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2020/09/14

IMPROVE-CKDとドミノ倒し

 CKD4期(eGFR 26ml/min/1.73m2)の63歳男性。内服にACEI/ARB、βブロッカー、スタチンなど。血圧140/76mmHg、頚動脈‐大腿動脈間PWV 10.8m/秒、腹部大動脈の石灰化スコア1535。血液検査結果は以下のようであった。

T-Chol 173mg/dl
Ca 9.2mg/dl
IP 3.9mg/dl
ALP 89U/l
25(OH)VitD 28ng/ml
1,25(OH)2VitD 30pg/ml
Intact PTH 112pg/ml
Intact FGF23 133pg/ml

Q:IMPROVE-CKDスタディを踏まえて、どうしますか?


 IMPROVE-CKDスタディ(doi:10.1681/ASN.2020040411)といえば、CKD3B・4期の278人を、炭酸ランタン群(500mg1日3回から開始、リン値が4.9mg/dlを越えたら増量)とプラセボ群にランダム化した多国籍(オーストラリア・マレーシア・ニュージーランド)スタディだ。

 コレステロールを「下げれば下げるほど」心血管系イベントを抑制できることを示したIMPROVE-ITスタディ(NEJM 2015 372 2387)にあやかったのか、96ヶ月フォローしてのプライマリ・エンドポイントは、頚動脈‐大腿動脈PMV。石灰化スコア・PTH・FGF23なども調べられた。


 しかし結果は・・


 そもそも「リンが下がらなかった」!グラフを見てわかるように、介入群でリンは低めなのであるが、すべてのデータをあわせてもその差は0.28mg/dlにすぎなかった(信頼区間0.03~0.4mg/dl、p=0.03)。


(前掲論文より)

 
 これでは、「リンをさげる→石灰化を抑制する→PMV・石灰化スコア・FGF23などの数値が改善する」のドミノ倒しが始まらない。それでか、PMV・石灰化スコア・FGF23などにも有意差は見られなかった(石灰化スコアは、介入群のほうが治療前から高かったのだが)。

 なぜリンが下がらなかったのか?アドヒアランスは74%の患者で80%以上と悪くなかったが、介入群の93.5%が炭酸ランタン500mg3錠/日であり、用量を増やす閾値(前述の4.9mg/dl)を越えなかったようだ。

 もしこの閾値を低くして薬を増やしておけば、下図のようにもっとクッキリしたリン値の差がでたのかもしれない。しかし、CKD3B・4期で3台mg/dlの患者に、炭酸ランタン500mg6錠/日を処方しようと思う方は少ないだろう。 消化器系副作用・薬の量・コストなどが馬鹿にならないからだ。


クッキリとした差(模式図)


 それもあってか、JASN同月号のエディトリアルは題名からして「吸着薬の失敗(Binder Blunder)」と手厳しい(doi:10.1681/ASN.202081182)。しかし理論上は、リン値をクッキリと(2台mg/dlとかのレベルまで)さげると石灰化をキッチリと抑制できる(できない)かが証明されておらず、ドミノ倒し仮説は完全には否定できない。

 だからこそ、NHE3阻害薬・NPT2a阻害薬など新規リン吸着薬が数々治験されている(こちらも参照)のだし、その文脈でFGF23とそのモノクローナル抗体が注目されてもいる(こちらも参照)。ドミノ倒しの研究は、まだまだ続くだろう。

 
 

(引用元はこちら)

 
 
 


2019/08/23

NPT2a阻害薬から見える未来

 近位尿細管トランスポーターで治療標的のものといえば、まずSGLT2を思い浮かべるだろうが、URAT1(こちらの追記も参照)、NHE3(こちらも参照、ただし腸管のNHE3に対する薬だが・・)なども実用化にむけて治験が進んでいる。そして今月はJASNに、NPT2aの阻害薬の報告が載った(DOI: 10.1681/ASN.2018121250)。

 NPT2aとは聞きなれないかもしれないが、近位尿細管にあるナトリウム(Na)とリン(iP)の共輸送体だ。NPT2aというからには他のファミリーメンバーもいて、NPT2bは腸管にあり、NPT3cはやはり近位尿細管にある(図はCJASN 2015 10 1257)。なお近位尿細管には別にPiT-2というナトリウム・リン共輸送体もあり、いずれも再吸収をおこなっている。




 今回でた実験は、PF-06869206というNPT2a阻害薬を、5/6腎摘したCKDモデルマウスに静注したものだ。NPT2aだけを阻害しても、上述のようにリンの再吸収は複数のトランスポーターによるので、リン排泄は増えないようにも思われる(おそらくそれが、いままでNPT2a阻害薬が作られなかった背景にあるのだろう)。

 しかし、蓋を開けてみるとリン排泄は増え、血中リン濃度は低下した。組織をみると、近位尿細管でのNPT2a発現が低下したのに対して、たとえばNPT2cの発現は代償性に増えていなかった(ただし定量化はしていないが)。また、NPT2aはナトリウムの共輸送体でもあるので、尿ナトリウム排泄も増えていた。

 つまり、この世にまたひとつ、新しい利尿薬の候補と、高リン血症の治療薬の候補が生まれたということだろうか?

