今回はアフェレシスについて話題をふれたいなと思います。
腎臓内科に関わっていると一定頻度で下記のようなコンサルトをうける(ちなみに登場人物はA医師と腎臓医師くんとする。)。
A医師「うーん、患者さんの状態が良くないんだよね。透析で炎症物質とかとったりできない?」
腎臓医師くん「それは何の病気の方ですか?」
A医師「わからないんだよね。ただ、状態が悪くて。。」
こんな会話をする、もしくはされることは多いのではないだろうか?その時に何を適切に行うかという事は常々難しいなと思う。
この答えはこれからのを読んでいただいて皆さんなりに答えが出ればいいなと思う。
まず、重要な事は何をターゲットとするかである。
血液は血球と血漿に分けて考えることができる。
今回は、まず血球に関しての話を行う。ちなみに私たちになじみのある血液透析(IHD:intermittent hemodialysis)も血漿成分の除去を行っている。
血球に関しては、基本的には吸着療法である。
一般的には膜の部分はダイアライザー(透析器)ではないので、カラム(浄化器)と言われる。
☆血球に対してはおもにLCAPとGCAPがある。
①血球の白血球に対して白血球除去療法(LCAP : Leukocyteapheresis)が行われている。
適応疾患:潰瘍性大腸炎
カラム:セルソーバE(潰瘍性大腸炎)、セルソーバCS(関節リウマチ)
カラムの特徴として
下図のように不繊維フィルターを通るときに関与している白血球を除く治療になる。
「治療に関して」
血液流量:30~50ml/h、時間:1時間
血液処理量:1800~3000ml
抗凝固剤:メシル酸ナファモスタット20~50mg/h
で行われる。
この治療は患者さんの両手の肘窩に透析針を穿刺し行う治療である。シャントなどは必要ない事は重要である。
②白血球の中の顆粒球・単級を選択的に吸着する顆粒球除去療法(GCAP:Granulocyteapheresis)が行われている。
適応疾患:潰瘍性大腸炎、クローン病
カラム:アダカラム
カラムの特徴としてはビーズである。酢酸セルロースビーズの粒が3000個以上ふくまれており、ビーズ間に血液が流れ顆粒球・単級が吸着される。LCAPとは違い、リンパ球は吸着はされない。いい点としては、LCAPとは違い目詰まりを起こさないことがある。
「治療に関して」
血流量:30ml/min、時間:1時間
血液処理量:1800ml
抗凝固剤:ヘパリン又はナファモスタットメシル酸塩
ヘパリン:初回1000~3000を初回ワンショット、持続500~1500単位/h投与。
ナファモスタットメシル酸塩:持続20~40mg/h投与。
この治療も患者さんの両手の肘窩に透析針を穿刺し行う治療である。シャントなどは必要ない事は重要である。
まずは、血球に関しての理解は少しは出来たならうれしい。
また、次は数回にわたり血漿成分に関してフォーカスを絞ってみたい。
クマさんがおしっこしないで冬眠できるのも、じん臓が一日に体液の何十倍もろ過してから不要なものを残して再吸収するのも、じん臓の替わりをしてくれる治療があるのも、すごいことです。でも一番のキセキは、こうして腎臓内科をつうじてみなさまとお会いできたこと。その感謝の気持ちをもって、日々の学びを共有できればと思います。投稿・追記など、Xアカウント(@Kiseki_jinzo)でもアナウンスしています。
2017/07/30
2017/07/26
がん患者の急性腎不全 6
今回は前回の続きで、抗がん剤とAKIについての実践的な内容について触れたいと思う。
少しでも知識の片隅に置いてもらえたらうれしいと感じる。
まとめるとNEJMの下記の表と図がとてもみやすい。(NEJM 2017)
上記を文章にまとめてみる。
★細胞障害性抗がん剤では
・シスプラチン:直接的に尿細管障害を生じ、ATNを生じる。また、Salt wastingを生じ低ナトリウム血症になったり、マグネシウム排泄が亢進し、低マグネシウム血症もきたす。低クロール環境が毒性の増悪を生じるため、投与前に生食投与を行い尿量を維持する事は重要である。1/3が治療後数日でAKIになる。また、反復投与で悪化しやすい。
・カルボプラチン・オキサプラチン:シスプラチンと同様の白金製剤ではあるが、尿細管障害は生じる頻度は低い。
・イフォスファミド:シクロフォスファミドと同様なアルキル化剤。30%程度にAKIを生じる。近医尿細管障害を生じ、尿糖・低カリウム血症・低リン血症・近医尿細管アシドーシスを生じる。重度な症例ではFanconi症候群を呈する。CKDがある症例やシスプラチン投与歴がある症例、腎に悪性腫瘍の進展がある症例はAKIのリスクになりうる。
