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2020/06/10

代謝異常(主に肥満・糖尿病・副甲状腺)と腎移植

今日は腎移植での代謝異常について触れていこうと思う。この代謝異常の管理・認識こそが腎臓内科医が移植医療に介入する意義だと個人的には考える。
代謝異常と言っても様々なものがあるが、①肥満、②副甲状腺機能、③糖尿病に絞ってみていこうと思う。

そして、それぞれの代謝異常を移植前、移植周術期、移植後という違う局面で見てみる。

・移植前
 ①肥満:肥満があることで腎移植患者にとっては様々な悪影響をもたらす(Cardiol Rev 2019)。心血管疾患、CKD、高脂血漿、うつ病、糖尿病、逆流性食道炎、痛風、肝疾患、結石、悪性腫瘍(乳がん、大腸、胆嚢、腎、肝臓、肺、膵臓など)との関連が言われている。
本邦でも、生体腎移植のドナー条件としてBMI 30以下がドナーガイドラインでは推奨されている(マージナルドナーでは、32以下)。レシピエントに関しては、明確な基準は本邦ではないが、systematic reviewでもBMI 30以下が推奨されている。

移植前は、レシピエント・ドナーともに、まずこの目標に達してもらうためにダイエットをしていただくことになる(肥満手術治療も有用であることが言われている(後述))。

 ②副甲状腺機能:移植前のPTH増加は加療する必要性がある。これは腎移植後の副甲状腺機能亢進症の重大なリスクになるためである。移植後副甲状腺機能亢進症は移植後の骨粗鬆症やグラフトに対してのリスクとなりうる。移植前に副甲状腺摘出術を行うことは移植後の骨密度の改善に寄与することは示されている(AJT2014)後ろ向き研究で移植前に正常の6倍以上のPTHレベルの場合には移植後の腎臓廃絶と関連することが示されている(Surgery 2017)。

移植前にPTHコントロールが悪い場合には副甲状腺摘出術も含め積極的に考慮することが重要である。

 ③糖尿病:糖尿病は、心血管リスク増加、生存率低下や移植腎廃絶との関連性が示唆されている(KI rep 2017)。
耐糖能異常者における生体腎移植のドナー条件では糖尿病がないこと(早朝空腹時血糖126mg/dl以下でHbA1c 6.2%以下。迷うときはOGTTを行う)をドナーガイドラインでは推奨している。マージナルドナーとしては経口糖尿病治療薬でHbA1c 6.5%以下で良好に管理されているもの(インスリン治療は適応外)である。

何にせよ生体腎移植前にドナーは糖尿病をもっていないことが望ましい。また、レシピエントも良好なコントロールをすることが必要である。

ただ、移植後に糖尿病になることがある(以前のNODATの記事参照、移植後1年で7-30%)。NODATのリスクとしては研究から7個挙げられている(Diabetes care 2011)(年齢、ステロイド治療、高尿酸血症に対する処方、BMI、空腹時血糖、中性脂肪、2型糖尿病の家族歴)。その他の因子としては人種、C型肝炎、シクロスポリンよりタクロリムスを使用している場合が挙げられる(JASN 2006)


・移植周術期
 ①肥満:これは最近のSystematic reviewでBMI>30で急性拒絶、患者死、graft loss、移植腎機能低下のリスクが高くなることが示されている(Exp Clin Transplant2016)また、創傷治癒低下が肥満患者で40%以上が経験する。意外にもステロイド使用は移植後の体重増加との関連はないとされている(Transplant proc 2014)ただ、肥満であっても移植をしたほうが透析をしているよりも予後は良いことがわかっている。

 ③糖尿病:観察研究ではあるが、非糖尿病患者であっても術中高血糖が感染・有害事象・再手術・死亡率の上昇に寄与することが示されている(Ann Surg2013)。また、移植後早期の高血糖は感染と拒絶リスクを上げることがしめされている(Transplantation 2001)。
NODATの予防に有効な薬物療法としてはインスリンである(JASN2012)。これは個人的に知らなかったので驚いた。メトホルミンやSU剤などの有効性に比べ、基礎・追加インスリン治療(速攻型と持効型を用いたもの)のほうがβ細胞の保護やさらなるダメージ防止の観点で有効性が高い。

・移植後
 ①肥満:体重増加は移植後に多く起こるため、肥満は移植後に最も多く直面する代謝異常である(CKJ 2017)。肥満に対しては、体重コントロールのアドバイスよりも肥満手術の方が移植後や末期腎不全の症例に対しても有用性の高さが示されている。これは移植前のBMIのゴールを達成するのにも有用である(Journal of gastric surgery 2019)。肥満は交感神経の活性化・RAA系の変化を起こしうる(Exp Ther Med 2016)。移植後の肥満管理は重要である。

 ②副甲状腺機能:PTH上昇は血管抵抗の構造的変化や血管拡張障害を起こす(EJE 2017)。
二次性副甲状腺機能亢進症はCKD患者で起こり、移植後で66%の患者で持続する。移植後にPTHが正常化することは骨、移植腎機能や死亡率の点でも重要である(Transplantation 2015)。
PTHは下記に示すように腎臓、骨や消化管でのカルシウム・リンのバランス維持に寄与している。

シナカルセルト(レグパラ)は移植後の副甲状腺機能亢進症に対して最もデータがある。しかし、本邦では純粋な保険適応はないのが現状ではある。副甲状腺摘出術に関しては、ある論文では副甲状腺摘出術を行っても移植腎にとってのメリットは少なく、逆に手術をすることで腎機能が軽度悪化したと報告している。RCTで副甲状腺摘出術とシナカルセルトによる薬物治療を比較したものがJASN 2015にあり、これでは副甲状腺摘出術を行った場合の方がカルシウムやPTH濃度のコントロールが容易であり、骨密度の改善もあったが、長期の有用性に関しては定かではない。
副甲状腺機能亢進症があることは移植後にとって良くない結果をもたらすため、移植前にしっかりと対処しておくことが非常に重要である。移植後の管理に関しては、明確なものがないが、シナカルセルトが使用できる状況であれば使用しての管理が適切なのかもしれない。


 ③糖尿病:糖尿病は動脈硬化を促進し、動脈の弾性を低下させる(NEJM 2003)。死亡、移植腎機能、急性拒絶反応との関連性が示唆されている(CJASN 2008)。
移植後DM治療でSGLT2阻害薬は心血管系合併症や微小血管合併症の店でも有用な治療の選択肢となりうる。しかし、懸念されるのは使用に伴う尿路感染ではあるが小さな研究にはなるが移植後1年経過した患者49人にでSGLT2阻害薬を使用したところ、1名だけが尿路感染による敗血症で中止している(Diabetes care 2019)。なので、SGLT2阻害薬は移植後1年を経過し腎機能が安定した症例には考慮していい選択肢の可能性がある。
DPP4阻害薬に関しては低血糖リスクを避けつつ糖尿病管理をするというメリットがある。シタグリプチン(ジャヌビア)は腎移植患者の空腹時血統改善効果が示されているが、腎機能に応じての容量調整が必要になる。その点でリナグリプチン(トラゼンタ)は腎機能に応じての容量調整が必要がないという点で有用である。また、GLP-1阻害薬はインスリン抵抗性の改善と体重減少の点で有用な手段である。
免疫抑制剤は移植後高血糖との関連性が示唆されていて、ステロイドとタクロリムスが代表であり容量依存性である。タクロリムスをシクロスポリンに変更することで高血糖を避けることができる可能性はあるが、拒絶リスクが上昇するためここの症例で吟味が必要である。


