抗てんかん薬のtopiramateが代謝性アシドーシスを起こすという話になった(Br J Clin Pharmacol 2009, 68, 655-661)。抗けいれん薬はphenytoin、valproic acid、carbamazepineなど以外は疎遠で機序などもよく知らないが、せめて腎臓内科に関する重要な副作用くらいは知っておかねばならない。
論文によれば、topiramateの服用によりmixed RTA(近位と遠位両方の特徴をもったRTA)が見られるという。たとえば尿中HCO3-排泄が見られるところは近位RTAと同じだが、尿pHが高まり(H+排泄が低下)尿アニオンギャップが正の値をとる(NH4+が低下)のは遠位RTAと同じだ。
このようなMixed RTAはcarbonic anhydrase(CA)が阻害される時に見られるらしい。例として常染色体劣性遺伝の骨粗鬆症(marble bone disease)があげられる。そこでtopiramateについても調べてみると、腎に発現しているCA type II、IV、XII、すべてが阻害されることが分かった。
それでtopiramateはmixed RTAを起こすわけだが、その副産物として尿管結石ができやすい。これはRTAでクエン酸排泄が低下する(クエン酸は尿管結石が出来ないようにするための重要なbuffer)ためだ。RTA、いつまでたっても理解が難しい。各部位の尿細管の機能、そして各部位の相互作用を理解していますか?ということだ。
[2013年2月追加]実際にtopiramateを内服する患者のデータを見ると、尿pHが高く(遠位RTA)、FE-bicarbが高く(近位RTA)、尿クエン酸が低かった(AJKD 2006 48 555)。
クマさんがおしっこしないで冬眠できるのも、じん臓が一日に体液の何十倍もろ過してから不要なものを残して再吸収するのも、じん臓の替わりをしてくれる治療があるのも、すごいことです。でも一番のキセキは、こうして腎臓内科をつうじてみなさまとお会いできたこと。その感謝の気持ちをもって、日々の学びを共有できればと思います。投稿・追記など、Xアカウント(@Kiseki_jinzo)でもアナウンスしています。
2011/11/23
元ネタ
先々月にスタッフから教わったrenin-angiotensin-aldosterone-principal cells-ENaCという流れに沿った高K血症の説明は、NEJMの有名な論文に依拠したものであることが分かった(NEJM 2004, 351, 585-92)。このスタッフは私に、毎日毎日少しずつ論文を読む積み重ねがモノを言うとアドバイスしてくれた人だから、それを有言実行しているのだなあと感心した。「ハハァ、これが元ネタか」という嬉しさもあるが。
[2019年2月追加]図は、これです。
分かりやすく表にすると、
[2019年2月追加]図は、これです。
分かりやすく表にすると、
2011/11/11
慢性鉛中毒
最近は教科書に書いていない経験的な診療のpearlsを学ぶことと、またスタッフとしてどの様にレジデントと接し教育するかという観点から学ぶことが主だ。だから「この論文にこう書いてある」というような勉強は相対的に少ないが、そのうちの一つを紹介する。
ひとつは高血圧、腎不全、高尿酸血症をみたら(適切な症例で)慢性鉛中毒を疑えという事。といっても高血圧と腎不全と高尿酸血症を持つ人はとてもたくさんいるから、鉛曝露をうたがう病歴(弾丸が身体に入っている、弾丸を自分で作る、鉛ペンキ、古い水道管、有鉛ガソリン、バッテリー工場勤務など)、腎外症状(消化器、貧血、神経症状など)がヒントになる。
慢性鉛中毒が腎障害をおこす機序はよく分かっていない(Am J Med Sci 2004 327 341)が、直接尿細管障害を起こし線維化や炎症を惹起すると考えられている。高血圧や高尿酸血症を介して間接的に腎障害をおこしているかもしれない。
さて疑ったらどんな検査をするか。血中鉛濃度は急性中毒には有効だが、鉛は血中からすぐに骨や組織に移り蓄積されるので慢性中毒の診断には有用でない。free erythrocyte protoporphyrinも、過去90日以内の曝露を調べるには有効だがlifetime body burdenを計ることはできない。それでEDTA lead mobilization testというのが行われる。
このテストはchelating agentを投与し、骨や組織からmobilizeされて尿中に排泄される鉛を測定するものだ。EDTAは1g静注と2g筋注、尿中鉛の測定は24時間蓄尿と72時間蓄尿などさまざまなやりかたがある。いまのボスによれば、EDTA1g静注後に24時間蓄尿したので十分らしい(筋中は痛く、最初の24時間で90%程度のmobilizable leadが排泄される)。
さて鉛のbody burdenが見つかったらどうするか。元来600mcg/72-hr urineが腎不全を起こすのに必要なburdenと言われていたが、80-600mcgでも腎不全を起こしているかもしれないという論文もある(NEJM 2003 348 277)。Chelationが全ての鉛中毒で行われるべきと言い切るevidenceはないが、この論文は、chelation therapy(1g EDTA/week)で鉛burdenが80-600mcg/72-hr urineの腎不全患者群のGFRが改善した(placeboでは悪化した)ことを示した。
ひとつは高血圧、腎不全、高尿酸血症をみたら(適切な症例で)慢性鉛中毒を疑えという事。といっても高血圧と腎不全と高尿酸血症を持つ人はとてもたくさんいるから、鉛曝露をうたがう病歴(弾丸が身体に入っている、弾丸を自分で作る、鉛ペンキ、古い水道管、有鉛ガソリン、バッテリー工場勤務など)、腎外症状(消化器、貧血、神経症状など)がヒントになる。
慢性鉛中毒が腎障害をおこす機序はよく分かっていない(Am J Med Sci 2004 327 341)が、直接尿細管障害を起こし線維化や炎症を惹起すると考えられている。高血圧や高尿酸血症を介して間接的に腎障害をおこしているかもしれない。
さて疑ったらどんな検査をするか。血中鉛濃度は急性中毒には有効だが、鉛は血中からすぐに骨や組織に移り蓄積されるので慢性中毒の診断には有用でない。free erythrocyte protoporphyrinも、過去90日以内の曝露を調べるには有効だがlifetime body burdenを計ることはできない。それでEDTA lead mobilization testというのが行われる。
このテストはchelating agentを投与し、骨や組織からmobilizeされて尿中に排泄される鉛を測定するものだ。EDTAは1g静注と2g筋注、尿中鉛の測定は24時間蓄尿と72時間蓄尿などさまざまなやりかたがある。いまのボスによれば、EDTA1g静注後に24時間蓄尿したので十分らしい(筋中は痛く、最初の24時間で90%程度のmobilizable leadが排泄される)。
さて鉛のbody burdenが見つかったらどうするか。元来600mcg/72-hr urineが腎不全を起こすのに必要なburdenと言われていたが、80-600mcgでも腎不全を起こしているかもしれないという論文もある(NEJM 2003 348 277)。Chelationが全ての鉛中毒で行われるべきと言い切るevidenceはないが、この論文は、chelation therapy(1g EDTA/week)で鉛burdenが80-600mcg/72-hr urineの腎不全患者群のGFRが改善した(placeboでは悪化した)ことを示した。
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