 たしかにそれも大事だが、この実験から予見されるのはそれだけではない。筆者にとっては、少なくとも2つある。

 1つ目は、単にリンを下げるだけでないかもしれないことだ。腸管からのリン吸収を阻害する吸着薬とちがい、NPT2a阻害薬は近位尿細管細胞に直接作用する。そして、近年はFGF23・KlothoとPTHがNPT2a発現を調節する仕組みも解明されつつある(図はKI 2009 75 882、Front Endocrinol 2018 9 267)。NPT2a阻害薬は、こうしたCKD-MBDのホルモン軸に、独自の影響をおよぼす可能性がある。





 そして2つ目は、「(SGLT2阻害薬につづき)近位尿細管の負担を軽減して腎機能低下を抑制する薬」が生まれる可能性である。この実験は注射も1回だし、24時間後の変化しか見ていないが、おそらく連用した場合の腎機能への影響もとっくに調べられているに違いない。「NPT2a阻害薬による腎保護」がコンセプトとして通用すれば、剤形や安全性を高めるなどの課題は工夫すれば解決できるだろう(SGLT2阻害薬がそうであったように)。

 
 やはり、フロンティアというか、いま近位尿細管には「きてる」感がある。今後も勢いよくさまざまな標的分子が治療対象となってゆくだろう。きっと今頃、試行錯誤と努力を続けるどこかの研究室で、未来が生まれているに違いない(写真は伝説的なSF作家、ウィリアム・ギブソンの引用句、「未来はここにある、ただ均等に行きわたっていないだけだ」)。






2018/07/13

ピロリン酸に願いを

 先週は七夕。短冊に願いを込めるのは、一種の自己暗示といえる(これを心理学の用語ではself-fulfilling prophecy、自己実現的予言というらしい)。ただまあ、こないだ筆者がみかけた「砂肝が死ぬほど食べられますように」という願いなどは、本気か冗談かわからない。あなたは、何を願いましたか?




 さて、CKD領域の一番の願いはCKD自体の治癒だろう。しかし、その次にくる願いのひとつは「CKD患者の心血管系イベント・死亡を減らしたい」かもしれない。そのためにFGF23、PTH、Klotho、OPG、オステオポンチンなどCKD-MBD領域のさまざまな分子に対して治療が試みられているが、ピロリン酸もそのひとつだ。最近この分野の論文が相次いでだされた(Nefrologia 2018 38 250、KI 2018 93 1293、KI 2018 94 72、doi: 10.1681/ASN.2017101148)。

 リン酸二分子の重合でできたピロリン酸(PPi、図)は、偽痛風でもおなじみだが、じつは石灰化を強力に阻害する。あのビスフォスフォネートも、PPiを加工して作られたものだ(真ん中に炭素をはさんだP-C-Pの構造をしており、Cの側鎖R1、R2によって力価がかわる)。CKD・とくに透析患者では血中PPi濃度が低下しており(JASN 2005 16 2495)、その石灰化への関与がうたがわれる。




 PPiはeNPP1(ectonucleotide pyrophosphate/phosphadiesterase 1)によってATPから作られる(PPiを外されたATPはAMPになる)ので、eNPP活性がさがるとPPiが減って石灰化が抑えられない。先月号のKI(2018 94 72)に載った(日本を中心とするグループの)論文は、その機序のひとつにタンパクのカルバミル化が関与していることを示したものだ。

 カルバミル化とは、尿素(NH2-CO-NH2)が酵素によらずタンパクにカルバミル基としてくっつく現象だ。尿素窒素のたかい尿毒症時によくおこる。実験ではヒト血管平滑筋細胞を尿素に漬け込んだところ、eNPP1発現が低下していた。eNPP1そのものはカルバミル化されておらず、ミトコンドリアタンパクのカルバミル化による酸化ストレスが間接的にeNPP1を抑制したと考えられた。

 PPiにかかわる系はそれだけではない。細胞膜上のさまざまなトランスポーター(ANK、ABCC6など)異常によってもPPiが減り、細胞外にATPやPPiを提供できないためと考えられている(もっとも、上に挙げたトランスポーターがATPやPPiを通したという証拠はまだないようだ)。またPPiを分解する酵素にeNTPD、eNPP3、TNAP(組織非特異のALP)などがある(図はNefrologia)。




 なかでもABCC6遺伝子異常は弾性線維性仮性黄色腫(pseudoxanthoma elasticum)と呼ばれ、PPiが低下し皮膚などに異所性石灰化をきたす。そしてJASN express(doiは上記)は、このマウスモデルで、腎症状としてRandall's plaque(結石の元ともいわれる、腎乳頭付近にできるリン酸カルシウム結晶)ができていることを確認したものだ。

また、ALPは「アルカリ」フォスファターゼというだけあってアルカリ性で活性が強くなる。そのため、透析後にHCO3のバッファーによりpHがあがることでPPiが一層分解されるのではないかという仮説もある。

 ここまでわかって、治療をどうするか。PPi補充はラットで試され(KI 2011 79 512)、血中半減期が30分以内なので腹腔内に注射された。結果としては石灰化を抑制し、懸念された骨への影響もみられなかった。ただ、それ以降のPPi治験などは見つからない。代わりにeNPP1、TNAP、そしてカルバミル化などをターゲットにした研究が行なわれているのかもしれない。

 願いが叶って、そんなニュースがそれこそ「ピロリン♪」とスマホに入ってくる日が来てほしい。




2018/06/12

CaSR組曲 1-3

1. 糸球体

 存在自体に諸説あったものの、いまでは糸球体にCaSRがあることは確実視されており、足細胞とメサンギウム細胞でさまざまな病態に関わっていることが示唆されている。足細胞のCaSRをCaSRアナログで刺激すると糸球体ダメージが起こりにくくなる(Kidney Int 2011 80 483)。

 いっぽうメサンギウム細胞のCaSRを刺激すると、糸球体傷害がおこる。その機序にはGqタンパクによる細胞内カルシウム移動、TRPC3やTRPC6が開くことによる細胞外からのカルシウム流入が考えられている(JCI 2015 125 1913)。

 なおTRPCという名前は、最近の和雑誌にTRPC5が紹介された(日腎会誌 2018 60 526)こともあり、聞いたことがある人も多いかもしれない。TRPC5は細胞膜にあるRhoキナーゼRac1のシグナルを受けて足細胞破壊を起こす(ネフローゼとなる)。

 電解質が糸球体疾患にも関与しているなんて、面白い。まさに、「すべての道は、電解質に通ず」だ(写真はローマ皇帝シーザー、Caesar)。





2. 傍糸球体装置

 傍糸球体装置(JG)、T-Gフィードバックといわれても生理学の最初に学んだきり忘れているかもしれない(図はTGIF、Thank God it's Friday)。