・メソトレキセート:代謝阻害薬の薬である。白血病・肉腫・リンパ腫の治療に使用。高容量(1g/m2)は尿細管内の結晶を形成し閉塞を生じ、また直接的に尿細管障害を生じAKIを引き起こす。
・ペトレキセド:代謝阻害薬で、尿細管障害を生じATNを生じAKIを生じる。重度の場合ではFanconi症候群を生じる。
下記は骨粗鬆症の予防で使用されものであるが、
・パミドロネート:FSGSを生じやすい。
・ゾレドロネーと:ATNを生じやすい。
は覚えておく必要はある・
★分子標的薬
・VEGF阻害薬:大腸ガンや腎細胞癌などの治療薬として使用される。高血圧、タンパク尿、AKIとの関連性が示されている。また、TMAやFSGSの報告もありVEGF阻害薬のAKI機序としては最多である。
・BRAF阻害薬:容量依存性のAKIを生じる。尿細管間質障害を生じる。80%の症例が薬剤の中止で改善するが、はっきりとした機序までは不明確である。
・ALK阻害薬:クリゾチニブ(ザーコリ)はATNやAINを生じAKIを生じうる。
★免疫治療薬
パート5のカテゴリには入れてはいなかったが、インターフェロンやインターロイキン2はAKIにおいては重要なので、把握しておく必要がある。
両者ともAKIを生じ、
−インターフェロンは、高容量のタンパク尿を生じ、微小変化群やFSGSといった腎炎所見をもたらしたことがわかっている。機序としてはインターフェロンがpodocyteにくっつき正常細胞の増生を変化させたと考えられている。薬剤の中止によりAKIの多くはよくなるが、collapsing FSGSなどは効果が乏しいと言われている。
★免疫チェックポイント阻害薬
これはAKIに関しては急性間質性腎炎を生じることが報告されている。また、AKIの程度も中等度から重度になることも多い。ステロイド治療や薬剤の中止により徐々に改善する。
今回は2回にわたって抗がん剤と腎機能障害に関して振り返ってみた。
うまくまとめきれていなく、読みづらい部分も多いと思うが、少しでも臨床の参考になればと思う。
少しでも知識の片隅に置いてもらえたらうれしいと感じる。
まとめるとNEJMの下記の表と図がとてもみやすい。(NEJM 2017)
上記を文章にまとめてみる。
★細胞障害性抗がん剤では
・シスプラチン:直接的に尿細管障害を生じ、ATNを生じる。また、Salt wastingを生じ低ナトリウム血症になったり、マグネシウム排泄が亢進し、低マグネシウム血症もきたす。低クロール環境が毒性の増悪を生じるため、投与前に生食投与を行い尿量を維持する事は重要である。1/3が治療後数日でAKIになる。また、反復投与で悪化しやすい。
・カルボプラチン・オキサプラチン:シスプラチンと同様の白金製剤ではあるが、尿細管障害は生じる頻度は低い。
・イフォスファミド:シクロフォスファミドと同様なアルキル化剤。30%程度にAKIを生じる。近医尿細管障害を生じ、尿糖・低カリウム血症・低リン血症・近医尿細管アシドーシスを生じる。重度な症例ではFanconi症候群を呈する。CKDがある症例やシスプラチン投与歴がある症例、腎に悪性腫瘍の進展がある症例はAKIのリスクになりうる。
・メソトレキセート:代謝阻害薬の薬である。白血病・肉腫・リンパ腫の治療に使用。高容量(1g/m2)は尿細管内の結晶を形成し閉塞を生じ、また直接的に尿細管障害を生じAKIを引き起こす。
・ペトレキセド:代謝阻害薬で、尿細管障害を生じATNを生じAKIを生じる。重度の場合ではFanconi症候群を生じる。
下記は骨粗鬆症の予防で使用されものであるが、
・パミドロネート:FSGSを生じやすい。
・ゾレドロネーと:ATNを生じやすい。
は覚えておく必要はある・
★分子標的薬
・VEGF阻害薬:大腸ガンや腎細胞癌などの治療薬として使用される。高血圧、タンパク尿、AKIとの関連性が示されている。また、TMAやFSGSの報告もありVEGF阻害薬のAKI機序としては最多である。
・BRAF阻害薬:容量依存性のAKIを生じる。尿細管間質障害を生じる。80%の症例が薬剤の中止で改善するが、はっきりとした機序までは不明確である。
・ALK阻害薬:クリゾチニブ(ザーコリ)はATNやAINを生じAKIを生じうる。
★免疫治療薬
パート5のカテゴリには入れてはいなかったが、インターフェロンやインターロイキン2はAKIにおいては重要なので、把握しておく必要がある。
両者ともAKIを生じ、
−インターフェロンは、高容量のタンパク尿を生じ、微小変化群やFSGSといった腎炎所見をもたらしたことがわかっている。機序としてはインターフェロンがpodocyteにくっつき正常細胞の増生を変化させたと考えられている。薬剤の中止によりAKIの多くはよくなるが、collapsing FSGSなどは効果が乏しいと言われている。
