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2021/01/31

COVID 19下における緊急腹膜透析導入

 まだ、この投稿を記載時点でCOVID-19の勢いは衰えていない。

日本透析医学会からも透析患者のCOVID19の患者数・死亡者が報告されているが徐々に増加傾向にある。血液透析に関しては、感染管理も徹底はしているが、もともとサテライト(維持透析施設)先での透析も含めて透析患者同士の間隔が少ない場合が多い。

我々が新規に緊急的に透析が必要になる場合には、首や大腿からカテーテルを挿入して血液透析導入とする場合がほとんどである。このCOVID19の中、緊急透析導入を腹膜透析で行うのはどうかという風潮が、本邦でも出ている。実際に友人の医師が出張して腹膜透析カテーテルを入れに行くので緊急腹膜透析導入をしてくださいということを言っている。

今回、この緊急腹膜透析に関してCJASNに報告があり、実際の症例もふまえてメリットなども考えてみたいと思う。

症例:

80歳男性がCOVID -19による低酸素性呼吸不全とショックにてICU入室。挿管され人工呼吸管理をされていた。血清Crが入院時の1.0→6.3mg/dlまで上昇し、無尿になった。体重も12kg上昇している。高カリウム血症などはなく、腹部手術歴も今までない患者。この患者の管理で腎臓内科がコンサルトを受けた。


・コンサルト後に考えること

このコンサルトを受けた思考過程として、腎不全の原因はショックに伴うATN(急性尿細管壊死)なのか、薬剤性なのか、COVID19によるAKIなのか(以前の記事参照)を考え、無尿で体重増加もあり腎代替療法は必要になると考えると思う。今までなら循環動態などを加味しながらCRRT(持続的血液透析)にしようかIHD(間欠的血液透析)にしようかと考えたと思う。

しかし、この症例に緊急腹膜透析という選択肢もあるというのが今回の主な話である。

今までのCOVIDがない状況で本邦では選択肢は少なかったのではないか?世界ではCOVID流行前からも報告は多い(CJASN2018)


では、ここからは少し細かく見ていこう。

・どのようなAKI患者に緊急腹膜透析が適応になるのか?

反応性の体液過剰、代謝性アシドーシス、高カリウム血症などの臨床的に透析が必要になる場合で、活動性の腹膜病変(腹膜炎、小腸閉塞、最近の腹部手術歴)がないこと、重度の高カリウム血症がないこと、腹腔内圧が過度に上昇していない患者が適応になる。BMI>30kg/m2は相対的な禁忌になる。CRRTで透析回路の血栓閉塞が生じた場合には腹膜透析に移行できるかは考慮してもいいとされている。

□腹膜透析カテーテル挿入

COVID19が流行している際に、手術室からICUへの移動が制限され腹腔鏡下のカテーテル挿入術ができない場合もあり、ベッドサイドでカテーテル挿入術をするのが一つの方法として述べられている。その場合にCOVID19感染リスクを減らすために最小限の人数で入り、第一カフを巾着縫合で縫うことでリークを減らし、すぐに使用できることが報告されている(World J Sug 2020)。

□初回の透析処方

腹膜透析処方の基本は以前の記事をぜひ参考にしてもらいたい。

腹膜透析液の交換回数などの点でAPD(automated peritoneal dialysis)がCAPD(continuous ambulatory peritoneal dialysis)より優れていると言われているが、機械などのリソースの問題点はある。APDの場合に2時間交換で、12時間行い、total volumeで10000-12000ml程度が初期量としては推奨されているが、環境によって量は調整してもいい。透析液に関しては、グルコース濃度をあげることで除水量を増やしたり、低血圧や過除水にならないようにしていく必要がある。

PD処方は毎日評価を行い、体液量や酸塩基平衡異常などをチェックする。高度に異化が進んでいる患者では、1時間毎に交換するAPD治療は体液管理や代謝管理に有効であることが報告されている(CJASN 2012)。