 目的論的にはGFRや体液量を維持する仕組みだ。具体的には糸球体でろ過された原尿の量や濃度を尿細管のマクラデンサが感知して、JG細胞によるレニン分泌を調節している。

 カルシウムとレニン分泌については、「カルシウム・パラドクス」という現象が知られている(Am J Physiol Renal Physiol. 2010 298 F1)。これは、多くの分泌細胞でカルシウム濃度の上昇は分泌を促進するのに対して、JG細胞のレニン分泌はカルシウム濃度の上昇でむしろ抑制されることを指す。

 CaSR刺激によるGqタンパク活性化、カルシウム支配下にあるアデニル酸シクラーゼADCY5、ADCY6によるcAMPプールの抑制などはわかっているが、どうしてカルシウムがレニンを抑制するのかは分かっていない。高カルシウム(CaSR刺激)が一般に尿細管内の結晶化を防ぐことを考えると、RAA系を抑制して尿細管再吸収を減らしたいのかもしれない。 

3. 近位尿細管

 近位尿細管のCaSRは、内腔側にある(Oxfordの教科書はsubapicalと書いているが)。現在わかっている働きとしては、PTHによるリン利尿の抑制、ビタミンD活性化の抑制、NHE3による酸排泄とNa再吸収の促進がある。

 PTHはリンとナトリウムを再吸収するNPT2a、2cを抑制してリン排泄を促進しているが、CaSRはそれに拮抗する。といっても、両方が相殺するように働いては調節できないので、高リン摂取時などリンを排泄したいときにはPTHが勝ってCaSRは抑制される。

 ビタミンD活性化(近位尿細管での1α水酸化)を抑制するのは、活性化ビタミンDによってカルシウム再吸収が増えてほしくない高カルシウム血症時を考えれば納得されるだろう。また、CaSRとPTHをダブル・ノックアウトしたマウスの実験からは、CaSRは活性化ビタミンDの作用そのものまで減弱させることが示されている(Am J Physiol Renal Physiol 2009 297 F720)。

 なお、CaSRは内腔カルシウム濃度を感知しているが、濃度上昇の刺激によって活性化されるのはカルシウムチャネルではない。近位尿細管でカルシウムは受動的に細胞の脇をすり抜けるように打ち上げられるからだ(写真は波に打ち上げられた椰子の実)。




 そして、その波にあたるのがNHE3刺激によるナトリウム再吸収といえる。その結果、近位尿細管ではカルシウム再吸収が促進されることになるが、最終的なカルシウムの出納は以遠ネフロンで調節される。

 なお、NHE3はナトリウム再吸収と引き換えにH+(じっさいはNH4+とも)を放出するが、それは結果的に近位尿細管での大量のHCO3-再吸収(reclamation)の元になる。この辺のくだりは以前にもまとめたが、体液と酸塩基平衡の維持にCaSRが関わっているとは(実はPTHも関わっている;CaSRと拮抗的に)!話は一層面白くなる。

 後編へつづく(図は2006年のピクサー映画、Cars)。





2018/06/07

キセキのその先へ ブロスマブの意味するもの

 抗FGF23モノクローナル抗体ブロスマブ(Burosumab)のX-linked hypophosphatemic rickets児に対する治験結果(NEJM 2018 378 1987)は、おそらく日本資本の会社が開発したこともあって多くの人がすでに目にしたことと思う(NEJM日本語サイトにもアブストラクトがある)。これからマスコミなどでもひろく取り上げられるだろう。

 この論文のインパクトはさまざまで、もちろん難病の内分泌疾患であるXLH(X-linked hypophosphatemia)にたいする新しい治療がみつかった(子供の成長発育が改善した)という感動は計り知れない。まさにキセキだ。同様に、FGF23産生腫瘍によるTIO(Tumor-induced osteomalacia)に対してもこの治療が有効かもしれない。内分泌領域ではそのようなレビューが既に出ている(Endocrine Reviews 2018 39 274)。

 この話題を、腎臓内科医はどのように受け止めればよいだろうか(図はKidney Health Australiaのキャラクター、キドニー・マン)?





 ひとつは、「電解質異常をモノクローナル抗体で治療する」というカテゴリーでの感想だろう。といってもまだ他には高Ca血症に対するデノスマブ(抗RANKLモノクローナル抗体)くらいしか知らないが、同じような考え方をすれば細胞表面にあるたんぱく質ならなんでもターゲットになりうる。

 腎臓内科は伝統的には利尿薬の分野で分子標的治療をリードしていたはずだが、最近はSGLT2阻害薬もURAT1阻害薬(こちらに触れた)も他科主導でつかわれているし、尿細管よりむしろ腸管の分子標的治療薬のほうが耳目を集めてもいる(腎臓領域ではTenapanorがあるが、むしろIBS治療薬が多い)。

 今後、電解質治療だけでなくても、モノクローナル抗体による降圧薬とか、でてくるかもしれない。と、2015年に予想していたことが少しずつ現実化しているのだろうか。あるいは、巡り巡って元いたところに戻ってきたのだろうか(図)。今後に注目していきたい。
 



 もうひとつ考えるべきは、もちろんCKD-MBD領域への応用だ。

 FGF23が心肥大をおこすことは、2011年から分かっていた。その論文(JCI 2011 121 4393)では動物モデルだがFGFR阻害薬PD174074で心肥大が抑制されていた。しかし、いまのところ臨床へのトランスレーションは「リンを下げましょう」という、セクシーさに欠ける(コーラはやめましょうとか、患者さんにあまり評判のよくない)ものに限られているのが実情だ。





 抗FGF23モノクローナルも、もちろんそれを意識して開発されているし、もしかしたら既にどこかでCKD患者の心肥大・心血管系イベント予防についての治験が行なわれているかもしれない。あるいは、同じ軸のFGFR4(受容体サブクラスのひとつで、これがとくに心肥大と関係するという)抗体も試験されているかもしれない。

 NEJM論文の勝利が、これからCKD領域でのさらなる成果につながったらすごい。でももしかすると、サッカー日本代表がワールドカップで優勝するよりも、こちらのほうが現実的で見込みがあってインパクトの大きなことかもしれない。どの国がそのような治療法を見つけても素晴らしいことに違いはないが、こっちのサムライブルーにも期待したい。




2018/01/28

カルシフィラキシス or CUAについて考える。 治療について

CUAだと分かった時に治療としてはどのような手があるか?


