2016/05/28

Impressive

 以前に競走馬のことを書いたが、その馬の左腎はハート型をしている。なぜかは知らない。馬は優しい動物だからということにしておくか。重量に統計的な左右差はない(Anat Histol Embryol 2013 42 448;数値上は左が少し大きいが)。

 それはさておき、アメリカにImpressiveという名前の馬がいた。馬に詳しい人には説明はいらないだろうが、ImpressiveはAmerican quarter horseという短距離(quarterはquarter mileに由来する)、乗馬、ロデオなどに使われる品種で1969年に産まれ、競争馬としては怪我のために脱落したが肉付きが良いためHalter(breederたちが種牡馬としての優秀さを見定めるショー)で人気を博し、種牡馬として2500以上の仔を産ませた。

 ところが80年代にはいりImpressiveの産駒に原因不明の麻痺を繰り返すものが多発した。痙攣でもなく、ウマ運動性横紋筋融解症でもなく、意識もあるのに突然ガクンと脚が立たなくなり、ひどいと呼吸筋麻痺で死に至る。痛みもなく、馬もどうして立てないのかわからず混乱する。乗馬している人も落馬する可能性があるので危ない。

 いまではSCN4A遺伝子(神経筋接合部にあって再分極をおこすvoltage-gated Na channel Nav1.4をコード)のコドン変異によるとわかっている。この変異により筋は常に収縮していることになるが、再分極しにくく不応になると麻痺が起こる。とくに高K血症(トレーニング後、アルファルファなど高Kの餌を食べた時)があるとKの筋からの流出が妨げられより再分極しにくくなる。このためこの病気はhyperkalemic periodic paralysisと呼ばれる。治療には炭水化物食、利尿剤など(Kを下げる)が行われる。

 常染色体優性遺伝でquarter horseの50頭に1頭の割合で生まれるが、その遺伝子変異がすべてImpressiveに行き着くと言われている。いまはホモ接合体を種牡馬にすることは禁じられていて、ヘテロ接合体についても各団体が登録抹消するかを検討しているが、業界としてはこの遺伝子を残したくないもののあまりにも数が多いので対応はまちまちなようだ。ただImpressiveの遺伝子すべてが抹消されるわけではない、あくまでもSCN4A遺伝子変異がH/H、H/Nなものだけだ。



2016/05/27

ARNI and Ivabradine

 HFrEFの慢性期の治療薬といえばβブロッカー、ACEI/ARB、MRAだったが、2016 ACC/AHA/HFSA Focused Update on New Pharmacological Therapy for Heart FailureにClass of Recommendation I、Level of Evidence 2-R(randomized)でACE/ARBをARNIと代替するとadded benefitがある、またRecommendation IIa、Evidence 2-RでEF 35%以下でNYHA II-IIIで安定した洞調律 70/min以上の患者でguideline-directed evaluation and management(maximal β-blockadeを含む)を受けた患者にIvabradineを追加すると入院を減らすという追加事項が載った(DOI:10.1016/j.jacc.2016.05.011)。
 ARNIはangiotensin receptor-neprilysin inhibitorの略で、昨年PARADIGM-HFスタディがでた(当時は治験薬だったが今はsacbitril/valsartan、Entresto®という名前がある)。Neprilysinはかなり多彩な基質をもつ酵素でたとえばangiotensin IIも分解してしまうので、単独に阻害すると血管収縮など副作用が懸念された。それでまずACE/neprilysin inhibitorが開発されたが(omapatrilat、DOI:10.1002/ejhf.250)、血管浮腫が多くやめになった。
 PARADIGM-HFスタディはARNIとARBのhead-to-head trialではなく対照群のACEIに対しARBの用量が多かったのでneprilysin inhibitorによるadded benefitを証明できるか疑問に思ったが、すでに認可されている。50mg、100mg、200mg錠にsacbitril/valsartanが24/26、49/51、97/103mgの合剤でvalsartanはbioavailabilityがよいのでそれぞれ40、80、160mgに相当する。1日2回内服だ。eGFR 30ml/min/1.73m2以下はカナダはnot recommended、アメリカは50mg錠1日2回。75才以上の高齢者はカナダでは50mg錠から開始とある。
 Ivabradineはノーマークだったがペースメーカー細胞、とくに洞房結節のペーシングに関係のあるfチャネルを阻害する。Fチャネルはfunny channelの略で、膜電位が-50mVになると開いてNa+とK+の混合流入(funny current、If)による拡張期脱分極を起こす。このチャネルはvoltage-gated and cAMP-gatedな特徴があり、Hyperpolarization-activated Cyclic Nucleotide-gated channels family(HCN)に属する。Funny currentに似たIh(hyperpolarization-activated channel)がニューロンにもあり、ivabradine内服で網膜にあるIhチャネルを一部阻害しphosphene(眼閃、目を閉じていても光が見える)が約3%に起こる。
 最初心筋梗塞に対してBEAUTIFULスタディ(Lancet 2008 372 807)がされたがprimary endpointに有意差が出ず(サブ解析では効果も示されたが)、次に心不全に対してSHIFTスタディ(Lancet 2010 376 875)がでて適応が通った。ふたたび心筋梗塞に対してSIGNIFYスタディ(NEJM 2014 371 1091)が出たが有意差はなかった。心拍数にあわせて2.5mg、5mg、7.5mg 1日2回でtitrateするが、βブロッカーが最大はいった患者で洞房結節をいじるので除脈や房室ブロックなどに注意が必要だ。15ml/min/1.73m2以下の群はデータがないので慎重投与になっている。


2016/05/26

Internal K Balance

 以前に細胞外液中のカリウムは一日摂取量にも満たないと書いたが、細胞外液中のカリウムは身体のカリウムの2%にも満たないということは書かなかった。細胞内には約3300mEqのカリウムがある(JCI 1956 35 596 によれば50mEq/kg;Brenner'sによれば筋に約2500、肝に約250、赤血球に約250、骨に約300mEq)。これが巨大なバッファーになり(下図;Medicine Baltimore 1981 60 339)、血液K濃度が大きく変わらないように調節してくれる。




 細胞内の高K濃度はNa-K-ATPaseで維持されている。だが細胞内外のK移動にかかわる輸送体やチャネルはたくさんある(NKCC1、KCC1-4、voltage-sensitive and Ca2+-gated K channels、inwardly rectifying K channelsなど)。それらによって、インスリン・β2アゴニスト・β1/β2アゴニスト・アルカローシス・αブロッカーなどでKが細胞内にシフトしアシドーシス・高血糖・β2ブロッカー・β1/β2ブロッカー・αアゴニスト・高浸透圧・運動などでKが細胞外にシフトする。

 さて、慢性の低K血症ではKが下がり過ぎないように細胞内から細胞外にKがシフトし続け、相当なtotal body K deficitがあるとよく言われる。2mEq/lなら数百mEqの喪失があると聞いたことがあるが言い値というか根拠は聞いたことがなかった。Comprehensive Clinical NephrologyにはKが下がるごと指数的に上がるグラフが載っていて3mEq/lで約200mEq、2.5mEq/lで約350mEq/l、2mEq/lで約600mEq、1.5mEq/lで約1200mEq/lとなっているが典拠がない。

 で、調べて見つかったのは上図の論文。過去のスタディサンプルを全部プロットしたら100mEqのK喪失でK濃度が0.27mEq/lさがる(r = 0.893)という結果が得られた。細胞間シフトに影響を及ぼす因子はない状態と仮定して。アバウトに言うと、細胞内Kも枯渇している慢性低K血症においてはK濃度を1mEq/l上げるのに300-400mEq補充しなければならないことになる。ただこれは線形相関で上述のような指数相関ではないのと、グラフはK濃度2.0mEq/lまでしか伸びてない。