腎移植の代謝異常は腎臓内科医にとって重要な部分であるし、ここに注目をして管理をしていく必要性がある。
でも、移植って本当に奥が深いし、その分しっかりと基礎的な知識をつけていかなくてはならないなと実感する。


2020/05/15

3つの腎臓

 先週のニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスンに載った「3つの腎臓(NEJM 2020 382 1843)」には、驚かれた方も多いだろう。


出典はこちら


 低位の左腎は右腎と癒合しているが、それぞれの腎臓は独立した尿管をもち膀胱に接続している(明記はされていないが、おそらく腎動脈・静脈も独立しているのだろう)。このような多数腎(supernumerary kidneys)の存在は以前から知られていた(下図はJ Anat Physiol 1911 45 117)が、極めて稀で、報告例は100未満ともいう。


出典はこちら


 機序は不明だが、尿管芽や周囲の間葉細胞の分離や移動の異常ではないかと推察されている(Clin Nucl Med 1999 24 264)。四つ葉のクローバーも、踏まれるなどで原基が分裂し4個になることが主因という(こちらも参照)が、当たらずとも遠からずといったところだろうか。




 では、上記患者さんは、四つ葉のクローバーを見つけた人のように幸運なのだろうか?まずリスクについては、結石や感染が心配されるものの、大抵は無症候性だ(上記NEJM症例も、これと無関係な腰痛の精査で偶然見つかった)。

 一方の腎機能であるが、ネフロン数が1個分多いという報告は見つからなかった(レノグラムで各腎臓ごとの腎機能割合を測ったものはあるが)。上記NEJM症例はブラジルの38歳男性で、Crは0.9mg/dlとある。人種や体格にもよるがeGFRは100-120ml/min/1.73m2と、そこまで高くはないようだ。

 また、極めて稀なこともあり、多数腎の一つを移植したという報告も見つからなかった。いつかは、摘出しやすく機能に問題ない多数腎グラフトの移植が報告されることも、あるかもしれない(写真は、1人の「利他的ドナー」からドミノ式に始まった腎移植のドナーとレシピエント60人;こちらも参照)。



出典はこちら



2020/04/07

少し時代に乗って~COVID-19と腎臓 Part3~

日本でもCOVID-19による影響が大きくなっている。
この記事を半年後に読んだ時にこんな大変な時があったねと振り返ることができるように僕らもがんばっていかなくてはならない。

今日は腎移植とCOVID-19について記載していこうと思う。

まずは日本の腎移植においては腎移植学会から提言が出ている。
1. 腎移植は待機可能であることより、生体、脳死、心停止の腎移植は状況が好転するまで停止することが望ましい。
2. 待機困難な例(脱感作処置などが進行中、代替療法が困難、緊急例等)については、可及的にドナー、レシピエントに感染のないことを確認し、かつ感染のリスクを説明したうえで実施する。
 3. 外来移植患者、入院移植患者の感染予防、治療については、各施設でのマニュアルに沿って実施する。 

※腎移植の実施決定は、施設の状況、患者の状況を考慮し、各施設の責任で行う。

日本では施設の判断にもよるが、現状としては移植治療をストップしている施設が多い。


では、ここからは海外のを参考にしながら、少し移植とCOVID-19を前回と同じように質問形式で診ていこうと思う。

COVID-19の症状としては、
・発熱、咳、息切れ、インフルエンザ様症状(筋肉痛、倦怠感など)、嘔気・下痢・腹痛、嗅覚や味覚の障害
などがある。
移植患者では肺炎に移行しやすいと言われている。


Q:移植患者はウイルス感染のリスクが高いのか?

A:これに関しては、はっきりとしたところまでは分かっていないが、答えはYESである。

まず、健常人と比較して移植患者がCOVID-19感染において重症化するということは証明はされていない。しかし、他ウイルスでは免疫系が低くなっている移植患者では重症化しやすいことが分かっており、おそらくCOVID-19も同様と考えられる。


Q:旅行制限は移植患者では必要か?

A:現在、世界各国でウイルスのPandemicが生じている。なので、基本的には推奨はされない。
もしも行く場合にはCDCのWebsiteから行く場所のCOVID-19の感染がある状況かを確認する必要がある。
基本的にはヘルスメンテナンスを行い、不要不急の旅行を避け、人混みを避けることは非常に重要である。


Q:COVID-19の治療は?

A:これに関しては、以前に記事にした内容を参考にしていただきたい。
その中で移植患者に投与する際に気をつけなくてはいけないことは、
・薬物の相互作用に注意を払う必要がある。HIVの治療薬であるIopinavir/ritonavirに関しては、CYP34Aを阻害することによってカルシニューリン阻害薬やmTOR阻害薬の血中濃度を上昇させうる(下表を参考にしていただきたい)。
・ARBやACE-Iの継続はCOVID-19感染にとって有害であるとも言われているが、現状としてははっきりはしていなく継続は問題ないと考えられている。
・感染のリスクが高い症例では、拒絶のリスクが低ければ、免疫抑制剤の量を減量することが推奨されている。



Q:もし、移植患者が風邪様の症状や呼吸器症状を有する場合のアプローチは?

A:まずは、かかっている移植外来に電話をする。そして、診察が必要な状況であればしっかりとマスクをしてもらって診察を行う。もし、息切れなどの重篤な症状があれば救急車などを呼ぶ(ただ、東京都では救急車での受け入れはかなり制限されている。)。
下記は患者さんがCOVID-19であった場合のフローになる。
・MMFの中止、カルシニューリン阻害薬の減量、高用量ステロイドやステロイド増量の非推奨に関しては移植領域に特筆するべき内容である。



Q:定期外来の移植候補者や移植後の患者に対してのアプローチは?

A:COVID-19の感染と腎臓移植の緊急性を天秤にかけて考える必要がある。移植を延期することで先行的腎移植(PEKT)を希望している人は、叶わなくなってしまうかもしれないが、生体腎移植や緊急性が低い献腎移植は一時的に中止することが推奨されている。
移植後の患者に対しても、基本的には来院に伴う感染リスクを上げてしまうことが考えられるため遠隔診療や状態が安定している人であれば、来院間隔を伸ばすことは推奨される。

Q:もし献腎移植待機患者で、優先順位も高い人がCOVID-19にかかっていたらどうするか?

