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2017/01/02

肝硬変患者の輸液に関して(Transfusion strategies in cirrhosis)

あけましておめでとうございます。
今年も一年このブログを通して、何か伝えられればなと思っています。

さて、新年第一弾は上記タイトルとした。
僕たち腎臓内科にとっても相談されてどうしようかなと迷うものの一つに肝硬変患者における輸血をどうするかがある。
そこで、今回は2016年の論文を参考にしながら少し記載をして見たいと思う。

まず、ここに記載してあるものとして肝硬変の凝固能に関してである。
僕の認識では、肝硬変患者では凝固しにくく出血しやすいという印象が強かった。しかし、これも最近は認識が変わっているらしく、肝硬変患者は凝固しにくいことはないということである。
肝硬変患者では静脈血栓リスクは上昇する(Am J Gast 2009)。
実験では肝硬変患者で血小板が5万以下の場合のみトロンビンの産生の障害が生じる(Hepatology 2006)。
なのでPT時間だけで、出血傾向は言えない。メタ解析でも予防的なFFP投与の使用が赤血球輸血の使用を減らしたことはないので、PT時間だけを参考にしてPT時間を改善するのは良くないのであろう(Transfusion 2012)。

肝硬変患者に一定頻度で輸血を行うことがあるが、これは消化管出血の患者でHb<7g/dlで輸血をする群の方がアウトカムはよく、再出血が少なかったとされている(NEJM 2013)。
最近のヨーロッパのガイドラインではHbの目標が7-8g/dlとなっている。

予防的な投与はどうかではあるが、小さな研究では予防的なFFPの使用は出血のリスクを低下させたなどの報告はあるが、この群では出血リスクが低い人を対象としており、判断は難しい(Hepatorogy 2016)。

肝硬変患者さんにおける輸液や輸血の分野ではまだまだこれから色々と解明されてくるであろう。

肝硬変患者さんは多く、自分もしっかりとした対応などできるようになりたい。



2015/05/18

HRS

 肝硬変においては門脈圧亢進とbacterial translocationに伴う腸管NO産生によるsplanchnic vasodilatationで血液のpoolingが起こり、結果effective arterial blood volumeが減って腎臓がunder-filledになる(NEJM 2009 361 1279)。この大前提をHRS(hepatorenal syndrome;肝腎症候群) physiologyと呼んだりしていた。しかしHRSとHRS physiologyは少し違う。HRSは、HRS physiology以外の要因がないにもかかわらず純粋なHRS physiologyで腎が干上がってpre-renal azotemiaになることを言う。

 だから理論上はHRSでは肝臓がすべて悪くて腎臓はまったく悪くない(から肝移植すればよくなるはずだし、ドナー提供意思のあるHRS患者さんが亡くなってその腎を移植すれば正常に機能するはずである、あくまで理論的には。それについては以前に書いた;リンク1、リンク2、リンク3、リンク4、リンク5)。つまりHRSは利尿剤によるeffective arterial blood volumeの減少、低アルブミン血症、出血性ショック、NSAIDsなど薬剤、B/C型肝炎・ウィルソン病など肝臓にも腎臓にも障害を起こすものなどを除外して診断する。具体的な診断基準は(AJKD 2012 59 874);

 ①腹水のある肝硬変
 ②S-Cr>1.5mg/dl
 ③二日以上利尿剤を中止しアルブミンを負荷(1g/kgまたは100g)してもCrが改善しない
 ④ショックがない
 ⑤腎毒性の薬剤使用がない
 ⑥腎実質の疾患がない(蛋白尿>500mg/d、血尿>50RBC/hpf、腎エコーの異常所見)

 心腎症候群は大して臨床的意義なく五分類されているが、肝腎症候群は1型と2型に分かれその臨床的意義は大きい。1型HRSは急速に腎機能が悪化するものをいい、2週間以内でS-Crが倍になるか2.5mg/dl以上に達する。治療しなければaverage median survivalは2週間だ。2型HRSは1型に当てはまらないより緩徐な腎機能の悪化をいう。2型HRSのaverage median survivalは約半年とされる(下図)。