2016/05/25

SPRINT, HYVET, ACCORD and others

 高齢者の降圧目標はアドヒアランス、副作用やポリファーマシーを考慮して緩和されたが(JNC8は60才以上でnon-diabetic, non-CKDなら150/90mmHg以下とする)、十分な根拠がないという批判も多い。そんななかSPRINTスタディ被験者の約3割を占める75才以上(mean 79.9才)をサブ解析した結果が米国老年医学学会で発表されJAMAに載った(doi:10.1001/jama.2016.7050)。注意すべきは糖尿病、MDRD eGFR 20ml/min/1.73m2以下、たんぱく尿1g/d以上、脳梗塞の既往、認知症、ナーシングホーム入居などが除外基準に含まれていることだ。

 SPRINT(NEJM 2015 373 2103)はSBP目標140mmHgと120mmHgで心血管系イベント+死を比較したところすぐにintensive armに効果がみられて安全モニター委員会から介入を修正するよう指摘されたスタディだ。今回のサブ解析でも同様にprimary outcomeに差が見られた。Frailty(37-item frailty item)、gait disturbance(歩行試験)で層別化しても有意差は見られなかった。Mean SBPは141mmHgで、120mmHg目標群はmeanの降圧薬数が約3、140mmHg目標群は約2だった(ベースの数はSPRINT全体で1.8)。4種類以上内服しているのは120mmHg目標群の23%、140mmHg目標群の7%だった。

 どの降圧薬を使うかは医師に任せられたが、エビデンスを踏まえてキードラッグはthiazide(chlorthalidone)、ACEI、CCB(amlodipine)とされ、薬のtitrationはアルゴリズムに従って行われた。低血圧、ふらつき、AKI、電解質異常などは120mmHg目標群で高かったが有意差はなく、転倒は数字上120mmHg目標群で低かった(有意差なし)。両群でfrailtyが高いほど副作用は多かった。

 この結果はHYVET(NEJM 2008 358 1887)とも符合する。80才以上、SBP 160mmHg以上の患者(中国の被験者が約1000人参加している)にindapamide SR 1.5mg or placebo、それでも150/80mmHgに達しなければperindopril 2/4mg or placeboを投与して脳梗塞をprimary outcomeにした。結果、介入群(SBP 140-150mmHg)では脳梗塞だけでなく心不全など他の心血管系イベントも有意に低下した。除外基準にCr 1.7mg/dl以上、認知症、nursing careが必要などがある。糖尿病患者は6%しかいなかった。このコホートをfrailty indexで再分析したところ(BMC Medicine 2015 13 78)frailでも治療効果がみられたという。

 除外された糖尿病患者だが、降圧目標は別にある(ADA guidelines 2016は140/90mmHg以下、アルブミン尿などあるなどあれば130/80mmHg以下。高齢者は個別に考えるが薬で130/70mmHg以下にするのは有害なので避けるとある;エビデンスレベルC)。ACCORD BP(NEJM 2010 362 17、mean age 62.2、Cr 1.5mg/dl以上とたんぱく尿 1g/d以上、high CV risk患者を除外、SBP140mmHgとSBP120mmHgでunder−powered)、ADVANCE-BP(Lancet 2007 370 829、mean age 66、HYVETと同じ二薬で-5.6/-2.2mmHg降圧しただけで有意差がでた;達成した血圧は136/73mmHg、フォローアップのADVANCE-ON NEJM 2014 371 15 でも有意差は持続した)などがあるが、高齢者を対象にしたスタディもどこかにあるのだろう(認知症やnursing careを要する例は除外されているだろうが)。

 やはり多くが除外されたCKDについては、KDIGO guidelines 2012がnon-diabetic CKDで140/90mmHg以下、diabetic CKDとCKD with proteinuriaで130/80mmHg以下とが言っている。がエビデンスは薄い(AJKD 2016 67 417;21のレコメンデーションのうちエビデンスレベルAのものはない;多くはDないしungraded)。SPRINTはeGFR 20−59ml/min/1.73m2を含んでいる(サブ解析はJASN 2017 28 2812)がCKD群は28%で目標血圧に達せずスタディが早期に終わったので、この群についてあまり多くは言えない。MDRD、REIN-2(Lancet 2005 365 939)、AASK(JAMA 2002 288 2421、NEJM 2010 363 918)などはいずれも心血管系イベントについてunderpowered、ESRD進展にも有意差なし(doi:10.1053/j.ajkd.2016.02.045)。

 そしてもうひとつ除外された認知症、ADL依存の群についてはどうか。認知症といっても幅があるし、血管性痴呆の場合もあるだろうから降圧効果があるpopulationもいると思われるが、最初から除外されているのでなんとも言えない。調べると、nursing home residentsは降圧薬を飲んでも効果が薄く副作用が多いというsystematic review(JAMDA 2014 15 8)や、nursing home residentsで降圧治療を受けているSBP 130/70mmHg以下の群はコントロールに対して心血管系イベントと死亡率が高いという相関がみられた(JAMA Intern Med 2015 175 989)スタディがあった。今のところはこの群には降圧は薦められないのかもしれない。



2016/05/24

RRL

 泌尿器科のことも勉強しなければならないなと思う。珊瑚状結石などが腎盂腎杯に居座って慢性炎症が持続すると、二次性に腎洞や腎表面に脂肪が増生し、それがどんどん成長すると腎が押し広げられつつ萎縮し(上図、EURORAD Case 11934)、ついに脂肪に置き換えられて完全に消えてしまう(下図、Int J Surgery 2010 8 263)。これをrenal replacement lipomatosis(RRL)とかreplacement lipomatosis of kidney(RLK)とかいう(Indian J Nephrol 2010 20 92、Indian J Urol 2012 28 105)。知らなかった。



 原因は石関連がほとんどだが、まれに腎TBとの合併(Eur Radiol 2002 12 810)や移植腎との合併も報告がある(Transplantation 2005 79 496、Br J Radiol 2005 78 60、Case Report in Transplantation 2011 Article ID 161759)。腎実質内に脂肪増生が起こることもあり(xanthogranulomatous pyelonephritis、XGP)、これは尿路感染症によることが多いがRRLと共存したり(Int J Urol 2004 11 44)皮膚と瘻孔をつくったり(Clin Imag 2005 29 356)する。腫瘍との鑑別が難しく腎摘を要することも多い。
 腎洞の脂肪増生(renal sinus lipomatosis、RSL)じたいは加齢やステロイド使用などで両側におこるプロセスだが、腎を押し広げるほどのRRL/RLKはほぼ(ほぼほぼ?)100%片側性だ。両側性はIndian J Radiol Imaging 2002 12 251しかみつからなかった。
 慢性炎症がどうして脂肪増生になるのかはよくわかっていない。論文によっては腎の障害が脂肪増生を起こすというが根拠は書いてない。萎縮腎はいくらでもみるが脂肪増生を続発することは稀だ。やっぱり慢性炎症が脂肪増生を起こすのだろう。脂肪組織がTNF-αなど炎症サイトカインを出すことはあったと思うけど、逆は知らない。

2016/05/21

KA/EAA supplements

 Ketoanalogue/essenial amino acid(KA/EAA)サプリメントと超低たんぱく食の論文(doi: 10.1681/ASN.2015040369)は、ぽっとでたわけではない。SVLPD(supplemented very-low protein diet)は、何十年も前から窒素バランスを改善すると提唱され、MDRD-Bをはじめ数十のスタディがでている。最近レビューもでた(AJKD 2015 65 659)。それもこれも、CKD pandemicに対して少しでも進行を遅らせるにはどうしたらいいか世界中が考えているからだと思う。日本でも今年3月に腎臓学会が『生活習慣病からの新規透析導入患者の減少に向けた提言』を出した。

 日本でketoanalogueの大きなスタディが出たとは聞かない;ポスター抄録(日腎会誌 2001 43 3 295)が見つかったが、硫黄を含むので臭気があり、不味く、内服後に消化器症状がでるので頓挫したらしい。必須アミノ酸製剤はあるが、経口のアミユー®はほとんどみない(上記難点の他にアシドーシス増悪や高アンモニア血症などもあったと聞く;静注製剤はネオアミユー®とキドミン®の2つがあるが透析患者に用いられている)。

