起立性低血圧で自律神経の不調が原因なら、あまりできることがないと思っていた。起立動作をゆっくりにするとか、寝ている間はベッドを少し起こして臥位高血圧を予防するとか、非薬物治療がメイン、と以前に読んだ文献にあったと思う(NEJM 2008 358 615)。クスリではα刺激薬のmidodrineくらいしか試したことはない。
それが、最近ではpyridostigmineも試されていると知った。Pyridostigmineといえばコリン作動薬で重症筋無力症の治療に用いられる。それから、湾岸戦争の際に米軍兵士が化学兵器への曝露予防にこの薬を内服し、gulf war syndromeとよばれるコリン作動性の副作用が報告されたことも知られている。
このpyridostigmine、いただいた論文(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2003 74 1294)によれば、交感神経の神経節前線維がアセチルコリンを放出してシナプスで節後線維のニコチン型コリン受容体に作用するのを(どういうわけか立位でのみ)賦活化するらしい。この患者数15人の小さなスタディでは効果があったという。
また別の論文(Ann Pharmacother 2007 41 314)によれば、大動脈と頚動脈にある圧受容体の感度を上げるともいう。軸索が異常なら節後線維を刺激しても末梢effector(血管)に作用は現れないかもしれないが、圧受容体の問題なら効果あるのかもしれない。この文献がおこなったliterature searchによれば、その後もいくつかのポジティブなスタディがでたそうだ。
Neurohumoral(神経・体液)とかneuroendocrine(神経・内分泌)とかいうように、血圧の調節には神経が重要な役割を果たしている。腎臓の調節にも神経が大事で、その大変難解な生理学をきわめて明快かつシンプルに応用した治療法が試されてもいる(ことは以前に書いた)。腎臓内科をしているとこうして色々な科領域と関わるから、興味が尽きない。
クマさんがおしっこしないで冬眠できるのも、じん臓が一日に体液の何十倍もろ過してから不要なものを残して再吸収するのも、じん臓の替わりをしてくれる治療があるのも、すごいことです。でも一番のキセキは、こうして腎臓内科をつうじてみなさまとお会いできたこと。その感謝の気持ちをもって、日々の学びを共有できればと思います。投稿・追記など、Xアカウント(@Kiseki_jinzo)でもアナウンスしています。
2013/10/07
2013/10/03
代謝性アルカローシス 5/5
代謝性アルカローシスの治療は、Cl-補充、K+補充、嘔吐に制酸薬(機序を考えれば病気の本態を治療している訳ではないが)、アルドステロン過剰(あるいはGRA、AMEなど)は腫瘍を摘出するなりdexamethasoneを使うなり抗アルドステロン薬を使うなり甘草を止めるなり。Liddle症候群ならamiloride…、と病態が分かっていれば思いつくのはそんなに難しくない。しかし、実行するのは難しいこともある。
たとえばGitelmanやBartter症候群は大量に漏れるK+を補うのが本当に難儀だ。重度の非代償性心不全で利尿していたらK+喪失も多いしCl-も補えない。HCO3-を捨てようとacetazolamideを使うのも理にかなっているものの、副作用のK+喪失が激しくcounter-productiveになる恐れもある(こういうときはvaptanなのだろうか…?あるいは透析か)。Bulimiaだって隠れた利尿剤だって、精神的な治療は時間がかかるし難しい。
ここまで代謝性アルカローシスをオーバービューした。あと、二次性変化(いわゆる「代償」)のこともあるが、以前触れたからいいや。尿細管の機能を新しい切り口で学べて楽しかった。それに、体液量とか腎外喪失とかアルドステロンとか、全身と腎臓とのダイナミックな関わりを体感するのもエキサイティングだった(このエキサイティングさは、尿細管アシドーシスどころではない)。
代謝性アルカローシス、最高!!
たとえばGitelmanやBartter症候群は大量に漏れるK+を補うのが本当に難儀だ。重度の非代償性心不全で利尿していたらK+喪失も多いしCl-も補えない。HCO3-を捨てようとacetazolamideを使うのも理にかなっているものの、副作用のK+喪失が激しくcounter-productiveになる恐れもある(こういうときはvaptanなのだろうか…?あるいは透析か)。Bulimiaだって隠れた利尿剤だって、精神的な治療は時間がかかるし難しい。
ここまで代謝性アルカローシスをオーバービューした。あと、二次性変化(いわゆる「代償」)のこともあるが、以前触れたからいいや。尿細管の機能を新しい切り口で学べて楽しかった。それに、体液量とか腎外喪失とかアルドステロンとか、全身と腎臓とのダイナミックな関わりを体感するのもエキサイティングだった(このエキサイティングさは、尿細管アシドーシスどころではない)。
代謝性アルカローシス、最高!!
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