A:現段階では、COVID-19感染患者が安全に移植ができるかということは分かっていないが、おそらくは良くない結果になることが予想される。
ウイルスの排出期間は正確には分かっていないが、LANCETの報告によると20日間くらいとされている(8-37日)。またPCR検査が少なくとも2回陰性になることが推奨される。

他にも書きたい項目はあるが、またの機会でにしたいと思う。

いちばん大切なのは、これを読んでいただいている医療従事者が感染にかからないことである。
しっかり睡眠をとって、休めるときは休んで日々の診療に取り組もう。決して終わらない戦いはないので、みんなで乗り越えていこう。みんなでキセキを!


2020/02/21

移植後にMMFの血中濃度気にしていますか?

腎移植後の免疫抑制剤のときの血中濃度について腎臓内科医が考えることとして、

1:タクロリムスの血中濃度の定期的な測定は重要であり必要である。

2:Mycophenolate mofetil(MMF)の血中濃度は測定する必要性は低い

と考える場面が多いと言われていた。
実際、私も今まではこのように考えて診療をおこなってきた。ただ、違う施設にきてから2の血中濃度をしっかり測定していること(タクロリムスはトラフ濃度、MMFはAUC濃度)に非常に関心をして、今回の記事を書いてみようと思った。

今回の記事に関してはTransplantation 2019の論文が非常にまとまっており、この論文を中心に記載をしようと思う。

まず、薬物の話でありPKとPDを簡単に復習をしよう。
・PK(PharmacoKinetics):
投与された薬物がどのように吸収され、組織に分布し、代謝され排泄されるのかを解析している。

AUC24h:血中濃度時間曲線下面積:体内に取り込まれた薬の量を示す指標
Cmax:最高血中濃度


・PD(Pharmacodynamics):
薬物の作用部位における薬物濃度と薬物効果をみている。


MMFに関しては、当初は固定量をしっかりと投与(Fix dose)すればいいと考えられていたが、PKの点において、個体差がかなり大きいことが分かってきた。人によって10倍の差があると報告もされている。
なので、MMFに関してはTDM(Therapeutic drug monitoring)を行うことが良いとされている。とくにAUC 0-12h がいいのではと言われている。

では、一般的な薬において、固定量を投与したほうが良いか?AUCを測定し投与量を決定したほうが良いかに関しては、下記の図を見るとわかりやすい。


この図では、DrugA~Cは固定量、DrugDではAUC測定し量を決定が推奨されている。

理由としては、DrugDは非常にばらつきがある(投与量によっていい効果にもなりうるし、効果がなかったり毒性などの悪い効果もでる。)
→なので、DrugDなどは、TDMを測定しAUCなどを見る意義がある。

DrugA~Cは固定量でもいい(ただ、DrugBは量を多めにする必要があるし、Cは少なめにする必要がある)

このようにばらつきが多いものはTDMを行う必要性が有る。

前置きが長くなってしまったが、今回の論文は
1 MMFを投与することとAUC 0-12h の関連性
2 MMFを投与し、AUC 0-12h を行うことでの毒性の減少に寄与するかを検証している。

この2つに関して、過去の研究を検証している。



結論から書くと、
MMFのAUC 0-12h は薬剤効果を知る上で、投与量よりも有用なマーカーになりうる。ただ、AUC 0-12h をやることのデメリットとしては採血の回数の多さと入院が必要になることである。
MMFを固定量で投与することによって、薬剤過量や過少になったり、毒性を誘発するリスクは高くなる。
なので、基本的にはMMFに関してはAUCを行いう薬剤の調製を行う必要がある。

今回のことを踏まえながら、僕の診療も少しずつ変えていければ良いなと思う。



2019/11/28

内シャントは透析のためならず?

医師 「そろそろシャントを作ったほうがよいと思います」
患者 「シャントを作ったらすぐに透析になっちゃうんですか?」

 日本透析学会のガイドラインは、「透析導入の少なくとも1か月以上前のAVF、AVGの作製」を推奨している(透析会誌 2013 46 1107)。日本はAVF作製から穿刺までの期間が約2週間と圧倒的に短いので、それに少し余裕を持たせた「1ヶ月以上前」となっているのだろう。

 いずれにしても、「透析をするからシャントを作る」のであり、「シャントを作るから透析になる」わけではない。それどころか、先日BMC Nephrologyにでた論文によれば、「シャントを作ることで透析導入を遅らせられるかもしれない」(doi:10.1186/s12882-019-1607-4)。

 一施設の後ろ向きスタディであり質は高くないが、カナダにある大学病院のCKD外来で内シャント(グラフト、カテーテルは含めず)を作製された146人の患者について、作製前後のeGFRを見直してみると、以下のようなeGFRのスロープが得られた。論文著者によれば、以前からこの傾向を示唆するスタディはいくつか発表されていたという。


前掲論文より


 グラフによれば、eGFR低下率は、内シャント作成後に-3.6から-2.2ml/min/1.73m2/年と、有意に抑えられた。eGFR低下に対する有効な治療の少ない現状では、注目に値する数字だ。なにせ、eGFRが12から8ml/min/1.73m2に下がる期間が、半年以上延長される計算なのだから。

 しかし、筆者も論文著者も、「シャントってすごい!」と飛びつくほどナイーブではない。交絡因子として、RAA系阻害薬の開始・中止などは考慮されているが、内シャント作製を機に患者の治療アドヒアランスが向上した可能性などは否定できない(上図も、よくみるとシャント作製前からスロープが平らになっている・・)。

 それでも、内シャントの腎保護作用を説明しうる機序がないわけではない。一つは内シャント作成時の動脈クランプや、作製後の軽度の手指虚血などによるRIPC(remote ischemic pre-conditioning、こちらも参照)効果。もう一つは、シャント血流による全身血管抵抗の低下や心拍出量の増加による腎潅流の改善だ。

 じっさい、この論文でもシャント作製後には拡張期血圧が4mmHg程度、有意にさがっていた(この現象は他でも実証されている、Am J Hypertens 2019 32 858)。また、移植後にシャントを閉じたら腎機能が低下したというスタディもある(NDT 2017 32 196)。
 
 ただし、非生理的なシャント血流はいわば諸刃の剣であり、血流量と心機能によっては高拍出量性心不全を起こす(こちらとこちらも参照)。今回の論文では心不全患者が6%と少なく、シャントの血流量・タイプ(上腕・前腕など)は考慮されていない。心機能低下例の多い患者コホートに大血流シャントを作製していたら、違う結果になっていただろう。


 何であれ、透析を始めるにあたってはバスキュラーアクセスがあったほうがよく、なかでも内シャントが望ましいことは周知の事実である(こちらも参照)。今後こうした研究が進み、患者さんに「(適切な症例に適切な血流と種類の)シャントを作ったら腎臓が長持ちしますよ」と言えるようになれば、一石二鳥なのだが。



ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』より



2019/11/01

CKDと出血傾向

 尿毒症患者は、出血傾向になる。イタリアの解剖・病理学者モルガーニ(Giovanni Battista Morgagni 1682-1771)が、すでに1764年にそう記載している。なお、彼の師匠はバルサルバ洞で有名なバルサルバ(1666-1723)、その師匠は腎生理学の祖でもあるマルピーギだ(1628-1694)。


(三人の出身、ボローニャ大学の校章)



 このように尿毒症と出血傾向の歴史は古いが、その仕組みは完全には解明されていない。1960年代にはグアニジノコハク酸という尿素回路の副産物が原因とされたが、その後1990年代には内皮細胞が産生するNOが注目され、グアニジノコハク酸も結局はNO産生を増やすことがわかった(Blood 1999 94 2569)。

 現在、Handbook of Dialysis(5版、2015年)には以下のような要因が挙げられている:

  • 血小板顆粒中のADP量の低下
  • セロトニンの低下
  • TXA2産生の障害
  • 内皮細胞でのNO産生の亢進
  • GPIIb/IIIa複合体が活性化されない
  • vWFの異常(議論あり)

 しかし、このように機序がわかっていなくても、侵襲的な処置などで出血が見込まれるCKD患者を前にしたら、臨床家は何か対策しておかなければならない。それで、たとえば腎生検の前には、常識的に以下のような対策をするだろう。

  • 生検の必要性を見極める
  • 内服していた抗凝固薬・抗血小板薬の休薬
  • 気をつけてやる
  • 静脈路の確保、血液型やクロスマッチの採血
  • 止血剤の点滴

 ただし、最後の止血剤については、国や施設によっても議論があるかもしれない。

 日本以外では、ddAVPが用いられることがある。ddAVPはバソプレシンV2受容体の選択的なアゴニストで、内皮細胞のV2受容体を刺激してvWF産生を増やす。腎生検前に 
ddAVP0.3mcg/kg皮下注を用いた群と用いなかった群のRCT(AJKD 2011 57 850、患者数は両群合わせて約160人)では、腎周囲血腫のサイズや入院日数に有意差がみられた。

 しかし、血腫サイズは両群ともに小さなもので(エコー上、介入群で2cm2、プラセボ群で3.8cm2)あった。腎生検程度の侵襲手技でルーチンに投与すべきかには議論もあり(AJKD 2011 57 808)、ddAVP投与が全ての施設で行われているわけではない。

 また、ddAVPには低Na血症のリスクもある(V2受容体は、無論腎臓にもあるからだ)。臨床上さほど問題にはならないが、例外は移植腎の生検だ。腎移植患者は日頃から飲水を励行しており、移植腎生検前にddAVPを行ったことでNa値が127mEq/lから107mEq/lに低下し意識障害を呈した報告もある(CKJ 2014 7 602、前値が低すぎる感は否めないが)。

 いっぽう、日本ではカルバゾクロムスルホン酸ナトリウム(アドナ®)・トラネキサム酸(トランサミン®)がよく用いられる。といっても施設によって幅があり、腎臓学会のアンケートによれば、アドナ®使用施設は全体の73%、トランサミン®は57%にすぎなかった。


 「アドトラ(例の、黄色いやつ)」であれddAVPであれ、止血剤は「転ばぬ先の杖」。筆者も以前、「止血剤なんて、おまじないだ!」と思いあがっていた。しかし、出血で困って「藁をもつかむ」思いをするなど、いろいろ人生経験を積んで考えが変わった。今後も副作用と適応に注意して、お世話になり続けるだろう。



(写真はビッグ・バード。アドナ®は黄色いので!)



2019/04/29

D-52, D-25

 日本内科学会も無事に終了し、今度は第62回日本腎臓学会の開催を指折り数えておられる読者も多いかもしれない。ちなみに、あと52日である。




 今年のテーマは「腎臓学・元年」と改元を意識したものであるが、他国からだとピンと来ないかもしれないので、英語では"Open the Future"。名古屋駅周辺のまさに近未来的な街並みが映し出されたウェブサイトのトップページ(写真)には「あと何日」の表示がないが、海外からの参加者達も、「あと52日寝ると・・」と指折り数えて楽しみにしているに違いない。




 あるいは、「もう25日寝て、そのあと27日寝ると・・」と二段階で考えているかもしれない。25日後には、第39回韓国腎臓学会もソウルで開催されるからだ。




 筆者は数日前まで知らなかったが、韓国腎臓学会(KSN)は1980年に設立された比較的新しい学会だ。そのミッションのひとつに「南北統一への医療の備え」が挙げられているなど、韓国ならではの特色もある。しかし、おなじ専門分野のプロ集団であるから、親近感のある面も多い。

 たとえば、日本の「慢性透析患者の現況」や米国のUSRDSに相当する「わが国の腎代替療法の現況報告(우리나라 신대체 요법의 현황 보고)」があったり、米国の専門医試験対策(Board Review Course and Update)にあたるNephrology Board Review Courseがあったりする。

 さらに調べると、腎臓医療を取り巻く状況も似ていることがわかる。たとえば「腎代替療法の現況報告」から抜粋したこのグラフをみてほしい。



 
 英語版のスライドだが、日本の状況に酷似しているので、赤線が血液透析患者なことはたとえ韓国語で書かれていてもわかるだろう。韓国では2017年に血液透析患者が73059人(人口100万人あたり1411人、以下同じ)、腹膜透析患者が6475人(125人)、腎移植患者が19212人(371人)である。

 このグラフだけでも、学べることが沢山ある。たとえば、人口が日本の約半分しかない韓国で腎移植患者が年間19212人というのは、日本の1648人(2016年)よりも一桁多い。

 韓国と言えばペア移植を世界で最初に開始したことで知られている(Transplant Proc 1999 31 344)。一方日本はABO不適合の生体腎移植の先駆者である。両国の移植件数の差は、ドナー不足に対する異なるアプローチによるものなのか?それとも、政策などその他の要素による違いなのか?

 また、これだけ移植件数に差があっても血液透析患者数の増加率が圧倒的に高いのは、現時点では移植候補と考えられないことの多い高齢者(スペインなど、見直している国もある)が増えているからだろうか?それとも、これもまた医療報酬などその他の要因があるのだろうか?