★免疫チェックポイント阻害薬
これはAKIに関しては急性間質性腎炎を生じることが報告されている。また、AKIの程度も中等度から重度になることも多い。ステロイド治療や薬剤の中止により徐々に改善する。
今回は2回にわたって抗がん剤と腎機能障害に関して振り返ってみた。
うまくまとめきれていなく、読みづらい部分も多いと思うが、少しでも臨床の参考になればと思う。
2017/07/25
がん患者の急性腎不全 5
今回パート5、6として挙げさせてもらうのは、『抗がん剤と腎機能障害』であり、興味がありつつも腎臓内科医にとってはとっつきにくい部分なのかなと感じる。
では、少しずつ話していこうと思う。
まず、ひとえに抗がん剤と言っても現在は多種なものに分かれている。
抗がん剤を大きく分けると下記の4つに分かれる。
・細胞障害性薬剤
・分子標的薬
・ホルモン治療
・免疫チェックポイント阻害薬
細胞障害性抗がん剤の代表としては
-シスプラチンやカルボプラチンなどの白金製剤
-シクロフォスファミドなどのアルキル化剤
-ゲムシタビンやメトトレキサートなどの代謝阻害薬
-ビンクリスチン、パクリタキセルなどの植物アルカロイド薬
などがある。
分子標的薬としては様々な種類があり、最近話題の薬である。
・VEGF阻害薬:アバスチン、スーテントなど
・多種キナーゼ阻害薬:ネクサバール、グリベックなど
・m-TOR阻害薬:アフィニター、トリセルなど
・EGFR阻害薬:イレッサ、タルセバなど
・BRAF阻害薬:ゼルボラフ、タフィンラー
・MEK1阻害薬:メキニスト
・ERBB2作動薬:ハーセプチンなど
・CTLA4阻害薬:エルボイなど
とてもたくさんあり、少し知識として入れておくのは大事である。
ホルモン治療としては
・ステロイド
・抗アンドロゲン薬:クロルマジソン
・女性ホルモン薬:エストラジオール
・アロマターゼ阻害薬:アナストロゾールなど
・抗エストロゲン薬:タモキシフェンなど
・LH-RHアンタゴニスト:リュープロリンなど
免疫チェックポイント阻害薬としては下記のものがある。値段が高額なものであり、問題とはなっている。
http://answers.ten-navi.com/pharmanews/7342/ より転用
まずは、抗がん剤についての簡単な知識をいれていただいた。
次のパートで抗がん剤とAKIに関して触れていきたいと考える。
では、少しずつ話していこうと思う。
まず、ひとえに抗がん剤と言っても現在は多種なものに分かれている。
抗がん剤を大きく分けると下記の4つに分かれる。
・細胞障害性薬剤
・分子標的薬
・ホルモン治療
・免疫チェックポイント阻害薬
細胞障害性抗がん剤の代表としては
-シスプラチンやカルボプラチンなどの白金製剤
-シクロフォスファミドなどのアルキル化剤
-ゲムシタビンやメトトレキサートなどの代謝阻害薬
-ビンクリスチン、パクリタキセルなどの植物アルカロイド薬
などがある。
分子標的薬としては様々な種類があり、最近話題の薬である。
・VEGF阻害薬:アバスチン、スーテントなど
・多種キナーゼ阻害薬:ネクサバール、グリベックなど
・m-TOR阻害薬:アフィニター、トリセルなど
・EGFR阻害薬:イレッサ、タルセバなど
・BRAF阻害薬:ゼルボラフ、タフィンラー
・MEK1阻害薬:メキニスト
・ERBB2作動薬:ハーセプチンなど
・CTLA4阻害薬:エルボイなど
とてもたくさんあり、少し知識として入れておくのは大事である。
ホルモン治療としては
・ステロイド
・抗アンドロゲン薬:クロルマジソン
・女性ホルモン薬:エストラジオール
・アロマターゼ阻害薬:アナストロゾールなど
・抗エストロゲン薬:タモキシフェンなど
・LH-RHアンタゴニスト:リュープロリンなど
免疫チェックポイント阻害薬としては下記のものがある。値段が高額なものであり、問題とはなっている。
まずは、抗がん剤についての簡単な知識をいれていただいた。
次のパートで抗がん剤とAKIに関して触れていきたいと考える。
2017/07/19
哲と凛
7月18日、腎臓学会からメールがあった(写真は映画You've got mailより)。なんと、先の学会講演「よくわかるシリーズ」動画がオンデマンド配信されたという。
こんなすごい時代に居合わせられて幸せだ。まさに「僕たちのキセキ」だなと思う。会員思いの学会の会員でよかった。12月22日までの限定公開なのは残念だが、「少年は老いやすく学成り難いから鉄は熱いうちに打ちなさい(写真)」という親心と受け止め、早めに視聴しておきたい。