 かわりに日本で透析導入を遅らせるために認可されているのはAST-120(Kremezin®)だが、日本のCAP-KDスタディ(AJKD 2009 54 459)につづいて最近韓国でスタディされたのが発表され(doi: 10.2215/CJN.12011214、genericではなく韓国の財閥CJの健康部門と第一三共が本物のKremezin®で試したようだが)、36ヶ月のフォローアップでeGFR低下、primary end-points(Cr doubling、eGFR 50%上昇、RRT)、indoxyl sulfate濃度、QOL、all-cause mortality、hospitalizationいずれも有意差が出なかった(数字上よく見えてもrandomization x time pが0.6とか高い)。

 KA/EAAサプリメントは、タンパクを摂りたくないので仕方ないからできるだけ必須なものを最低限にしようというのと、ketoanalogueは必須アミノ酸を脱アミノ化したものなので、身体のなかでアミノ基を受け取り、その分アミノ基が尿路回路などにまわり尿毒素になるのを防ぐ。また4-methyl-2-oxovaleric acid(ketoleucine)はアミノ酸分解を防ぎ代謝をたんぱく同化に傾けると言われている。必須アミノ酸はわからないがケト酸はCa塩で存在するので、共役塩基としてH+を受け取りうる。またCa2+はリン吸着にも働く。トリプトファンはindoxyl sulfateに代謝されうるので入れないpreparationもあるし入れたのもある。

 CKDの進行を遅らせた、尿毒症を緩和した、透析を遅らせた、などのスタディが出ている。MDRD-BのフォローアップでKA/EAAサプリメント使用に死亡リスクがあるという結果が出たが、追試では否定されたらしい。冒頭で紹介した今年のスタディも、4期以上の非糖尿病CKDを対象にvegetarian very-low protein diet+KA/EAAサプリメント内服の群と0.6g/kg/dの群を比較しESRD/deathのイベントが有意に低かった。アドヒアランスは記載がないがサプリメントによる副作用はなかったとある。KA/EAAサプリメントを0.6−0.8g/kg/dの群に追加してもadded benefitがあるかもしれないが、まだ小さなスタディがあるくらいだ。

 そんなKA/EAAサプリメントは日本にないし、米国にもない。ドイツの透析メーカーFreseniusの子会社が作ったKetosteril®というのがある(写真、冒頭のスタディもこれを使っている;場所はルーマニア)が、ドイツで売られているかも確認できない。検索するとインド、タイ、ウクライナ、メキシコ、ブラジル、エジプトなどで売られているようだ。レビューの著者はその理由にMDRDの「失敗」の影響、protein malnutritionの心配などを挙げ、その後にこう書いている。

In many parts of the world, maintenance dialysis is readily available and, from the perspective of the physician, may be less time consuming and potentially more lucrative than dietary therapy. KA/EAA supplements may not be inexpensive, but they are less expensive than maintenance dialysis therapy. KA/ EAA-supplemented VLPDs appear to be used more widely in developing countries where patients with CKD may not have free access to dialysis treatments.

 透析になればたんぱく要求量は増える。透析したくて透析導入になる人はいないわけだが、かといって修行僧のような食事をしながら臭くて不味い(かどうか知らないがたぶん)薬を飲みつづけるのは飽食の先進国では大変なことだろう。でも尿毒症が進行しても透析が受けられないかもしれない環境なら話は別だ。本当に臭くてまずいのか。Ketosteril®は工夫しているのかもしれない。しかしまあ透析メーカーが透析の不十分な(認可もすぐ降りそうな)国でPlan Bとして売っているというのは複雑だ。効果があって副作用が少なく安いならいいのかもしれない。



2016/05/20

Protein Restriction

 さてMDRDといえばeGFRの式のことがまず出てくるが、じつはオリジナルのスタディはmodification of diet in renal disease、つまりたんぱく制限食がCKD進行に与える影響を調べたものだと教わった。Nitrogen-free ketoanalogueと超低たんぱく食の論文(doi: 10.1681/ASN.2015040369)についてお友達と話していた時のことだ。

 これほどインパクトを与えた論文を知らなかったのは奇妙だ、とくに主要著者の一人がフェロー時代の最高齢ボスだったのに(この先生はMinneapolisにあるUNOS officeで主に移植患者の臨床研究をしていると思っていた)。とにかくフェロー時代にタンパク制限のタの字もで聞かなかったのはなぜか。

 米国食生活でたんぱく制限することが無謀だからか(米国のたんぱく摂取量は90-100g/dといわれる)。Nurses' Health Studyを解析したスタディでMDRD eGFR 55-80ml/min/1.73m2の群はたんぱく、とくに動物たんぱくの摂取量に相関してeGFRが低下したことがわかっている(Ann Intern Med 2003 138 460)。ちなみに植物たんぱく摂取では有意差はなかったがeGFRが上がった。クレアチニンの原料を摂るか摂らないかの違いなだけな気もするが、KDIGOではこのスタディを高たんぱく摂取はCKD進行に相関という典拠に用いている。

 そのKDIGOガイドラインは、糖尿病・非糖尿病CKDでeGFRが30ml/min/1.73m2以下の患者に0.8g/kg/dのタンパク制限を栄養指導とともに行うことを推奨して(2B、2C)、最大のRCTとしてMDRD、それから2009年のCochraneメタアナリシス(DOI: 10.1002/14651858.CD001892.pub3、非糖尿病CKDにおいてたんぱく制限は非制限にくらべて腎死を低下させるが制限の程度は決めかねるという結論)を紹介している。0.8g/kg/dというのは、妊娠も授乳もしていない健康成人のたんぱく需要が0.6g/kg/dとされ、FAO(Food and Agriculture Organization of the United Nations)/WHOが33%の安全マージンをとって0.8としたのに習っているのかもしれない。

 MDRDの結果は一般にfailureと捉えられているが、その解釈は正しくないという弁明も出てるくらいだから(JASN 1999 10 2426)、一度は原著に目を通さなければならない。知られているから書くまでもないだろうがMDRDスタディはたんぱく制限と降圧のCKD進行、ESRD、死に及ぼす影響を調べたものだ。インスリン依存糖尿病患者は除外され、インスリン非依存糖尿病患者は全体の3%だった(25%が腎炎、20%がADPKD)。

 たんぱく制限はGFRが25〜55ml/min/1.73m2の群は1.3g/kg/dと0.58g/kg/d(MDRD-A;実際は約1.1g/kg/dと0.7g/kg/d)、13〜24ml/min/1.73m2の群は0.58g/kg/dと0.28g/kg/d(MDRD-B;実際は約0.7g/kg/dと0.4g/kg/d)で比較した。Bスタディの超低たんぱく群ではketoacid/amino acid supplementも用いられている(から約0.2g/kg/d分が加わる)。介入前のたんぱく摂取量は尿中窒素から計算してMDRD-Aで約1.1g/kg/d、Bで約0.9g/kg/dだった。

 MDRD-Aでは最初の4ヶ月は低たんぱく群のほうがGFRが下がってしまい、最終的に逆転するがいずれも有意差はなかった。ただしたんぱく尿1g/d以上(10g/d以上は除外されているが)群とAfrican AmericanではGFR低下を緩徐にする効果が認められた。また原著には載っていないが、延長フォローアップをすると(JASN 1994 5 336 Abstract)ESRD/deathのcummulative riskは低たんぱく群で低下している(RR 0.63、ただしp=0.056)。

 MDRD-Bでは総じて4ml/min/yearのGFR低下がみられ、38%が透析になったが、超低たんぱく群と低たんぱく群でESRD/deathのcumulative riskに有意差はなかった(グラフの見た目には差があるが、p=0.60)。また超低たんぱく群で-0.7ml/min/yearの効果があったが95%CIは+0.1から-1.8、p=0.07で有意差はなかった。ただ、A同様にたんぱく尿1g/d以上の群では有意差があった。

