史を知ると、「いまはポスト・シンフォニー時代なのだな」と相対的に診療を認識できる。そして、次の時代の到来も予見できるようになる。


(出典はこちら



2024/08/03

夏の一冊 2024

 猛暑・酷暑・・・そのうち新しい暑さを表す言葉が現れるにちがいない(極夏、獄夏と書いて「ごくか」など?)ほど厳しい時候、屋内で過ごさざるを得ない方も多いだろう。そんなわけで、久々にお勧めの本を紹介したい。その名も、『先生、このへんどうでしょう?対談から学ぶCKD診療スタンダード』である。


(出典はこちら


 腎臓内科医師が対談でCKD診療についてさまざまに語り合う、という設定で著者らが書いた本である。
 
 まず気づくのは、思わず手に取りたくなるソフトな印象のカバーである。なお、対談医師が二人とも男性なのは、おそらく著者らが男性だからで、「医師と言えば男性」という固定観念を押し付けるものではないだろう。

「診療スタンダード」と銘打つだけあって、読んだらすぐに外来で役立つ内容である。患者の質問などにもよりよく答えられるようになるだろう。このような教育機会が現実にももっとあればよいのにと思う。

 専門家と非専門家の対談形式は、得てして専門家が語り、非専門家は聴くというパターンになりがちである。しかし本書は両者ともに専門家であるため、やりとりが丁々発止で心地よい。時にはお互い診療の考え方が違うこともあるが、互いの違いを認め合うポジティブさが、却って雰囲気をよいものにしている。

 ただし、あくまで対談の対象は非専門医であるため、内輪ネタで盛り上がって終わりにするのではなく、両者が非専門医に語り掛ける形になっている。そしてそこには上から目線がなく、「初心忘れるべからず」や「知らないことを知っている」といった、専門家ならではの謙虚さが感じられる。

 また、どのトピックにも「先人の苦労を偲び、現在の問題・悩みを共有し、未来に希望を託す」という姿勢が通底している。人類の進歩を信じていると言えばややナイーブな楽観主義にも聞こえるが、その一方で「変わるもの」と「変わらないもの」を見極めようとしているのかもしれない。そのことは、随所に出てくる古代から中世に至るさまざまな引用句からもわかる。

 もちろん個々に挙げられた個々の治療やその推奨度は何年もすれば変わってしまうだろう。しかし、本書を読んで得られた知識や智恵、そしてクス笑いは、時を越えて残るのではないだろうか。

 それにしても・・いったいどんな本なのか?

 それは、読んでのお楽しみである。

 

2024/08/02

FSGSと抗ネフリン抗体

  一次性FSGSはcirculating factorが足細胞を傷害すると考えられており、その如実な例が移植後の再発FSGSである。2012年に、移植直後からFSGSを再発した腎グラフトを別の患者に移植しなおすことで腎グラフトを救ったケースが話題になったことは、以前にも述べた

 もちろん、FSGSの患者が腎移植を受けられないわけではなく、再発率は高いものの報告された文献をまとめると成人で約16%、小児で約40%である(KI 2024 105 450)。移植後は頻回に蛋白尿をモニターし、腎生検を行う。病名通りの硬化が診られるまでには何週間もかかるため、治療を遅らせてはならない。

 ※電顕レベルでは広汎に足細胞の病変が診られるため、Focalという呼称は誤解を招きがちである。また、光顕病変は髄質付近の糸球体に好発するため、サンプリング・エラー(MCDと誤診される)も起こりがちである。

 しかし、血漿交換、免疫吸着、リツキシマブなどを行っても、治療成績はあまりよくない。新規抗CD20抗体(ofatumumab、obinutuzumabなど)、間葉系幹細胞なども、試行段階である。また、二度目の移植では再発率がさらに高くなる。それで、circulating factorを含む、病態の解明が待たれていた。

 そんななか、2022年にハーバード大学らのグループがMCD患者の血中に抗ネフリン抗体を確認し、それが治療効果・病勢と同期することと、抗ネフリンIgGが腎生検の組織上でネフリンに局在することを発表した(JASN 2022 33 238)。