こんなすごい時代に居合わせられて幸せだ。まさに「僕たちのキセキ」だなと思う。会員思いの学会の会員でよかった。12月22日までの限定公開なのは残念だが、「少年は老いやすく学成り難いから鉄は熱いうちに打ちなさい(写真)」という親心と受け止め、早めに視聴しておきたい。
その鉄ではないが、「よくわかるシリーズ10」カルシウム・リンのご講演で、鉄の静注後に低リン血症になるとあった。以前に鉄と茶について書いたが、鉄とリンというのも意外な組み合わせだ。Oxfordなど教科書をみても原因一覧に載っていないので、エキスパートだからこそご存知の新しいトピックなのだろう。興味を持って調べてみると、ここ数年の論文がたくさんでてくる(たとえば、doi:10.1155/2015/468675)。
有名なのは日本では未承認のカルボキシマルトース第二鉄(FCM;商品名はInjectafer®、Ferinject®)だ( doi:10.1136/bcr-2016-219160)。これはメガ用量の鉄を一度に投与できるのが特徴だ(鉄として50mg/ml、20mlで1000mg)。経口鉄を消化器症状で飲み続けられない人もいるから、便利だ。
が、2008年にはすでにFDAが2.3%に低リン血症がみられると警告していた。多くは軽症だと思われていたが、オーストリアの大学病院でFCMを使用した患者さんの32%に0.6mmol/l(1.86mg/dl)未満の低リン血症がみられた(doi:10.1371/journal.pone.0167146)。なお欧州の論文はリンの単位がmmol/lになっているが、リンの原子量が31なので3.1倍すればmg/dlに変換できる。
機序は、だいたいどの症例報告やレビュー(Neth J Med 2014 72 49)を見ても、FGF23上昇と、近位尿細管からのリン再吸収低下が示唆されている。FGF23がふえれば活性型Vit Dが減るので、余計によくない。もともとビタミンD欠乏があれば、いっそうよくない。補充しても正常化に数ヶ月要した例もある(Eur J Clin Nutr 2014 68 531、栄養不良も合併していたため)。
有名なのは日本では未承認のカルボキシマルトース第二鉄(FCM;商品名はInjectafer®、Ferinject®)だ( doi:10.1136/bcr-2016-219160)。これはメガ用量の鉄を一度に投与できるのが特徴だ(鉄として50mg/ml、20mlで1000mg)。経口鉄を消化器症状で飲み続けられない人もいるから、便利だ。
が、2008年にはすでにFDAが2.3%に低リン血症がみられると警告していた。多くは軽症だと思われていたが、オーストリアの大学病院でFCMを使用した患者さんの32%に0.6mmol/l(1.86mg/dl)未満の低リン血症がみられた(doi:10.1371/journal.pone.0167146)。なお欧州の論文はリンの単位がmmol/lになっているが、リンの原子量が31なので3.1倍すればmg/dlに変換できる。
機序は、だいたいどの症例報告やレビュー(Neth J Med 2014 72 49)を見ても、FGF23上昇と、近位尿細管からのリン再吸収低下が示唆されている。FGF23がふえれば活性型Vit Dが減るので、余計によくない。もともとビタミンD欠乏があれば、いっそうよくない。補充しても正常化に数ヶ月要した例もある(Eur J Clin Nutr 2014 68 531、栄養不良も合併していたため)。
FCMにとくに多いようだが、添加物のせいか鉄用量が多いせいかはわからない。ほかの鉄、たとえば日本にあるsaccharated ferric oxide(フェジン®)でも報告がある(Bone 2009 45 814;Bone誌に載せるのだから、腎臓内科が扱う領域はほんとうに幅広い)。FCMも、日本の製薬会社が開発や販売のライセンスをとっているし、そのうち市場にでまわるかもしれない。
そうなれば、鉄欠乏性貧血はとても患者さんの数も多いし、たくさんの人につかえば潜在的にビタミンDが足りないなど副作用がでやすい人にも当たるから、注意深い観察が必要だと思う。Take home message(「よくわかるシリーズ」はたいていこのスライドで終る)?静注鉄を入れたらリンを測ろう。
そうなれば、鉄欠乏性貧血はとても患者さんの数も多いし、たくさんの人につかえば潜在的にビタミンDが足りないなど副作用がでやすい人にも当たるから、注意深い観察が必要だと思う。Take home message(「よくわかるシリーズ」はたいていこのスライドで終る)?静注鉄を入れたらリンを測ろう。
2017/07/17
がん患者での急性腎不全 4
今回はパート4になる。
造血幹細胞移植とAKIについて簡単に触れようと思う。
まず、
★造血幹細胞移植とはなにか?