現時点でCUAに対する適切な治療に関しては分かっていない。ただ、これから示す治療で一つの治療よりも治療を組み合わせた方が良かったという事は分かっている。
アルゴリズムとしては下記のものがある。
Up To Dateより引用


1:チオ硫酸ナトリウム:デトキソール注射液
静脈投与が治療では最も使用される。
・透析患者の場合:透析の最後に100mlの生理食塩水に25g溶いて使用(30-60分以上かけて投与)。60kg未満の症例では治療の量を12.5gとする。


・腹膜透析患者:週3回で100mlの生理食塩水に25g溶いて使用(30-60分以上かけて投与)。60kg未満の症例では治療の量を12.5gとする。


・非透析患者:eGFRの値によって変更する。
eGFR>60mL/min/1.73m2 : 25gを週3-5回投与する
eGFR<60mL/min/1.73m2 : 初期量は12.5gで開始して、徐々に増量はするが25gで週3回は超えないように投与する。


治療期間:明確な決まりはないが、3カ月の静脈投与での治療期間が一つは推奨されている。疼痛の改善は2週間以内におこると言われている。


合併症:あまり使い慣れていないくすりだとやはりここが一番心配になる。
吐き気、嘔吐、代謝性アシドーシス、低血圧、低カルシウム血症、QT延長やvolume過多などが合併症としてはある。
とくに代謝性アシドーシスは重度である事が多く注意が必要である。


2:しっかりとした傷の管理;
傷のデブリードメン:これに関してはむやみにやる事で、その部位からの感染の波及のリスクがあるため、適応を判断して行う事が重要である。


3:しっかりとした疼痛管理;
麻薬をもちいた疼痛管理がしばしば行われる。


4:リン、カルシウム、PTHのコントロール
リン吸着薬などはCa非含有のものを用いる。
PTHが高い症例ではシナカルセルトの使用を考慮する。


5:透析処方:
適切な透析ができるような透析を組む。


6:薬剤の中止:
ワーファリンや活性VitD製剤やカルシウム製剤や鉄剤は中止できればする。


上記治療に反応しない場合のCUA
1:高圧酸素治療:


2:ビスフォスフォネート投与
パミドロネートを30mgで週3回投与。VitD活性を押さえ治療効果


3:その他:
VitK投与、t-PA、マゴット治療など


予後:
致死率も非常に高い。
特に感染症の合併で亡くなる症例が非常におおいため、感染の管理には気を付ける必要がある。


今回、CUAの話しを行いまずは透析患者であれば通常の透析管理が非常に重要であり、また非透析患者の場合は必要のない薬物の使用はさけることが重要であると認識した。



2018/01/27

カルシフィラキシス or CUAについて考える 病態と全体像

カルシフィラキシスという言葉はあまり聞く機会も見る機会も少ないと思う。


ただ、カルシフィラキシスは患者さんの死亡率が50%以上という報告もあり、しっかりと認知・治療にあたることは非常に重要である。


言葉:
CalciphylaxisよりCalcific uremic arteriolopathy (CUA) のほうがESRD(末期腎不全)の人の病態を正確に示している。


病態:
正確な部分は不明な所が多いが、全身の血管や軟部組織の石灰化によって生じると考えられている。ただ、血液透析患者などは石灰化が強い症例が全例CUAをおこさないため、他の要因があると考えられる(リスクファクター参照)。


中等度の動脈の石灰化→血管内皮障害の進行→血管の狭窄や過凝固→組織壊死


となる。


リスクファクター:
・透析期間>6~7年
・女性
・肥満(BMI>30)
・糖尿病
・高リン血症
・高カルシウム血症
・高PTH血症
・低アルブミン血症
・薬剤:ワーファリン、カルシウム含有リン吸着薬、活性型ビタミンD製剤、鉄剤投与、全身のステロイド投与


★しかし、ESRDがなくてもカルシフィラキシスは生じる。
下記の図で示したように原発性副甲状腺亢進症や悪性腫瘍での割合は高い。
また、表にはないがカルシフィラキシスを発症した60%の患者でステロイド投与歴があり、25%にワーファリン投与歴がある。
なので、ESRDがなくても薬剤暴露(ステロイド、ワーファリン)や下表の疾患の患者の皮膚病変をみたら鑑別に上げる事は重要である!
CJASN 2008より
どのような所見か?:
皮膚病変は一言で言うと疼痛をともなった虚血性壊死である。
先程の病態にあったように虚血に伴って生じるので、治りづらい。
Am J Kid Dise 2015より
病理に関して:
下図のように一つの特徴は血管の石灰化である。
もうひとつは間質のカルシウム沈着が特徴である。
Am J Kid Dise 2015より
採血検査は何かわかる?:
特異的な採血検査項目に関してはない。PTHが高かったり、リンが高かったりなどの原因の推定には繋がる可能性がある。


★診断:
疼痛病変で非潰瘍性の病変があればCUAを疑う
→Ca×PやPTHの濃度を見て病変の悪化に直結する変化がないかを見る
→病変の皮膚生検は推奨(しかし、感染の併発をしている場合などは感染の助長をしてしまうため行われない場合も多い)
※ここで上記のように生検をせずに治療をする場合があるが、CUAににて違う疾患のこともある!なので生検はなるべくしたほうがいい(下表のような疾患を見逃す可能性も)。
表:カルシフィラキシスの鑑別
Am J Kid Dise 2015より
日本の診断基準もあるのでのせる。
病理はもちろん必須ではないが、やったほうがいいのではないかということがわかる。




好発部位:
下肢が最多であり、腹部や乳房や陰部などにも生じる。


まずは、カルシフィラキシス or CUAについて全体的に触れた。


次は治療について触れたい。

写真はカルシフィラキシスを提唱したProffessor Selye





2018/01/10

高リン血症にナイアシン?