 B群も延長されて(AJKD 1999 27 652)、介入群間のdichotomousな評価ではなく全サンプルをたんぱく摂取量でグラフにするとたんぱく摂取量の減少はESRDに至る時間をのばし死亡を減少させた。ただしketoacid/amino acid supplement摂取群は非摂取群に比してイベントRRが1.86(CI 1.05-3.28)だった。

 ここまできて疑問なのは、糖・尿・病・C・K・DすなわちDKDにおけるタンパク制限の役割だ。ADAガイドライン 2016も0.8g/kg/d、それ以下はダメ、1.3g/kg/dではCKDが進行すると言っている(エビデンスレベルA;典拠なし、GFRの記載なし)。インスリン依存糖尿病性腎症を対象にした(〜0.6g/kg/d)小さなスタディでmixed resultsがでている(Lancet 1989 2 1411、NEJM 1991 324 78、J Clin Endocrinol Metab 1992 75 351)。大きな長期間スタディがない訳がないと思うが、意外と少ないらしい(Am J Clin Nutr 2013 98 266)。

 デンマークの1型患者を対象にしたスタディ(KI 2002 62 220)では0.6g/kg/dをprescribeされたが実際には0.89g/kg/dの群が、1.02g/kg/dの対照群と比して51Cr-EDTA clearanceの低下に差はなかった(両群とも3.8−9ml/min/yearとスタディ前に比して改善した)が、4年のフォローアップでESRD発症率が27% versus 10%だった(p=0.04)。たんぱく量にはほとんど差がないのにである。

 Blindされていない(栄養士さんも診察医師も一人で全員を診る)のも考慮しなければならないか。あと、アルブミン尿が2g/d以上の低たんぱく群患者には同量のたんぱくを補充したとある。現在は推奨されていない、ネフローゼであっても基本は0.8-1g/kg/dだと思うけど、protein energy wasting(PEW)予防のためにはたとえ腎障害が悪化しても補充すべきと言っている栄養界の人もいるみたいだ(Am J Clin Nutr 2013 97 6 1163)。PEWの観点からは、高齢者には1.5g/kg/dで異化を予防しよう(Clin Nutr 2008 27 675)とかいろんな意見があるらしいが検証はされていない。

 かと思うと、オーストラリアとNZのスタディ(Am J Clin Nutr 2013 98 494)では、珍しく2型患者(mean eGFR 90ml/min/1.73m2でアルブミン尿ある早期の群)を対象に、たんぱく90−120g/dと55−70g/dの群(実際は1.2g/kg/dと0.9g/kg/d)で比較しても12ヶ月のフォローアップで99mTc-DTPA GFR([125I] iothalamateと相関)、Cistatin C eGFR、MDRD eGFRに差はなく、24時間尿中アルブミンは低たんぱく群のほうが多かった。

 このスタディの食事は総カロリー(6000J/d = 約1400kcal、男性は7000J/dまで許容)と脂質の割合を一緒にしてたんぱく質が減った分(30%→20%)炭水化物を増やした(40%→50%)。高たんぱく群は9kg、低たんぱく群は6kg減量し(もとが100kgなためか有意差なし)、血糖コントロールに差はなく、血圧は高たんぱく群で低めだった(拡張期血圧にtime-by-treatment interactionな有意差;ふつうに高たんぱく食を摂ると塩分が多くなるが、減塩もきちんとおこなったのかもしれない)。

 古典的な糖尿病性腎症の発症機序として知られる残存糸球体の肥大は高たんぱくで増悪することが動物実験で60年前から知られている(Am J Physiol 1951 165 491)。それでたんぱく制限は自明に行われてきたが、早期糖尿病腎症でたんぱく摂取量と相関しないスタディもある。一方CKDが進行すればたんぱくに含まれる窒素、リン、有機酸、尿酸などが問題になるので制限は賢明と思われる(ただし、PEWや異化亢進には気をつけなければならないから難しいところだ)。結局0.8g/kg/dという世界共通・年齢・性別に関係のない推奨値がわからないまま使われているのか。



2016/05/19

Revelation

 知られているかもしれないが、Cockroft-Gault式のDr. Cockroftは腎臓内科医ではない。喘息を専門にする呼吸器内科医だ。それがなぜ最初のcreatinine clearance式を発見することになった(Nephron 1976 16 31)かというと、1972-73年にモントリオールでレジデントをしていた彼が、二人の同僚とある計画をしたからだ。それは、三人がそれぞれ別々の希望専門科に入り、選択期間に一緒に全員がそれらの科をまわるようにしようというものだ。それで彼は3ヶ月腎臓内科を選択することになり、2つのリサーチプロジェクトにとりかかった。一つ目のケースレポートは頓挫したが、二つ目が前年にDr. Sierback-Nielsenらが発表したクレアチニン・クリアランスノモグラム(Lancet 1971 1 1133)の検証だった。

 これは体重の目盛りを振った縦線と年齢の目盛り(性別でちがう)を振った縦線にプロットした二点を定規で結び、その斜線がRという縦線と交わる点とCrの目盛りを振った縦線のプロットを結んだ線を外挿してClearanceの線と交わった値を得るものだ。約500のサンプルを集め、ノモグラムに合わない点をプロットしたグラフを眺め続けていた。

 で、1973年2月の寒い土曜日の朝、回診を終えてDr. Gaultと一緒にグラフを見ている時ついに啓示に打たれて(140-年齢)x 体重(kg)/ 72 x Scr(mg/dl)を思いついたそうだ(Current Content 1992 48 8;human side of scienceについて重要論文の著者に1ページのコメントをもらうCitation Classicsに掲載)。ところでこのサンプルはすべて男性(Queen Mary's Veteran's Hospitalのサンプルだったと思われる)で、女性係数は(1976年の原本がないからわからないがおそらく)あとで付けられた。体重を入れているので発表から40年経った薬理学などでいまでも用いられている。

 その後CKDの評価にはMDRD(オリジナルスタディはNEJM 1994 330 877でGFRには[125I]iothalamateを用いているが、そのデータを用いてCrからの計算式を作ったのがAnn Int Med 1999 130 461)、これは本来6変数だったが簡便な年齢・性別・人種・Crの4変数の方がよく使われる。そのあとそれを叩き台にCKD-EPI(Cr、C-statin、combined)がでた(NEJM 2012 367 20)。日本は独自の人種係数をつかったMDRDを使っていた時期もあるがいまは独自の式を使っている。194 x Scr^-1.094 x age^-0.287(女性は x 0.739)。

 それにしても選択期間中のプロジェクトが歴史に残る結果になることもあるのだから、選択期間は大事だなと思う。まあ選択期間じゃなくても、胸水のLight criteriaも1968-69年にJohns HopkinsでインターンをしていたDr. Lightが延々と胸腔穿刺をしていた時期に「これ意味あんのか?」と疑問を感じ、当時測られ始めたLDHやガス分析などを使って小さなプロジェクトをしようと思いたって、病院から小さなグラントを取って調べたのが始まりなことはあまりにも有名だ。彼らが天才なのか、環境が良いのか、両方なのか、あるいは「ちょっとしたこと」なのか。



2016/05/18

AKI repair

 傷ついた心は完全に癒されるのだろうか。一生消えないという人もいれば、乗り越えたという人もいれば、乗り越えているつもりで乗り越えられていない人もいるのだろう。人の心はわからないものだが、傷ついた腎臓が完全に癒やされるかも私たちは知らない。Cr濃度がベースラインに戻った腎臓が、機能・構造ともにすっかり受傷前と同じかどうかはわからない。というか、同じではないと考えられている。