 MCDもFSGSも肉眼的な病理の呼称であり両者は足細胞病のスペクトラムと考えられるため、抗ネフリン抗体がcirculating factorなのでは?という期待が高まった。

 そして2023年、日本の多施設グループが移植後に再発した一次性FSGS小児患者で抗ネフリン抗体が著明に高値で、病理組織で抗ネフリンIgGがネフリンに局在し、治療効果・病勢と同期することを示した(KI 2024 105 608)。

 それだけでなく、ネフリンのチロシン残基がリン酸化され、ネフリンの細胞内への移動に関わるShcA蛋白などの発現が増加していた。また、抗体のサブクラスは複数であったこと(polyclonal)、補体の沈着はわずかしか見られなかったことなどがわかり、病態への理解も進んだ。

 さらに昨日、ヨーロッパ各国のグループが537例(成人患者357、小児患者182)、対照117例に対して抗ネフリン抗体を調べた結果を発表した(NEJM 2024 391 422)。ランドマーク・スタディと考えられるため、急遽取り上げることにした。

 結果、小児の低Alb血症や高度蛋白尿を伴う特発性ネフローゼ症候群の79%、免疫抑制薬の未使用例に限れば89%に抗ネフリン抗体が見られた。やはり病勢に同期し、リツキシマブ・シクロスポリン・ステロイドなどで蛋白尿が改善すると抗体量も減っていた。

 さらに、抗ネフリン抗体の動物モデルも検証し、ヒトのネフリン1176チロシン残基に相当する1191チロシン残基のリン酸化、Shc1やClathrinの発現増加、slit-diagramに関わる蛋白の発現低下を示した。

 ただし、成人の一次性FSGSでは、抗ネフリン抗体の陽性率は9%にとどまった(MCDでは43%)。小児の特発性ネフローゼのなかには、MCDもFSGSも入っているため、成人よりも陽性率は高いかもしれない。

 まだ話は途中であるが、少なくとも小児領域では腎生検の代替になりうる他、陽性率が高ければ一次性FSGSや移植後再発の病勢マーカーとして使用できる。

 また、病態に関連して言えば、補体関連の治療薬(エクリズマブ、ラブリズマブなど)よりも、抗体産生を抑制するB細胞・形質細胞をターゲットにした治療(抗CD28、抗CD38など)に照準を合わせられる。

 さらに、チロシン残基のリン酸化まで分かったのであれば、世の中にはチロシンキナーゼ阻害薬がたくさんある。もう少し「どこにどのように効かせればよいか」の確証が得られれば、せっかく薬もあるのだから、試される日が来るかもしれない。

 何事も、病態理解がカギである(下図はKI 2024 105 440)。


2024/08/01

タクロリムスとサイアザイド

  移植後に用いられるタクロリムスは、遠位尿細管のNCC活性を亢進するため、遠位ネフロンに届くNa+が減り、Na+の再吸収と交換で排泄されるK+とH+が減り、高カリウム血症と代謝性アシドーシス(4型RTA)を起こす。

 この仕組みが解明されたのは2010年代で、筆者は当時(それならサイアザイドを使えばよいのでは?)と思った。ただし、当時はまだ、「移植後患者をdryにしたくない」というためらいや、「血管収縮作用に拮抗するCCBを使うべきだ」といった意見もあった。

 しかし、2017年にアムロジピンに対するクロルサリドンの非劣勢を示すランダム化クロスオーバー試験(AJKD 2017 69 796、下図)が行われ、現在では移植後患者にサイアザイドを少量足して血圧とカリウム値をコントロールするtrickは一般的なものになっている。

 「病態理解から診療の変化につながるまで、10年はかかる」とは、よく言ったものである。ただし、同論文は移植後平均2年、平均eGFRは約60ml/min/1.73m2であった。移植直後や、DGF後で腎機能が十分に回復していない場合などは、ループ利尿薬のほうが効果的かもしれない。