今回、高リン血症にナイアシンやニコチン酸アミドを使用することについて話題を触れたい。

これに関しては、いくつかのトライアルが行われ透析患者の高リン血症を下げるなどが示されているが、問題点としては治療期間が短かったり、サンプルサイズが小さかったり、研究デザインが悪かったりなどがあり、疑問視されていた。

それに対して二つの研究がしめされた。

1:Malhotra 達が報告したもので、CKD stage 3~4の患者352人をナイアシン投与群(1500-2000mg/dl)と少量投与群(50mg)に分けた。投与群ではリンが3.4→3.3mg/dl、少量群では3.4→3.6mg/dlとなり、一応統計学的な有意差はあったが、他のFGF、PTH、Ca、VitDなどの改善には寄与しなかった。この報告では、血清リンは軽度低下あるものの顔面紅潮の副作用が多く目立ったというものでnegativeな報告であった。(Clin J Am Soc Nephrol 13: XXX–XXX, 2018、doi: 10.2215/​CJN.05440517)

2:Lenglet 達が報告したもので100人の血液透析患者に経口のナイアシンかセベラマーの投与を24週間行なった。結果としては、ナイアシンではリンが6.5→5.6mg/dl、セベラマーでは7.1→5.3mg/dlとなった。リンに関しては低下はしたが、FGF23はセベラマーでは低下したが、ナイアシンでは増加し、Klothoはセベラマーで増加し、ナイアシンでは低下した。また、研究も副作用で途中で終了となっていた。(Nephrol DialTransplant 32: 870–879, 2017)

ナイアシンなどが、高リン血症に効果があるのは下図に示されるように消化管のNaPi2b受容体に阻害的に働き、Pの吸収を抑えるためと考えられている。

CJASN 2017より

現時点では、ナイアシンなどは有効な結果は出ていない。
現在少量投与のナイアシンがどうかという下記のstudyが走っている。

COMBINE
NOPHOS 

これらの結果にもよるが現段階では残念ながらナイアシンの使用を積極的には推奨はされない。




[おまけ]ナイアシンについて触れた2012年の投稿もご参照ください、当時の米国(大学病院)でどんなふうに議論されていたかの参考になるかもしれません。


2017/07/19

哲と凛

 7月18日、腎臓学会からメールがあった(写真は映画You've got mailより)。なんと、先の学会講演「よくわかるシリーズ」動画がオンデマンド配信されたという。




 こんなすごい時代に居合わせられて幸せだ。まさに「僕たちのキセキ」だなと思う。会員思いの学会の会員でよかった。12月22日までの限定公開なのは残念だが、「少年は老いやすく学成り難いから鉄は熱いうちに打ちなさい(写真)」という親心と受け止め、早めに視聴しておきたい。




 その鉄ではないが、「よくわかるシリーズ10」カルシウム・リンのご講演で、鉄の静注後に低リン血症になるとあった。以前に鉄と茶について書いたが、鉄とリンというのも意外な組み合わせだ。Oxfordなど教科書をみても原因一覧に載っていないので、エキスパートだからこそご存知の新しいトピックなのだろう。興味を持って調べてみると、ここ数年の論文がたくさんでてくる(たとえば、doi:10.1155/2015/468675)。

 有名なのは日本では未承認のカルボキシマルトース第二鉄(FCM;商品名はInjectafer®、Ferinject®)だ( doi:10.1136/bcr-2016-219160)。これはメガ用量の鉄を一度に投与できるのが特徴だ(鉄として50mg/ml、20mlで1000mg)。経口鉄を消化器症状で飲み続けられない人もいるから、便利だ。

 が、2008年にはすでにFDAが2.3%に低リン血症がみられると警告していた。多くは軽症だと思われていたが、オーストリアの大学病院でFCMを使用した患者さんの32%に0.6mmol/l(1.86mg/dl)未満の低リン血症がみられた(doi:10.1371/journal.pone.0167146)。なお欧州の論文はリンの単位がmmol/lになっているが、リンの原子量が31なので3.1倍すればmg/dlに変換できる。

 機序は、だいたいどの症例報告やレビュー(Neth J Med 2014 72 49)を見ても、FGF23上昇と、近位尿細管からのリン再吸収低下が示唆されている。FGF23がふえれば活性型Vit Dが減るので、余計によくない。もともとビタミンD欠乏があれば、いっそうよくない。補充しても正常化に数ヶ月要した例もある(Eur J Clin Nutr 2014 68 531、栄養不良も合併していたため)。

 FCMにとくに多いようだが、添加物のせいか鉄用量が多いせいかはわからない。ほかの鉄、たとえば日本にあるsaccharated ferric oxide(フェジン®)でも報告がある(Bone 2009 45 814;Bone誌に載せるのだから、腎臓内科が扱う領域はほんとうに幅広い)。FCMも、日本の製薬会社が開発や販売のライセンスをとっているし、そのうち市場にでまわるかもしれない。

 そうなれば、鉄欠乏性貧血はとても患者さんの数も多いし、たくさんの人につかえば潜在的にビタミンDが足りないなど副作用がでやすい人にも当たるから、注意深い観察が必要だと思う。Take home message(「よくわかるシリーズ」はたいていこのスライドで終る)?静注鉄を入れたらリンを測ろう。








2017/07/14

ざっくりまとめ

 透析患者さんでTSHを測ってみると、低い群にくらべて高い群は疲れやすく仕事や家事ができにくく痛みもつよかった(doi: 10.2215/​CJN.13211216)。米国の透析施設で、6割程度がアフリカ系で、平均年齢は50歳代。そういわれても「そりゃ、そうでしょう」と思う。