 AKIでCrが元に戻った人たちにもCKD発症のリスクがある。これは以前からいくつものスタディで言われていることだが、最近もVA病院の入院患者を対象にした論文(AJKD 2016 67 742)がでて、KDIGO stage 1 AKI(48時間以内のCr 0.3mg/dl上昇ないし7日間以内のCr 50%上昇)で1-2日のうちに回復した群であっても、小さいながらCKD進展のリスクはあった。

 AKI後の患者さんを、どう扱えばCKDへの進展が防げるのか。フェロー時代に、AKI後の患者を全員腎臓内科外来でフォローしていたら外来がパンクする、といわれた。実際USRDSの報告でもAKI後1年以内に腎臓内科医が診ているケースは20%以下だそうだ。ただ、彼らAKIサバイバーがCKDにならないために、腎臓内科医ができる特別な検査や治療が現在あるのだろうか。まだあまりないと思う。だから予防が大事で、個人的には以前に触れた術前のremote ischemic pre-conditioningは非侵襲的で簡便なのでもっと広まっていいと思う。

 というか、AKI後の患者さんは何がどう悪くてCKDになるのか。AKI後の修復が不完全だからCKDになりやすくなるのか。修復の程度を知る方法はあるのか。まだわからないことがたくさんあり、研究段階だ(JASN 2016 27 990、虚血後再灌流がもっともモデルにされている)からいろんなものが出ては消えていくかもしれない。尿バイオマーカーにはTIMPxIGFBP7、NaPiT2a(PTHの支配下にある近位尿細管のNa/Pi共輸送トランスポーター)、炎症の関与にTLR4、IL22、マクロファージM1 phenotype(M2は修復phenotype)、CD4+/CD8+ T cell、細胞サイクルに関する因子(Cdkやチェックポイントp21)、など。

 心が傷ついても愛することをやめないでとか、誰かがそばにいてくれたらそれだけでもちがうとか言われることもある。傷ついた腎臓はそれ自身にかなりの修復・再生能を持っているが、癒やしてくれる存在を導入しようというのがbone marrow-derived mesenchymal stem cells(MSCs)だ。これは幹細胞だがそれ自身が尿細管細胞になるのではなく、いろんな抗炎症・免疫制御・増殖促進のparacrine因子を出して腎臓を助けてくれる効果がすでに臨床ででも試されている(心臓手術前、cisplatin投与前など)。分化異常や発がんなどの安全性(塞栓症のリスクも知られている)や、骨髄由来でなくてもいいのかなど、まだいろいろ調べられている。


 

2016/05/17

Discarded Kidneys

 透析を受けながら移植のwaiting listにいるのと、移植を受けるのではどちらがsurvival benefitがあるか調べると、米国では移植を受けたほうがよい結果がでる。QOLはなおさらだ。もちろん感染症やがんを起こしたり、術創が治らなかったり、免疫抑制剤をきちんと飲まずに拒絶反応を起こしたり移植にもいろんなリスクがあるわけだが。

 それでも「腎代替療法は透析より移植を」というのは「ブラッドアクセスはカテーテルよりシャントを」というくらいnormになっているし、Medicare(CMS)の監査を受ける透析患者のカルテにも「移植について説明を行ったか、移植しないことにした理由は何か」を書く項目がある。

 そんなわけでESRD患者が増えてできるだけ移植リストに載るようになったが、じゃあ移植件数は増えているかというとほとんど増えていない。献腎移植が11万件/年程度で頭打ち、生体腎移植は5万件/年程度だが少しずつ減っている。それで待ち時間は長くなっている。OPO(organ procurement organization)が病院に駆けつけてよくやってくれるが、献腎をしてくれるのは1000人の死亡患者のうち数名、つまり1%以下だ(30-40代、男性、白人が多い;USRDSより)。

 だから献腎してくれる人を増やす努力が求められる(ひとつのやり方がopt-outで、「臓器提供したくない」と自分から言わないかぎりは全員同意したものとみなす;欧州の一部で採用されている)わけだが、なんと献腎されたグラフトが100%移植されているわけではない。17%が捨てられている(JASN 2016 27 973)。ポイである。

 これにはいろんな事情があるのだが、基本的にはできるだけ状態の腎を移植したいということだ。「腎臓があります」とコールを受けた移植外科医がOKかパスか判断する。

 即答するにあたっては、その腎がどんな状態かをスコアリングしたKDPIが一つの指標になる。実際、KDPIが高いほど捨てる率が高くなる(85以上で40%以上)。ただしKDPIはgraft failureとの相関が悪いことがわかっている(C-static 0.6)。迷った時には腎生検を依頼することもあるが、これは腎病理医でない病理医がすることも多くHE染色しかできず、時間のプレッシャーのなかで読まなければならない。Maryland Aggregate Pathology Indexが提唱されているが幅広くは使われていないし有用性も確立していない。

 移植外科医には、移植成績を守るプレッシャーがある。患者さんに対してもそうだし、なにより移植施設にとってだ。移植成績はcenter report cardに記載してOPTNに提出し、完全に公開されるうえに成績が悪いとペナルティが課される。だから高KDPI、DCD(心停止後の献腎;DGFが高い)、PHS infectious risk(IVドラッグユーザーなど感染リスクが高い疫学群;必ずしも診断されたわけではなく、HCVで32/10000移植腎、HIVはそれ以下)などは避けられる。

 避けたくなる理由にはそれぞれうなずける点もあるし、実際移植すべきでない腎もあると思う。ただ移植を待ちながら亡くなる患者さんの数がとても多い(毎年4%、高齢で糖尿病性腎症ならもっと高い)のが問題だ。高KDPIでも、DCDのgraft failure rateが高くても、HPS infectious diseaseのtransmission rateがゼロではなくても、それでも移植したほうがsurvival benefitがあるというスタディもでている。移植成績は移植をすればするほど高リスク患者と高リスク腎を扱うことになるので、成績と施設の質は必ずしも相関しない。この辺を考慮して対策しようと米国ではみんなで考えている。

 [参考]日本の腎移植待ち患者数は約12000人で、ここ20年変わっていない。献腎移植件数は約120件/年(生体腎移植は約1500件/年)。脳死腎移植は少しずつ増えているが、不思議なことにちょうどその分だけ心停止腎移植が減っているので献腎移植件数全体としてはほとんど変わっていない。平均待ち時間は13.8年だが、血液透析の長期予後自体がとてもよいので、survival benefitについては一概には言えない。




[2019年8月30日追記]献腎を移植するかどうかのジレンマとして、こんなめずらしいものが昨日付けのニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスンに載った(doi:10.1056/NEJMicm1902894、写真も)。




 なんと献腎には、腎動脈が5本あったのだ。マンチェスター大学の論文著者がいうように、腎動脈は胎生期に複数あるものが最終的には1本になる。2本あることは稀ではないが、3本以上となると極めて稀だ。

 こうした場合、移植の際には写真のように大動脈ごとレシピエントの大動脈につなぐが、本来この献腎を受け取るはずだった患者は9歳女児。サイズがマッチしない。そこで、この献腎はやむなく別の35歳男性に移植され、Cr 1.0mg/dl程度で機能している。いっぽう、女児は18ヵ月後に生体腎移植をうけ、Cr 0.9mg/dl程度で元気にしている。

 難しい判断だが、移植時の血管トラブルは腎臓はおろか命にかかわる。当時リストのトップであったであろう女児に献腎のセカンド・チャンスがこなかった理由は不明だが、生体腎移植もうまくいき、結果的にはこれでよかったのだろう。


2016/05/16

Podocytopathy Updates

 CD80(B7.1)が小児MCDで尿中に出て診断補助になるかもしれないという論文が出た時、CTLA-Ig(Abatacept、Belatacept)が治療に用いられるかもしれないと誰もが考えた。以後、CD80がMCDの足細胞に発現しているだけでなくFSGS、糖尿病性腎症でも足細胞に発現しているという発表がでて、CTLA-Igによりこれらのpodocytopathyと総称される疾患群が治療できるのではないかと期待された。