 1型HRSは基本、肝移植が第一選択だ。そうしないと死亡率が余りに高いので、MELDスコアにもS-Crが入っているわけだ。しかし肝臓がどっかに落ちているわけではないので、それまでは血管収縮薬とアルブミンの併用が行われ、データがあるのはterlipressinだがmidodrineやnorepinephrineを用いることもある。2型HRSの治療も根治的には肝移植だが、こちらは治療の有効性を示すよいデータがあまりない。この論文は大容量腹水穿刺(+アルブミン補充)、norfloxacin(bacterial translocationを防ぐためだろうか)、血管収縮薬がリストされていた。大容量腹水穿刺を繰り返すのが面倒ならALFApump®といって持続的に腹水を膀胱に流すデバイスを使ってもいいかもしれない(下図;日本にもあるのかな)。



 HRSの予防は良いデータがない。アルブミンのルーチンな補充は現在では推奨されていない。Norfloxacinの予防内服は小さなデータがあるようだ。急性アルコール性肝炎におけるHRSの予防でpentoxyfyllineが試されたことがある(がpentoxyfyllineはHRS予防じゃなくてもアルコール性肝炎にどのみち用いられるはず)。V2 selective receptor blocker(vaptan)が予防するかもしれない。データがないから著者も小さなスタディを見つけて書きたい放題だ。
 とまあHRSについて書いたが、うえに紹介したNEJMとAJKDのレビューが秀逸なのでそれを参考にしたらいいと思う。教科書的な投稿になってしまって申し訳ない。もっと熱血だったり面白みがあったりしたほうがこちらも書き甲斐があるし読者のみなさんも読み甲斐があるだろうに…。でもまあいいか、たまにはこういう平穏な投稿があっても(朝カンファで「HRSだけで30分語れる」と発言したら「じゃあやって」と言われたので有限実行で書いている)。

 [追加]HRS-type AKIに関する国際腹水クラブのレビューが出た(J Hepatol 2015 62 968)。まだ詳しく読んでないが、診断基準からS-Crの値が消えて、そのかわりに国際腹水クラブが提唱するAKIのステージングを採用している。治療の基本原則とコンポーネントはほぼ変わりないようだ。

2012/09/13

Vaptans in cirrhotics

 肝硬変の低ナトリウム血症にVaptanは有効か?ふたつのレビュー論文(Semin Nephrol 2008 28 279、KI 2006 69 2124)によると、その役割は明確ではない。経口lixivaptanを用いたスタディ(J Lab Clin Med 2001 138 18)では、最大用量で最大50%の患者さんでNa濃度が正常化した。しかし、経口tolvaptanを用いたSALT-2スタディで、肝硬変患者のサブグループの結果をみると、37%で不応だった。うちの病院には静注のconivaptanしか置いてないが、これは肝硬変患者には薦められない。ConivaptanはV1a受容体もV2受容体もブロックするため、静脈瘤の血管壁にあるV1a受容体をブロックして血管が弛み出血しやすくなるからだ。

2012/09/06

MARS

 いまの大学は、いるだけで毎週エキサイティングで新しいことが学べるから好きだ。最近は、臨床現場よりもこういったアカデミックな機会のほうが、知らないことが多く学べる。臨床は未知との遭遇というより、既存の知識と経験を活用する場所になりつつある。

 どうしてそんなに毎週いろいろ学ぶことが可能なのか?それは、スタッフが多く、各人が持ち回りで質の高い発表をするからだ。面白い症例を沢山診ればよいというものではない。座って、そこから深く掘り下げる手間とひまが必要なのだ。

 さて、今週はMolecular Absorbent Recirculating System(MARS)という画期的な血液浄化について学んだ。これは分子量が大きくタンパク質結合率の高い毒素を効率よく除去する目的で開発された。俗に"liver dialysis"と呼ばれているように、欧州では肝不全患者に対して移植前のbridgeに使われている。米国ではまだその目的での適応はない。