 TSHが高いからと言って、甲状腺ホルモンを補充していいかには議論の余地もある(心疾患があったり高齢者だったりで不整脈などの問題もあるし、fT3やfT4のことはわからない)。でもまあ、患者さんの生存期間も大事だけれどQOLも大事、という最近の考え方にそって調べられているし、そのうち治療介入したスタディも出ると思う。
 
 さて、この論文をとりあげたのは、じつは内容もさることながら、著者が「ビジュアル・オーバービュー」を載せていたからだ(下図)。



 しかも、学会ポスターのように無味乾燥なの(たとえば下図はdoi: 10.2215/​CJN.10270916、じつは論文の中身としてはこっちのほうが面白いんだけど…)がおおいなか、注意を引くように力を入れて作っている。だから、こうして目に留まる。




 これがあると、ぱっと要旨をつかむのに便利だ。ウェブサイトやニュースサイトでいうところの「ざっくりまとめ」みたいなもので、パソコン・スマホ世代に合ったメディア戦略と思う。活字離れ(「読者」という言葉がそのうち「ビューワー」というカタカナに置き換えられるかもしれない)がどうあれ、視覚効果があるほうが頭に入りやすいのは仕方がない。

 しかし、注意は必要だ。悪魔は細部に宿る(The devil is in the detail、図)という言葉もあるが、たとえばこの論文ではTSHが高い群はほとんどが透析を始めてからの12ヶ月未満のひとたちで、低い群はほとんどが透析を始めて12ヶ月以上のひとたちだった。透析を始めたばかりなら、疲れるだろう。




 またTSHが1.28未満、1.28以上2.11未満、2.11以上mU/lの三群にわけているが、たとえば2.11以上の群といってもTSHの最大測定値は39.4mU/lで、こういう人を入れたから有意に甲状腺機能低下的な有意差がでたのかもしれない(TSHの平均値は2.2でSDは2.9だそうだが…ちなみにTSHの最小測定値は0.07mU/l)。

 ざっくりまとめ(写真は「ざっくりまとめ髪」のNAVERまとめサイトより;出典はwww.biteki.com)も便利だが、やっぱり忙しくてもだれかが客観的に読まないといけないと思う。このサイトはその「だれか」の役目を果たしていく予定です。これからもビューワー・フレンドリーさ(「読みやすさ」はもう古い?!)を工夫しながら続けてまいりますので、よろしくお願いします。




2017/04/21

近位尿細管とアンモニア 3

 近位尿細管でつくられたNH4+は、まずミトコンドリアから細胞質にでるが、その通過にアクアポリン8が関与すると考えられている。アクアポリンといえば水チャネルだが、水のように小さくて電気的に極性のある分子は通す。ただしアクアポリン8遺伝子を削除しても尿中アンモニア排泄はかわらない報告もあるから、ほかの仕組みもあるのかもしれない。

 細胞質にでたNH4+が内腔に排泄されるにあたっては、細胞質と内腔の細胞膜にいくつかの調節の仕組みがある。まず細胞質にはNH4+をグルタミンにもどすglutamine synthetaseという酵素があってNH4+の排泄にブレーキをかけている。この酵素を削除した実験などから、アシドーシスのときにはこの酵素の活動が低下していると考えられる。

 細胞膜をどう越えて内腔にでるか?じつは正確にはわかっていない。以前はアンモニア分子が拡散すると考えられていたが、現在はNa+とH+を交換するNHE3チャネルがH+のかわりにNH4+を通すというのが通説だ。アシドーシスで近位尿細管のNHE3発現量が
ふえて、それにはアンジオテンシンII(AT1を介した)、エンドセリン1(エンドセリンB受容体を介した)がかかわっていることがわかっている。

 ただしNHE3遺伝子を削除しても尿中アンモニア排泄はかわらない(が、Na+再吸収がおちて血圧を保てない。10.1016/j.kint.2017.02.001)。ほかのチャネルを介しているのだろうか。たとえばK+チャネルは、NH4+とK+の流体力学半径が1.14オングストロームで同一で荷電も1価だからNH4+を通す。近位尿細管にはKCNA10、KCNQ1/KCNE1、TWIK-1などたくさんのカリウムチャネルがあって、基底側のNa+/K+-ATPaseだってNH4+を通す。これらを無差別に阻害するバリウムイオンで近位尿細管のアンモニア輸送は止まる。もっとも実験ではNH4+の排泄ではなく再吸収が止まった。
 
 じつはNH4+を通せるチャネルというのはたくさんある(アクアポリン1とか)。渋谷駅の交差点(写真)のような複雑な流れを一本の矢印で説明(図)できるのはすばらしいことだが、これからこの領域の研究がすすむと生理学の理解が変わるかもしれない、と思ったりする。




 
 おまけ:NHE3阻害薬Tenapanorのことを以前に書いた(便中のNa・P排泄をふやし透析患者さんでリン値をさげた)ので参照されたい。

2017/03/14

新しい高リン血症の治療

 以前にふれた、NHE3阻害薬tenapanorが透析患者さんの高リン血症をさげるかを調べた治験の結果が発表された(doi: 10.1681/ASN.2016080855)。4週間の内服で用量依存性にリン濃度低下がみられ、10mg1日2回と30mg1日2回でプラセボに対して有意差があった(1.7-1.8mg/dlの効果)。ただし下痢の副作用が多く、30mg1日2回の群では半分が途中で薬をやめていた。TenapanorはLubiprostone(アミティーザ®)のように便秘薬として開発された薬だから無理もなく、著者は「便が硬く通過時間のながい透析患者さんにとっては有益かもしれない」と考えている。

 腸管のNHE3を阻害すると便中のリン含有量が増えることは事実だが、ナトリウムイオンと水素イオンの交換輸送体であるNHE3がどうリンに関係するかはまだわかっていない。腸管にはリン吸収にかかわるナトリウム依存のリン輸送体NPT2bというのがあるから、ナトリウムイオンの再吸収が阻害され腸管内にナトリウムがたまることと関係がありそうに思われる(tenapanorにNPT2bに対する阻害作用はないが;JASN 2015 26 1138)。腸管で塩素イオンの再吸収を阻害するlubiprostoneでも、リンはさがるようだ(コントロールのない一施設スタディはRRT 2016 2 50)。