 2013年にRTX抵抗・血漿交換中の移植後FSGS4例とステロイド抵抗の原発性FSGSで足細胞にB7.1が発現しておりAbataceptで蛋白尿が減少し、その機序にはB7.1によるβ1-integrinの不安定化を阻害することが考えられた(NEJM 2013 369 2416)。しかし、B7.1発現の再現性がないという報告がたくさんでた。

 2014年には2型糖尿病性腎症の腎生検の半数以上でB7.1が染色され、染色の程度は糸球体病変の程度に相関し、in vitroで高糖濃度で培養された足細胞でPI3-kinase経路を介してB7.1が誘導され、CTLA-Igで阻害される細胞障害がみられた。しかしこれも再現性がないという報告がでた(JASN 2016 27 999)。

 FSGSも糖尿病性腎症も根治療法がない。原発性FSGSはずっとcirculating factorsの存在が示唆されておりsuPARが取り沙汰されたこともあったが動物実験でFSGSを起こすものの臨床試験ではinconsistentな結果が多く出ている。

 糖尿病性腎症は足細胞病として研究が進められているが、足細胞がどのように傷害されアポトーシスを起こすのかは解明されていない。健常マウスと糖尿病モデルマウスの糸球体における遺伝子mRNAパターンを比較した論文がでた(JASN 2016 27 1006)が、後者でレベルが落ちている遺伝子は、足細胞の数が減ったことで二次的にそうなっているらしいという。

 興味深いのは、その遺伝子変異がフィンランド型ネフローゼの原因となる足細胞のスリットを構成するNephrin(NPHS1;なおNPHS2はPodocin異常)が膵β細胞にもあり、細胞内ドメインがリン酸化されるとglucose-stimulated insulin release(GSIR)を起こす。インスリン遺伝子の転写メカニズムのひとつはインスリンによるIRA(insulin receptor A)刺激でmTOR経路の下流にあるp70S6Kを介して行われるが、NephrinによるGSIRがIRAと関係しているかなどは不明だ。

 最近の論文(JASN 2016 27 1029)でNephrin、IRA、IRB(insulin receptor B;glucokinase転写などを促進しβ細胞の機能維持を司る)をcotransfectさせたHEK細胞でNephrinはIRAではなくIRBと共発現していたが、IRA、IRBに依存せずにその下流にあるPI3K/Akt/mTOR経路を介してp70S6Kを活性化した。じゃあフィンランド型ネフローゼ患児は糖尿病になるかというとならない。でもOGTTをやると耐糖能異常がみられた(NPHS2ではみられなかった)。いまごろNephrinが壊れないような治療が研究されているかもしれない。


2016/05/15

Novel K binders

 新規K吸着剤にもっとも関係ありそうなトピックが腸管におけるK handlingだ。経口摂取したKは90-95%が吸収され、便中にはわずかしか残らない。小腸では受動的な吸収、近位大腸ではnon-gastric H+/K+-ATPase(HKα2)により再吸収、遠位大腸ではBKチャネルにより排泄される(Pflugers Arch 2010 459 645)。

 なおBKチャネルはαサブユニットの4量体だが、調整機能をもつβ2サブユニットがチャネル開放に関与しているかもしれない。またBKチャネルは腸管表面のenterocyteよりcrypt cellに多く分布しているらしい。BKを開くのは細胞内のcAMPで、またCFTRによるCl-の排泄ともリンクしてelectroneutralな輸送になっている。さておき腸管は無尿の透析患者さんでは腎以外のK排泄場所として相対的により重要になる(以前透析患者さんにRAA系阻害薬を使って高K血症になるかと質問されて、腸管K排泄と関係あると調べたことがあった)。

 で、Patiromerはこの遠位大腸で排泄されてくるKを吸着する(とスタディのbackgroundに書いてあった)。Keyexalateもやはり大腸で主にKに吸着するとある。遠位大腸で吸着することでK gradientが維持されて排泄が持続するのだろうか。

 リン吸着剤は毎回の食事と一緒に内服して食事に含まれるリンが吸収されないようにすると理解しているが、K吸着剤はどうなのだろう。Patiromerは治験では朝食と夕食時の1日2回だったが、現在収載された用量は1日1回食事と一緒にとある。ZS-9の治験(NEJM 2015 372 222)では最初の48時間は毎回の食事と一緒、3日目以降は維持期で朝食と一緒に1日一回だった。

 新規K吸着剤での問題は、Patiromerでは低Mg血症で、K+だけでなくMg2+も吸着してしまうのか、下痢するからなのか。ZS-9では報告がないが、unhydrated K+の直径は2.98Å、ZS-9のポアもそれとほぼ同じに作られているのでK+選択性が高いせいか(Ca、Mgの25倍;Plos One 2014 9 e114686)。ただしZS-9はNa+とH+の交換にK+を吸着するので10g/d群で浮腫がみられた。

 またPatiromerは他の薬を吸着してしまわないように6時間以上空けることとある。治験のときにRAA系阻害薬が6時間以上空けて内服されたのかは確認できなかった(そのままの量で内服したとある)。RAA系阻害薬も吸着されてK+がさがったという推理も可能だが、まあそういうことはスタディデザインの時にきっと考えてあることだろう。




2016/05/14

Kidney Klock and K

 NEJM 2015 373 60、JASN 2016 27、KI supplements 2016 6 7でfeatureされている二つ目は腎機能の概日リズムだ。この現象じたいは60年前から知られていた(Am J Physiol 1952 117 22)そうだが、電解質のなかでもっともこの影響を受けるのがKだという。そもそもKはECFに一日摂取分ほども含まれておらず(4mEq/l x 15l = 60mEq)、ささいな変化に影響を受けやすいのだろう。血中K濃度は昼に最も高く、合目的に(Kが上がり過ぎないように)尿中K排泄も昼に最も高く、おかげで血液K濃度の昼の値と夜のnadirとの差は0.5mEq/l程度におさえられている。ただし概日性変化、また経口補充による変化を考えると、スポットの尿K濃度を一日K排泄量に代用する信頼性は低いのかもしれない。

 ゆるやかに満ち干きするKの波をみていると、地球に生きているなあと感じる。概日リズムは中枢性(視交叉上核)と末梢性にコントロールされており、腎のこの現象も両者が関係していると考えられている。概日リズムの分子メカニズムに関わる遺伝子はBMAL、CLOCK、PER1-3、CRY1-2、Casein Kinase-1 Epsilonなどが知られている。しかし生物時計は1日25時間だと言われている。なんで違うんだろうと思うが、調べるとこれを調べた実験では被験者を完全な暗闇に入れずに、起きている時電灯を点け寝るとき消せるようにしていたらしい。それも完全に遮断すると、24時間11分±16秒で、これは性別年代にかかわらず一緒だったそうだ(Science 1999 284 2177、別の日本の研究では24時間10分だったとも)。

 それでも地球の自転周期より長い。その理由はわかっていない。昔の一日は長かったのかと思ったが、地球は潮汐摩擦で徐々に自転速度が遅くなってきているので、原始の一日はもっと短かかったそうだ。まあ実際は外からの昼夜の刺激をうけて調整できる(白夜や黒夜などは別だが)ので、完全に一致する生物時計をつくらなくてもいいということかもしれない。



2016/05/13

Feed-Forward

 新規経口K吸着剤Patiromer(Ca-K交換樹脂、昨年NEJMに論文がでた)が昨年10月にFDA認可され、今年の5月26日にはZS-9の認可レビューについてFDAから回答がでる。ZS-9はK選択性の高い多孔質ジルコニウムシリカで、Na+とH+の交換にK+を吸着する。それに合わせてPatiromerを開発したRelypsa社がKidney Internationalの別冊を一巻買ってK特集号を組んだのが届いた。