 ダイアライザは分子量の大きな毒素を除くため、孔のサイズが大きい(50kDa)が、high cut-off HDのダイアライザと違ってアルブミンは移動出来ない。膜内外のgradientを無限大にするため、膜の外にはアルブミンを流す(ので、毒素は膜から出るなりアルブミンに結合してしまう)。

 この原理じたいは、charcoal hemodialysisと同じだ。しかし、biocompatibilityの都合上アルブミンのほうが優れているらしい。しかしアルブミンは透析液のように湯水のようには使えないので、リサイクルするようなclosed circuitをまわす。透析膜で洗い、さらにcharcoal filter、anion exchange resinを通してアルブミンに結合した毒素を引き剥がし、また戻す仕組みだ。

 あいにく発表がここまでで終わってしまったので、肝不全においてどんな老廃物が蓄積するのか、それを除去するためにどんな「肝臓透析」のモダリティがあるのか(MARS、SPAD、Prometheus system、どれも欧州生まれだ)、そしてこれらの臨床成績はどうなのか、など話は次の機会になった。しかし、ここまででも十分面白かった。MARSの臨床成績については論文をみつけた(JASN 2010 12 S75)から読んでみよう。


2012/06/21

Thin Red Line between SLK and LTA 2/4

 では、どんな人が肝臓移植後に腎不全が残るか悪くなるのか。これがmillion-dollar questionだ。1990-2000年、つまりMELD前の時代のSRTRデータを分析してCKD(GFR30未満、あるいは透析依存)のcummulative incidentを調べた論文があり、それによれば肝移植後のCKD累積発病率は5年間で18%だった(NEJM 2003 349 931)。さらにmulti-variate Cox regression analysisを行い、年齢、移植前のGFR、移植前の透析、C型肝炎、高血圧、糖尿病などがリスク因子とわかった。

 もう少し系統的に言うと、①移植前の腎機能(肝腎症候群、それ以外の急性腎障害、慢性腎臓病、透析期間)、②CNI(calcineurin inhibitor、tacrolimusとcyclosporine)、③年齢、④周術期の腎障害、⑤C型肝炎とそれに関連した腎炎、⑥BKウイルスなどを考慮する必要がある(JASN 2007 18 3031)。もっとも、肝移植後のBK腎症はあまり多くないらしいが(Transpl Infect Dis 2006 8 102)。

 ①についてメインに取り上げると、2002-2007年のUNOSとUSRDS(United States Renal Data System)データを両方つかって肝移植までの透析期間と移植後の腎機能を分析した論文がある(Liver Transplantation 2010 16 440)。透析期間が30日未満の群では70%が移植後透析不要になり、30-60日の群で56%、60-90日で23%、90日以上で11%だった。「透析不要になったのは患者さんが亡くなったから(is this death-censored)?」という批判に答えるため各群の移植後生存率も示され、透析期間が90日以上の群を除けばsurvival curveはほぼ同じだった。

 また、2000-2005年にかけてのペンシルベニア大学のデータでは、移植前にクレアチニンが1.5mg/dl以上の期間が12週間以上続いた群で約25%が5年間でGFR以下になったのに対し、12週間未満はほんの数%しかならなかった(Liver Transplantation 2008 14 665)。しかしこれらのデータは腎機能障害の原因によって患者さんを分けていないので、「肝腎症候群(HRS)のように肝移植後に腎機能が戻ると考えられている例でも、腎不全が長引けば肝移植しても腎機能は戻らないの?」という問いには答えられない。

 HRSについては、1988-2004年にかけてのUCLAのデータがある(Arch Surg 2006 141 735)。HRSで、透析期間が30日以下で、肝臓のみ移植された80人は、術後にmedianで9日間透析を要したが、ほぼ全員(約95%)が一か月もすれば透析不要になった。ただし生き残ればの話で、この群の1年生存率は66%だった。それに対し、肝腎症候群でSLKを受けた患者さんの生存率が透析期間によって異なるかを調べたところ、8週間未満で64%、8週間以上で88%だった。例によって、これが腎臓を一緒に移植したからなのかは、分からないのであるが。