 このように、他国をみることは鏡のように自国をみることにもなる。日本からKSNに参加する方は少ないかもしれないので、せっかくの機会に得たことを、少しずつここで報告してゆく予定である。




2019/02/17

ループス腎炎に対しての腎移植の有効性

 ループス腎炎の人を診療する機会は多い。

 一般的にループス腎炎はSLE患者の30−50%に発症し、ループス腎炎患者の10−30%が末期腎不全に至るとされている。もちろん、SLEの重症度、遺伝性の要因、社会的な要因、薬剤のコンプライアンス、最初の治療の反応の有無などが大きく関連している(Lupus2010:review)。
 
 ループス腎炎に伴う末期腎不全で一番懸念されるのは、患者の罹患年齢も低いことも一因としてあるが、premature death(早すぎる死亡)である。

 NDT2012の報告では、他の疾患に伴う末期腎不全患者に比べて26倍もpremature deathのリスクが高いというから驚きである。

 ループス腎炎のpremature deathの主な原因は感染とSLEのflareである。CKJ 2018の論文では、AKIの存在、治療開始後1年での寛解不良、治療に対するコンプライアンス不良はpremature deathの単独のリスクになると報告している。

 その中で腎移植が、どんな原因にかかわらずESRD患者の生存率を改善させたという報告がされている。では、ループス腎炎の患者さんに対してはどうなのだろうか?というのを見たのがAnnals of internal medicine 2019である。

 今回は、少しその内容を見てみる。

 研究は米国の大規模データを用いて、1995年1月1日〜2015年12月31日までの期間の患者で行われた。20974人の患者がいて、9659人(46%)が移植の待機リストになり、そのうちの5738人(59%)が腎移植を施行された。

 Primary endpointは全死亡率。

 Secondary endpointは死亡原因に設定している。

 結果:

 ・全死亡率は移植を受けた人で973人、移植を受けていない人で1697人であった。下の図を見てもらえばわかるように、移植を受けていない人に比べ受けた人のHazard ratioは0.3と低かった。


Annals 2019より引用

 ・死亡原因では移植を受けることで心血管死が74%低下し、冠動脈疾患(70%)、脳卒中(61%)も低下した。先に述べたループス腎炎の死因のtopの感染も移植を受けた人では減少していた(下図)。


Annals 2019より引用


 移植がここまで聞くととてもいいなと思ってしまう。

 ただ、懸念されるのは他の報告でもあるように、

 ・他の原因による末期腎不全で移植を受けた患者に比べて、SLEではallograft failureが多いのではないか?
 ・ループス腎炎末期腎不全の移植患者では、免疫抑制療法をしっかり行うために感染の発症率は上がっているのではないか?

 などもある。

 日本では、移植治療はまだまだ少ないがSLE患者のpremature deathはしっかりと防ぐ必要がある。移植の治療はとても希望のある分野であるし、おそらく今後は再生治療などがこの分野を席巻していくのであろう。




2018/11/23

シカゴおみやげ

 例年春と秋は学会シーズンだが、シカゴはこの時期に多数の学会誘致に成功している(もう寒いにもかかわらず・・私の留学していた夏はこんな感じだが)。本土の真ん中にあってみんなが参加しやすいのかもしれない。




 そのひとつがAHA(米国心臓協会)で、私は参加していないがこんなニュースがメールボックスに入ってきた。 

Cardiac Remodeling Following Ligation of Arteriovenous Fistula in Stable Renal Transplant Recipients: a Randomised Controlled Study. Abstract 19322

 発表は著者がインタビューを受けるくらい(リンク内にYouTube動画あり)だから、かなり注目されたのだろう。

 これは、腎移植後1年が経過し、安定したグラフト機能があって、もう透析することはないと見込まれるのなら、「保険」としてシャントを残すメリットよりも、心負荷のデメリットのほうが大きいんじゃないですか?という問いに答えるスタディだ。
 
 約30例ずつのランダム化で結紮群と非結紮群をくらべたところ、6ヵ月後に結紮群で心MRI上左室筋肉量がマイナス11g/m2と有意に減少した。左室筋肉量は心血管死の代理マーカーとして確立しており、これは相当インパクトのある数字だ。ほかにも、左房容積がさがる(心房細動になりにくい)、ANP・BNPなどの心筋ホルモン値の低下などがみられた。

 そうはいっても、移植患者さんのシャントを閉じるというのは相当覚悟のいることで、(シャント感染など他の理由がない限り)まずやらない。この発表が大きく取り上げられたのも、そのためである。

 移植業界は施設間で診療の差が大きいが、このオーストラリア発のパイロットスタディから、グラフト生着率のよい時代にあわせ移植医療がかわっていくかもしれない(下図は英エコノミスト誌2018年10月27日付のオーストラリア特集号)。






2018/02/07

腎移植後の高血圧~どのようにして治療する?~

まず、腎移植後の高血圧に関しての血圧管理目標については、2017年度のACC/AHAのガイドラインでも130/80mmHg未満の推奨である。


降圧目標に関しては、ACC/AHAのガイドラインが新しくでて、日本のガイドラインも今後反映されるかもしれないが分かりづらいので下図を添付する。

Neph JCより引用
高血圧の患者の治療にあたって、まずは
①カルシニューリン阻害薬の内服で血中濃度はどうか?を確認する。
②薬剤でのコントロールを行う。
・カルシウム拮抗薬(CCB)
第一選択として好まれることが多い。
理由:降圧効果が確立しており、CNIによる血管収縮を最小限にするため。
Up To date より
カルシウム拮抗薬については2009年のsystematic reviewでも効果が証明されている。
この報告ではプラセボ、ACE-Iに比べて降圧効果としてはCCBが一番効果があったというものである。
カルシウム拮抗薬はジヒドロピリジン系と非ジヒドロピリジン系に分かれ、特に非ジヒドロピリジン系に関しては薬剤との相互作用に注意をする必要がある。
-ジヒドロピリジン系:アムロジピンヘシル酸塩、ペルジピンなど
-非ジヒドロピリジン系:ジルチアゼム塩酸塩、ベラパミル塩酸塩など


非ジヒドロピリジン系に関してはCYP3A/4の阻害を行う。
CYP3A/4はCNIやmTOR阻害薬の代謝に重要であり、非ジヒドロピリジン系の使用で血中濃度が上昇してしまうので注意する。


・ACE-I、ARB
追加薬として使用は検討すべきである。動物実験レベルではあるが、シクロスポリンによる腎症の予防に働く。
ACE-I/ARBに関してはCKDには有用であることが証明されているが、移植後の有用性の証明は乏しい。そして、いくつかの良くない点も指摘されている。
a)シクロスポリンとの併用で腎血管への影響を来し、GFRの低下をおこす。
b)シクロスポリン/タクロリムスは尿中K排泄低下を来し、高K傾向になりやすく、ACE-I/ARB使用でさらなる高Kになるリスクがある
c)ACE-Iによって移植患者の貧血を惹起する(5-10%に生じる)。それがシクロスポリン内服で顕著化する。

いい点としてはARBによって移植後の尿酸低下をもたらし痛風の予防や降圧・タンパク尿減少に役立つ。

なので、ACE-I/ARBは使用するにしても移植後すぐではなく、3-6か月以上たって安定した状態のほうが望ましい。

薬剤に関しては、やはり薬剤相互作用をしっかりと確認しておくことが非常に重要である。それに関しては、下の表を参考にしていただきたい!
JASN 2015より

移植の高血圧管理は非常に重要である。
レシピエントにとってもドナーにとっても腎臓は非常に大切であり、我々もしっかり高血圧の管理を知っておくことが重要である。







2018/02/01

腎移植後患者の高血圧 〜まずはしっかりと理解!〜

腎移植後に高血圧で悩むことは多い。
報告では、大人では50-80%の頻度で生じ、子供では47-82%に生じるとされている。
特に高血圧のコントロールができないと心血管死亡率や移植腎生着率の低下につながる。