 じつはKホメオスタシスについての論文は昨年NEJMに出て(2015 373 60)、JASNにもonline firstで出ていた(2016 27 981)。とくにJASNとKI supplementsは、現状ではRAA系阻害薬が高K血症のために十分に使われていないため、新規K吸着剤をつかってその効果を発揮させよう;またKayxalateは有効性と安全性に疑問がある、というキャンペーンになっている。ここまでやれば、renal/medical communityも高K血症の新しい治療薬をよりembraceするかもしれない。

 さてキャンペーンはさておき、勉強になる内容としては、従来のRAA系と遠位ネフロンで説明されてきたメカニズム(ROMKチャネルがrenal outer medullary Kの略で、BKチャネルがbig conductanceの略だとはじめて知った)とは別の、最近わかってきたメカニズムのいくつかについて紹介されていた。一番featureされているのは名前がついていて、feed-forwardという。

 これは、K-rich dietや経口K loadの数十分後に腎からのK排泄が増加する現象で、これ自体は30年前からいまUC DavisにいるDr. Rabinowitz(NEJMレビューの著者でもある)がヒツジで実験し、それが血液K濃度、aldosterone、流量、尿Na、尿pHなどとは無関係で、「体循環に入る前のどこかでKをセンサーし腎のK排泄を起こす仕組みがあると思われる」と予想されていた(Am J Physiol 1988 254 R357)。

 その後この現象はヒトでも確認され、GI-renal kaliuretic signaling axisについてさまざまな研究が行われているが全貌はわかっていない。体循環に入る前ということは消化管か門脈系か肝臓ということで、たとえば門脈にKを注射しても同じことが起こる(岐阜大学のAm J Physiol Regul Integr Comp Physiol 2000 278 R1134、Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol 2004 286 R591)。

 で、splanchnicにKを感知してどうやって腎K排泄が起こるのか。そんな消化管ホルモンはいまのところみつかっていない。periarterial hepatic nervous plexusの活動が落ちることがわかっていて、迷走神経によるシグナルが脳に届いて脳から腎に作用が行くのかもしれないと想定されている。腎にシグナルが届いてどうやってK排泄がおこるかについては、kallikrein-kinin系の関与や、NCCの不活性化(脱リン酸化)が知られている。

 これは面白い現象だが、「だからK吸着剤を使おう」ということには直接はつながらない気もする。あと気づいたのは、KI supplementsでこの現象を解説した論文(KI suppl 2016 6 7)の図2と図3が、別著者の別論文(Semin Nephrol 2013 33 248)に掲載された図1と図2と酷似していることだ。KI supplementsには「筆頭著者のcourtesyによる」とあるから、筆頭著者の研究論文に初出しているのかもしれない。Semin Nephrolのほうは出典は書いてない。

 [2016年6月追記]ZS-9はFDAにリジェクトされ、ZS-9の会社株が下落してPatiromerの会社株が急上昇した。ただしリジェクトの理由は安全性ではないようで、製薬会社は手紙を読んですぐに手を打つとしている。











2016/05/12

Non-EPO ESAs

 血液透析患者さんのHgbターゲットはKDIGOで10−11g/dl、日本透析学会で10−12g/dl(保存期CKDでは11-13g/dl)だが、使える治療が鉄とESAなのは変わらない。ESAはrecombinant human EPO(糖鎖の違いでalpha、beta、delta)、糖鎖をたくさんつけて半減期を伸ばしたdarbepoietin、さらにペグをつけたCERA(cutaneous erythropoietin receptor activator;epoetin beta pegol)。

 Non-EPO ESAとしてはEPOと構造の違うepomimeticペプチドであるpegisenatideがEMERALDスタディで治験された(NEJM 2013 368 307)が販売は中止になったと認識している。他にはHIF stabilizerと抗hepcidin薬などが研究されており、HIF stabilizer(HIF proryl hydroxylaseがHIFを分解するのを阻害するdecoy receptor)については米国でPhase IIまでいっていたはずだが、その結果を最近知った。

 ひとつはもう名前がついていてRoxadustat(JASN 2016 27 1225)。経口で週3回内服し(半減期10−12時間で、間欠的にHIFを増やすようにしているらしい)、投与量は体重による(血液透析患者でHgbを維持するには1.5-2.0mg/kg)。非透析患者、透析導入患者、透析患者でスタディされており、Hgbを2g/dl程度上昇させ、透析患者群では19週の追跡でEPOと差がなかった(AJKD ahead of print、doi: 10.1053/j.ajkd.2015.12.020)。

 もう一つはGSK1278863で(JASN 2016 27 1234)、このスタディは用量決定のための4週間追跡調査だが、経口5mg/dで非透析患者のHgbを1g/dl程度あげ、透析患者でHgbをEPO群と同様に維持した。

 HIF stabilizerはEPO産生を活性化させるだけでなく鉄代謝を正常化する働きがあってhepcidinも減り、炎症反応が高くても低くても同様に効果を示すとされる(EPO抵抗性はHgbの値自体よりも心血管系イベントに相関する言われるので、HIF stabilizerの売りもここにある)。両者でFerritinがさがりトランスフェリチン、TIBCがあがった。Roxadustatでは非透析・透析群ともにhepcidinが下がり、GSK1278863ではHgbが増加した5mg/dの非透析群で下がった。Roxadustat用量はCRPと相関がみられなかった。

 副作用はRoxadustatでは高血圧で、薬剤に関係ないとはされたが心不全によるとみられる入院や死亡もあった。どのスタディも数十人を対象にしてフォローアップも短いのでこれからもっと見つかるかもしれない。

 懸念されるほかの副作用は悪性腫瘍(HIF系は細胞増殖シグナルも活性化する)だが、GSK1278863がVEGF濃度を測るとclear differenceはみられなかった(表の数字では明らかに5mg/d投与群で必要群にくらべて高くなっているが)。同様の懸念はDPP4阻害剤の時もあったが(あれはたしか膵癌)、データの蓄積を待っているところなようだ。

 抗hepcidin薬はESAとはいえないかもしれないが、Lexaptepid pegol(ドイツ製なのでSpiegelmer®)が研究されている。これはpegylated structured l-oligoribonucleotideで、hepcidinに結合して不活性化する(分解するわけではない)。いまのところ健常被験者にLPSを注射した炎症による貧血モデルで鉄利用障害を改善する(が炎症を悪化させることはない)ところまで示されている(Blood 2014 124 2618、Br J Pharmacol 2016 173 1580)。まだ遠い感じがするが著者はpromisingと言っている。

 糖尿病ではインスリン市場に食い込むようにGLP-1やDPP4阻害薬などのsecretogogueが開発され、腎性貧血も似た感じに見える。ただEPO類のESAはたしかに冷蔵保存したり注射だったり面倒だが、血液透析患者は自分で打つわけではないしそんなに不便ではないかもしれない。ただ前述のようにEPO抵抗性の改善や鉄代謝の改善などのメリットがhard endpointで出て安全性が確立すれば一気に促販されるかもしれない。

 [2016年6月追加]GSK1278863のPhase 2Aトライアル結果(AJKD 2016 67 861)がでた。非透析患者群70人で10mg、25mg、50mg、100mg/d、透析患者群37人で10mg、25mg/dとプラセボが比較された。50mg、100mg/dは副作用が多くHgb上昇も急激で離脱率が高かった。