 「腎臓病の種類によって予後が違うというなら、腎生検してはどうか?」というスタディがメイヨークリニックでなされた(AJT 2008 8 2618)。2005-2008年にかけて44件のどっちつかずの症例について腎生検したところ、じつに多彩な病変が見られた。43%がHCV陽性であったせいもあるだろうが。これらは、生検しなければ分からなかったであろう、というのも血尿やタンパク尿が見られた例は約半分しかなかったし、ましてFENAはほぼ全例1%以下(underfilled kidney、門脈圧亢進により腎臓が干されているということ)だった。

 彼らの結論は、生検結果が①糸球体硬化が40%以上、②間質線維化が40%以上、③びまん性のMPGNのいずれかが見られれば腎予後不良としてSLKに振り分けるというallocation ruleが適切であったというものだ。移植後のフォローアップ(GFRなど)でみるかぎりplausibleな結果だった。inter-observer variabilityもなかったという。しかし見逃せないのは二単位以上の輸血、あるいはIR(interventional radiology)による止血手技を必要とする合併症が18%に見られたことだ。つづく。


Thin Red Line between SLK and LTA 1/4

 Renal Grand Roundで、私が不得手としている「不確かな領域について話す」発表をした。テーマは、SLK(simultaneous liver kidey transplant、肝腎同時移植)とLTA(liver transplant alone、肝のみ移植)についてだ。確たるデータがないなかで、幾つかの論点を挙げ、関連するデータを批判的に考察し、現時点のコンセンサスを紹介し、自分の立場をまとめる。よい訓練になった。

 まず、SLKは2002年にMELD(Model for End-stage Liver Disease)が採用されて以来増えた。MELDは肝臓病患者さんが移植を待ちながら亡くなることがないようにリスク評価するモデルで、腎機能がとても大きなウェイトを占める。そのため二つのジレンマが生じることになった。ひとつは、腎機能の悪いこれらの患者さんに腎臓も移植するべきか。もうひとつは、腎臓病がメインで透析依存しているが軽度の肝硬変もある患者さんに、肝臓も移植するべきか。

 今回は前者のジレンマについて話した。SLKのメリットは、survival benefit、透析(が肝移植後に必要だった場合)を避ける、KAL(kidney after liver、肝移植後の腎移植)を避けるなどだ。問題は、腎機能が肝移植後にもどった場合腎臓は他に必要な人にあげればよかったということになる、肝腎同時移植は待ち時間が短いのに臓器・患者さんともに成績が悪く、腎臓移植を待ちながら亡くなっている何千人もの腎臓病患者に対して不公平ではないかということ。

 Survival benefitについては、2002-2005年にかけてSRTR(Scientific Registry of Transplant Recipients)データを分析したところ移植時に透析を受けていたLTA患者は、移植時に透析を受けていたSLK患者に比べ成績が悪かったという結果がある(AJT 2008 8 2243)。ただしこれが腎臓移植の有無による違いなのかは分からない。MELDスコアはLTA群のほうが高く(39、SLK群は31)、彼らは肝臓病がより重度だったのかもしれない。

 さらに1999-2004年にかけてのOPTN(Organ Procurement and Transplant Network)/UNOS(United Network for Organ Sharing)データを分析した論文によれば、移植時にクレアチニンが2mg/dl以上あるいは透析を受けていたLTA患者は、SLK患者にくらべて成績が悪かった(AJT 2006 6 2651)。それで2mg/dlというのが一つのカットオフになっているが、これまたobservationでありsurvival benefitと断言できるものではない。

 肝臓と一緒に移植された腎臓は、腎臓単独で移植された場合に比べて拒絶反応を起こしにくい。肝臓にはimmuno-protective effectがあるので、SLKもLTAもABOのみ合わせればHLA適合に関わらず移植できる(何とクロスマッチしない)。これがKALになると、二人目のドナーから腎臓を貰うので、拒絶を起こしやすい(Transplantation 2006 82 1298)。だから、「この人は肝臓移植後も腎不全が残るか悪くなる」と思うなら、肝腎同時移植したほうがよい(ただし移植して何年も生き残らないとこの利益は得られないのであるが)。つづく。