 優秀なカリウム吸着薬がある昨今、医療者はついついそれに甘えがちであるが、利尿薬のほかにもSGLT2阻害薬、インスリン、重曹、(体液量が少なければ鉱質コルチコイド)など、さまざまなtricksがある。病態生理に合わせて使いたい。※ただし、移植後患者についてはSGLT2阻害薬のデータは少なく、重曹は腎予後や拒絶予防に否定的なRCTが出た(Lancet 2023 401 557)。


2024/07/26

PTHと尿細管のカルシウム調節

  PTHはどのようにカルシウムを再吸収するのだろうか。定説は「遠位ネフロンに作用する」であるが、もう少し詳しく分かりつつあるようだ(Acta Physiologia 2023 238 e13959、図の出典)。

 腎臓にはPTH受容体のサブタイプPTH1Rがある。In situ hybridizationによれば、足細胞、近位尿細管(主に直部)、TAL、DCTに分布している。定説と異なり、集合管には分布していないという。また、血中を流れるホルモンであるから、内腔側ではなく間質側に分布している。

 近位尿細管でPTHがどのようにCa再吸収に関わるかは、未解明である。NHE3を介したNa再吸収を抑制することはよく知られているため、それにカップリングしたCa再吸収も抑制しそうなものであるが、逆に増加させたという報告もある。Naに依らない、細胞間のClaudin2などに対する別の作用があるのかもしれない。

 TALでPTHがCa再吸収を増加させることはよく知られているが、この現象は皮質のTALで見られるという。近位尿細管と異なり、ここではPTHがCaが流れるための電位差と細胞間のCa透過性の両方を作り出していることが分かっているが、それぞれの機序は未解明である。

 電位差については、PTH受容体が生み出すcAMPがNKCC2チャネルを活性化するのではないかと推察される(バソプレシンは、そのようにして髄質のNKCC2を活性化させる)が、皮質のTALはPTHの有無にかかわらず常に活性化されているため、別の機序があるのかもしれない。

 また細胞間の透過性については、cAMPによるClaudin-16の(217位のセリン)リン酸化が推察されているが、直接の証拠はないうえ、それだけで短時間で再吸収が増加するかには疑問もある。逆に、Claudin-16を閉じるClaudin-14を不活性化する可能性も指摘されている。

 DCTでは、Caは細胞内を通って再吸収される。PTHは、内腔側のTRPV5、細胞内のCalbindin 28K、そして間質側のNCX1の発現を増加させることがわかっている。なかでもPTHが直接作用するのはTRPV5で、protein kinase Aによる開放確率の増加、protein kinase Cによるendocytosisの抑制などが知られている。


移植後の高カルシウム血症

 腎機能が低下すると、①ビタミンDが活性化されずにカルシウムの吸収が低下し、②リンが尿に排泄されず、低カルシウム血症と高リン血症が起きる。活性型ビタミンDの低下、低カルシウム血症、高リン血症はいずれも③副甲状腺ホルモン(PTH)を増加させる。その結果、破骨細胞が刺激されて骨からカルシウムが流出し、血管などが石灰化する。いわゆる、CKD-MBDである。

 では、腎臓を移植するとどうなるか?

 ①ビタミンDが活性化されるようになり、カルシウムの吸収が増加し、②リンが尿に排泄され、低リン血症が起きる。③副甲状腺ホルモンは、副甲状腺から自律的に分泌されるので、なかなか減少しない。副甲状腺ホルモンには尿中のカルシウムを再吸収する作用もあるので、①と③を合わせて移植後に高カルシウム血症がみられることがある。

 頻度は15%(Transplantation 2016 100 184)、25%(Front Med 9 821884)などさまざまであるが、PTHやCaが正常化しない患者は正常化する患者に比べて生命予後・グラフト予後が不良であったという報告もある(Diagnostics 2024 14 1358)。

 そのため、ビタミンD、CaSRアゴニスト、デノスマブ、副甲状腺摘出術などが試みられる。ただし、これらの介入によりPTHは下がるが、骨密度・骨折リスク・腎グラフト予後・生命予後などが改善したという報告はほとんどない。手探りである。