造血幹細胞移植:Hematopoietic Stem Cell Transplant (HSCT) は造血幹細胞(血液細胞である白血球、赤血球、血小板のおおもとになる細胞)を輸注し、それが骨髄に根付くことによって造血機能の再構築をはかる代替療法である。
造血幹細胞移植を行う目的としては、骨髄の最大用量を上回る大量の抗がん剤や放射線照射による治療を可能とすることと、ドナー免疫に由来するGVL(Graft versus Leukemia:移植片による抗白血病効果)やGVT(Graft versus Tumor:移植片による抗腫瘍効果)を得ることができることである。
1960年代から行われ始めており、今では血液腫瘍治療では欠かせないものになっている。
★造血幹細胞の種類(採取方法について)
①骨髄移植
ドナーに全身麻酔をして腸骨(腰の骨)から採取した骨髄液を、レシピエントの静脈へ点滴で注入。HLA型の適合は重要。
生着まで:2-4週間
②末梢血幹細胞移植
ドナーに白血球を増やす薬(G-CSF)を3~4日間、連続注射し、末梢血中の造血幹細胞が増えたところで血液成分分離装置で造血幹細胞を採取し、骨髄移植と同様にレシピエントへ移植。
生着まで:2-3週間
③臍帯血移植
臍帯血は、母親と胎児を結ぶ臍帯と、胎盤の中に含まれる血液で、その血液中に造血幹細胞がたくさん含まれている。臍帯血バンクでは臍帯血を保存し、移植の必要な患者さんに提供し移植。メリットとしてはドナー負担がなく移植可能なHLA型が広い。
生着まで:3-4週間
★造血幹細胞の種類(用いる検体について)
①自家移植
患者自身の造血幹細胞を事前にあらかじめ採取・保存し、それを幹細胞移植に用いる方法
・利点:拒絶・GVHDリスク低い、ドナー不要
・欠点:自己の造血幹細胞に腫瘍細胞が混入している可能性、GVL効果・GVT効果は期待できない。
②同種移植
HLAの一致した健常ドナーから提供された造血幹細胞を移植に用いる方法。
・利点:GVL効果・GVT効果が期待できる。
・欠点:拒絶・GVHDリスクあり。免疫抑制剤を用いるので感染にかかりやすい。ドナーがみつからないことも。
★造血幹細胞の分類(前処置の種類によるもの)
移植前には大量の抗がん剤投与、および放射線照射による治療がおこなわれる。
前処置の強さで2つにわかれる。
①フル移植(骨髄破壊的前処置)
様々な方法があるが、多くは全身放射線療法+エンドキサンの大量療法
②ミニ移植(骨髄非破壊的前処置)
前処置が弱いため腫瘍細胞が残ってしまうが、その後のドナー由来のリンパ球による GVL効果 、GVT効果で腫瘍細胞の排除を目指す。
高齢者や臓器障害がある患者や体力低下した患者にも可能であるが、再発が増加する危険差異はある。
ここまで、前置きがかなり長くなってしまったが、造血幹細胞移植とAKIに関しては高頻度で認める。
報告も様々ではあるが、10-73%と幅は広い(NEJM 2016←秀逸なReviewなので一読すべし)。
また、透析を要する重症のAKIの割合は5%程度と言われている(Bone Marrow Trans 2011)。
★リスクファクター
体液量減少、敗血症、腎毒性薬物の使用、GVHD、SOS(sinusoidal obstruction syndrome)などがリスクになる。
※腎毒性薬物:バンコマイシン、アミノグリコシド、アシクロビル、アンホテリシンなど。また、カルシニューリン阻害薬も関連する。
※SOS:放射線や大量化学療法(特にアルキル化剤)で類洞内皮細胞障害や肝細胞障害を起こし肝臓の小血管が閉塞し、門脈圧亢進症を呈する状態。いわゆるhepatorenal-syndromeを起こすので腎臓は強い血管収縮から虚血をきたし腎不全を起こす。発症時期は移植後3か月以内が多い。
※上記にはないが、ウイルス感染は重要。ウイルスとしてはアデノウイルス、BKウイルス、サイトメガロウイルスなどである。
今回は造血幹細胞移植のAKIを少し話した。
ここで、分かるように患者さんがどんな移植をうけたかを知ることは重要である。
つまり、自家移植なのか同種移植なのか(これによってGVHDなどのリスクや免疫抑制剤内服の事など分かる。)
前処置はフル移植かミニ移植か(ミニ移植であればSOSのリスクは低い)
今回のことが少しでも何らかの腎機能障害を見る時のツールになればうれしい。
造血幹細胞移植とAKIについて簡単に触れようと思う。
まず、
★造血幹細胞移植とはなにか?