□腹膜透析の効率

個々によってPDにおけるクリアランスは変化する(疾患の重症度や合併症や腹膜の透過性の状況によって)。Kt/VureaはPD患者ではPD効率を見るのには不適切であるが、ISPDガイドラインではKt/Vureaは0.3/日、週で2.1(0.3*7日)がHDの週3回でKt/Vurea 1.2と同等であると考えられている(Perit Dial Int 2014)。

□COVID-19の感染状況下の中での問題

・腹臥位のポジション

COVID19でニューヨークの病院の集中治療室に入院した患者のうち、31%が腎代替療法を受け、17%が腹臥位をとっていた(Lancet 2020)。腹臥位でも、腹膜透析がAPDを行いうまくいったという報告(Perit Dial 1998)はあるが、本邦では難しい可能性はある。体位変換の際にAPDをおこなうことは一つの方法かもしれないが。

・人工呼吸器で腹腔内圧が上昇した場合

PD液があった場合に腹腔内圧が上昇し、横隔膜の運動が制限され人工呼吸の部分に弊害が出る事が考えられるが、呼吸器への影響は少なく、また腹膜透析の漏れも2000mlいれても10%未満であることが報告されている(Perit Dial Int 2014)。しかし、実際は500mlから開始して、24時間毎に評価をして最終目標を2000mlにあげていくのが一つのストラテジーである。また、腹腔内圧は18cmH2O未満に設定することが推奨されている(Kidney 360 2020)。呼吸器側は、プラトー圧とFiO2を持続的にモニターしていく必要がある。

・CRRTが凝固で動かなくなってしまった場合

COVID19では過凝固がしばしば問題になっている。これは、CRRTの抗凝固をヘパリンや全身のヘパリン投与やアルガトロバンなどにしても生じている(J Thromb Haemost 2020)。そのような患者にもPDはいい治療になる。

・スタッフを守るために

PDで長いチューブをもしも用いることができればCOVID19のハイリスク患者との接触をへらすことができる。また、CAPDではなくAPDであれば、患者エリアへ入るリスクを減らすことができる。


緊急のPDを行うことはCOVID19下の集中治療下のAKI患者で、考慮してもいいオプションかもしれない。今は大変な時期ではあるが、みんなの協力を得ながら患者さんにも、スタッフにとってもいい選択をしていく必要性がある。




2017/12/26

腎臓内科が必要とされるとき~急性血液浄化を考える~下巻

今回、下巻として、まずはどんな透析方法を用いるかについて話したいと思う。


透析方法に関しては大きく分けるとIRRT(intermittent renal replacement therapy)、CRRT(continuous renal replacement therapy)に分かれる。
まず、この両方のmodarityについてであるが、一般的にはCRRTのほうが血圧変動が少ないので血圧が低い場合に用いられることが多い。


注意点:
※CRRTであっても透析を開始してすぐの血圧低下(initial drop)は生じるという事は念頭に置く必要がある。
※血圧変動がある場合でも効率をあげる必要がある病態(重度高カリウム血症、重度尿毒症など)は血圧を維持して、IRRTを選択する必要がある。


まず、CRRTとIRRTに関しては2007年の論文では血行動態が安定しているものに対しての差は出ていなかった。2013年のsystematic reviewでも大きな差はみられなかった。ほとんどのRCTでの論文でもCRRTの有用性を示している論文はなかった。SSCG(surviving sepsis campaign gudeline)でも、重症感染症とAKIの患者に対しての短期死亡率を比較した場合にCRRTとIRRTの差はなかったとしている。
しかし、2017年のGMSの論文ではCRRTのほうが腎回復や経済学的な面でも良かったという事が言われている。


まだ、どちらのmodarityがいいかに関しては、明確な結論は出てはいないが、KDIGO2012のガイドラインではCRRTは血行動態が不安定な患者や、急性脳卒中や他の頭蓋内圧亢進を生じさせる病態があるAKIや脳浮腫があるAKIの患者には適応となる。