なので、しっかりと血圧コントロールを行うことは非常に重要である。

★血圧を上げるリスクファクター
・体重の増加
 →移植後もしっかりと体重コントロールを継続することが重要である。

・腎動脈狭窄(TRAS :transplant renal artery stenosis)
 →移植後どの時期に生じてもいいが、多くは移植後3ヶ月〜2年の間に生じる。生じる
  リスクとしては、手術が困難の場合・強い動脈硬化・サイトメガロウイルス感染・
  腎機能の回復が遅いものがある。
  診断:血管造影、腎血管エコー、MRI検査やCT検査が用いられる。腎血管エコーでは
                   最大収縮速度≧2.5m/secが感度・特異度が非常に高く相関性がある。
  治療:血管形成術や手術。血管形成術でバルーンを広げるだけで80%の狭窄例で成功
     するが20%で再狭窄をきたす。ステントを置く症例は狭窄を繰り返す症例に
     用いる。外科手術は成功率は60-90%程度であるが、再狭窄を10%に認める。

・拒絶(急性拒絶反応・抗体関連拒絶反応など)
 →タンパク尿・血尿などの尿検査や腎機能なども含めしっかりとしたフォローをする。

・薬物(ステロイド、カルシニューリン阻害薬)
 →ステロイド:通常は容量をすぐに落とすので慢性的な高血圧になるリスクとしては低
  い。RCTでも5mgのステロイド維持量とステロイドなしの群で比較しても差が出なかっ
  たという報告がある。
 →カルシニューリン阻害薬:シクロスポリンとタクロリムスではシクロスポリンの方が
  高血圧の合併症は高い。機序としてはRAA系の増加は一因である。シクロスポリンで
  は全身の血管抵抗や腎血管抵抗の増大を生じさせることによって高血圧を生じる。ま
  た、両薬剤ともNa再吸収を亢進させNa貯留を起こす。

AJKD 2011

腎移植直後は患者さんは体液過剰の状態にあり高血圧は、自然に利尿がついて体液過剰が改善すれば高血圧のコントロールもできてくる。

今回は、移植後の高血圧に関しての前半の部分に触れた。次は治療はどうするかを触れたい。


2018/01/29

マイフォーティック (Mycophenolate sodium)~免疫抑制剤~

 移植の外来をしていて、海外で移植をしてその後のフォローをするときにしばしば内服薬で「プログラフ、プレドニン、マイフォーティック」の内服をしているという場面に遭遇する事が多い。




 当初はマイフォーティックと聞いて何かのアニメなのか?と思ってしまった。このマイフォーティックに関してまとめたいと思う。

 マイフォーテックはMycophenolate sodiumの事であり、まず特徴としてはMMFに比べて腸管での吸収を遅くしている特徴がある。

 MMFを内服していて一定頻度で困るのは消化器症状(下痢)である。この消化器症状を少なくすることは患者の内服コンプライアンスを上げる上で重要である。

 マイフォーティックは移植後の下痢の症状などをMMFに比べて優位に減らしたという報告がされている(Transplant Proc 2009)。しかし、現時点ではマイフォーティックとMMFで移植患者の有用性の違いに関しては報告されていない(Transplant Proc 2010)。

 日本で患者さんがMMFで下痢をした場合に、下痢止めを処方したり、それでも症状が治まらなければ、MMFをAZA(イムラン)に変更したりする。しかし、AZAのがGraft survivalは長期で見た場合に悪い事は既知の事実であり、なるべくならMMFを飲ませ続けたい(短期は違いは少ないので短期間だけの変更ならばいいかもしれないが)。




 そういう点でマイフォーテックはいい薬である。日本ではないため、患者さんにMMFに変更することを伝え、またそれにより下痢の出現があるかもしれない事を忘れずに伝える必要性がある。量に関しては180mgのマイフォーティックと250mgのMMFが同効果であるとされている。

 もうすぐ東京オリンピックも近づいている。その時に海外で移植した患者さんが急に来院する可能性もあり、内服薬に関してもしっかりと理解する事は重要である。




2018/01/05

あなたのネフロンを数えましょう 2

 ネフロンというのは便利な言葉過ぎて、言い換えるのが難しい(filtering unitという言葉を使ったこともあるが)。だれが名づけ親なのだろう?ネフロン発見の歴史は以前に書いた(Adv Physiol Educ 2014 38 286も参照)が、ここに登場する誰かが名づけた、という確証はないようだ。ニュートリノ(写真は2008年『グラン・トリノ』)のように、発見される前から想定されていたのだろうか。



 さて、そのネフロンは「ひとつの腎臓に約100万個」と教わるが、これらはむかし酸によるmaceration(浸して柔らかくすること)、立体解析などを使って数えたものでバイアスが多かったらしい。その後fractonator-sampling/dissector-countingというより正確な方法ができたが、これは献体腎のネフロンを体外で解剖的に数えるもので臨床応用は難しかった(以上、Brennerの教科書より)。

 そこで、腎生検と画像を組み合わせて掛け算する方法が試みられたが、当初イヌにMRIを行なった(KI 1994 45 1668)ときには精度が悪かった。だから前回紹介した論文(NEJM 2017 376 2349)はヒトでネフロン数を体内でかぞえた、画期的なものだった。数をかぞえただけでも大変なことだったのだ。

 さて、そのネフロン数にはどんな意味があるのか?

 これについての仮説で、「ネフロンというのは天からの大事な授かりものだ(から、自分の持って生まれたネフロンを大切に)」という考え方をネフロン・エンダウメント(endowは授けるという意味)という。その根拠としてよく挙げられるのは、ネフロンが少ない低出生体重児と高血圧の相関だ。出生体重が1kgすくないと、収縮血圧が数~10数mmHg高い関係がある(J Hypertens 2000 18 815)。

 とくに出生後「追いつくように」体重が増えた群で思春期・成人期に高血圧にになりやすく、これについてネフロン・エンダウメント仮説は「ネフロンが少ないのに負担が増えるから血圧が上がる」と説明する(「腎虚」の証とでも言えようか)。

 また高血圧家系のドナーから腎移植をうけたレシピエントは、高血圧家系でないドナーから受けたのに比べて高血圧になりやすいというイタリアの論文(JASN 1996 7 1131)もある。免疫抑制剤にCNIを使っていない頃のデータだが、ステロイド量や腎機能などを考慮しても差が見られた。

 この論文は「腎臓と一緒に血圧も移植している」という刺激的なタイトルがつき、当時は話題になったようで、さらにドイツでネフロン数と高血圧の相関を示した論文(NEJM 2003 348 101)もでている。あくまで相関なので、ネフロンが少ない→高血圧だけでなく、高血圧→(糸球体硬化)→ネフロンが減る、もあると思われるが。 