(出典はFront Med 9 821884)


2024/07/20

維持免疫抑制薬としてのベラタセプト

  3.切替(conversion)

 CNIベースの維持免疫抑制レジメンで拒絶が起きないのはよいが、残念ながら腎機能低下・さまざまな心血管系イベント・悪性腫瘍などの副作用があり、それらは「拒絶さえしなければよいだろう」と無視できるものではない。そんな時にはCNI-sparingレジメンが考慮され、筆者が以前米国にいた2011年にはもっぱらmTOR阻害薬が用いられていたが、今の米国はbelataceptが主流である。

 こうした使用はCNIを続けることが望ましくない場合やde novo DSAが出現した場合に限って症例ごとに退避的に行われる"rescue therapy"がほとんどであり、エビデンスの質は後方視になりがちで高くない。それでも、eGFRやグラフト予後の改善が見られたという報告や、急性細胞性拒絶に有意差がなかったという報告は散見される。切替が術後何年も経って行われることも影響しているだろう。

 なお切替方法は施設・医師・患者ごとにまちまちであり、よく保険が通るなと思うほどであるが、一応準拠するレジメンはある。それは"per protocol"の切り替えを行った多国籍の第3相RCT(JASN 2021 32 3252)で、belataceptは5mg/kgを2週間ごと5回行い、以後は4週間ごとというものだ。CNI(90%がtacrolimus)は4週間で漸減終了した。

 結果は24か月でグラフト予後に有意差はなく、eGFRは切替群で有意に高く(55.5 v. 48.5 ml/min/1.73m2)、de novo DSAは切替群で有意に低く(1% v. 7%)、急性細胞性拒絶は切替群で有意に高かった(8% v. 4%)。

4.CNI with belatacept

 ここまでくると、誰もが①CNIとbelataceptの「いいとこどり」はできないか?、②Belataceptで拒絶する患者のリスク因子は何か?などと考えたくなるだろう。そんなわけで、①については「CNI+belatacept」のレジメンをよく見かける。Belataceptは5mg/kgだが、ローディングは3回なこともあるし、維持量も1-2か月に1回などまちまちである。また、tacrolimusの目標トラフは通常4-6ng/mlのところを3-5ng/ml、といった具合である。

 要は"little bit of both"である。こうなってくると、もはや前向きに有効性を評価することはできないが、医師裁量が広く使いやすくなったとも言える。個人的に心配なのは、「ステロイドとMMFとtacrolimusとbelataceptだと4種類(quad)になってしまう」と言って、割とあっさりMMFが中止されることである。なんとなく、MMF+CNI+belataceptのほうが拒絶しにくくステロイドの副作用も減らせて一石二鳥、と思ってしまう。

5.Patients at risk

 前項②については、免疫学の深みにはまってしまうので、これまた「Thymoで導入したから安心して切り替えられる」とか経験則に基づきがちであるが、せっかく抗CD28の治療と分かっているのだから、T細胞のサブセットやマーカーによってbelataceptで拒絶しやすい群を同定できないかという試みは行われている。

 たとえば、移植前に「CD28+、CD8+のTEMRA細胞(ナイーブT細胞に見られるはずのCD45RAが、いちど消えた後で再び発現している段階)が3%以上」、「CD57+(NK細胞にも見られるマーカー)、PD1-のTEM細胞(effector memory T cell)が多い」などの群である。この辺りの理解が深まると「それなら抗〇〇抗体を併用すれば拒絶が防げるのでは?」といった話にもなってくるが、今はまだ実用的ではない。

 なお、免疫学の深みもさることながら、よく知られたbelataceptの禁忌はEBV陰性である。HIV感染、CMV血症なども慎重投与である。術後のFSGS再発などで血漿交換を行っている場合にも、belataceptは抜けてしまう。また、COVIDワクチンは、belataceptを打ってしまうとその効きがとても悪くなる。