自分の施設でもCRRTの稼働に関しては少ないが、それで困った事は少ないと感じている。
ちなみに日本で多く用いられる血流量などを下図に示す。
日本内科雑誌 103巻 5号より

では、CRRTになった場合に治療量をどのように決めればいいのか?は悩む部分であろう。


CRRTで決める必要性があるのは血液流量(Qb)、透析液流量(Qd)、濾液流量(Qf)である。


まず、設定するにあたって浄化量(Qd+Qf)のことが悩ましいのではないだろうか?
CRRTの中で、CHFであればQd=0、CHDであればQf=0、CHDFではQd+Qfとなる。


これらの3つに関しては一般的に小分子量物質のクリアランスはほとんど差がないが、中分子量物質のクリアランスに関してはCHF>CHDF>CHDとなる。そのため、目的物質に対してQfをおおくするのか、Qdを多くするのかは変えるのは一つである(たとえば、サイトカインを除きたいならばQfを多くしたりする。)。


注意点:
※血液濃縮や膜劣化を防ぐためにQfはQbの30%未満に設定する必要がある。
※浄化量の保険上限に関しては15-20L/日までになっている。


まず、浄化量をどのくらいにすればいいのかは悩むかと思う。
これについては歴史を知っておく必要性がある。
2000年にC Roncoらの報告で浄化量を25ml/kg/hr、35ml/kg/hr、45ml/kg/hrで比較した際に25ml/kg/mlに比して有意に35ml/kg/hrや45ml/kg/hrが予後が良かった。
そのため、この時点では高流量の浄化量の方が予後がいいという風潮になっていた。

その後、2つのRCTが2008年と2009年に出された。
一つはATN(Acute Renal Failure Trial Network) studyで、1124人をintensive therapy群(循環動態安定:週6回のHD、循環動態不安定:35ml/kg/hrのCVVHDF、または週6回のSLED)とless-intensive therapy群(循環動態安定:週3回のHD、循環動態不安定:25ml/kg/hrのCVVHDF、または週3回のSLED)を施行し、結論としては60日死亡率に差は認めなかった。



もう一つはRENAL(Randomized Evaluation of Normal Versus Augmented Level Replacement Therapy) studyである。これはオーストラリアとニュージーランドで行われ、1508例のAKIをhigher intensive therapy(浄化量が35ml/kg/hrのCHDF)とlower intensive therapy(浄化量が25ml/kg/hrのCHDF)にわけて、90日死亡率を見ているが有意な差は認めなかった。



なので、それまで主流であった浄化量は大容量ほどいいというのではなく、現在の至適の浄化量はKDIGOのガイドラインでの20〜25ml/kg/hrを推奨量としている。

Crit care 15:207,2011より

つまり、患者が50kgで浄化量を20ml/kg/hrで設定した場合には、浄化量は1000ml/hrとなる。その浄化量を病態に合わせて、QdとQfに分ければいいということになる。

※CRRTでの透析での注意点として透析液に注意する必要がある。透析液にはリンは含まれていなく、またKは2であり、Mgは1に設定されており下がりやすいため注意する必要がある。

腎臓内科は急性血液浄化ではやはり第一線に立って治療をしていく必要がある。少しでも自信を持って第一線で戦って欲しいと思う。


2012/12/16

Fanconi syndrome

 1g/d(Up/Ucr 1)程度の蛋白尿を”tubular-range proteinuria”などと言い、腎からの喪失による低K血症、低P血症、AG正常アシドーシス、低尿酸血症、そして尿糖などFanconi featureが(全てででなくてもいくつか)を併発していたらFanconi syndromeを疑う。

 先天性のFanconi症候群もあるが、成人腎臓内科が臨床上出会うのは後天性のほうが多い。少なくとも知っておくべき後天性Fanconiの原因は骨髄腫などplasma cell dyscrasiaによるlight-chain deposition disease、それに薬剤性だ。