造血幹細胞移植:Hematopoietic Stem Cell Transplant (HSCT) は造血幹細胞(血液細胞である白血球、赤血球、血小板のおおもとになる細胞)を輸注し、それが骨髄に根付くことによって造血機能の再構築をはかる代替療法である。
造血幹細胞移植を行う目的としては、骨髄の最大用量を上回る大量の抗がん剤や放射線照射による治療を可能とすることと、ドナー免疫に由来するGVL(Graft versus Leukemia:移植片による抗白血病効果)やGVT(Graft versus Tumor:移植片による抗腫瘍効果)を得ることができることである。
1960年代から行われ始めており、今では血液腫瘍治療では欠かせないものになっている。
★造血幹細胞の種類(採取方法について)
①骨髄移植
ドナーに全身麻酔をして腸骨(腰の骨)から採取した骨髄液を、レシピエントの静脈へ点滴で注入。HLA型の適合は重要。
生着まで:2-4週間
②末梢血幹細胞移植
ドナーに白血球を増やす薬(G-CSF)を3~4日間、連続注射し、末梢血中の造血幹細胞が増えたところで血液成分分離装置で造血幹細胞を採取し、骨髄移植と同様にレシピエントへ移植。
生着まで:2-3週間
③臍帯血移植
臍帯血は、母親と胎児を結ぶ臍帯と、胎盤の中に含まれる血液で、その血液中に造血幹細胞がたくさん含まれている。臍帯血バンクでは臍帯血を保存し、移植の必要な患者さんに提供し移植。メリットとしてはドナー負担がなく移植可能なHLA型が広い。
生着まで:3-4週間
★造血幹細胞の種類(用いる検体について)
①自家移植
患者自身の造血幹細胞を事前にあらかじめ採取・保存し、それを幹細胞移植に用いる方法
・利点:拒絶・GVHDリスク低い、ドナー不要
・欠点:自己の造血幹細胞に腫瘍細胞が混入している可能性、GVL効果・GVT効果は期待できない。
②同種移植
HLAの一致した健常ドナーから提供された造血幹細胞を移植に用いる方法。
・利点:GVL効果・GVT効果が期待できる。
・欠点:拒絶・GVHDリスクあり。免疫抑制剤を用いるので感染にかかりやすい。ドナーがみつからないことも。
★造血幹細胞の分類(前処置の種類によるもの)
移植前には大量の抗がん剤投与、および放射線照射による治療がおこなわれる。
前処置の強さで2つにわかれる。
①フル移植(骨髄破壊的前処置)
様々な方法があるが、多くは全身放射線療法+エンドキサンの大量療法
②ミニ移植(骨髄非破壊的前処置)
前処置が弱いため腫瘍細胞が残ってしまうが、その後のドナー由来のリンパ球による GVL効果 、GVT効果で腫瘍細胞の排除を目指す。
高齢者や臓器障害がある患者や体力低下した患者にも可能であるが、再発が増加する危険差異はある。
ここまで、前置きがかなり長くなってしまったが、造血幹細胞移植とAKIに関しては高頻度で認める。
報告も様々ではあるが、10-73%と幅は広い(NEJM 2016←秀逸なReviewなので一読すべし)。
また、透析を要する重症のAKIの割合は5%程度と言われている(Bone Marrow Trans 2011)。
★リスクファクター
体液量減少、敗血症、腎毒性薬物の使用、GVHD、SOS(sinusoidal obstruction syndrome)などがリスクになる。
※腎毒性薬物:バンコマイシン、アミノグリコシド、アシクロビル、アンホテリシンなど。また、カルシニューリン阻害薬も関連する。
※SOS:放射線や大量化学療法(特にアルキル化剤)で類洞内皮細胞障害や肝細胞障害を起こし肝臓の小血管が閉塞し、門脈圧亢進症を呈する状態。いわゆるhepatorenal-syndromeを起こすので腎臓は強い血管収縮から虚血をきたし腎不全を起こす。発症時期は移植後3か月以内が多い。
※上記にはないが、ウイルス感染は重要。ウイルスとしてはアデノウイルス、BKウイルス、サイトメガロウイルスなどである。
今回は造血幹細胞移植のAKIを少し話した。
ここで、分かるように患者さんがどんな移植をうけたかを知ることは重要である。
つまり、自家移植なのか同種移植なのか(これによってGVHDなどのリスクや免疫抑制剤内服の事など分かる。)
前処置はフル移植かミニ移植か(ミニ移植であればSOSのリスクは低い)
今回のことが少しでも何らかの腎機能障害を見る時のツールになればうれしい。
2017/07/14
ざっくりまとめ
透析患者さんでTSHを測ってみると、低い群にくらべて高い群は疲れやすく仕事や家事ができにくく痛みもつよかった(doi: 10.2215/CJN.13211216)。米国の透析施設で、6割程度がアフリカ系で、平均年齢は50歳代。そういわれても「そりゃ、そうでしょう」と思う。