 そんなわけでネフロン数が少ないとあまり身体によくなさそうである。しかし、生体腎移植ドナーはネフロン数が半分になっても腎機能は半分以上あるし、(少なくともドナー評価が厳格な米国のデータでは)天寿を全うする。

 これについてはどう考えればよいのだろう?ネフロンの数もさることながら、一つ一つのネフロンの働きも大事なのではないか?つづく(写真は"Officially missing you"を2012年にカバーした、オーストラリア出身で双子のJayeslee)。





2017/09/20

秋の読書 2017

 NKF(米国腎臓財団)といえば、AJKD誌、Journal of Renal Nutrition誌などをだしていて、日本からの投稿も多い。また、姉妹誌のACKDは生涯教育向けにひとつのテーマを掘り下げたレビューがまとめられ、ASN(米国腎臓学会)におけるNephSAPのような学習資源だ。どちらも隔月でとどく。

 そのNKFは、名前が示すように腎臓病患者の支援団体という性格も強い。それでか、数ヶ月前にニューレターでVanessa Grubbs著“Hundreds of interlaced fingers”という本(写真)が紹介されていた。NephJC(主宰するTopf先生のことはこちらにも触れた)でもSummer Book Club特集されて話題だが、まだ日本語に訳されてはいないようだから読んでみた。




 著者は人種間の医療格差をライフワークにする米国の黒人女性医師で、ある委員会で出会った運命の男性ロバートが透析を受けていた(患者として会ったわけではない)。彼女は、彼の生体腎移植ドナーとなり、彼と結婚し、もとは内科医だったが、意を決して30代後半で子供を育てながら腎臓内科フェローシップの研修を受け、腎臓内科医になる。

 その物語のなかに、透析についての歴史や説明、ブラッドアクセスについての説明、CKDとその治療についての説明、蛋白尿と精査についての説明、移植についての説明、終末期医療についての説明などが織り込まれている。分かりやすい言葉で、彼女独自(一般内科医、腎臓内科医、ドナー、患者家族)の視点で。もちろん、有色人種としての視点と女性としての視点も強調されている。

 たとえば表題の「何百もの組み合わさった指」は足突起のことで、そもそも腎臓生理学に興味のなかった彼女が、腎病理のレクチャを受けた時にその美しさに思わず感動して受けたイメージだ。母親のタコが、いくつもの赤ちゃんタコをその足で抱きしめているような。その指と指は組み合わさって、きつく握られている。

 表紙写真のように、その組み合わさった指は彼女と夫の特別な絆をも象徴している。

 美しく丸みを帯びた輪郭。難解で複雑。一度にたくさんの仕事をしている。周りを助けようと必死で自分の調子が悪くなっても声を上げない。これらの腎臓の特徴から腎臓は「まるで女性みたい」と思い、腎臓をitではなくherと呼ぶのも、彼女独特の視点で、はっとさせられる。

 同時に、よくここまで書いたなと思うほど勇気ある著作だ。透析患者に対して透析機械数が圧倒的に足りなかった頃にシアトルの病院で誰を選ぶかを決めた、いわゆる「神の委員会」はよく知られているだろう。ほかにも人種間の医療格差について彼女の思いと主張がたくさん書かれている。夫のそばにいる、またこのテーマをライフワークとしているだけに切実だ。

 透析をどう始めるか、どう終えるかについてのお話も真に迫る。

「腎臓内科医は水分量でもeGFRでも、推定する計算式はたくさん持っているのに、患者の予後については何も知らない」「それゆえ、透析するかは『患者と家族の判断を尊重する』といいつつ、その実は自分が責任を取りたくない」という趣旨の記述と、いまの移植腎が働くなったら(自分と息子を残しても)透析はしないと言い切る夫をまえに無力な自分とのジレンマ。

 ほかにも、この本を読まなければ知ることのなかった視点がたくさん得られ、有益な読書だった。論文もいいが、こういう「文系」なテキストも、やっぱり別の部分が養われ成長するのを助けるから読みたいし、機会があればこうして紹介してゆきたい。




2017/07/14

ざっくりまとめ

 透析患者さんでTSHを測ってみると、低い群にくらべて高い群は疲れやすく仕事や家事ができにくく痛みもつよかった(doi: 10.2215/​CJN.13211216)。米国の透析施設で、6割程度がアフリカ系で、平均年齢は50歳代。そういわれても「そりゃ、そうでしょう」と思う。

 TSHが高いからと言って、甲状腺ホルモンを補充していいかには議論の余地もある(心疾患があったり高齢者だったりで不整脈などの問題もあるし、fT3やfT4のことはわからない)。でもまあ、患者さんの生存期間も大事だけれどQOLも大事、という最近の考え方にそって調べられているし、そのうち治療介入したスタディも出ると思う。
 
 さて、この論文をとりあげたのは、じつは内容もさることながら、著者が「ビジュアル・オーバービュー」を載せていたからだ(下図)。



 しかも、学会ポスターのように無味乾燥なの(たとえば下図はdoi: 10.2215/​CJN.10270916、じつは論文の中身としてはこっちのほうが面白いんだけど…)がおおいなか、注意を引くように力を入れて作っている。だから、こうして目に留まる。




 これがあると、ぱっと要旨をつかむのに便利だ。ウェブサイトやニュースサイトでいうところの「ざっくりまとめ」みたいなもので、パソコン・スマホ世代に合ったメディア戦略と思う。活字離れ(「読者」という言葉がそのうち「ビューワー」というカタカナに置き換えられるかもしれない)がどうあれ、視覚効果があるほうが頭に入りやすいのは仕方がない。

 しかし、注意は必要だ。悪魔は細部に宿る(The devil is in the detail、図)という言葉もあるが、たとえばこの論文ではTSHが高い群はほとんどが透析を始めてからの12ヶ月未満のひとたちで、低い群はほとんどが透析を始めて12ヶ月以上のひとたちだった。透析を始めたばかりなら、疲れるだろう。




 またTSHが1.28未満、1.28以上2.11未満、2.11以上mU/lの三群にわけているが、たとえば2.11以上の群といってもTSHの最大測定値は39.4mU/lで、こういう人を入れたから有意に甲状腺機能低下的な有意差がでたのかもしれない(TSHの平均値は2.2でSDは2.9だそうだが…ちなみにTSHの最小測定値は0.07mU/l)。

 ざっくりまとめ(写真は「ざっくりまとめ髪」のNAVERまとめサイトより;出典はwww.biteki.com)も便利だが、やっぱり忙しくてもだれかが客観的に読まないといけないと思う。このサイトはその「だれか」の役目を果たしていく予定です。これからもビューワー・フレンドリーさ(「読みやすさ」はもう古い?!)を工夫しながら続けてまいりますので、よろしくお願いします。




2017/06/19

滝を追いかける 5

 閉塞後多尿(POD)のマネジメントについて、いろんな先生がいろんなことをいっているが根拠はあいまいなことがおおい。そんななか、ある文献(Can Fam Physician 2015 61 137)には、

