2021/10/11

CKDと貧血を復習〜ESA、HIFについて〜 ESA製剤について

また、前回から期間が空いてしまいました。。

今回は、ESA(Erythropoietin stimulating agents) とHIF(Hypoxia inducible factor) について書いていきます。まずは、EPOについて


EPO製剤について

まず、EPO(Erythropoietin)については、1940-50年代にKrumdieckなどが造血をおこす血漿タンパクを指摘したことから始まった。1957年にJacobsonなどがのちにEPOとして認識される腎臓から産生されるものを認識した。

EPOは組織低酸素に反応して腎臓の間質細胞(Blood 2008)から分泌されるアミノ酸糖タンパク質ホルモンである。

1977年にヒトEPOが貧血患者の尿から抽出されて(J Biol chemi 1977)、1983年に遺伝子のクローン化に成功した。1989年に組み替えEPO(ヒトEPO遺伝子のクリーン化によって作られている)がFDAで承認され使用されるようになった。現在ESAとして知られているものが、組み替えEPO製剤である。



ESAに関しての重要な研究

NHCT:NEJM1998年、1223人の透析患者をHt 42% vs 30%にするようにした場合を比較。Htが高いほうが血管の血栓、死亡率増加、心筋梗塞の比率が増加

→透析患者さんで治療目標は高過ぎないほうがいい

CHOIR:NEJM 2006年、1432人の透析をしていないCKD患者において、Hbターゲットを13-13.5g/dL vs 10.5-11 g/dLで比較。複合エンドポインント(死亡率、心筋梗塞、うっ血性心不全における入院、全ての入院)でHb 13-13.5g/dLの方で増加。

→CKD患者さんで目標Hbは高くする必要なし

・CREATE:NEJM 2006年、603人の透析をしていないCKD患者において、Hbを13-15g/dLにしても10.5-11.5g/dLにしても心血管イベントのリスクは差はなかった。

→CKD患者さんで心臓を守るという意味でも目標Hbは高くする必要なし


EPOを使用するときに効果がない場合

原因:鉄欠乏性貧血、感染やなんらかの炎症、不適切な透析、重度な副甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍、血液疾患などを考慮する。

抵抗性であるにも関わらず、増量をし続けることで死亡率の増加(KI sup 2008)、脳卒中を含めた心血管イベントの増加、血液透析アクセスの血栓の増加、高血圧につながることがわかっているので、無闇な投与は控える!


悪性腫瘍患者へのEPO投与(AJKD 2019)

まだ、十分な検証ができていなく結論は出ていないが、多くの研究ではがん患者でEPO投与でHb>12g/dLにすることで死亡率の上昇につながることがわかっている。しかし、癌の進行との関連性はないと言われている。なので、投与に関しては、患者においてリスクとベネフィットを考えて使う必要性がある。


Hbの目標値

KDIGO ガイドラインでは透析患者でESA使用での目標はHb 10-11.5g/dLで、なるべく少ない量のESAで管理する必要がある(鉄欠乏を見逃さないことが重要である。)

しかし、治療目標は個別化する必要もある。若い人に対しては、QOLの点でも高めに設定する場合がある。


次はHIFについて記載したいと思います。少しでも多くかけるように頑張ります!


2021/10/07

3%NaCl

 低Na血症に対する3%NaClの使用といえば一度は皆さん、経験したことがあるだろう。

 低張性低Na血症の場合で中等症から重症いわゆる神経症状を呈している場合は、3%NaClで補正することになる。この投与方法に関しては様々な議論が行われてきた。例えば、どのような方法で?どれくらいの速さで?などである。これらの疑問を含めた3%NaClの使用に関しての報告があった。

 最初に一般論として、低Na血症は自由水が相対的に多い状態と考えられている。細胞1つ1つの単位としては少し膨れているイメージだ。細胞が膨れた場合、様々な臓器がむくむ。低Na血症の症状が中枢神経系に集中している理由は頭蓋骨に囲まれた脳だけは圧を「適切に」逃すことができないためであると考えられる。

 治療の基本は原疾患の治療と自由水の調整である。特に自由水の調整に関して、TargetとLimitを把握しておくことは重要である。

 Targetとは治療の目標を指し、あくまでも症状の改善に重きをおくべきであり、数字のみを治療目標としない。

 limitはNa値の変動の制限であり時間あたりの変化と1日毎の変動に関してである。table2は特に治療のlimitに関してのこれまでの報告がまとめられている。

 では次に3%NaClについて簡単に確認する。

 3%NaClを含む低Na血症への高張食塩水の歴史は意外と古く、1938年ころにHelwigらに100-300mlの高張食塩水を急速投与した報告が最初である。その後、1980年頃には安全なレベル(Na値 120-130mEq/L)を達成するために2mEq/Lずつ上げていくとする目安も報告された。

 3%NaClの合併症としては浸透圧性脱髄症候群:ODSが有名である。イメージとしては、Na値の急速な改善により、細胞の周囲の浸透圧が上昇し、急速に細胞内の自由水がなくなり、細胞が縮んでしまうことで発症する。

 当初は本当にODSは存在する病気なのか?と懐疑的な意見もあったようだが、徐々に認知されてきて、24時間で9-10mEq/Lの補正でも発症したとする報告まで認められるようになった。最終的には2000年のNEJMに症状の改善の目的であれば僅かなNa値(3-7mEq/L)の上昇で十分であり、≦8mEq/L/dayで管理すべきと報告された。

 ODSのリスク因子も同定されており、アルコール依存、肝疾患、低K血症、低栄養、血清Na<105mEq/Lがある。いわゆる慢性的に「調子が悪そう」な状態の場合を指す。

 table1に2013年に米国と2014年に西欧からそれぞれ出された低Na血症の治療の推奨を抜粋されているので参考にすると良いだろう。

 また、この文献には3%NaClに関するいくつかのテーマについても記載されている。

 1. 持続投与 vs ボーラス投与

 利点と欠点が各々存在する。持続投与の利点は投与速度を変更することが容易であり過補正とならない可能性が高いが補正が緩徐になりやすい。

 ボーラス投与は早急に目標が達成される一方で、投与量が固定されていることで過剰補正となる可能性がある。では持続投与 vs ボーラス投与の有用性は?SALSA trialも参考にする。

 2. 末梢静脈投与 vs 中心静脈投与

 施設によっては中心静脈投与のみで許可されていることが使用をためらうことにつながっている。おそらく、3%NaCl自体の浸透圧が高い (1027mOsm/L)ことが判断の根拠にこれまではなっていたが、最近の研究では静脈炎は増えないようである。

 他に、過剰補正のために3%NaClとデスモプレシンの併用療法や、K補正でNa値が上昇することに関してなど記載されており興味深い。

 繰り返しになるが、低張性低Na血症と診断した上で神経症状を呈している場合に3%NaClの使用を考える。使用の際には、ODSのリスク因子を確認した上で、targetとlimit(特にODSのリスク因子を有する症例ではより緩徐に補正)を意識して管理することが重要である。

 *3%NaClの作成方法

①0.9%NaCl 500mlから100ml廃棄し 400ml

②10%NaCl 20mlを6アンプル    120ml 

 ①+②で 3%NaCl 520ml