TSHが高いからと言って、甲状腺ホルモンを補充していいかには議論の余地もある(心疾患があったり高齢者だったりで不整脈などの問題もあるし、fT3やfT4のことはわからない)。でもまあ、患者さんの生存期間も大事だけれどQOLも大事、という最近の考え方にそって調べられているし、そのうち治療介入したスタディも出ると思う。
さて、この論文をとりあげたのは、じつは内容もさることながら、著者が「ビジュアル・オーバービュー」を載せていたからだ(下図)。
しかも、学会ポスターのように無味乾燥なの(たとえば下図はdoi: 10.2215/CJN.10270916、じつは論文の中身としてはこっちのほうが面白いんだけど…)がおおいなか、注意を引くように力を入れて作っている。だから、こうして目に留まる。
これがあると、ぱっと要旨をつかむのに便利だ。ウェブサイトやニュースサイトでいうところの「ざっくりまとめ」みたいなもので、パソコン・スマホ世代に合ったメディア戦略と思う。活字離れ(「読者」という言葉がそのうち「ビューワー」というカタカナに置き換えられるかもしれない)がどうあれ、視覚効果があるほうが頭に入りやすいのは仕方がない。
しかし、注意は必要だ。悪魔は細部に宿る(The devil is in the detail、図)という言葉もあるが、たとえばこの論文ではTSHが高い群はほとんどが透析を始めてからの12ヶ月未満のひとたちで、低い群はほとんどが透析を始めて12ヶ月以上のひとたちだった。透析を始めたばかりなら、疲れるだろう。
またTSHが1.28未満、1.28以上2.11未満、2.11以上mU/lの三群にわけているが、たとえば2.11以上の群といってもTSHの最大測定値は39.4mU/lで、こういう人を入れたから有意に甲状腺機能低下的な有意差がでたのかもしれない(TSHの平均値は2.2でSDは2.9だそうだが…ちなみにTSHの最小測定値は0.07mU/l)。
ざっくりまとめ(写真は「ざっくりまとめ髪」のNAVERまとめサイトより;出典はwww.biteki.com)も便利だが、やっぱり忙しくてもだれかが客観的に読まないといけないと思う。このサイトはその「だれか」の役目を果たしていく予定です。これからもビューワー・フレンドリーさ(「読みやすさ」はもう古い?!)を工夫しながら続けてまいりますので、よろしくお願いします。
TSHが高いからと言って、甲状腺ホルモンを補充していいかには議論の余地もある(心疾患があったり高齢者だったりで不整脈などの問題もあるし、fT3やfT4のことはわからない)。でもまあ、患者さんの生存期間も大事だけれどQOLも大事、という最近の考え方にそって調べられているし、そのうち治療介入したスタディも出ると思う。
さて、この論文をとりあげたのは、じつは内容もさることながら、著者が「ビジュアル・オーバービュー」を載せていたからだ(下図)。
しかも、学会ポスターのように無味乾燥なの(たとえば下図はdoi: 10.2215/CJN.10270916、じつは論文の中身としてはこっちのほうが面白いんだけど…)がおおいなか、注意を引くように力を入れて作っている。だから、こうして目に留まる。
これがあると、ぱっと要旨をつかむのに便利だ。ウェブサイトやニュースサイトでいうところの「ざっくりまとめ」みたいなもので、パソコン・スマホ世代に合ったメディア戦略と思う。活字離れ(「読者」という言葉がそのうち「ビューワー」というカタカナに置き換えられるかもしれない)がどうあれ、視覚効果があるほうが頭に入りやすいのは仕方がない。
しかし、注意は必要だ。悪魔は細部に宿る(The devil is in the detail、図)という言葉もあるが、たとえばこの論文ではTSHが高い群はほとんどが透析を始めてからの12ヶ月未満のひとたちで、低い群はほとんどが透析を始めて12ヶ月以上のひとたちだった。透析を始めたばかりなら、疲れるだろう。
またTSHが1.28未満、1.28以上2.11未満、2.11以上mU/lの三群にわけているが、たとえば2.11以上の群といってもTSHの最大測定値は39.4mU/lで、こういう人を入れたから有意に甲状腺機能低下的な有意差がでたのかもしれない(TSHの平均値は2.2でSDは2.9だそうだが…ちなみにTSHの最小測定値は0.07mU/l)。