  このスタディは、いままで「いかに摂取をへらすか」「いかに吸着するか」が基本だった高リン血症治療に新たな考え方をもたらす可能性があると思う。これから研究が進んで、遠位ネフロンのように腸管の溶質吸収とその制御にかかわるさまざまな治療標的がみつかるかもしれない。みつかれば、いまは阻害薬を探す方法は high throughput screeningとかいろいろある。ただ下痢をおこす薬が多そうで、アドヒアランスをたかめるためにも腎臓内科医や透析医は尿量コントロールと同じように便の回数、ブリストル・スケール(図)などもみて調節しながら診療する必要が出てくるかもしれない。




 [2017年6月追加]この薬が日本人の健康被験者を対象に1相治験された(Clin Exp Nephrol 2017 21 407)。両親、父方母方の両親が日本人で、日本で生まれ、5年間以上日本以外に住んでいない20-45歳の被験者83人をカリフォルニア州の治験センターWCCT Globalに連れていきTenapanorないしプラセボを飲んでもらった。

 結果、予測されたように介入群では便Na排泄がふえた。プラセボが4mmol/dに対して30-40mmol/d、食塩換算で2グラムくらいだから、利尿薬ならぬ「利便薬」としても使えるのかも知れない。便リン排泄は、0.8-8.0mol/dふえたとあるが、統計学的有意差や信頼区間は明記されていない。第1相で安全性を示すのが目的だからだろうか。

 安全性といえば、便の回数は180mg1日1回投与群で約6回、15-90mg1日2回投与群で約2回、プラセボで約1回だった。180mg1回投与は、大変そうだ。便の性状は投与群でBristolスケール約5、プラセボで3だった(上の写真)。副作用は下痢が2回嘔吐が1回。白人被験者では頭痛や腹痛もあったが、国民性ゆえ軽微なら訴えなかったのだろうか。

 それにしても、WCCT Globalなんてしらなかった。日本語ホームページによれば、最高約10000ドルの報酬を提供するらしい。それでも元が取れるのだろう。日本市場に入るためには日本人データがあったほうが有利だから、外資企業がこうやって外国で日本人を対象に治験する時代なのだなと驚いた。

2016/10/25

薄切り肉を圧力鍋で茹でる

 東洋医学で医食同源とか身土不二(신토불이、シントブリ)とかいうし、西洋はyou are what you eatとか言うけれども、腎臓内科ほど栄養・食事と深く関わる科もそうないのかなと思う。なかでもリンは、透析であまり除けないのに多くの食品に入っているので、その人ごとにあわせた工夫が必要だ(最近は大手コンビニでもパンや加工食品のリンを減らしているところがある)。

 それで腎臓系で栄養系の雑誌というのもたくさんあって、以前に肉をさまざまな方法で調理することでリン残量が変わるかをみた論文(J of Renal Nutrition 2015 25 504)があった。結果、薄切りした肉を圧力鍋で茹でるとリンがもっとも落ちたという。煮汁は捨てなければならないだろうから、どう味を保つかは別問題だが(フルで論文を読めば提案してあるかもしれない)。

 なお、これは日本の研究だ。見なくてもわかる。薄切り生肉は東アジアの食文化だと思われるからだ。米国のスーパーや肉屋にいっても薄切りした生肉はみない(ハムなどの塩漬け肉、ローストビーフのような調理済みの肉は除く)。東アジア食材店にいけば、ある。どうしてだろう。

 明治時代に日本人の口に合うよう肉をスライスしたのかと思ったが、肉食がもともとさかんな中国や韓国でもスライスしている。なます(膾、회、フェ)とか。お箸でつかみやすいからだろうか(ナイフやフォークは東洋にはなかったと思われるので)。東洋の包丁がスライスにもっとも適しているからだろうか。タレなどの味付けがよく滲みるのだろうか。




2016/06/24

Playing with Intestinal Ion Channels

 透析患者さんで便秘に対して小腸のClC2阻害薬Lubiprostone(アミティーザ®)を使ってから体重の増えが減ってリンも下がってきたという人がいて、まあ理にかなっていると思う(動物実験もあった)。これからは腸管のイオンチャネルも調べる時代か。尿細管が使えないんじゃ腸管を使うしかない。

 というわけでせっかくネフロン各セグメントのイオンハンドリングをたくさん覚えたところで、こんどは消化管各セグメントのイオンハンドリングの勉強だ。ちょっと調べてもカリウムについてのレビューだけで63ページあって(Physiol Rev 2008 88 1119)、2回膜貫通・4回膜貫通・6回膜貫通・7回膜貫通チャネルなどきりがない。

 さて、その消化管イオンチャネルと遊ぶ新薬Tenapanor(AZD1722、RDX5791とも)はLubiprostoneが便秘や機能性胃腸症に使われるように便秘型過敏性腸症候群用に開発され治験中の非吸収性NH3(Na+/H+ exchanger)阻害薬だ。透析患者の高リン酸血症に対してPhase 2bが進行中だ。薬は腸管のリン吸収チャネルNPT2bじたいには作用しない(NPTa、NPTcは腎にありKlotho/FGF23の支配をうける)が、下痢を起こしてリンを下げるとみられる。

 最近、この薬が透析患者のΔDWを緩和するかを調べるproof-of-conceptスタディがCJASNにでた(doi: 10.2215/​CJN.09050815)。製薬会社がおこなったスタディだ。体重3%以上かつ2kg以上増える無尿の透析患者88人(外来、入院)で介入群には45mg 2x/dで開始し忍容性に応じて5mg 2x/dまで減量可とし4週間フォローした。食事はちゃんとしてくださいねと言っておいた(入院患者はNa 2g/d食)。