6.おわりに

 筆者は「もうこれは(いろいろ問題もあるけど)やるもんでしょ」という治療に対して、「本当にそうだろうか、それ以外のよりよい方法があるのではないか、全員とは言わないが、他の方法でうまくいく状況と患者がいるのではないか?」と考えてしまうタイプである。その代表がステロイドと透析だった。CNIもまた、40-50年の時を経て「素晴らしい薬だけれど・・問題もある」という場面を迎えていると感じる。

 こういう薬や治療は、それはそれで確立しているわけだから、全員がいきなり乗り換えるような新しい治療は生まれにくい。それでも、「何かあるんじゃないか、きっとあるはずだ」と考え続けていれば、徐々に変わっていくと思う。※筆者はPrograf®(tacrolimus)、MeltDose technologyで徐放化に成功したEnvarsusXR®、Nulogix®(belatacept)の製薬会社と、利益の相反を持たない。


(Bella Notte、出典はこちら



導入免疫抑制薬としてのベラタセプト

 1.背景

 ①抗原提示、②共刺激、③サイトカインがT細胞を活性化させる三つの柱である、という仮説を"three signal hypothesis"と呼ぶ。そして、②の代表がCD28-CD80/86(T細胞側‐抗原提示細胞側の順、以下同じ)、CD154-CD40である。

 抗CD154モノクローナル抗体は血小板のCD154と交差して血栓の副作用が多く止めになった。その後Fc部分が問題と分かり、Fab部分に似るが抗体ではないTn3という蛋白をアルブミンに結合させたdazodalibepが開発され治験中である(NCT04046549)。

 CD28をターゲットにした薬は、CD80に結合してCD28-CD80シグナルをオフにする分子、CTLA-4に着目して作られた。第一世代のabataceptはCTLA-4と抗体のFc部分を結合させた薬で、皮下注射でリウマチ等に有効なのは素晴らしいが、非ヒト類人猿では移植の有効性が確認できなかった。

 ※なお、abataceptもbelataceptが使用できなかった際(流通の問題やコロナ禍)の使用経験では有効が確認されており、belataceptから切り替える治験が行われている(NCT04955366)。

 Abataceptに2か所修正を加えてCD80により強く結合するようにした第二世代の薬が、belataceptである。残念ながら点滴の薬で、基本は1か月に1回ある。そのため、ペグ化したりCTLA-4‐CD80の作用は阻害しないようにしたりと工夫した第三世代の薬、FR104(NCT04837092)やLulizumabが治験されている。

2.BENEFITとその後

 2010年に発表された試験で、シクロスポリン群に比して術後のeGFRが高く保たれたがACR(急性細胞性拒絶)は有意に多くかつ重度であったことはよく知られているが、とにかくこれを受けて2011年に米国と欧州でbelataceptは認可された。

 同試験はbelatacept群をmore intensive dose(MI)とless intensive dose(LI)に分け、LIが認可の用量となった。それは、10mg/kgをDay 1、Day 5、Week 2、Week 4でローディングしたあとWeek 8とWeek 12にうち、そこからは5mg/kgを4週ごとというものである。

 しかし、血栓の多い抗凝固薬を使いたい人がいないように、拒絶の多い免疫抑制薬を使いたい人もあまりおらず、betalaceptを導入に使う施設はほとんどない。認可当初から意識的に使っているEmory大学でも、tacrolimusと組み合わせて、用量も「5mg/kgを術中と1ヵ月後、以後毎月」とBENEFITとは異なるレジメンになっている(KI Rep 2023 8 2529)。

 Belatacept使用中の拒絶は術後6ヵ月以内が多い。そのため、さきほどのEmory大学レジメンではtacrolimusを術後11か月用いるようにしている(9か月目からで毎月1/3ずつ漸減して終了する)。

 むしろ、belataceptの美しさは、①eGFRが保たれる、②糖尿病・心血管系イベントなどCNIの副作用を低減できる、③DSAを減らせる、などにある。そのため、使い道としては維持レジメンのほうが向いている。また、③については、AMR(抗体関連拒絶)の治療や脱感作にも試みられている。

 そこで次回は、維持療法・CNI sparing agentとしての役割について書こうと思う。


(la Bella y la Bestia、出典はDisney+)