ざっくりまとめ(写真は「ざっくりまとめ髪」のNAVERまとめサイトより;出典はwww.biteki.com)も便利だが、やっぱり忙しくてもだれかが客観的に読まないといけないと思う。このサイトはその「だれか」の役目を果たしていく予定です。これからもビューワー・フレンドリーさ(「読みやすさ」はもう古い?!)を工夫しながら続けてまいりますので、よろしくお願いします。
2017/07/11
がん患者での急性腎不全 3
今回、間が空いてしまったが、血液腫瘍とAKIに関してその他の要因として
腫瘍崩壊症候群(Tumor lysis syndrome)について話す。
★腫瘍崩壊症候群に関して:
腫瘍細胞の自然崩壊、または化学療法による崩壊で細胞内含有物の放出が生じる疾患である。TLSに伴う電解質異常としては高リン血症、高カリウム血症や低カルシウム血症がある。
・腫瘍崩壊症候群のリスク:
悪性腫瘍に関しては、バーキットリンパ腫、リンパ芽球性白血病、リンパ芽球性リンパ腫、びまん性大細胞性リンパ腫や増殖性が高く治療に対する反応が高い固形がんは腫瘍崩壊のリスクが高い。そのほかに腫瘍の大きさが大きいもの、LDH上昇正常の2倍以上、WBC上昇(50000)、臓器浸潤症例、高尿酸血症(7.5mg/dL)、腎障害合併例ありなどはリスクが高い。
腫瘍崩壊症候群に関してはリスクを評価するという事が重要である。
リスクによって治療や予防もことなる。
CJASN 7: 1730–1739, 2012
・予防:補液が基本となる
-低リスク:アロプリノールかフェブリクの使用を検討
-中リスク:アロプリノールかフェブリクの使用
-高リスク:ラスブリカーゼの使用
・治療:集中治療室への入院でモニター管理
-尿量>100ml/hrになるように補液
-ラスブリカーゼを単回投与(0.1-0.2mg/kg)
-電解質補正
・ 高カリウム血症:通常と同様(カルチコール、GI療法、K吸着薬など)
・ 低カルシウム血症
症候性:グルコン酸カルシウム静注
無症候性:カルシウム補充は避ける(リン酸と錯体を作り沈殿)
腫瘍崩壊症候群(Tumor lysis syndrome)について話す。
★腫瘍崩壊症候群に関して:
腫瘍細胞の自然崩壊、または化学療法による崩壊で細胞内含有物の放出が生じる疾患である。TLSに伴う電解質異常としては高リン血症、高カリウム血症や低カルシウム血症がある。
・腫瘍崩壊症候群のリスク:
悪性腫瘍に関しては、バーキットリンパ腫、リンパ芽球性白血病、リンパ芽球性リンパ腫、びまん性大細胞性リンパ腫や増殖性が高く治療に対する反応が高い固形がんは腫瘍崩壊のリスクが高い。そのほかに腫瘍の大きさが大きいもの、LDH上昇正常の2倍以上、WBC上昇(50000)、臓器浸潤症例、高尿酸血症(7.5mg/dL)、腎障害合併例ありなどはリスクが高い。
腫瘍崩壊症候群に関してはリスクを評価するという事が重要である。
リスクによって治療や予防もことなる。
CJASN 7: 1730–1739, 2012
・予防:補液が基本となる
-低リスク:アロプリノールかフェブリクの使用を検討
-中リスク:アロプリノールかフェブリクの使用
-高リスク:ラスブリカーゼの使用
・治療:集中治療室への入院でモニター管理
-尿量>100ml/hrになるように補液
-ラスブリカーゼを単回投与(0.1-0.2mg/kg)
-電解質補正
・ 高カリウム血症:通常と同様(カルチコール、GI療法、K吸着薬など)
・ 低カルシウム血症
症候性:グルコン酸カルシウム静注
無症候性:カルシウム補充は避ける(リン酸と錯体を作り沈殿)
・ 高リン血症:経口リン吸着薬(Ca含有は避ける)、高度:透析考慮
Tips
□ちなみに尿酸が上昇することが何が悪いのか?
・尿酸の糸球体濾過量の増加→尿細管に到達し、尿細管閉塞、腎虚血と同様の血管狭窄や炎症
性サイトカインを助長し結果的には糸球体濾過量を減量させる。
そのため、尿酸は下げるべきである。
□カルシウム補充に関してはなぜ避けた方がいいか?
腫瘍崩壊症候群で高リン血症がある症例では、カルシウムリンの沈澱ができやすくなる。
とくにアルカリ尿の場合にできやすい。
□アルカリ尿にすると尿酸の可溶性は上がるが尿はアルカリにした方がいいの?
ちなみにアルカリ尿にする手段としては、クエン酸製剤などがある。(製品としてはウラリット)
ちなみに、尿のアルカリ化は推奨されていない。理由としては、リン酸カルシウム結石のリスクが上
昇するためである。
今回、長くなってしまったが少しでも参考になればと思う。
次回は少し話を進められたらと考える。
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