 結果、便の量と便中Na排泄量は有意に増えたがΔDWや血圧は変わらなかった(プラセボ群と比べて有意差がないだけでなく、介入前の値が95%信頼区間に含まれている)。計算が合わないようにも思えるが、便の量は群間で80g/d程度しか変わらないので大した効果がなかったのかもしれない。薬は下痢にもかかわらずmeanで32mg 2x/dのまれていた。飲水量は管理していないがアンケートで介入群に口渇は多くなかった。

 なおNH3は腎ではNH4+の排泄とHCO3-の再吸収をしているが、腸でNH3をブロックするとH+の排泄ができなくなりアシドーシスが緩和されるかと思いきや(スタディでもアシドーシス悪化を懸念してHCO3- 20mEq/l以下を除外している)、介入群でHCO3-値の変化に有意差はなかった。

 腸管NHE3の発現はRSK2、LPA(lysophosphatidic acid)5の支配下にあり、CFTR(Cl-チャネル)、DRA(down-regulated in adenoma;Cl-/OH- exchanger)はLPA2の支配下にあるらしい(図、Cell Physiology 2015 309 C11)。NHE3をブロックして代償的にNHE3がupregulateされるかは知らない。腸の利尿剤?のようにもっと効果的に水を引き込むチャネルターゲットがあるのかもしれない。ClC3などは実はそうなのかもしれない。CFTRはどうだろう。




2015/12/01

Iron-Based Phosphate Binders

 米国の腎臓内科雑誌にながらく広告されている新規リン吸着剤が、日本でも承認されていた。Sucroferric oxyhydroxide(米国名Velphoro®は2013年11月にFDA認可、日本名P-TOL®は2015年9月認可)と、ferric citrate(米国名Auryxia®は2014年9月にFDA認可、日本名Riona®は2014年1月認可というわけで日本のほうが認可が早くおりていた)。

 前者の鉄成分は不溶性なのにたいして後者は鉄として吸収される違いがあって、後者の使用により静注鉄やESAの使用が減ったというスタディもある(JASN 2015 26 2578)。ただ前者はchewableで食前一錠で済むのが便利なのと、相互作用のなかで後者はフルオロキノロンと結合してその作用を減弱させるのに対して前者は大丈夫なようだ。副作用でおおいのはどちらも下痢(ほかの吸着剤が便秘を起こすのと対照的だ)。

 しかしなぜ鉄なのか?それは無機リンが三価陰イオンで、三価陽イオンをとれる金属とよく結合するからだ。結合力が強い順にCrPO4、LaPO4、FePO4、AlPO4。しかしクロムやアルミニウムは毒性があるので現在ランサナムと鉄が実用化されている。



2012/06/17

Niacin


 ESRD(末期腎不全)の高リン血症にはPhosphate bindersを用いるが、他にNiacinが有用かもしれない。Niacinは小腸のsodium-dependent phosphate transporterを阻害することが知られており、2004年に日本グループがNicotinamideの透析患者に対する有効性を発表した(KI 2004 65 1099)。12週間の治療でmean dose 1000mg/dのnicotinamideを投与した65人の透析患者さんで、Calcium carbonateに引けを取らないリン降下(6.9±1.5→5.4±1.3)をもたらしたという論文。今読んでみるとrobustに思えるが、当時うちのJournal Clubで取り上げられた時には相手にされなかった。うちの腎臓内科は保守的で、新しい治療にそう簡単には飛びつかないのだ。

 しかし、スタッフの中には「ナイアシンは安いし、calcium-containing phosphate bindersもsevelamerも効果がない時に加えることを検討してもよい」と思っている人もいたらしく、こないだ最近のアメリカの論文(CJASN 2011 5 582)が紹介され議論になった。これは腎臓病のない患者(GFRが低くても57-58ml/min程度)約1600人を対象にした、本来はNiacinの抗高脂血症効果を調べる(そしてflushingを抑えるlaropiprantとの合剤の効果と比較する)治験を、re-analyzeしたものだ。するとナイアシン1g/d投与群でリンが下がっていた(-0.3、95%CI -0.37 to -0.29)。元の血中リン濃度が低い(3.3±0.4)ので、降下の値が少ないのかもしれないが、それでも有意な結果だった。

 Phosphate binderは、食事中のリンに結合して吸収を抑える薬なので、一日三回飲まなければならない。用量が増えると、Calcium acetate 3錠とSevelamer 3錠、計18錠/d飲まなければならない。さらにLanthanumとなると、もはや薬が食事みたいなものだ。またSevelamerとLanthanumは非常に高価だ。その点Niacinは安価で、徐放剤なら一日一錠ですむ。ほてり(flushing)がメジャーな副作用だが、少量aspirinで対応できる。元々抗高脂血症薬なので、その効果も期待できるかもしれない(ESRD患者の高脂血症とその心血管系イベントリスクは、SHARPトライアルもあって不明瞭であるが)。

2011/07/30

calciphylaxis

 腎疾患に関連した最も恐るべき皮膚疾患といえばNSF(Nephrogenic Systemic Fibrosis、ガドリニウム造影剤に関連した全身の線維化)だが、その次はcalciphylaxisだろう。どちらもcripplingで、かつ有効な治療法がない。透析患者さんにガドリニウムを避けるようになってからNSFはまず診ることはないが、きょうはcalciphylaxisかもしれないという症例にあった。

 Calciphylaxisとは全身のリン酸カルシウム結晶の沈着で、いうなれば全身が骨になる病気だ。とくに沈着するのは小血管内膜で、それゆえ皮膚や皮下脂肪に網状の皮疹や発赤、潰瘍などができる。透析患者さんに圧倒的に多い現象だが、腎疾患(PTH、血清リン値)がコントロールされていないと起こるというわけでもなく、原因はいまだ不明だ。ワーファリン内服と関係しているともいわれる。

 治療もまた決定的なものはなく、皮膚科、外科、腎臓内科などが一緒になって局所治療やCa、P、PTHをコントロールする。Sodium thiosulfateは、理論上不溶性のカルシウムを水溶性のCalcium thiosulfateに変えることで結晶沈着を抑えるはずだが、痛みなど症状を緩和したというわずかな報告があるだけでその有効性は未知数だ。