2016/05/11

NOAC antidotes

 新規経口抗凝固薬には拮抗薬がないのは、いくら半減期が短いとはいえあんまりじゃないかと思っていた。実際に出血→AKI→薬剤蓄積→出血が何をやってもとまらない(から透析した)という事態を経験したことがある。
 でもArgatrobanの拮抗薬Idarucizumab(Digibind®のようなFab fragmentで、商品名もPraxbind®、Boehringer Ingelheim社)が試験を通って(NEJM 2015 373 511)2015年10月にFDAの承認を得ていた。2.5gram/50mlで2100ドルだが。Humanized murine antibodyなので過敏反応が起こりうるのと、抗凝固薬の拮抗薬なので塞栓リスクがあるのと、どういうわけか低K血症を起こす。また溶剤にsorbitolが入っているのでhereditary fructose intolerance(二糖類のfructose-1-PをglycelaldehydeとDAHPに切るaldolase Bの異常;通常は乳幼児までに発見されfructose、sucrose、sorbitolを含まない食事をすれば予後は良好)の患者には使えない。
 Factor Xa inhibitorsに対してはdecoy receptorのAndexanet Alfaが試験中(NEJM 2015 373 2413)だ。副作用は便秘・味覚異常・ほてりなどという。今年2月に、Portola社がBristol Myer Squibb・Pfizer社に1500万ドル払ってこの二社が日本で治験を行うライセンス契約を結んだ。新規経口抗凝固薬は日本で年間売上が8億ドルを超え、今後も増えていくとおもわれるので備えのためにも拮抗薬の認可が早晩おりるだろう。
 [2016年6月追加]最近は、NOACではなくDOAC(direct oral anticoagulant)という。カルテでNO-anticoagulationと誤解されるのでDO-anticoagulationとなったらしい。
 [2016年7月追加]ApixabanとVKAを比較したARISTOTLEコホートで腎機能の悪化とリスク・ベネフィットの関係を追跡したところ(doi:10.1001/jamacardio.2016.1170)、腎機能が悪化した群で塞栓・出血・死亡リスクは高まる傾向にあり、eGFR 25-50ml/min/1.73m2の群と50-80、または90ml/min/1.73m2の群でApixabanのほうが出血リスクが有意に低かった(CKD-EPI式;CG式のデータも同様の結果)。これらの群で抗塞栓効果は数字上Apixabanのほうがあったけれど有意差はぎりぎり出なかった。またCHESTがシステマティックレビューをしたが(doi: 10.1016/j.chest.2015.12.029)、不均一性が高すぎて微妙なのと、eCrCL 50-80ml/minを腎不全と言って良いのかわからない。





2016/05/10

Osteoporosis and CKD

 CKD、ESRDの骨粗鬆症はどうするんですか?と言われるとちょっと戸惑う。CKD、ESRDの骨病変はCKD-MBDのカテゴリー、osteitis fibrosa cystica、osteomalacia、adynamic bone disease、mixed renal bone diseaseなどの病気を考えて、骨粗鬆症は骨密度Tスコア−2.5以下を原因にかかわらず総称した症候群的なものだと思っていたからだ。

 KDIGOの2009年のCKD-MBDガイドラインでは、原則1−3期のCKDではCKD-MBDよりもpostmenopausalなど腎以外による骨粗鬆症がメインで治療もそれに準じてやればいいが、CKD4−5期になると疾患の中心はCKD-MBDになるのでTスコアが低くても骨粗鬆症というよりも「CKD-MBD with low bone mineral density」と考えるのがよいとある。

 CKD-MBDが骨折リスクに相関していることは間違いないが、基本的にpost-menopausal womenや高齢者をもとに作られたTスコアやFRAXは進行CKD患者には当てはまらない(underestimateになる)。だからガイドラインはこの患者層に対するルーチンの骨密度測定を推奨していない。

 とはいえ骨折リスクは高いわけで、どうするか。このトピックを掘り下げた論文があって(AJKD 2014 64 290)、ほんとうは骨ターンオーバーに関わる各種バイオマーカー、テトラサイクリンlabeling試験、骨生検などで疾患の種類によって治療するのがよいとある。ただ選択肢は限られている。

 Bisphosphonateは、経口は吸収率1%だが、うち50%が腎排泄で、蓄積して腎毒性を示したという報告は実はないが、静注は100%身体に入るので、とくにzolendronateは尿細管障害を起こす(私はcollapsing FSGSを起こすと習ったが)。それで経口でも静注でもeGFR 30-35ml/min(C-G式)以下に警告・禁忌がついている。有効性を示したデータが少ないということもある。

 ただしzolendronateの腎毒性は点滴速度などにもよるとされ、同様に静注のibandronateでは報告がなく、post hoc analysisでeGFR 15-30ml/min(やはりC-G式)患者においてalendronateとresidronateが骨折予防効果があったという報告があるそうだ。経口薬はFDAはavoid、日本は慎重投与だから使えないことはない。他の患者群と同様に長期投与でrare subtrochanteric fractureが起こるのに注意で、CKDではさらにadynamic bone diseaseに使うと逆効果だ。

 他の選択肢として注目されているのがRANKL阻害薬のdenosumab(高Ca血症の治療薬だと思っていた)。これは100% humanized monoclonal抗体(IgG2)なので網内系で分解され腎機能には関係ないはずである。ただし注意することが2つ、気になることが一つある。一つはこの薬がピタリと骨ターンオーバーを止めることである。だからやっぱりadynamic diseaseには使えない。もう一つは、どういうわけか進行CKDで重症で遷延する低Ca血症が報告されていることだ。

 厚生省のブルーシートによれば2012年4月から8月の間に(腎機能に関係なく)32件、うち死亡が2件。同じ年のAJKDにもカナダでの透析患者で低Ca血症(経口・静注・透析液からのCa補充とVitamin D補充でも20−30日遷延)が報告された(AJKD 2012 60 626)。ビタミンD濃度が載っていない(日本は25−OHは測れないし、カナダはルーチンでは測らないらしい)ので低ビタミンD血症があったかは不明だ。

 前掲のレビュー著者はビタミンDをしっかり事前に補充しておけば防げるかもしれないというが、あくまで楽観的な意見だ(その数段落後で「データが蓄積するまでは慎重に」と言い直している)。翌年にはオーストラリアからも報告があって(Am J Nephrol 2015 41 129)、ほとんどが透析患者だが保存期(4〜5期)、また移植後の患者もいたが、彼らの25−OH Vit D濃度はほとんどが正常だった(mean 69ng/ml)。

 気になることの一つは、RANKLと対になる骨ホルモンで血管石灰化に関連すると言われるOPGを上げることだ(OPGについてはレジデント時代に講演を聞いた覚えがある;あれから5年経って、OPGと動脈石灰化や心血管イベントとの相関にはmixed resultsがでているそうだが)。

 ついでにdenosumabは低リン血症、低Mg血症も起こし、これもよく経験する(添付文書によれば1%以上)。それから、この薬とセットで内服するデノタス(デノ足す)®はおそらく日本の処方箋でだせる唯一の天然型ビタミンD(cholecalciferol)だ。これを期にあまり腎臓内科に関係ない人は気を止めないリンやMgに注意が払われ、25−OHビタミンDが注目されあわよくば測定したり処方できるようになればいいなと思う。

 [2016年6月追加]25-OHビタミンDにはD2(ergocalciferol)とD3(cholecalciferol)がある。前者はしいたけなどに含まれ植物性、後者は魚油や肝油にふくまれ動物性と呼んだりする。工業的にD2は酵母由来のergosterolを、D3はウールに覆われた動物の皮脂腺からでるlanolinという蝋からとれる7-dehydrocholesterolをUVB照射して作る(なお動物が毛づくろいするのは皮脂に含まれるビタミンDを口から摂るためと言われる)。どちらもサプリメントになっているが、アメリカでも処方薬になっているのはD2だけだ(とNEJM 2007 357 266は言うがUpToDate®にはOTCと書いてある)。

 しかし最近、D3が肝臓で25位を水酸化されたcaicifediol(検査で測る25OH Vitamin Dと一緒)の徐放剤、Rayaldee®がCKD3-4期の二次性副甲状腺機能亢進症をともなうビタミンD欠乏症の治療薬としてFDAに認可された。社長は「CKDにおけるいままでのVitamin D補充療法はFDA認可されていないし安全性も効果も確認されていない」というが、たしかにKDIGOガイドラインに補充レジメンは書いてあるがFDA的にはoff-labelなうえD3は市販薬だ。