・いたちごっこをさけるため、1時間にでた量の75%を次の1時間で補う(レベルIIIエビデンス)

 など一部の記載にエビデンスがつけてある。この文献ではさらに、

・認知機能の問題がなければ食事飲水してもらう
・認知機能に問題があれば0.45%NaClで補う
・24時間尿3L以下ならおそらく自然軽快していく
・3L以上でるなら病的PODで、Na・K・Mgなどの電解質異常や酸塩基平衡異常、ショックなどに注意して輸液する

 とも書いていて、これらはエビデンスはない。けれども、どの先生もだいたい同じようなことを言っているのでコンセンサスかと思う。0.45%NaCl輸液を推奨するのは、PODの尿がisothenuric(希釈も濃縮もされない、という意味)で尿Na濃度がだいたい80mEq/lだからという。




 …とまあ、コンサルトを受けると腎臓内科医はいろいろ調べる。そのうえで、どうやってお返事したらいい?ここからはサイエンスというより、アートかもしれない。正解はひとつじゃないけれど、たとえば回答例は:



 
ネフロ・ガールさん、


 ブログを読んでくださりありがとうございます。ご相談ありがとうございます、AKI後の利尿期にどう輸液するか、悩みますよね。おっしゃるように、足りないのも困るし、入れすぎても「いたちごっこ」になるのが心配です。

 AKI後の利尿期に特化した文献はあまりみつからなかったのですが、似た病態(移植後、閉塞後)なども参考に、またわたしの経験も参考にすると、この三点を考えてはどうでしょう。

1.どれくらいの量、どんな組成の尿がでているのか 

 3-4L/d以上ならより心配で、電解質や腎機能をこまめに測る必要があるかも知れません。尿Na 80mEq/lくらいが多いですが、尿生化学・比重もチェックしておくと安心と思います。

2.輸液をはじめる時点でどれくらい体液がたまっているのか

 たまっているほどたくさんでるかもしれませんし、血圧や腎機能が安定していれば追いかけすぎないほうがいいおかもしれません。個人的には、体重をはかって入院前と比較してどれくらい体液過剰になっているかの目安にしています。

3.輸液と尿以外に、どのような水分摂取と水分喪失があるのか

 食事(経管栄養)、飲水、不感蒸泄、消化液(胃管のドレナージや下痢)など、日を追って状況が変わりますのでそれを考えて輸液量を決めるのがいいと思います。


 そのうえで、具体的にはこんなアドバイスができるかもしれません。あくまで参考にされて、ご自分のいる施設のやり方や他の先生のやり方も聞いてみるといいと思います。

 
 尿測して1時間に200ml/h以上(5L/d以上)でるようなら、1時間ごとポンプで輸液速度を変えて追いかけられる環境で尿量の75%くらい追いかけたほうがいいかもしれません(腎移植後などがそうです)。体液喪失でショックがみこまれるならICUなども考慮して、最初の24時間くらいは6-12時間おきに血液検査や尿検査してもいいかもしれません。

 尿量がそれより少ない(3L/dくらい)なら一般病棟でみてどうでしょう。輸液は、食事や飲水ができていなければ「維持液」と「補充液」にわけると管理しやすいかもしれません。前日から3Lでたなら、2L(50-75%)くらい全体で輸液するとして、維持液1-1.5L、補充液0.5-1Lとか。3L以上でたら1Lごとに0.5Lの追加輸液する必要時オーダも選択肢と思います。

 数日のうちに経口摂取が大丈夫になって尿量も落ち着くでしょうから、それに応じて漸減するといいと思います。その頃には維持液とか区別しなくてもいいと思います。慣れれば、予め数日分漸減する輸液オーダをして、尿量や電解質・腎機能に応じて調整してもいいと思います。ここでも、測れれば、体重が意外と役立つかもしれません。

 輸液の種類ですが、移植後や閉塞後多尿には0.45%NaClが推奨されることがおおいです。ただAKI後利尿の場合はこれというのがないので、電解質、尿生化学などをみて決めると思います。日本はNa 0mEq/l、約30mEq/l、約100mEq/l、約130・140・150mEq/lの500ml輸液が一般的なので、それらを組み合わせてもいいと思います。


 参考になれば幸いです。輸液管理がうまくいき、またやりがいあるものになって、患者さんがよくなるよう願っています。貴重な学びの機会をありがとうございました、これからも応援よろしくお願いします!


 追伸:多尿だったりAKI後だったりで尿カテーテルが入ってる人は、入れっぱなしに注意したほうがいいと思います。




(写真はWaterfallという曲を1994年にだしたTLC。歌詞に「滝を追いかけないで」とある)



2017/06/14

滝を追いかける 3

 移植がうまくいくとみんながハッピーで、人類愛に満たされ心があたたまる。しかし移植後は危険も潜んでいるから注意が必要だ。移植後多尿に関するそんな論文が、ふたつあったので紹介する。

 一つ目(doi:10.1111/j.1432-2277.2005.00221.x)は155cm45kgの30代女性が195cm111kgの夫から腎グラフトを受けたケース。体格ミスマッチの移植には独特の問題がある(こちらも参照)が、ともかくフロセミドとマニトールも使ったので、この例は術後に1-2L/hの尿が出た。

 それをハーフ生食で補充していたが、移植9時間後にけいれんを起こし、調べるとNaが140mEq/lから113mEq/lに低下。Na欠乏量を体重×0.5×(140-113)で計算し602mEqと見積もったが、一気に戻すわけにもいかないので12時間で120mEq/lに戻そうと、体重×0.5×(120-113)の155mEqに近い量を3%食塩水で投与した(25mlを12時間で153mEq)。

 けいれんは止まり、12時間後には122mEq/lになった。その間にも尿は出ていたはずだが、尿については補充をつづけ、Na補正は3%食塩水でおこなったのかもしれない。そのあと0.9%食塩水に切り替え、予後良好で退院した。

 ふたつ目(CKJ 2016 9 180)は44歳男性で献腎移植を受けたケース。移植後の多尿がおさまらない。この方は多尿の家族歴があって幼い頃「腎性尿崩症」と言われたそうだが、腎臓を移植しても腎性尿崩症がつづくだろうか?

 しらべてみると、中枢性尿崩症だった。遺伝子検査をおこなうと、AVP遺伝子そのものではなくて、その9kb先にあるc.225>G point mutationが異常だった(flanking microsatellite markersを用いてわかったそうだ)。これが異常だと、AVP遺伝子のNeurophysin II部分(図はBrenner教科書)、75番目のアミノ残基がシステインからトリプトファンにかわるので、たんぱくの折りたたみが異常になるのかもしれない。




 たまっていた浸透圧物質と水が腎臓の尿濃縮能低下で排泄され多尿になる事態が、AKI後、移植後とべつに少なくとももうひとつある。もうお分かりかもしれないが、閉塞後多尿(post-obstructive diuresis、POD)だ。つづく(写真はヴィクトリアの滝)。