 薬剤性Fanconiのリストは、長い(AJKD 2003 41 292)。有名なのはifosfamide、cisplatin、carboplatin、streptozocinなどの抗悪性腫瘍剤だが、tetracyclines、aminoglycosidesなどの抗生剤、valproic acid、ddI、tenofovir、cidofovir、防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)なども。

 なお本症候群は1903年にAbderhalden 、1924年にLignacが症例を報告している。ただスイスの小児科医Guido Fanconiは1936年にこれらの症例をnephrotic-glucosuric dwarfism with hypophosphatemic ricketsと名づけ発表し、病態に少し迫ったため、「名付け親」になっている。


[2020年5月27日追記]上記のようにテノホビルといえばファンコニ症候群・近位尿細管アシドーシス(先週の投稿も参照)が有名であるが、このほどCJSANにテノホビル関連の乳酸アシドーシスの報告が載った(doi:10.2215/CJN.14781219)。

 症例は76歳女性で、HIVに対してインテグラーゼ阻害薬bictegravir、 核酸逆転写酵素阻害薬(NRTI)のemtricitabineとtenofovir alafenamideを服用していた。倦怠感と頻脈に気づかれ受診した病院でアニオンギャップ上昇(22)と肝障害あり入院。循環不全と乏尿に陥り、12時間後は以下のデータとなった。

Cr 2.0mg/dl
HCO3- 9mEq/l(入院時は22mEq/l)
アニオンギャップ 35
pH 7.14
乳酸 14mmol/l
NRTIはミトコンドリア障害によるとみられる無症候性の高乳酸血症をきたすことが以前から知られているらしく(Lancet Infect Dis 2003 329 329)、肝障害・腎障害・循環不全で乳酸産生上昇と代謝・排泄障害をきたしたのだろう。

 このあと本例では、体重から求めた水分量とHCO3-濃度変化から酸の産生量を31mEq/h(72kg×0.4×13÷12)と見積もり、安全にこれだけの酸をバッファーするにはCRRTがよいと結論している。

 薬剤性乳酸アシドーシスであるから、テノホビル除去率についても議論されているが、本例のテノホビルは第1世代のtenofovir disoproxil fumarateよりも半減期がながく蛋白結合率の高い第2世代(tenofovir alafenamide fumarate)で、透析性は低かった。


抗HIV薬のレビュー(CJASN 2019 14 435)より


 透析液・置換液のHCO3-濃度は32mEq/lで血液との濃度差は23mEq/lだから、QD2L/h・QF4L/hのCVVHDFにすれば最初の1時間で23×6=138mEq/lのHCO3-を授けることができる。これが、この論文の本題である彼らの計算だ(なお、日本の保険適応量は15L/d)。

 乳酸の産生速度や除去速度が変わること、HCO3-の分布容積もpHなどで変わることを無視していることは、論文著者も認めている。それでも、CRRT開始10時間後にHCO3-濃度は22mEq/lとなり(QD1.5L/h・QF1.5L/hに減)、48時間以内にCRRTを終了。肝酵素・腎機能も改善し、ぶじ退院された。


 抗HIV薬に触れる機会は少ないかもしれないが、今後抗ウイルス薬の使用は日本の臨床でも増えていくかもしれない(何のウイルスであれ、だ)。そのためにも、こうした腎臓内科としての基本的な考え方は、押さえておきたい。



出典はこちら



2012/09/15

CRRT primer

 コンサルトでレジデントや医学生に透析を教える機会が意外となかったが、まとまった内容が分かりやすく説明された論文(Crit Care Nurse 2007 27 61)を指導医が回診に持ってきてくれた。ICUの看護師さん達が、持続腎代替療法(CRRT)の各システム(CVVHD, CVVHF, CVVHDF, SCUF)の分かりやすい模式図、各種の抗凝固剤、除水速度の計算方法、トラブルシューティングなどについて書いてあり、入門書として最適だ。今度教えるときには、これを参考にしよう。